ニセモノ皇女の居場所はない

ニセモノ皇女の居場所はない【125話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【ニセモノ皇女の居場所はない】まとめ こんにちは、ピッコです。 「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介と...

 




 

125話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 静かな決意

翌朝。

フィローメルは目を覚ますや否や、魔塔主の部屋の前に立っていた。

緊張で手が汗ばむ。

――コン、コン。

「ふあぁ……朝っぱらから誰かと思えば……なんだ、フィルじゃないか。」

大きなあくびをしながら部屋から出てきたルグィーンが、彼女を迎えた。

「こんな時間にどうした?何か用か?」

部屋に入ると、フィローメルは夜のうちに準備しておいた書類を取り出そうとした。

できるだけ自然に、穏やかに――そう振る舞うつもりだった。

だが、彼女の計画はいつもどおり脆く崩れ去る。

口を開いた瞬間、核心を突く問いが口から飛び出してしまったのだ。

「……本当に、エレンシアと皇帝を殺すつもりなんですか?」

雑事の合間に茶を口にしていた彼が、フィローメルの声に振り返る。

フィローメルはもう一度、同じ問いを口にした。

「……本当に二人を殺すつもりなんですか?」

「誰から聞いた?レクシオンか?」

「そんなことはどうでもいいんです。大事なのは、ルグィーン様自身の答えです。……はっきり聞かせてください。」

「フィル、とりあえず落ち着け。まずは俺の話を――」

「殺すんですか?それとも、違うんですか?」

「それは……」

「私を本当に娘のように思ってくださるなら、どうか嘘だけは言わないでください。」

ルグィーンは不機嫌そうに舌打ちしながら、乱暴に彼女の髪をかき回した。

金色の鋭い瞳が、容赦なくフィローメルを射抜く。

「――ああ、殺すさ。」

覚悟していた答えだったはずなのに、実際に目の前で聞かされると胸の奥がざわめく。

フィローメルは必死に彼を見据えた。

「やめてください。」

「理由は?」

「……きっと、他に方法があります。」

「他の方法?それは何だ?」

「……」

言葉が詰まり、フィローメルは沈黙した。

胸の中には確かな拒絶の思いがあったのに、それを形にする術を見つけられなかった。

確かに、他に方法がないわけじゃない。

けれど、それが本当に正しい手なのか――フィローメルには確信が持てなかった。

「……皇女を殺すのが一番手っ取り早くて確実だ。」

魔塔主は冷徹に言い放つ。

「そして皇女を消すのなら、皇帝まで一緒に片付けるのが理にかなっている。」

「でも、それじゃ……!もし皇帝と後継者を同時に失えば、帝国は間違いなく大混乱に陥ります!」

ベレロフが抱える最大の問題。

それは――行方不明の皇女を除けば、王位を継げるほどの資格を持つ皇族が存在しないという現実だった。

現皇帝も、即位するために兄弟を次々と粛清してのし上がった男。

だが即位後も、血筋の優れた皇族たちは根強く勢力を保ち、神聖皇室の権威を陰で支えていた。

フィローメルが皇帝になったとき、混乱の芽になりそうな存在をあらかじめ摘み取っておく――そのための布石だった。

だが、帝位を盤石にするはずの策は、今や逆に毒として作用していた。

「皇位が空白になれば、あちこちで反乱が起き、帝国は戦乱の渦に巻き込まれるでしょう。」

強大な力を持つ皇族たちが次々と牙をむき合う内乱。

圧倒的な実力を誇る者が一人でもいればまだしも、拮抗したまま争えば、それは最悪の展開となる。

『皆、自分にだって皇帝になれると信じるだろうな……。』

そして貴族たちは、自分が推す皇族を帝位に押し上げるために互いをけん制し、帝国は分裂の道をたどる――。

「……一番苦しむのは、結局力のない民たちです。」

強大な力を持つ貴族と違い、彼らには自分を守る術なんてない。

「もう一度だけ考え直してください。ルグィーン様だって、そんな混乱を望んでいるはずがありません。」

魔塔主の唇がきつく結ばれた。

まるで、何かを必死にこらえているように。

「どうか……民のことも考えてください。」

「……はあ、フィル。」

深く息を吐き出す彼。

「レクシオンも最大限隠そうとしているが、いつまでも続けられるわけじゃない。結局、俺たちは同じ屋根の下で暮らす“家族”なんだからな。」

「……な、何ですか?」

「俺には関係ない。」

吐き捨てるように返ってきた言葉は、あまりにも乾いていた。

「他の人間なんてどうでもいい。俺にとって大事なのは、俺自身と――俺から生まれたお前たちだけだ。」

そう言って、ルグィーンは大きな手でフィローメルの頬を覆った。

「ずっと前に言っただろ?俺が守るのはお前たちだけだって。」

フィローメルは言葉を失う。

「本当に……何とも思わないんですか?」

「ああ。」

「でも……数千、数万の人が死ぬかもしれないんですよ?」

「……君が望むなら、俺ができる限り混乱は食い止めよう。」

そう言っても、被害を受ける者が全くいないわけじゃない。

「でも、ルグィーン様は魔塔の主なんです。責任は当然あるでしょう?」

フィローメルは食い下がるように答える。

「そう言ってもな……実のところ、戦乱そのものが魔塔にとっては“利益”なんだ。金を積んで強力な魔法使いを雇いたがる連中が後を絶たないし、あえて魔塔を敵に回そうなんて思うバカはいない。」

これから起こり得る状況を冷徹に見据えるルグィーンの姿勢には、ただただフィローメルを苛立たせるものがあった。

――「混乱は防ぐ」と口では言うけれど、彼女が願うのは、そもそもそんな状況が訪れないことだった。

『――ああ、そういうことだったんだ。』

やっと腑に落ちた。
以前レクシオンが口にしていた言葉の意味が。

ルグィーンは感情の乏しい人間。

きっと彼は、その一面を指していたのだろう。

レクシオンから聞かされていたのに、今まで実感がなかった。

なぜならルグィーンがフィローメルに見せてきたのは、あまりにも平凡で、普通の父親の顔だったから。

――そう、フィローメルだけが例外だったのだ。

『違う、違う……。』

心の奥で否定しながらも、フィローメルは自分に問いかける。

『私は本当に……ルグィーンがこういう人だって、今になってようやく気づいたの?』

答えは――「違う」だ。

心のどこかでずっと感じていたこと。

それでも否定したかった。

性格がちょっとひねくれてるだけで、世間に誤解されているだけで……本当は根っからの善人なんだって、そう信じたかった。

(だって……私には優しい人だから。)

だからきっと、他の人にとっても「いい人」であってほしかった。

そうじゃなきゃ、安心してこの人に心を預けることなんてできない。

「……フィル。」

沈黙するフィローメルに、彼はそっと肩へ手を置いた。

「今は納得できなくても、そのうちわかるさ。これが――君のための、最善の選択なんだってことを。」

コンコンコン――。

三度のノック音とともに、扉が開いた。

「おはようございます。ご相談したい件があって……」

部屋へ入ろうとしたレクシオンは、先にいた二人の姿を見て足を止めた。

「フィルがもう来ていたんですね。ですが……どうにも空気が……。私は後でまた伺いますので、お二人で先にどうぞ。」

「入れ。」

父の低い声に抗えず、レクシオンは一度引こうとした足を止める。

その場を避けるつもりの試みはあっけなく失敗し、彼は無表情のまま二人の横に立った。

「……お前、フィルに全部話したのか?」

「話すって……何を、ですか?」

「昨日、私たちの噂をしていたって話。」

その言葉に、レクシオンがビクリと肩を震わせた。

「そ、そんなはずありません!私じゃありません!」

――今度はフィローメルが口を開く番だった。

「私からも、レクシオンに確かめたいことがあります。」

「どうして……二人とも、そんな真剣な顔で私を見つめるんですか……?」

フィローメルの声が震える。

「ロザンヌが死んだとき――遺体を発見したのはレクシオンだったとか?」

ロザンヌ・マノン。

かつてフィローメルの頬を叩き、指輪を盗もうとした女。

その罪が暴かれ牢に繋がれ、そして釈放されたその日に……

彼女は“不可解な事故”に遭って、命を落とした。

「……レクシオンが行ったときには、もうロザンスは死んでいたそうだ。」

「でも、どうしてレクシオンはロザンスのところへ?」

「……理由があるんだ。」

ロザンスの死を知らせてくれたジェレミアは、肝心の“訪問の目的”については多くを語らなかった。

だからこそ、あの時の会話はずっとフィローメルの胸に引っかかっていた。

――レクシオンは、なぜロザンスを訪ねたのか?

答えはもう、見えている気がする。

「まさか……レクシオンも、ロザンスを殺すために行ったの……?」

「どうして今さら、過ぎた話を……」

問いかけに答えたのは、ルグィーンだった。

「そうだ。あのとき代表として現場に行ったのはレクシオンだ。」

「……やっぱり、皆知っていたんですね。」

「そもそも、お前の頬を叩いた女を、俺たちが庇うはずがないだろう?」

その言葉に、フィローメルは静かに目を閉じた。

――瞼の裏に浮かんだのは、涙ながらに夫を探していた女の姿。

その女の夫イアンもまた、フィローメルに罪を犯そうとした者だった。

皇帝も、かつてフィローメルを脅かした治安隊や罪人を処刑せよと命じたとき――今のルグィーンと同じ気持ちだったのだろうか。

『あるいは、それ以上だったのかもしれない……』

自分のせいで命を落とした者たち。

そして、もしかしたらこれから二人の名前もその中に加わるかもしれない。

――皇帝と、エレンシア。

『……いや。もし今ここで見過ごしたら、もっと増えるかもしれない。』

生きていれば、誰かと衝突することは避けられない。

だが――それでも。

フィローメルはゆっくりと瞳を開いた。

その双眸は揺らぎのない光を帯びて、まっすぐ相手を射抜く。

「どうか、“私のために”なんて言わないでください。私はそんなこと、一度だって望んだことはありません。」

自分を傷つけた相手だからといって、死を願ったことなどない。

けれど――ルグィーンには、どうしても理解できないようだった。

ルグィーンは苦々しい表情を浮かべた。

「なぜだ? 奴らは悪党じゃないか。」

「私に悪事を働いたなら、確かに私にとっては悪人です。けれど、それが彼らの命を奪う理由にはならないでしょう。」

――もしそうなら、エレンシアに罪を犯した“フィローメル”もまた、死ななければならなかったはず。

『でも、エレンシアはそうしなかった。』

むしろ許してくれて、“フィローメル”が幸せになることを願ってくれた。

自分も、そんな人間になりたい。

ルグィーンは答えを探すように胸元を叩き、問いかけた。

「じゃあ……寝かせておいて見届けろってことか?」

「私に降りかかった問題は、私自身が向き合います。」

「……わかった。これからは死なないようにする。それでいいだろ?」

「違います。ルグィーンは、ただ私を信じて見守ってください。本当に助けが必要なときだけ――そのときに力を貸してほしいんです。」

「……それだけか?」

「はい。それこそが、本当の親の役割だと私は思います。」

フィローメルのまっすぐな眼差しに押され、ルグィーンの威圧感がわずかに揺らぐ。

彼女は間髪入れず、畳みかけるように言った。

「どうか……皇帝陛下とエレンシアを殺す計画も、おやめください。」

魔塔主の顔が、険しく歪んだ。

「他のことはともかく、それだけは絶対に駄目だ。」

「ルグィーン!」

「さあ、これを見ろ。」

彼は机の上に置かれた木箱を開け、その中の物を床に放り出した。

手のひらほどの大きさの黒い甲虫がもぞもぞと動き出す。

「ひっ……!」

フィローメルの方へ這ってきた甲虫は、ルグィーンの足に踏み潰され、潰れた。

「昨夜、魔塔に忍び込もうとした小型モンスターの一体だ。」

床には灰のような黒い残骸だけが残る。

「邪神の力に染まっているのは確かだ。侵入者はイエリスと手を組み、お前を狙っている。」

フィローメルは、ぎゅっと唇を噛みしめた。

目の前で、自分がどれほど危険な状況にあるのか――改めて突きつけられたからだ。

「もちろん、俺が守るつもりだ。だが……もし“悪神”が完全に復活したらどうなる?誰にも保証はできん。」

――人間が神を押しとどめられるはずもない。

「だからこそ、あの皇女は排除しなければならない。……お前も、それくらいは同意するだろう?」

フィローメルの喉が小さく鳴った。言葉が出てこない。

「……もしかしたら、本当に……ルグィーンの言うとおりなのかもしれない。」

あの幼い少女が死ぬことでしか、この世界は“悪神の呪縛”から解き放たれないのかもしれない――。

エレンシアを救いたい――その思いはフィローメルの本心だった。

だが、自分の命や世界の安寧と引き換えにするつもりはない。

『でも……』

黄金の瞳に宿る決意の炎は、消えることはなかった。

「それは最後の手段です。何の努力もせずに、エレンシアを殺すなんて許されません。」

「努力?努力する方法があるとでも?まさか神殿の安っぽい儀式を信じてるんじゃないだろうな?あれは全部、神官どもの金儲けにすぎん。」

「方法はあります。」

先ほどまでとは違い、フィローメルの声は揺らがず、確信に満ちていた。

「――私が勇者になります。」

その言葉は、静かな決意とともに空気を震わせた。

父にも、この世界を縛る“運命”にも背を向けず、真正面から立ち向かうという宣言。

フィローメルの瞳には、迷いはなかった。

 



 

 

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