メイドになったお姫様

メイドになったお姫様【110話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【メイドになったお姫様】まとめ こんにちは、ピッコです。 「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となって...

 




 

110話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 皇帝と皇后

静かだった皇宮がざわめき始めた。

皇帝と皇后が帰還するという知らせのためである。

宮殿のあちこちで大規模な掃除と整備が行われた。

忙しく動き回る侍女や下僕たちからは、これまでにない活気が感じられた。

そこでシアナは不思議そうに目を大きく開いた。

「皇帝陛下と皇后陛下の人気はとても高いのですね。」

シアナの言葉に答えたのは、皇太子宮の総管侍女エバだった。

「正確に申し上げると、皇帝陛下よりも皇后陛下の人気が高いのです。皇帝陛下は性格が冷淡で近寄りがたい方ですが、皇后陛下は身分の低い者にも非常に慈しみ深いお方ですから。」

シアナも宮廷で働きながら、その話を何度も耳にしていた。

侍女たちは折に触れて「気品があり、美しい皇后さま」と口々に称賛を惜しまなかった。

もちろん、皇后が人気を集めたのは美貌のせいだけではない。

そこにはまるでおとぎ話のような皇后の物語があったからだ。

 



 

20年前。

皇宮の空気は決して良いものではなかった。

24歳という若さで皇位に就いた新帝の性格のせいだった。

彼は傲慢で粗暴で……そして放縦だった。

時には若い侍女を弄び、また時には婚約者のいる貴族令嬢と深い関係を持つことも。

滑稽なことに、そうした振る舞いの数々にもかかわらず、多くの女性たちが彼を慕ってやまなかったのだ。

帝国最高の権力者に、若さと精力、そして優れた容姿まで備わっていたのだから当然のことだった。

皇帝は毎晩のように別の女を抱いた。

そんなある日、皇帝の前に一人の女性が現れた。

それは、名門ナムジャク家門の娘、マリアだった。

マリアは雪のように白い肌に端正な顔立ち、そして長く流れるような金色の髪を持つ美しい女性だった。

皇帝は彼女から目を離すことができなかった。

まるで星が花に引き寄せられるように、皇帝は彼女へと近づいていった。

視線を合わせ、微笑めば、女性は頬を赤らめて帝国の懐に飛び込んでくるものだ。

他の女たちがそうしてきたように。

だが、マリアの反応は皇帝の予想とはまるで違っていた。

「恐れながら申し上げます、陛下。私は無礼な男に少しも魅力を感じません。」

マリアは皇帝を拒絶した。

皇帝は激しく怒った。

大胆にも自分を拒んだ女性に、皇帝は激しい怒りを覚えた。

同時に、どうしても彼女を手に入れたいという欲望に燃えた。

生まれて初めて感じる衝動。

皇帝はマリアに花を贈り、最高級の宝石やドレスを自邸へ送り届け、デートに誘った。

しかしマリアは容易に心を開こうとはしなかった。

どうしても手に入らない女性を前に、皇帝はついに膝をついた。

「頼む、私の皇后になってくれ。そうしてくれるなら、私のすべてを君に捧げよう。」

皇帝の必死の嘆願に、マリアはついに心を動かされた。

皇帝は、世界をすべて手に入れたかのように歓喜した。

 



 

「まるでおとぎ話に出てくるみたいにロマンチックじゃない?」

目を輝かせながら語るのは、チュチュだった。

シアナは久しぶりにグレイス皇女の宮殿に遊びに来ていた。

シュシュの隣に座っていたグレイスが小声で囁いた。

「だから貴族の令嬢たちや侍女たちが皇后陛下を尊敬するのよ。天から授けられた風のように、尊大な皇帝陛下を足元にひれ伏させるなんて、どれほど素晴らしいことかしら。」

「……。」

しかしシアナは、二人の言葉に浮かれて微笑むことはできなかった。

なぜなら、現実は「二人はいつまでも幸せに暮らしました」と終わるおとぎ話ではなかったからだ。

「そのように熱烈な愛を注いだ皇帝陛下も、数年後には皇妃や後宮を次々と迎え入れたのです。」

シアナの言葉に、少女のように夢を抱いていたシュシュとグレイスの表情は、たちまち曇ってしまった。

ピンク色の夢物語の中から、厳しい現実へと引き戻されたのだ。

まるで夢物語のようだった。

グレイスが沈んだ声で口を開いた。

「皇帝は数多くの後継者をもうけなければならないのだから、仕方のないことよ。」

それでも、どうしても胸に苦い思いが残るのは避けられなかった。

グレイスは言葉を続けた。

「でもだからこそ、皇后陛下は偉大なのよ。お父様が他の后宮を迎えようと、一度たりとも怒ったり嫉妬なさったことがなかったのだから。」

それは寛大で気高い振る舞いだった。

そのために、宮廷の女たちはこぞって皇后を敬った。

そしてそれは、皇帝にとっても同じだった。

年月が流れ、20年前の燃えさかるような情熱は薄れたものの、皇帝は今なお皇后を手放さなかった。

一度心変わりすればすぐに捨て去られる后宮たちとは、まったく違う存在だったのだ。

グレイスが言った。

「それほど几帳面な父上が、毎週日曜日の朝には欠かさず皇后陛下と食事をなさるのですから。」

シュシュも頷いた。

「それに、皇宮を離れて療養地まで一緒に行かれるくらいですもの。ご夫婦の仲がどれほど良いか分かりますわ。」

皇帝と皇后が不仲や冷え切った関係であるより、はるかに良い状況だった。

そして、そのような雰囲気を作り出しているのは、誰がなんと言おうと温厚な皇后のおかげだ。

シュシュは少し赤らんだ顔で言った。

「私は来てから、皇后陛下が療養地へお出かけになるところを、きちんと拝見したことがありませんわ。」

「私のそばにいれば、すぐにお目にかかれるでしょう。」

グレイスの返事に、目を輝かせたシュシュが尋ねた。

「皇后陛下は本当にそんなにお美しいのですか?」

「ええ。ラシード兄さまのお顔など……だからこそ、母上と父上の役割が大きかったのだ。」

「まあ……驚きだわ。」

二人が明るく笑うそばで、シアナは複雑な表情を浮かべていた。

数日前に見たラシードの顔が頭に残っていたからだ。

皇帝と皇后が戻ってくるという知らせを聞いたとき、ラシードは少しも嬉しそうではなかった。

『とても嫌っているようには見えなかったけれど……それでも不思議。他の妃の娘たちはあれほど可愛がっているのに、実の息子である皇太子殿下にはそうではないなんて。』

それだけなのだろうか。

シアナには以前から疑問があった。

ラシードがわずか十三歳で戦場に送られたことだ。

『殿下が戦場に行ったのが誰の意志だったかは分からないけれど、皇帝の信頼を一身に受けている皇后陛下なら、息子を行かせるのを止めることができたはず……。』

息子に功績を立てさせ、確固たる皇太子の地位を築かせようとしたのだろうか。

権威を持つためだったのだろうか?

もしそうだとすれば、「慈愛深く温和な皇后」という呼び名は、別の方を指しているのかもしれないとシアナは思った。

 



 

数日後、皇帝と皇后が皇宮に戻る日となった。

ほぼ一年ぶりに戻る宮殿の主君を迎えるための歓迎式が開かれた。

華やかに飾られた中央庭園には、宮殿に住むすべての皇族が出揃った。

4人の皇妃、4人の皇子、7人の皇女。

さらに数多くの後宮までもが揃っていた。

頭の先からつま先まで華麗に着飾った彼らが並び立つ光景は、まさに壮観であった。

侍女や下僕たちも一角に集められており、シアナもそこに立っていた。

狭いながらも整えられた場所であった。

『いずれにせよ、ただの中級侍女がこの場に立てるはずもない。殿下の特別なお計らいのおかげだわ。このご恩を無駄にしないよう、しっかり仕えなきゃ。』

そう心に刻みながら、シアナは深く腰を折った。

やがて、皇帝と皇后の姿が現れた。

シアナは思わず目を見開いた。

『わあ……噂に違わず、お二人とも本当にすごい方々だわ。』

病で療養していた皇帝は、まだ完全に体調が戻っていないのか、少しやつれた顔をしていた。

それでも、端正で凛々しい顔立ちをした美丈夫であることに変わりはなかった。

『しかも、銀色の髪と紫の瞳は殿下にそっくり……。』

ラシードも大人になれば、きっとこんな顔立ちになるに違いない。

シアナは、どういうわけか顔が熱くなるのを感じ、今度は皇后へと視線を移した。

多くの人々が「外見も心も美しい」と口を揃える女性――賞賛される皇后は、金色の髪と端正な顔立ちを持っていた。

華奢な体つきからは上品な気配が漂っていた。

その二人を迎えたのは、皇太子ラシードであった。

皇族たちの最前列に立っていたラシードが二人の前に歩み寄り、恭しく頭を下げた。

「尊き皇帝陛下、皇后陛下に、皇太子ラシードご挨拶申し上げます。」

皇帝は軽くうなずいた。

「うむ。」

まるで歯切れの悪い、素っ気ない返事。

だが、皇后の反応は違った。

皇后は目を細め、柔らかく微笑みながら言った。

「その間、我らが留守にしていた間、宮廷を守るのは大変であったろう?」

「助けてくださる方々が多く、さほど苦労はございませんでした。」

まるで息子を労わるかのように、皇后の瞳はひときわ優しく揺れていた。

皇后は両手を広げてラシードを抱きしめた。

「会いたかったわ、我が息子。」

「……はい。」

冷えきった宮廷で久しく見られなかった温かな光景に、集まっていた皇族や侍女たちの表情も柔らかくほどけていった。

ラシードを抱きしめていた腕を離すと、皇后はほかの皇族たちを見回しながら言った。

「さぞ心細かったでしょうに、こうして出迎えてくれて感謝します。私の疲れが癒えたら、また皆で語り合う席を設けましょう。その時にゆっくりお会いしましょう。」

労りの言葉に、皇族たちは優しい微笑みを浮かべて深く頭を下げた。

だが皇后の挨拶はそれで終わらなかった。

皇后は侍女や下僕たちにも目を向けて声をかけたのだ。

「久しぶりに戻ってみれば、宮殿はとても清らかに保たれているわね。皆の働きに感謝します。」

思いがけない称賛に、侍女や下僕たちは感極まって目を潤ませた。

皇后の言葉に、人々の目には涙さえ浮かんでいた。

その場にいたシアナも心から感嘆した。

『すごい……。』

皇后という地位に就きながら、このように臣下たちまで気遣うのは決して容易ではない。

宮中の誰もがなぜ皇后をこれほどまでに敬うのか、シアナはその瞬間に理解した。

皇后は慈愛に満ちた笑みを浮かべながら、ラシードの手を取った。

「久しぶりに会ったのだから、積もる話をしましょう。」

ラシードは深く頭を下げ、皇帝と皇后の傍らで優雅に歩み始めた。

まるで一枚の絵のように美しい三人の姿に、周囲の人々は息を呑み、感嘆の表情を浮かべていた。

 



 

皇帝宮。

巨大な蓮池の前に設けられた席に、皇后とラシードが並んで座っていた。

三人は食事を終えた後、茶を楽しんでいた。

しかし、皇帝は茶を一口飲むとすぐに席を立ち、今ラシードの前には皇后だけが残った。

ラシードは心配そうな顔をして尋ねた。

「父上は、言葉も少なく表情も乏しかったように思います。……ご健康に何か問題でも?」

皇后は心配いらないと言わんばかりに微笑んだ。

「いいえ。長い時間、馬車に揺られて来られたからお疲れなのです。」

「……そうですか。」

「そうよ。どこか具合が悪ければ、あの方はあんなに静かでいらっしゃるはずがないでしょう?」

ここ数年、慢性的な頭痛に悩まされていた皇帝は、頭痛がひどいときには烈火のごとく怒りをあらわにした。

時には物を投げたり、自身の苦痛を和らげられない医師を激しく叱責したことも。

その様子を知っているラシードは、皇后の言葉を素直に受け入れた。

「湯治地で陛下の頭痛が治られたと伺いました。大変喜ばしいことです。」

「……その通りだ。」

茶を一口含んだ皇后が口を開いた。

「ところでラシード、湯治地から妙な話を耳にしました。」

「妙な話、とは?」

「お前が頻繁にルビー宮に出入りしていたとか。」

「……。」

「それから東部へ向かったアリス姫を支援したのもお前でしょう?東部では、アリス姫が皇太子の威光を背負って現れたと大騒ぎだったそうですよ。」

ほぼ一年を湯治地で過ごしていたことすら信じがたいほど、皇后は多くのことを把握していた。

だからこそ、ラシードは気まずそうに皇后の言葉を聞くしかなかった。

否定する代わりに、ラシードは静かにうなずいた。

「母上のおっしゃる通りです。」

ラシードの承認に、皇后は目を伏せた。

「ラシード、いつも言っているでしょう。皇位をめぐって争う兄弟の間に、真の情が生まれることはないのよ。」

「……。」

「どんな思惑でアリス王女を傍に置いたのかは分からないけれど、あの子にとっては力をつける助けにしかならないわ。あなたにとっては何の得にもならない。だから、これからはあの子への関心を断ちなさい。」

皇后の声は柔らかかった。

だがその奥には、揺るぎない意志が潜んでいた。

一瞬、二人の間には重苦しい沈黙が流れた。

しかし皇后はまったく気にした様子もなかった。

ラシードが結局は幼い子どものように従うことを知っていたからだ。

ラシードにとって、美しく気高い母に決して逆らうことなどなかった。

しかし――

「お母様、アリスは私の妹です。あの子が自らの力をしっかり持てるようになるまで、支えてあげたいのです。」

「……!」

一瞬、皇后の瞳が大きく揺れた。

彼女は見開いた目でラシードを見つめ、問いかけた。

「……どうしてもそうしなければならないの?」

「はい。」

「この母が嫌だと言っても?」

「……申し訳ありません。」

ラシードの言葉に、皇后は信じられないというように顔を歪めた。

苦悩をにじませ額を押さえながら、皇后は言った。

「母の言葉に逆らうとは……お前も大きくなったのね。」

「恐れ入ります。」

「もうよい。」

「……。」

「疲れてこれ以上話すのは難しいわ。この件はまた後日にしよう。今日はここまでだ。」

「……はい。」

ラシードは皇后の言葉に素直に従い、その場を下がった。

ラシードが去った後、テーブルには皇后だけが残った。

茶杯を手にした皇后は目を伏せてつぶやく。

「陛下も私もいない間、ラシードは幼い弟たちと随分楽しく過ごしていたようね。」

「その通りでございます。」

独り言のような皇后の言葉に答えたのは、彼女の背後に控えていた侍女だった。

少しハスキーな声を持つその女は、皇后に最も近しい侍女――イブリンだった。

「けれど、いくら幼い弟たちと親しくしていたとしても、あそこまで変わってしまうには他の理由があるはずです。」

「……」

「イヴリン、ラシードについて調べてきなさい。私の知らない何かがあるように思えるのだ。」

イヴリンは恭しく頭を下げた。

 



 

 

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