こんにちは、ピッコです。
「死んでくれと言われて」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

48話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 兄妹②
ウウウウウーン。
再び長く響いた警報音が、リンの緊張感をさらに高めた。
「お兄ちゃん、私たちどこに行くの?」
「この近くの地下シェルターだ。はっ、はっ。すぐ着くから心配するな。」
何が起きたのだろうか?
チェフはどこにいる?
あいつもこの状況を認識して、ちゃんと避難しているだろうか?
周囲が少しずつ気になりだした頃、目的地の近くに到着したのか、ビルヘルムの歩く速度が明らかに遅くなった。
しかし到着と同時に、彼らはシェルターの中に入ることができなかった。入り口は多くの生徒や教職員によって完全にふさがれていたのだ。
「くそ。」
短く罵ったビルヘルムはためらわずに進路を変えた。
そして間もなく、幼い生徒たちを誘導しているノ教授のもとに向かって行った。
煙の集まりを見た無学館の教授に見えた。
「教授!」
緊張した様子のノ教授がビルヘルムを振り返った。
「ビルヘルム学生!大丈夫か?」
「大丈夫です。でも、警報が鳴っているので、学園内で何か起こったんでしょうか?」
「私もよく分からん。こんな状況は教職について以来初めてでな……」
その時、遠くない場所からビルヘルムを急いで呼ぶ声が聞こえた。
「先輩!ビルヘルム先輩!バンカーの入口で事故が起きました!」
乾いた唾を飲み込んだビルヘルムは、教授にリンを預けながら言った。
「妹のヤナをお願いします、教授。私と一緒にいると、もっと危険になるかもしれません。」
「そうか……君は生徒会長だったな。妹のことは私がちゃんと守るから心配するな。必ず気をつけるんだ。」
「はい。」
うなずいて膝をついたビルヘルムは、ヤナの頭を撫でて安心させようとした。
「ヤナ、僕と一緒にいるよりも、教授と一緒にシェルターへ向かう方がずっと安全なんだ。教授の言うことをよく聞いて。すぐ戻ってくるから。」
「お兄ちゃんはどこに行くの?」
「生徒たちの避難を誘導しなきゃいけない。少ししたら会おう。」
ビルヘルムが生徒の間を縫って姿を消すのが怖くて、今度はノ教授がリンを抱き上げた。
彼女は自分で走れると言おうとしたが、熱に浮かされたのか、体の小さくて弱々しいヤナの体を持ち上げながら、全身から力が抜けてしまった。
『子どもって、本当に無力な存在なんだな。』
しかし、いつの間にか周囲の風景が妙に不自然に感じられ始めた。
そろそろ第二のバンカーに向かって移動している人たちが見えてくるはずなのに、彼ら以外には人の気配すら感じられなかった。
「教授、なんだかここ、静かすぎませんか?」
教授もまた不安を感じていたのか、歩みをゆっくりと止めた。
「……そうだな、不審なほど静かだ。少し遠回りして戻った方がよさそうだ。」
「私を下ろしてください。大変でしょうから、手をつないで走ります。」
荒い息を吐きながらも、教授は容易にはリンを下ろそうとしなかった。
その様子にもどかしさを感じたリンは、そっと体をよじった。
やっと地面に足をつけた。
走ってきた勢いで少しふらついたが、老人一人を助けようという気持ちでしわだらけの手を強く握りしめたまま、前に走り出した。
いや、走り出そうとした。
スーーーッ……目の前でカーテンのようにひらめいた影が落ちる前のわずかな間。
「はっ、はっ。」
すぐそばでノ教授の荒い息遣いが響いた。
突如現れたその影から一歩後ずさったリンは、教授の手をさらに強く握りしめた。
スリッパのように冷たい空気が地を伝って足元にまとわりついてくる。
液体のようにうねっていた影は、いつの間にか暗く不気味な人型の男へと変わっていた。
「だれ……?」
疑念を帯びたつぶやきは短かった。
【——を祈る存在は地平線の——】
暗闇から現れた赤い光を帯びた指先が、空中にゆらゆらと痕跡を残した。
空間を焦がしながら刻まれたその痕跡は、絵のようでもあり、文字のようでもあった。
『魔法使い!』
そして錯覚でなければ、あの痕跡はまさしく呪文だ。
普段なら後ろも見ずに逃げ出すか、対抗策を準備しただろう。
だがこの瞬間、リンは初めて文字を不完全ながらも「解読」した。
まるで魅入られたかのように。
【具現される——は奇跡】
コンデンサーが破裂しそうなほど緊張していたリンは反射的に体を起こした。
「避けてください、教授!」
決心とは裏腹に、実際に守られたのはリンではなかった。
「ダメだ!」
教授がリンの体を引き寄せた瞬間、赤い光が弾けると同時に教授の体が力なく崩れ落ちた。
驚きで心臓が激しく脈打った。
「教授!」
重たい体が彼女の上に倒れ込んだ。
衝撃的な状況を目の当たりにしたヤナの体は、恐怖と混乱で震えていた。
リンは動揺することなく、冷静に教授の状態を確認した。
幸いにも、指先がぴくぴくと鼓動が速くなるのを感じた。
『大丈夫、ただの簡単な儀式よ。』
魔法の副作用で急速に冷たくなっていく教授の体を抱きかかえ、影の中から姿を現した怪物たちを見つめた。
怪物は全部で二人だった。
どちらも暗いフードのローブをまとい、銀色の蝶の仮面をつけた姿だったが、なぜか見覚えのある気がした。
怪物の一人が言った。
「本当にこの子で間違いないのか? 教授じゃなくて?」
「はい、間違いありません。この少女だけが近くで水晶の標識を変えられます。」
息を潜めていたリンは、怪物たちの会話に耳を傾けた。
『水晶の標識が私を隠してくれるって?』
その“水晶”というもの……特定の条件を満たせば存在を探知する魔導具なのか?
いずれにせよ、この怪物たちは誰かを探しているようだった。
「でも、あまりにも子どもすぎる。」
「言い訳している時間はありません、スヨムコレ。今にも耳が裂けそうな警報音が聞こえないんですか?一刻も早く用件を済ませて戻らなければなりません。」
「うむ。」
「それに、ジハード・トゥスレナが学術館を襲撃したという情報を受け取っていませんでしたか?何も問題がなければ、また送り返します。とにかく連れて行きましょう。」
そして、彼らが探しているのはおそらく……
「……すまない。」
私のことかもね?
魔法使いの隣に立っていた怪物がゆっくりと手を伸ばした。
その手先からは、どこか不気味な青い光がにじみ出ていた。
虚空に三つ目の紋様が浮かび上がった。
【——を満たす存在は ——の——】
【具現される——は儀式】
「笑わせんなよ。この私が代わりに儀式をしてやろうか? ふん。」
リンはかすかな目つきで確認しておいた教授の剣を抜いて構えた。
握ると重くて身体がぐらついたが、剣の刃にオーラを纏わせて魔法を打ち破るのには大きな支障はなかった。
儀式の魔法が何の効果も出せず消えると、銀色の蝶の仮面の下の口元が驚きで大きく開かれた。
「は?今、私が何を見た?ちっぽけな小娘が私の魔法を打ち破ったって?」
「不思議がることはありません。修正の標識がその存在を隠すことを忘れないでください!あなたの外見は偽物である可能性が高いのです!」
「そう?おかげで良心の呵責は少し和らぎそうだな。」
不気味な笑みとともに魔法使いの姿が消えた。
『……いや、消えたんじゃない。姿を隠したんだ。』
リンは過去に数多くの魔法使いと対峙してきた記憶を呼び起こし、ゆっくりと目を閉じて精神を集中させた。
こうした強力な魔法に対しては、短く鋭く動き、自分と教授を守らなければならなかった。
今のように。
キィン—!
彼女の剣先に再び力を失った魔法が引き寄せられた。
二度目も、三度目も同様だった。
「ハ!」
青い光の魔法使いが再び姿を現したとき、彼の口元にはもはや笑みがなかった。
「……小娘。お前、いったい何者だ?」
緊張で張り詰めた沈黙が、二人の怪物とリンの間に広がった。
だがその静寂は長くは続かなかった。
「退いてください、スヨムゴレ。」
その瞬間。
赤い光が虚空にきらめいたと同時に、先ほどまでとは次元の違う強烈な気配が書斎から溢れ出し始めた。
【——を満たす存在は地平線の——】
【具現される——は——】
それが何だって?
『ちぇっ、列車から降りる時間にゴーレムをもう一体連れてくるんだった!』
彼らの周囲に淡い光の波紋が広がると、青い光の魔法使いが慌てた声で仲間を制止した。
「おい、その力を使うと……」
「あなたが手間取るから仕方ないじゃないですか。腕の一本でも切り落として連れて行くしかないんですよ!呪文の破片を集められるなら、少数の犠牲も受け入れなければなりません。」
呪文の破片?
『……あ?』
その時になってようやく、リンはこの怪物たちから感じた違和感の正体に気づいた。
破片だなんて。
『黄昏の封金鐘』で出会ったあの絵の魔法使いとまったく同じ声をしていなかった?
「白状しろ。封呪の破片が入った箱はどこだ?」
「くっ…… 私は、最も、くっ。秘密主義の中の一人だ…… 絶対に口を割らない。むしろ死ぬ……!」
ぽっかりと空いた黄金の棺の持ち主が言及していた、あの怪しい集団。
彼らが無理やり学術院に侵入してまで探している、封呪の形をした宝物があるとすれば……
〈悪の封呪〉。
予想外の結論に達した瞬間、リンの顔色が一気に青ざめた。
ゴゴゴゴゴ。
わずかな時間のうちに魔法使いが立った地面が裂け、空気は狂ったように震え、空には黒雲が広がった。
誰が見ても圧倒的な威圧感だった。
敵の魔法が展開されていたのだ。
背中を伝って冷や汗が一筋、つっと流れ落ちた。
『これは……確かに危険だな?』
受け止めるのは無謀だ。
一人で逃げればどうにか助けを呼べるかもしれない。
でもそれでは教授が危険になる。
そうなれば彼女が選ぶべき手段は……。
『魔法の発動を止めること!』
決意とともに恐怖を乗り越えてここまで駆け上がってきた。
ギシッ。
剣が軋んだ。
リンは割れた床に剣を突き刺したまま駆け出した。
「止めなければなりません、スオムゴレ!」
興奮と緊張の中で一気に駆け出した体は、以前のように弱くはなかった。
吐き気がこみ上げてくることもなく、視界もはっきりしていて、頭がくらむこともなかった。
全身に力が満ちていた。
スオムゴレと呼ばれる魔法使いは、強化された姿で武器を使ってリンの攻撃を直接防いだ。
硬く結ばれていた魔法使いの腕は、合が合わなくなるようにすぐさまぶるぶる震え始めた。
「くっ……どこから現れたんだ、この妙な小娘は……!」
腕に傷を負ったスヨムゴレは、腕を動かしてイメージ転写を試みた。
【——を与える存在は——の——】
【具現される——は眼鏡】
幻影のクジラが消えると、室内は恐ろしいほどに真っ白な眼鏡で満たされた。
湿度も温度もすべて本物のように完璧に再現された、高度な幻影だった。
サラサラ、サラサラ。
そのうえ意図的に作り出された音は、リンの集中を一気に乱してしまった。
敵の剣士を複数相手にする状況で見ていなければ気づけないほど巧妙な計画だった。
聴覚、触覚、視覚に順番に集中しなければならないほどに。
視界の端に、青白いゴンレドアがかすかに見えたり消えたりした。
だがリンは簡単には幻惑されなかった。
『あの“スオムゴレ”と呼ばれるやつが、一部で私を誘導している……』
つまり、それだけ強力な魔法が反対方向から発動されているということだ。
背を向けたリンは正確に反対方向へと駆け出した。
そう時間が経たないうちに、うっすらとした視界の向こうに赤いゴンレドアが姿を現した。
以前よりもさらに明瞭に見えるゴンレドアを見て、リンは思わず毒づいた。
『もうほとんど完成してるじゃないの!』
それに、こんな足で走って向かうにはあまりにも敵との距離は遠かった。
リンは最後の判断で、思い切って剣を投げた。
しかし、それすらも力が足りなかった。
ドリルのようにぐるぐると回りながら飛んでいった剣は、途中でくねりながら壊れてしまった。
失敗を悟った瞬間だった。
プシュッ。
鋭い刃が、魔法使いの胸を一閃して貫いた。
その剣はリンが投げたものではなかった。
「き、きゃあああああっ!」
一拍遅れで飛んできた短剣が胸を貫き、魔法使いは胸を押さえながら倒れ込んだ。
「うっ、うぐっ……」
地面に広がる赤い血の上に、冷たい声が落ちてきた。
「この捨て駒が。」
ジハードの声だった。
彼の顔を認識した魔法使いが血を吐いて叫んだ。
「ジハード……トゥスレナ……!」
続いて彼の手と足が影のように黒く染まっていった。
だが魔法使いが影のようになるよりも早く、ジハードの霧が彼の体を包み込む速度のほうがはるかに速かった。
「ぐっ!」
魔法使いは白目を剥いたまま硬直した。
感嘆の声が漏れるほど、無駄のない霧の使い方だった。
「ヤナ様の側近です。その方はまた別の透明な霧の所有者でもあります。」
リンは本能的に立ち上る霧の形を見つめ直した。
色がなく、流れと気配だけで存在を感じられるオーラ。
リンのものと同じ形状のオーラだった。
『……本当に透明なオーラだ。』
一瞬、全身に衝撃が走った。
『あの男が、過去の自分がそうだったように、一度死んだ者だというの?』
あんなに強い男が?一体何者?
リンがかつて耳にしたことのある強者の名前を思い浮かべている間、ジハードの後ろから現れたユリクが、魔法使いの状態を確認した。
「死にました。自白する前に喉を噛み切ったようです。では、残ったもう一人の女は……」
「逃げられたか。お前はその者を理事長の前に連れて行け。侵入者に対して共同捜査を要請すると伝えろ。」
「はい。」
死体を持ち上げたユリクの背中が真っ赤な血でびっしょり濡れていた。
軽く首を傾けていたリンは、ふと周囲を包む張り詰めた空気を感じ取った。
その重さを感じ、いつからそこにいたのか分からない存在と目を正面から合わせた。
リンを見つめるジハードの表情は、どこかおかしかった。
まるで、幽霊でも見たかのような顔だった。
どう考えても、手下のヤナに対する反応ではなかった。
ひどい誤解でもしたのかと思い、周囲を見渡したが、ジハードの背後には倒れた教授しかいなかった。
「じゃあ一体なぜ?」
なぜあんなに蒼白な顔をしているんだ?
おかげで口の中の唾液も一気に乾いた。
まるで壁のように立ち尽くしていたジハードが動き始めた瞬間、リンはさらにそう感じた。
「ヤナ様の側近です。その方もまた、別の透明なオーラの持ち主です。」
ドクン、ドクン。
ジハードとの距離が縮まるほど、リンの心臓の鼓動は速くなっていった。
まさか、たった一日でアコスバート教授がジハードにリンの秘密を漏らしたのか?
十分にあり得る推測だ。
もし本当にヤナの魂を解放して攻撃してくるなら、そのときは――
だが、リンの不安は長くは続かなかった。
「……側近?」
間近まで近づいてきたジハードが、彼女をぎゅっと抱きしめたのだ。
まるで指の間から流れ落ちる砂粒をすくい取るように、とても大切に。
「剣を。」
数十年ぶりに間近で聞いたような、重く押し出された最初の一言が響いた。
「剣を、誰に習った?」
予想外の質問だったせいだろうか?
リンはぼう然として言葉を詰まらせた。
「え、ただ、まあ……。一人でなんとなく……。」
その後、本を見たとか、騎士たちをこっそり見て真似たとか、創造的な言い訳を並べたが、質問者であるジハードはまったく取り合う様子を見せなかった。
ジハードはただリンを抱いていた。
まるで小鳥を隠すように大きな胸の中にすっぽりと包み……。
理由はわからないが、なんとなく居心地が悪く感じられた。
ソードマスターが気まずいって?
通りすがりの犬が笑い飛ばすような話だが、驚くことにリンは自ら手を伸ばし、
ジハードの背中をぽんぽんと軽く叩いた。
その理由は相変わらず謎のままだった。
どれほど時間が過ぎても、ジハードは立ち上がる気配を見せなかった。
結局、リンが先に彼の胸を押し返した。
「……何かあったんですか?」
幸いと言うべきか、ジハードの表情は先ほどより幾分ましになっていた。
涙を浮かべたまま彼はゆっくりと手を伸ばし、リンの頬をぬぐった。
そしてそっと触れた指先から一言がこぼれた。
「この体は、もう他人のものだと思ってた……でも、お前にまた会えた今、それも違う気がする。」
どういう意味よ、それ。
「戻ってきてくれてありがとう。今度こそ……命を懸けてもお前を守る。」
まるで幽霊に取り憑かれたようなうわ言――ではなく、決意だった。











