こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

122話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 神の存在
遅い夜。
フィロメルは自分の部屋で手紙を書いていた。
[親愛なる皇帝陛下。お元気でいらっしゃいますか?最後にお顔を拝してから、もうどれほど経ったでしょうか……]
そこまで書いて、ペンを机の上に投げ出した。
「親愛なる、だなんて、ふざけてる……」
そんな別れ方をしたのに、今さらこんなことを書くなんて——嘘のような言葉を口にするのがためらわれた。
「私がここまでしなきゃいけないの?」
疑念を抱きながらも冷たくあしらっていたイアンの妻を置き去りにしたまま何もしないのは、良心が咎めた。
さらにフィロメルの心を揺さぶる存在は彼女だけではなかった。
フィロメルは横に置かれていたハンカチに目をやった。
ハンカチの上には透明な結晶がきれいに並んでいた。
――それは「真実の涙」の欠片だった。
使い切って忘れていたが、「真実の涙」はとても貴重な聖物である。
『これを世界樹に何と報告すればいいの!?』
先日借り受けた貴重な聖物を、あろうことかポイと捨ててしまったのだった。
「ふう、わかんないな。」
フィロメルは少し休もうと思い、ベッドに横になった。
すぐに眠気が襲ってくる。
ユースティスの顔が浮かんだ。
元気にしているだろうか。
『……そんなはずないよ。エレンシアがとっくに捕まえてるはずだし。』
エレンシアの顔も続いて、意識の表面に浮かび上がった。
太陽のような金髪、湖のような青い瞳の少女。
その美しい少女が尋ねてきた。
「君、誰なの?」
エレンシアが涙に濡れた瞳でフィロメルを見つめた。
「フィロメル?フィロメルなの?」
フィロメルは大いに戸惑った。
ついさっきまで自分の部屋にいたのに、ここはどこ?
四方は真っ暗だった。
エレンシアと自分以外には何も見えなかった。
エレンシアは彼女にすがりついた。
「助けてよ!ここはすごく怖いの。誰もいない。お母さんに会いたい。」
哀れに泣く少女を見て、フィロメルは慰めたい気持ちが込み上げた。
少し前に見た冷たい瞳の彼女とはあまりにも違っていた。
もしかして……。
「本物のエレンシアなの?」
侵入者ではない、本物のエレンシア。
その言葉に、エレンシアは何度も激しく肩を震わせた。
「私が本物のエレンシアだよ!外にいるあいつは偽物なんだ!私はずっと前からここに閉じ込められてたんだ!」
「ここってどこ?」
「私にもよくわからない。」
そのとき、不吉な気配がフィロメルの背筋を走った。
エレンシアもびくっと体を震わせた。
エレンシアが慌てて叫んだ。
「危ない!早く逃げて!」
「逃げてって……」
「少し前に、私の体におかしな力が宿ったの。すごく不吉な力よ。私はわかるの。きっと……このまま行ったら恐ろしいことが起こる!」
「落ち着いて!それってどんな力なの?」
フィロメルはパニック状態のエレンシアを落ち着かせようとした。
彼女はそっと口を開いた。
「イエリス。」
「え?」
「その人、自分をイエリスって名乗ったの。」
エレンシアは首をかしげた。
「それ以上は私もわからない。ここからちらっと見えるときも、一瞬だけなの。」
それ以上言葉を交わす時間はなかった。
肌で感じるほどの不吉な気配が波のように押し寄せてきた。
「早く行って!」
エレンシアがフィロメルを突き飛ばした。
どこかもわからない場所へ落ちていくフィロメルを見ながら、少女は言った。
「私は大丈夫だから、私が愛する人たちを守ってあげて。お願い。」
遠ざかっていく中でも、最後の言葉ははっきりと聞こえた。
「あなた以外に頼れる人がいないの。ごめんね。」
フィロメルは夢から目覚めた。
目を開けると、自分がまだベッドの上にいることに気づいた。
「……夢だったの?」
いや、ただの夢じゃない。
額には冷や汗がにじんでいた。
まだ鮮明だ。
かすかに感じた感覚や、自分を押さえていた温かい手のぬくもりまで。
『本物だった。』
パァアアアア。
その瞬間、窓の外から柔らかな光が差し込んだ。
机の上に置かれた球体の彫刻が光を放っている。
「もしかしてこれのせいであんな夢を見たのかな?」
よく見ると、なぜか妙に似ている気がした。
球体から放たれる光と、さっきの世界で出会った少女の感覚が――。
理由が何か深く考える間もなく、フィロメルは部屋から飛び出した。
手には角を折ってしっかり握ったハンカチを持ったまま。
「ルグィーン!」
目指すは魔塔主の部屋。
予想通り、遅い時間にも関わらず明かりが灯っていた。
フィロメルはノックした後、返事が聞こえるやいなやドアを開けた。
「大変なんです!」
部屋ではルグィーンとレクシオンが会話をしていたところだったようだ。
フィロメルの話を聞いた二人は、いずれも深刻な表情を浮かべた。
理由は明白だった。
イエリス――神殿と皇室の歴史において、常に例外だった存在。
消し去りたいと願った邪神(悪神)の名前のせいだ。
破滅の神・イエリスは神話には登場しない。
『正確には、記録が抹消されたんだ。』
フィロメルも、皇位の後継者として認められたときに皇帝から聞いて初めてその存在を知った。
紅焰の指輪をフィロメルに渡した日、ユースティスはこう言った。
「“悪神の存在がこの世に現れないようにすること、それが皇帝の使命の一つなのだ。”」
そしてイエリスが封印から解かれぬように――
イエリスについて知ろうとするなら、この世界が創造されたばかりの神話の時代までさかのぼらなければならない。
太初、創造神が天地万物を創ったとき、イエリスはそれらを無に返そうとした。
創造神ミアはこれを防ぐため、イエリスを封印し、力尽きて眠りについてしまった。
その後、残った神々の中で最も強力で偉大だった太陽神ヴェレロンが世界を治めるようになった。
「神とは常に被造物に恩恵だけを与えるべきもの。試練を与えるにしても、その裏には被造物を成長させようという目的がなければならない」
フィロメルがなぜイエリスの存在が消されたのかを尋ねると、ユースティスはこう答えた。
ただ「世界を破滅させようとする神は神であってはならない」ということだった。
『なぜなら、神を信じる理由が弱くなってしまうからだ。』
さらに、イエリスの存在が明らかになれば、必ずや封印を解こうとする者も現れるだろう。
イエリスの存在は、暗黒の中に埋もれていなければならなかった。
そのため、現在ではごく一部の者しかその名を知ることはできなかった。
幸いにも、ルグィーンとレクシオンもイエリスの存在を知っていたため、フィロメルがいちいち説明する必要はなかった。
レクシオンは無表情で、何かに打たれたように呆然としていた。
「イエリス……。皇女の身体にイエリスの力が……。だとすると、侵入者の道具を助けたのは……」
「レクシオン?」
「なるほど!少しだけ待っていてください!すぐに持ってきます!」
見るからにわかるほど興奮した彼は、部屋を飛び出していった。
しばらくして戻ってきたレクシオンは、机の上に物を二つ置いた。
一つはエレンシアが姿を消すときに使った魔法の巻物で、もう一つは初めて見る銀色の石だった。
説明を求めるフィロメルのまなざしに、彼は親切に口を開いた。
「この石は、異種の経路を通じて手に入れた、イエリスの封印石の一部です。」
「封印石ですか?」
「イエリスが封印された物体です。もともとは巨大な岩だったのですが、年月が流れる中であちこち砕けてしまったそうです。」
フィロメルもルグィーンも初耳の話だった。
ルグィーンは険しい視線でレクシオンを睨みつけた。
「お前、あの研究から手を引けって言っただろ。」
心臓を突くほど鋭い眼差しだったが、レクシオンは平然と受け流した。
「今それが重要ですか?もしかしたら悪神が復活するかもしれないのに。」
そう言って、黒い石を魔法のスクロールの上に置き、呪文を唱えた。
「え?」
魔法使いではないフィロメルの目にも見えた。
とてもかすかだが、両方とも暗い色に染まっていた。
「明らかです。この2つの物体に残された魔力が同じ性質であることを示しています。」
「つまり……」
「侵入者の逃走を助けたのは、イエリスの仕業でした。」
やはり。
「魔法のスクロールに残された膨大な魔力に照合してみても一致しなかったが、もしかすると忘れられた神の魔力かも……。」
レクシオンは眼鏡を押し上げた。
「宮廷魔法使いたちが発見できなかったのも当然ですね。イエリスに関することは調査しただけでもすぐに死刑台に上がることになりますから。」
「お前、そんなものを魔塔で研究してる無謀なやつってわけだな?」
魔塔主の言葉に、レクシオンは涼しい顔で笑った。
「父に似て、気になることがあれば放っておけない性分なもので。」
「やれやれ。」
フィロメルは悪神の存在によって心の一方では喜びに包まれた。
これで大きな進展だ。
『ついに手がかりをつかんだ!』
長い間手がかりがなかった侵入者の居場所をついに知ることができたのだ。
「イエリスと関係のある場所って、どこですか?」
レクシオンが眉をひそめた。
「そうですね。具体的な封印の場所は神殿の一角で……」
「じゃあ、その石が発見された場所はどこですか?」
「実はこれもいくつかの手を経て私の元に来たものなので、正確な場所は……。封印場所と推定される場所はいくつかありますが。」
「それはどこですか?」
レクシオンが口を開こうとしたその時だった。
「フィロメル。」
ルグィーンが曇った目でフィロメルを見つめた。
「……どうしたの?」
「この件にはもう関わらない方がいい。」
「……それはどういう意味ですか?」
この件に関わるなだなんて。
魔塔主はきっぱりと言った。
「危険だ。本当に悪神が関わっているのなら、君にどんな害が及ぶか分からない。」
「でも……」
悪神のせいで危険なのは被害者のほうだ。
フィロメルは言い返すことができなかった。
ルグィーンは魔塔主であり、強力な魔法使いだ。
自分のように魔法も使えず、無力な者とは違う。
フィロメルは考え込んだ末、ようやく理由を見つけた。
自分がこの件に関わらなければならない理由を。
「商店に入れる人間は私だけでしょう。きっと私にしかできない役割があると思います。」
しかし、魔塔主はためらいを見せた。
「そうですね。商品が再び補充されるまでは、侵入者も商店に現れないでしょう。」
それもそうだ。
フィロメルも、もしかしたら知らないうちに待ち伏せしている敵に備えて、商店の裏側で気を張っていた。
しかし無意味だった。
「そしてもし君の力が必要な時が来たら、そのときは君を呼ぶよ。」
「……」
「この問題は僕が解決するから、心配しないで休んでいてくれ。」
フィロメルが返事をしないと、真剣な光を宿した黄金色の目が彼女を見つめた。
「フィル、もし侵入者が悪神と手を組んでいたのが本当なら、最も危険な人物は君だ。」
「……私ですか?」
「そう。あいつが一番強い敵意を抱いた相手は誰だった?」
その瞬間、エレンシアの目が思い浮かんだ。
澄んだ目つきでいっぱいだったまなざし。
彼はフィロメルを世界で一番大切に思っているはずだ。
最初に『皇女エレンシア』を書いた理由も、フィロメルが気に入らなかったからだ。
「これからは外出も控えた方がいい。不便かもしれないけど少し我慢して。魔塔ほど安全な場所はないんだから。」
フィロメルはぴったりと反論できる言葉を見つけられないまま部屋に戻った。
彼の言うことも一理ある。
「私がむやみに出かけて誘拐でもされたら大変なことだ。」
周囲に迷惑をかけず、じっとしていよう。
よく考えたら、無理に出る必要もなかった。
『魔塔主が両腕を賭けるって言うんだから、何かあるわけないでしょ?』
うまく解決されるはずだ。
自分はただ彼の言葉通りに戻る状況を見守っていて、助けを求められたときに手を貸せばいいだけ。
そうして時間は流れた。
ずっと魔塔の中にいることにはなったが、不便はなかった。
ルグィーンが特別にナサールの魔塔内の出入りを許可してくれたからだ。
“でも、指定された時間が過ぎたら、すぐに出ていかないといけない。”
魔塔主は自分を「お父さま」と呼ぶナサールを見て、しばし言葉を失った。









