邪魔者に転生してしまいました

邪魔者に転生してしまいました【45話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「邪魔者に転生してしまいました」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【邪魔者に転生してしまいました】まとめ こんにちは、ピッコです。 「邪魔者に転生してしまいました」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介...

 




 

45話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 疑惑②

一方、皇太子の宮にも思いがけない来客があった。

「殿下、カリオスの暗軍が何かを伝えに来ました。」

皇太子の補佐官であるジョドンが緊張した面持ちで執務室の中に入ってきた。

「暗軍?」

セジャは手を止め、ジョドンが慎重に差し出すものを確認した。

かなり高級そうな箱と、カリオスの印章が押された手紙の封筒だった。

「公爵が送ったのか?それとも、小公爵?」

「それはよく分かりません。しかしあの時訪ねてきたことを考えると、どうやら公爵側ではなさそうです。」

ジョドンの背後でセジャルは不安げな顔で手紙の封筒を持ち上げた。

『罠なのか?』

ちょうど昨日、公爵家が後援している子供に会った話を思い出し、胸騒ぎがした。

皇后の手が及ばない皇宮の外の協力者。

予想外にも公爵がかなり大切にしていたあの少女は、最適な人物だった。

その子さえ説得できれば、公爵も知らないふりをせず手助けしてくれるかもしれないという期待を抱いていた。

しかし一日でこのように密使を送ってきたことを考えると、罠を超えて、軽々しく近づくなという警告かもしれない。

最悪の場合、助けを取引の条件として提示してくる可能性もある。協力者を探すために負けを認めなければならないなんて、それは裏切りよりも大きな屈辱だ。

セジャルは表情を変えずにペーパーナイフで手紙の封を切った。

そして──

 



 

グスケよ

海が届いた

一緒に見たもの☆親友☆記念のプレゼント!

ベルツケ

🐰(ウサギの絵)

 



 

「はぁ。」

薄っぺらい白い紙に書かれた数行の文を読んだ彼は、思わず苦笑いを浮かべた。

続いて箱の包装を解き、ふたを開けると、きちんと畳まれた白い布が現れた。

「取引の証拠に使う魔道具でも入っているのですか?」

相変わらず緊張している様子の補佐官の問いかけに、セジャルはすっかり力の抜けた顔で箱の中身を見せた。

「クラバートだ。」

「クラ……バートですか?」

「うん。幸いにも公爵でも小公爵でもなかったね。」

「……」

「友達記念のプレゼントだって。」

セジャルが手紙を軽く振って苦笑すると、緊張して立っていたジョドンが思わず声を上げた。

「いや!あの令嬢は、なんでそんなものをこんなに秘密裏に送ってくるんですか?!」

「そうだな。」

セジャルは肩を軽くすくめた後、もう一度紙に書かれた文字を目でなぞった。

なぜか、その澄んだ声が耳元でくっきりと響くように思えた。

「あの時も感じたけど、本当に……」

「……」

「可愛いじゃないか。」

 



 

私の要請により、馬車は神殿の入口側ではなく、高園の反対側の入口へと向かった。

女神の誕生日など大きな行事があるとき以外は、わざわざ神殿を経由して訪問する必要がないためだ。

そのため、その時は持ってきたクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きかかえていたチャミが同行していた。

たとえ子供しかいない場所だとしても、何が起こるか分からない場所だからだ。

『うん。後衛はいつだって身体の一部のように連れていないとね。』

こうして馬車は神殿をぐるりと回って高園の前に到着した。

執事を通じて事前に連絡していたようで、入口には二人の人々が待っていた。

「こんにちは、ベルチェ。」

馬車からぴょんと飛び降りると、若い男がにこやかに私を迎えてくれた。

「私は少し前に高園の園長として新たに赴任したマグヌス大神官だ。前回の奉仕活動のときに一度会ったよね?」

「あ……!」

ぼんやりとした顔をした私はすぐに彼のことを思い出した。

教皇の隣で聖語を朗読していた発表者の神官だ。

その日、園長とその取り巻きの女修道士たちが一斉に連れて行かれたことで空いた席を、新たな人々が埋めたようだった。

「こちらは君がいた獅子班を担当することになったセレン修道士だ。」

「こんにちは。初めまして、ベルチェ。」

マグヌス大神官が続いて、隣にいた女性を紹介した。

初めて見る顔だった。

見たところ以前の高園の管理者たちに比べれば、それほど悪い人たちには見えなかった。

『それでも、神殿の者たちを相手に油断してはいけない。』

私はそれとなく警戒心を上手く隠し、丁寧にお辞儀をして挨拶した。

「こんにちは。」

「久しぶりに友達に会いたくて来たんだって?さあ、中に入りましょう。子どもたちが待っているよ。」

「あっ! 食べ物を持ってきたんです!」

「食べ物?」

そのとき、マブとタラが馬車の後ろの荷台を開けた。

中にはたっぷり詰められた、きれいに包装された箱が並んでおり、それを見た大神官と修道士の目が丸くなった。

「なんとまあ、こんなものまで……」

「ありがとう、ベルチェ。子どもたちが本当に喜びそうだね?」

「えへへ。」

彼らの称賛に私はちょっぴり照れ笑いを浮かべながら、箱を運ぶのを手伝った。

「お嬢様、それでは私は馬車で待っていますね!何かありましたらすぐに呼んでください!」

たくさんのデザートの箱を運ぶのだけ手伝って、タラはすぐに高園の外へと出て行った。

どうやら心配しているようで、何度か振り返ったが、私は気にしなかった。

『どうせ私も同じ高園の子。誰かを付き添わせるなんて滑稽なことだわ。』

ディアナはそうしていたけれど、私は特にそうしたくなかった。

前世で時々後援者の元へ行っていたディアナは、おいしい料理をたくさん持って高園を訪ねていた。

私は高園ではなく神殿にいたので、ほとんど食べられなかった。

私を嫌っていた修道女たちが、私の分を渡してくれないことが多かったからだ。

それでも、たまにとても寂しくて物悲しくなる日が来ると、給食のように少しずつかき集めて食べたりもした。

どうしてもみすぼらしかったが、その瞬間だけは神殿で唯一幸せだった時間だった。

『本当に子どもって不思議。』

あんなにも信じて、うらやましく思っていたディアナが持ってきた食べ物で幸せを感じた瞬間もあったのに……。

皮肉なことに今回は、私があのディアナの立場になってしまった。

デザートをいっぱい持って獅子班に入ると、黙って座っていた子どもたちの姿が見えた。

「みなさーん、今日は誰が来たと思いますか?前に聖女として選ばれたベルチェが、おいしいものを持って遊びに来てくれましたよ!」

獅子班を担当することになったセレン修道士が、子どもたちに優しく呼びかけた。

「みんな、食べる前にベルチェにありがとうってお礼を言おうか?」

「……ベルチェ、ありがとう!」

たくさんのデザートを持って現れた私に、ぎこちなくモジモジしていた子どもたちが一人二人と口を開き始めた。

「うわぁ、ベルチェ最高!」

「ディアナよりベルチェの方がずっといいね!」

純粋無垢な歓声と私に向けられた羨望の眼差しがきらきらとした視線。

それに向き合うと、なぜか肩にぎゅっと入っていた力がすっと抜けた。

『ディアナのような立場になれたら本当に幸せになれると思ってたのに……』

必ずしもそうではなかった。

それに、たかが一口のチョコレートで幸せを感じるのは、たった4、5歳の子どもたちなのに、あのときなぜあんなにもディアナを見上げる視線が羨ましくて妬ましかったのか。

その答えに気づいた私は、自分の中のわずかな恥ずかしさと劣等感を感じた。

「女神さま、今日も糧を与えてくださりありがとうございます!」

簡単なお祈りを終えた子どもたちはすぐに包装を解き、わいわいとデザートを食べ始めた。

その様子を見ていると、こわばっていた心が少しだけほぐれた。

『……それでも持ってきてよかった。後悔はしてない。』

神殿直属の高園は他の場所と比べて満ち足りた環境ではまったくなかった。

寄付はダラント(宗教通貨)で成り立っており、予算の使途もすべて園長に委ねられていた。

奉仕活動といっても、前回のように貴族を対象とした見せかけの行事のようなものであり、子どもたちが本当に望むことを細やかに気遣う人などいなかった。

「やだ、それ僕のだよ!取って食べるな!」

「嫌だね!?お前がもっと早く食べなよ!」

『見てごらん。』

すでに体の大きな子が、より弱い子のものを奪っている場面が起きていた。

しかし担当の修道士は年下の子たちの世話で手一杯で気づいていない。

園長および他の修道士たちは他の班にデザートを配るため、すでに獅子班から離れていた。

あたりをきょろきょろしていた私は、仕方なく大きく息を吸ってから腹に力を込め、叫んだ。

「こらーっ!」

雷のような大声にビクビクしていた子どもたちが、一瞬凍りついたまま私を振り返った。

私も目を見開き、叫んだ。

「ここにたくさんあるから、奪って食べないで!奪う子は動物にも劣ると思いなさい!わかった?!」

あからさまに奪っていた子どもが、私の視線を感じたのか、その子にスッとお菓子を返すのが見えた。

その後、子どもたちはけんかすることなく、仲良くデザートを分け合って食べた。

「はは。ベルチェのおかげで先生みたいに頼もしいですね。ねぇ?」

和らいだ雰囲気のせいか、セレン修道士が冗談とも本気ともつかぬ調子で言った。

「そうだね! ベルチェのおかげで頼もしいよね?」

「実は昔はちょっと怖かったけど……優しい子だったんだ!」

「じゃあ、ベルチェの家ってディアナより裕福って本当?」

おかげで雰囲気は次第に和らぎ、子どもたちは再びひそひそと騒ぎ始めた。

いくら大きな声で怒鳴ったとしても、ひそひそ話のほとんどは私への称賛だった。

しかし、だからといって私の長年の良心の呵責がすっかり晴れるわけではなかった。

たとえ彼らが当時のことをすぐに忘れてしまったとしても……その冷たい記憶は、前世の私には一生の傷として残っているのだから。

ディアナ! 一緒に遊ぼう! ベルチェはあっち行け! べー!

ディアナ! 誰が先に登るか勝負しよう!

前世でも今世でも、ディアナに夢中で私を避けたのは同じ子どもたちだったけれど。

それでも。

それでも私は、高園の子どもたちを許すことにした。

『子どもたちは悪くないから。』

そうやって誘導していた園長と修道女たちが悪いのだ。

少し前にセレン修道女がそうだったように、大人の一言だけでも心を揺さぶられるのが子どもというものだと、今ならわかるから。

獅子班のあとも私は他の班を順番に回って感謝の挨拶を受けた。

神殿でディアナの話を聞いたときには立派で偉大に感じていたが、最後に14歳以上の子どもが多い麒麟班まで回ったときに残ったのは、少しばかりの気まずさと疲労だけだった。

『ディアナは一体こんなことを毎回どうやってやっていたんだろう?』

やっぱり女主人公でも、ただ何もせずにいるわけではなかったのだと、感心してため息をついた。

「ベルチェ、それじゃあ獅子班でもう少し遊んでいく?」

新しい園長であるマグヌス大神官は――いい人だった。

私は首を横に振った。

「いえ。」

「じゃあ、もう帰るの?」

「それはないけど……探したい友達がいるんです。」

麒麟班までわざわざ回ったのは無駄ではなかった。

当然、イスマイルを探すためだ。

もちろん、園長や修道士に言えばすぐに呼んできてくれるのは分かっていた。

しかし、力を失って口のきけないふりをしている彼を思い、神殿の人たちに彼との関係を明かしたくなかった。

『それに、かっこよく探しに来た姿も見せたかったのに……』

惜しさに唇を尖らせたとき、マグヌス大神官が不思議そうな顔で尋ねた。

「誰? 先生たちには子どもたちをデザートを食べさせるために班に集めるように言っておいたのに……」

やはり、新しく赴任した彼が、高園内で行われていた暴力やいじめにすぐ気づけなかったのは当然だったという予想は当たっていた。

『もしかすると前の園長みたいに見て見ぬふりをするかもしれないし。』

私はにっこり笑って言った。

「じゃあ、私が一度探してみます。どこにいるかなんとなく分かる気がするので!」

「そうかい?」

幸いなことに彼はそれ以上は聞かず、すんなり引き下がってくれた。

私はそのまま笑みを消し、北棟へと向かって走り出した。

 



 

図書館を通り過ぎ、北棟の一番奥にある側面の扉にたどり着いた。

幸い扉は施錠されていなかった。

周囲に人がいないことを確認した後、私は迷わず外へ出た。

ごみ置き場へと続く場所だった。

細い小道を抜けて倉庫に着いた私は、こっそりお菓子を食べていた奴らを見つけた。

「やっぱり。俺はこの世でイスマイルのを奪って食べるのが一番うまいって言っただろ?」

「おい、トミ。お前の坊ちゃんはこういうの送ってくれないのか?」

「送るかよ。孤児院に捨てた車で。」

以前ボランティア活動した日に見かけた、でっかい三人の子どもたちが、くすくす笑いながらむしゃむしゃ食べていた。

その中に、くしゃくしゃのティッシュみたいに汚れた灰色の人形が紛れていた。

「気になるけど、病気でも味わかるのか?おい、イスマイル。お前もこんなの食べると思ってんのか?」

私が持ってきたデザートをぺろぺろ食べていた奴らが、片手で持っていたタルトを落とした。

ぺちゃっ!

生クリームの面を下にして落ちたタルトが、灰色の頭の上にべちゃっと乗った瞬間。

私は目をひっくり返して叫んだ。

「クマ……クマのぬいぐるみ!触るなモード――!」

ヒュイッ——!

叫び声と同時に、胸に抱えていたクマの人形がくるくると宙を舞った。

いつものように空中制御の姿勢を取ったクマのぬいぐるみは「シュッ!」とかっこよく着地した。

「やあ、みんな!僕の名前はクマ……コムドリ!ベルゼの暗殺者だ!」

クマの人形の爽やかなあいさつに、イスマイルをいじめていた三人の子どもたちは口をぽかんと開けたまま固まった。

「な、なんだ……何だよ?」

「クマの人形……?」

「お、俺、今夢見てるのか?」

生きて動いているクマの人形の姿が信じられず、子どもたちは何度も自分の目をこすった。

そのとき、落下姿勢を取っていたクマのぬいぐるみがパッと体を起こした。

そして私の方を見て言った。

「念のため言っとくけど、“触るなモード”は入力された命令にありませんよ!」

実は焦ったあまり、ただ思いつきで口にしただけだった。

「うーん……じゃあ、何をすればいいかな?」

私はしばらく、どんな命令を出せばいいか悩んだ。

これまで私が使った人形のモードは、暗殺・護衛・ジャイアントモードだけ。

子どもたちを相手に暗殺モードのような物騒なものを使うわけにはいかないし、適度に仕返しできるようなものはないかと考えていた。

「でも、“面白い”って言うまでぶん殴るモードはあるわよ!」

突然コムコムドリがはっきりと叫んだ。

『そんなモードがあったの!?』

あっけにとられている間に、コムコムドリはすっと背筋を伸ばして言った。

「じゃあ、今度はみんなで一緒に遊ぼうか?」

そして一歩一歩、子どもたちに向かって近づき始めた。

「な、なに?近づいてくるじゃん!」

「えっ、どうして人形が喋ってるのよ……!」

子どもたちは青ざめた顔でおずおずと後ずさりした。

「な、なんだよ!見ろよ、だらしない顔したクマのぬいぐるみじゃんか!」

それでも最後に大声を上げようとしたのか、運動場で一番ガタイの大きな子が、突然動きを止めて堂々と言い放った。

前回もイスマイルを最も多く殴った子だ。

口をぽかんと開けていた他の2人とは違い、少し前には木の枝でタルトを地面に落としたこともあった。

『さっき殴ってきたやつの中で、こいつがリーダーか。』

「さっき、俺を殴ったやつの一人も、みんなの前でちょっとこらしめてみた。」

イスマイルが理由もなくそんな陰湿な復讐をするはずがなかった。

仮にそんなことをしたとしても、いじめられている状況が変わるわけでもなく、誰も気づいてはくれない。

今の彼は能力を隠して無能なふりをしているのだから。

『それでもそこまでした理由は、そうでもしなければとても我慢できないほど酷い虐待を受けたという証拠になるだろう。』

かつて私を虐待していた修道女に、彼女の不治の病を最後まで黙っていた時のように。

『今回は、前のように簡単に済ませるわけにはいかない。』

目には目を、歯には歯を。

冷ややかな目で虚勢を張る子どもを見つめる。

「おい、こんなぬいぐるみに殴られても大したことないだろ?」

特に何か行動を起こすわけでもなく、ただゆっくり近づいてくるクマの人形をおかしく思ったのか、その子は勇気を出して一歩踏み出した。

「おい、トミー!出るなって!」

「悪霊に取り憑かれてたらどうすんだよ!」

後ろにいた友達たちが慌てて止めようと叫んだが、その子は怯まず、口の端を上げて大声で叫んだ。

「この世に悪霊なんているわけないだろ、このビビリども!ただの魔法で動いてるに決まってるって!」

バンッ。

いつの間にかコムコムドリはトミーの目の前にたどり着いていた。

トミーは得意げな表情を浮かべながら、動くクマの人形に手を伸ばした。

「よく見とけよ、この腰抜けども。腕をつかんで持ち上げたら、あいつすぐに泣きながら家に逃げ帰るからさ……!」

その時だった。

スッ!

トミーの手がふわふわした腕に触れた瞬間、クマの人形が稲妻のように片腕を振り回した。

バキッ——!

次の瞬間、茶色い毛のパンチがトミーの顔面に直撃した。

「えっ……」

一瞬の静寂。

呆然と目をパチパチさせていたトミーは、そのまま声も出せずに後ろに倒れた。

ドサッ!

鈍い音と共に砂場に体を打ちつけ、静寂が場を支配した。

「もう遊びは終わったみたいだけど、どうする? 次は誰?」

ふとコムコムドリが首をかしげてこちらを振り返った。

まるで少し残念そうな声だった。

『まさか、一発で死んだんじゃないよな!?』

私はぐったりと倒れているトミーを見た。

幸い命に関わるほどではないのか、彼の胸は規則正しく上下していた。

しかし、じわり――彼の鼻の穴から出た二筋の血が頬を伝ってだらだらと流れ始めた。

「鼻血……?」

「ひ、ひぃぃ……!」

同じものに気づいたのか、私が呆然としているのと同時に、目の前から荒い息を飲み込む音が聞こえた。

恐る恐る振り返ると、真っ青な顔で震えている残りの二人がいた。

かなり驚いた様子で倒れたトミーの横に、呆気にとられた表情をしているイスマイルもいた。

『やりすぎたかな……でも、やりすぎ感が出すぎるのはまずい。』

悪い奴らをこらしめるのはいいが、犯罪者に見えるのは避けないと。

やりすぎたくはなかったから、私は慌てて叫んだ。

「くま……コムドリ!目立たないようにお願い!」

するとコムコムドリがすぐに応えた。

「尋問を基にした拷問モードを実行します。」

「ひっ!」

凍りついていた残りの子たちの顔色が一気に真っ青になった。

そのときだった。

「うあああああ……!」

怯えた一人が大声で叫びながらコムコムドリから逃げようとした。

ヒュッ!

コムコムドリは地面を一回転しながらすばやく移動した。

逃げようとしていた子よりも一歩早く到達したコムコムドリは、地面に片足を突き出した。

「うっ!」

当然、その足に引っかかった子は地面に転がるように倒れ込んだ。

「に、げ、ろ。」

「ひ、ひぃぃ!た、助けてください!助けてぇぇ!」

頭の上に立つクマの人形の影に、子どもは地面にうずくまったまま泣きながら許しを請うた。

シーッという音とともに……その子の下半身のまわりに水たまりがじわじわ広がっていき、黄色い円を描いた。

あまりにも情けない光景に、私はため息をついた。

コムコムドリは泣き叫ぶ子の言葉にならない叫びにも動じず、倒れた子に今にもとどめのモードを発動しようと腕を振り上げかけていた。

「園長先生!ここに来てください!幽霊が取り憑いた人形です!園長先生!先生えええっ!」

最後に残った一人が逃げようとした。

頭が悪いのか、さっきのコムコムドリの速度を見ても危険を感じなかったようだ。

前回のように悪態をつきながら助けを呼ぼうとしたその子は、反対側の隅へと走っていった。

だが、逃げ切れる相手ではなかった。

ヒュッ──!

すぐさま宙を駆けてきたコムコムドリは、空中飛行用のジェット装置を使ってほぼ一瞬で接近してきた。

そして逃げる子の背中に向かって回し蹴りを放った。

バシッ──!

「うっ!」

その子は叫び声を上げながら前につんのめって倒れた。

「うぅ……」

幸いにも攻撃は“やりすぎ”にならないように抑えてくれたのか、出血もせず気絶もしていないようだった。

コムコムドリは適切に力加減をしてくれたようだった。

『ちょっとは反省するだろうな。』

私は、コムコムドリの足元にうずくまって震えているその子をじっと見つめた。

「みんな楽しかったでしょ、ねえ? クスクス、クスクス。」

封印が解かれたようにテンションが上がったのか、コムコムドリは不気味な笑い声をあげた。

『……狂ってる……』

主人である私ですら度胸が冷えるほどのゾッとする様子だった。

少しもしないうちに、さっきまで笑っていたクマの人形が急に重々しく動き出した。

「今から、秩序を基にした拷問モードを実行します。」

「ひぃぃっ!た、助けてぇぇ……!」

コムコムドリの足元に押さえつけられた子は、青ざめたまま泣き叫んだ。

シィィィィ……やがてその子の下半身まわりに黄色い水たまりが広がっていく様子が、何とも言えずぞっとした。

タタタッ!

突然誰かが走ってきて私の前に立ちはだかった。

なんと、それはイスマイルだった。

彼は恐怖に満ちた目で私とコムコムドリを交互に見つめていた。

そしてすぐに私に口を寄せてきた。

『もうやめて。』

「……え?」

理解できずに戸惑っていると、私はぎこちなく聞き返した。

イスマイルの瞳が揺れた。

しばらく戸惑っていた彼が、そっと私の手を握った。

― ひどすぎるよ。

手のひらに伝わる微かな震えがすぐに感じられた。

― 死んだらどうするの。ジェン・グラッセは男の子の保護者だよ。

イスマイルは真剣な顔で、私の隣に倒れている子を隠すように覆いかぶさった。

『仕方ない。』

いくら孤児でも、問題を繰り返せば退園処分を受けるに決まっている。

前に私がわざとらしく被害者のふりをして追い出したあと、しばらくはおとなしくしていたようだったが、やはり我慢できずにまた悪さをしていたようだ。

私は軽くため息をついて、ポケットからハンカチを取り出し差し出した。

「……これで頭拭いて。」

さっきエドウィンが鼻水を拭いていたピンク色のハンカチだ。

きれいに洗濯してエドウィンを思いながら持ち歩いていたのに、生クリームのようにぼんやりしたイスマイルの涙を拭かないわけにはいかなかった。

「……」

突然の私の差し出しに戸惑っていたイスマイルは、頬を赤らめながらハンカチを受け取った。

実際、涙をぬぐうにはそれで十分だった。

彼がハンカチで丁寧に髪や顔をぬぐっている間、私はそっとコムコムドリに命じた。

「くま……コムドリ。人形モード!」

「ちょうど今、楽しくなってきたところだったのに……チッ。」

今までで一番長くためらっていたが、今回ははっきり聞こえた。かすれるような声で!

『この狂ったクマ……だんだん自我が芽生えてきてる気がするけど、気のせいだよね?』

不満そうにため息をつきながら、クマ人形の真っ黒な瞳の光が消えた。

そして、スッと人形に戻り、静かにうずくまった。

「うわっ!きたない!どいてよ!」

私は慌ててそちらに駆け寄った。

そして、今にも黄色いお尻に押しつぶされそうになっていたコムコムドリをすくい上げて救出した。

「ふぅ……」

安心のため息をついたそのとき――

「ひっ、ひっ、ひぃぃ……」

ふと足元からすすり泣くような気配がした。

視線を下ろすと、さっきコムコムドリの回し蹴りをくらって倒れていた子が、私を見上げながら涙と鼻水をぽろぽろと流していた。

「……何が悪かったって泣いてるの?」

イスマイルとは違い、私はまったく心を痛めなかった。

むしろ目を見開いて怒鳴りつけた。

「そこ行ってひざをついて手を挙げなさい!」

 



 

 

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