こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
139話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 白い鳥⑫
そのとき、ルン様の瞳がかすかに揺れるのが見えた。
彼ははっきりと首を横に振る。
「……違う。私は……」
彼の顔には深い悲しみが宿っていた。
間を置き、彼は言葉を続けた。
「……そんな資格はないが、君にひとつだけ頼みがある。」
ルン様は私の手を取った。
その温もりに私は思わず驚き、言葉を失う。
黄金色の瞳がまっすぐに私を見つめている。
「……これから先、君のそばにいられなくても構わない。」
「………」
「私は満月に縛られた身だ。だから月明かりを見るたび、君が私を思い出してくれたらそれでいい。君が歩くとき、足元を照らす光になれるなら、それで十分だ。だから……」
ルン様は悲しげな顔で私に言った。
「頼む、長く生きてくれ。」
胸が詰まり、息が苦しくなるのを感じた。
「……精霊神に祈ってみる。もしかしたら、あなたの魔力を再び生命力に変えられるかもしれない。でも、もしあの方の怒りを鎮められないのなら、まず契約を解かなければならない。」
「………」
「長く長く生きて、君の家族や友人たち……そして愛する人と共に生き続けてほしい。」
胸が熱くなり、涙がこみ上げそうになった。
そうか、彼は――
『私に生き延びてほしいから、距離を置いていたのか。』
やっと知った真実に、胸が締めつけられるように痛んだ。
彼の顔はあまりにも悲しげで、きっと彼自身も無力さや苦しみに苛まれていたのだろう。
それでも私を避けることが、私のためになると信じていたに違いない。
感情に揺れる彼がどれほど悩んだのか、その姿が頭に浮かんだ。
どうしてそんなにも私のことばかり考えるのだろう。
私は拳をぎゅっと握った。
彼の言う通りだ。私は死にたくない。
イシスお兄様が築き上げる帝国の姿を見届けたい。
夢を叶えていく友人たちのそばにいたい。
母や父とも一緒に旅行にも行こうと約束した。
できることなら、私も愛する人たちと共にゆっくりと歳を重ねていきたかった。
ある日はきっと嬉しいことがあり、ある日は悲しいこともあるだろう。
平凡だけれど幸せに、何とか生きていけるかもしれない。
けれど……
『その中に、あなたはいないのね。』
結局こらえきれず、涙がこぼれた。
「私は……ルン様が好きです。」
「……アイシャ。」
「ルン様が好きです……」
もう隠すこともできず、わっと泣き出してしまった。
彼に渡せるのは、この小さな私の気持ちだけ。
彼を愛しているけれど、その想いはあまりにも小さく、頼りなく、彼をこの場所に繋ぎ止める力にはなれない。
その事実が胸を締めつけ、苦しくて、涙が止まらなかった。
なぜ私は彼と一緒にいられないのだろう。
ルンはどうしていいか分からない様子で、私の頬を両手で包み込んだ。
私は勇気を出して彼を抱きしめた。
背の高い彼を抱くのはまるで雛鳥が親鳥に抱きつくようで、少し不格好だったが、それでもいい。
もっと彼の温もりを感じたかった。
彼も戸惑いながらも私を強く抱き返す。
私は彼の胸に顔をうずめた。
――このまま時間が止まってしまえばいいのに。
叶わない願いだと分かっていても、ずっと彼と一緒にいたかった。
彼もまた、私がほんの少しでも力を与えれば壊れてしまいそうに、私を大切そうに抱きしめていた。
胸の奥で波が押し寄せるように感情が湧き上がる。
私は顔を上げ、彼の顔を見つめた。
その金色の瞳はすぐ目の前にあった。
涙で滲んでいる私の顔を見つめながら――彼の顔がだんだん近づいてきた。
私がそっと目を閉じようとした、その時だった。
「俺が邪魔者になっちゃうかな!」
突然、横から鋭い声が聞こえた。
「……!」
「……!!!!」
思わず飛び上がるほど驚いた私は、ほとんど悲鳴を上げそうになった。
「だ、誰?!」
慌てて首を巡らせ、誰なのかを確認する。
この山にはつい先ほどまで私とルン様しかいなかったはずだ。
しかし、いつからそこにいたのか分からないが、まったく気配すら感じなかった人物が立っていた。
「……お、お前は?」
私は言葉を詰まらせながらそう言った。
あまりの驚きに声が震える。
フードの影から唯一見える唇が、弧を描いて持ち上がった。
「……あの、怪しかった行商人?!」
思わず私は彼に食ってかかった。
なぜ彼がこんなところにいるのか?
それに、物を売りに来たわけでもなさそうだ。
だが、ルンの反応は予想外だった。
彼は眉間に皺を寄せ、行商人に向かって言い放った。
「……お前……」
明らかに互いを知っている様子だった。
私は驚き、二人の顔を交互に見比べた。
接点などなさそうな二人なのに、一体どういうこと?
私の疑問を察したのか、行商人は口元をゆがめて笑った。
その瞬間、私の鼻先をかすめたのは、かつて嗅いだことのある、他の誰とも混同できない独特な香りだった。
私は思わず口を覆った。
「……ま、まさか?!」
「そのまさかです!」
訪問商人は片手でフードを派手に外した。
すると、フードの中から水色の髪がさらりとこぼれ落ちた。
陽の光の下で現れた顔はにっこりと笑みを浮かべ、悪戯っぽい青緑の瞳が私とルン様をじっと見つめていた。
「正解!」
「……なんで!!!」
あまりの衝撃に言葉が詰まるのを感じた。
「あの訪問商人がハイネ様だったってことですか?!」
じゃあ、どうして私のところに来て、あんな怪しげな品物を売ったりしたの?
いや、ちょっと待って。
それより前にもっと掘り下げるべきことがある。
「……やっぱり詐欺師だと思ってたのに!」
私は思わず声を上げた。
どう見ても、ハイネン様にうまく騙されてしまったのだ。
しかし彼は、ただ爽やかに笑みを浮かべるだけだった。
「やあ、ルミナス。それにアイシャ!二人とも、助けが必要そうだったから来てみたんだ!」
そう言って彼がルン様と私を交互に見やる。
その瞬間、私は自分がまだルン様の腕の中に抱かれていることに気づいた。
慌てて彼の胸から飛び退く。
ルン様がわずかに名残惜しそうに見えたのは、私の思い過ごしだろうか。
「……助け、ですか?」
赤くなった頬を押さえつつ、私は問い返した。
私の言葉に、ハイネン様の瞳が急に真剣さを帯びる。
「ルミナス。」
ルン様も、何やらただならぬ空気を感じ取ったようだった。
「アイシャに、お前が受け取った“代価”について話したことはないだろう?」
ルン様はしばらく黙り込み、視線をそらした。私はルン様を見上げた。
「代価……ですか?」
「昔、ルミナスがお前を助けるために人間の世界に深く介入した出来事のことだ。」
私ははっとして身震いした。
以前、私がイデンベレに使者として行ったとき、敵の襲撃を受け命の危機に陥ったことがあった。
そんな私を助けるために、ルン様は駆けつけてくれ、その代わりに“代価”を支払うことになったのだ。
「……その代価って、何なんですか?」
声が震えているのを感じた。
これまで何度か彼に尋ねたことはあったが、そのたびに答えてはくれなかった。
今度こそ答えが欲しかった。
私を見つめたルン様の口が開いた。
「……すべての存在は、やがて転生する。」
「小さく取るに足らない生き物も、尊く卑しいすべての魂も、そして我ら精霊王たちでさえも。誰もが命の終わりを迎えれば、新たな命として生まれ変わり、運命を授かるのだ。」
ハイネン様がルン様の言葉を引き継ぐ。
そのやり取りを聞きながら、私は呆然と口を開けていた。
この世界に“転生”というものがあることは知っていた。
何しろ、私自身が転生者なのだから。
しかし、世のすべてが死ねば新たな命を授かるというのか。
しかも精霊王たちまで。
それはまるで、夜空に瞬く星々の数ほどに途方もない話だ。
ルン様が続けた。
「人間の世界に深く関わったことで、私はもう二度と生まれ変わることができなくなった。」
私は驚いてルン様を見つめた。
「……二度と生まれ変われないってことですか?」
「……ああ。」
「そして、生まれ変われない魂は、死んで新しい命を待つ魂とは本質的に異なる。」
隣にいたハイネン様が言葉を継いだ。
わずかに真剣さを帯びたその顔には、寂しげな微笑みが浮かんでいた。
「彼らは転生という新たな機会も与えられず、栄光も名誉も祝福も、記憶してくれる者もいないまま、魂の世界を彷徨うことになる。それがルミナスが受けた“代価”、罰なのだ。」
「……」
私の顔色がさっと青ざめていくのが自分でも分かった。
精霊王の寿命は私の想像をはるかに超えるほど長い。
ルン様が死ぬということは、私が死んだ後もずっと——
それは、あまりにも遠い話だった。
「……それは……」
それでも胸が締めつけられ、息が詰まりそうだった。
二度と生まれ変われず、永遠に孤独なまま彷徨うしかないなんて——。
気づけば、私は無意識に涙をこぼしていた。
突然の私の様子に、二人の精霊王は戸惑ったようだったが、涙は止まらず頬を伝い続けた。
「……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。」
ルン様は必死に私を慰めようとしてくれた。
——私が悲しむとわかって、ずっと黙っていてくれたんだ。
彼は最後まで私のことを想ってくれている。
私は泣きながら、言葉を震わせて続けた。
「……もしまた生まれ変われたなら、そのときは……きっと……」
皇女ではないかもしれないし、皇女でもないかもしれない。
女性か男性かさえも分からないけれど……。
それでも抑えきれず、胸の奥に抱いていた小さな願いがあった。
「……それでも、ルン様がいるこの地にもう一度生まれたかったんです。」
再び記憶を持ったまま転生することは望まない。
けれども、もし許されるなら、私の魂がいつまでもルミナス様と共にあるこの地に生まれ続けることを願った。
ここで命を与えられ、生き、また死ぬ。
たとえ彼と共に過ごせなくても、彼がいる世界の中で生きていたかった。
だが、彼はもう二度と新しい命を与えられないという。
私のせいで、永遠に魂の世界をさまようことになったという。
その事実があまりにも申し訳なく、胸が痛んでたまらなかった。
あまりにも泣きすぎて、息をするのも苦しかった。
「君のせいじゃない。」
ルン様は優しく私を抱きしめてくれた。
「私は君に出会えて幸せだった。」
私は拳を強く握りしめた。本来それは私が言うべき言葉だった。
私こそ、ルン様に出会えて本当に幸せだった。
もし願いが叶うなら——
『ルン様にとって、私がほんの少しでも意味のある存在であればいいのに。』
私は子どものように泣きじゃくってしまった。
本当は慰められるべきなのはルン様のほうなのに、情けない姿を見せたくないのに、涙は止まらなかった。
そのとき、ハイネン様が口を開いた。
「だから私が助けに来たんだ。」
「……え、どういうこと?」
私は涙でかすれた声のまま、ハイネン様に尋ねた。
彼がどうやって、私とルン様を助けるつもりなのかを。
そんなことができるのか?
ハイネ様が柔らかく微笑んだ。
そして次の瞬間、彼の口から出た言葉に、私は再び呆然とせざるを得なかった。
「精霊神に会いに行こう。」
「……!!」
「……ハイネン!」
ルン様が警告するようにハイネン様を呼び止めた。
だがハイネン様はためらいもなく言葉を続けた。
「行って、ルミナス、お前の転生とアイシャの寿命について、裁きを仰いでみよう。どうせアイシャの寿命を延ばすと決めたのなら、お前が精霊神のもとへ行くしかない。その場合、アイシャも直接行く方がいいだろう。」
「……でも……!」
ルン様が口を開きかける様子が見えた。
私は慌てて涙を拭う。
悲しんでいる場合ではない。
私はこの機会を逃すまいと、急いでハイネン様に尋ねた。
「わ、私も行けますか?」
胸の鼓動が激しく高鳴っていた。
「……危険だ!」
ルン様は顔をしかめて言った。だが私はきっぱりと言い切った。
「危険でも行きます。これは私のことで、私の責任です。一緒に行きましょう、ルン様。そしてハイネン様も。」
私の寿命は、もとより自分で精算しなければならないものであった。
これ以上生きたいという欲がないと言えば嘘になるだろうが、それが叶わないとしても、私は受け入れる覚悟があった。
けれど、私のせいで代償を払うことになったルン様の場合は違う。
それについて、私は責任を感じていた。
ルン様の代わりに、精霊神に償いたかったのだ。
「お願いします。私も行かせてください。」
二人が止めても、私はきっと押し切ってでも行くだろうと心に決めていた。
迷いはなかった。
そんな決意が私の顔に表れたからだろうか。
ルン様は複雑で微妙な表情を浮かべた。
隣でハイネン様がにこにこと笑いながら口を挟んだ。
「大丈夫、大丈夫。精霊の力を持つ子だろう?精霊神様もきっと見逃してくださるはずだ。」
「それは分からないことだ。」
「分からないからこそ、行くしかないだろう。」
そう言ったハイネン様は自然に私に手を差し伸べた。
ふと、大事なことが頭をよぎり、私は彼に尋ねた。
「えっと、行くのに時間はかかりますか?」
「さあ、それは行ってみないと分からないな。」
「じゃあ、少し席を外すと侍女たちに伝えておきます。」
私はその場でリミエを呼び、侍女たちにしばらく席を外すと伝えてもらうように頼んだ。
少し遅れて戻っても驚かないでほしい、と自分に言い聞かせた。
リミエが皇女宮の方へひらひらと飛んでいくのを目で追いながら、私は二人の精霊王に向き直った。
準備はできている。
勇気を奮い起こし、ハイネン様の手を取ろうとしたその瞬間――
「……行こう。」
ルン様の手が空中で私の手を掴んだ。
「……ルン様?」
瞬きをしながら顔を上げたが、ルン様は視線を逸らすだけだった。
なぜか頬が赤くなっているように見える。
ハイネン様は寂しげな表情で私たちを見つめていた。
「そうだ、お前たちはしっかり食べて、しっかり生きろ。」
もちろん、ルン様はその言葉を聞いても反応しなかった。
ぶつぶつと文句を言っていたハイネン様は、やがて私の手を放し、空中で二人を包み込むようにした。
すると周囲の景色が揺らぎ、その部分だけまるで—
水の渦のように揺らめき始めた。
「……!」
驚くべき光景だった。
ハイネン様はためらいもなく、その渦の中へと最初に足を踏み入れた。
「何してる?行こう。」
私は唇をきゅっと噛みしめた。
人間の身体で精霊界へ行った者が、私以外にもいるだろうか?
別世界へ旅立つという事実に緊張が走った。
その時だった。
「アイシャ。」
ルン様が私を呼んだ。
「……はい。」
私は彼を見上げた。
その瞳には、無表情なようで複雑な色が混じっていた。
少し悲しそうにも見え、言葉にできない多くの感情を秘めているようだった。
だが、それでも揺るぎなく一つだけ確かなのは、彼が私の手をしっかり握っていたという事実だった。
それだけで、胸の中の不安も恐れも、心配もすべて吹き飛んでいくようだった。
私は小さくうなずき、二人とともに精霊界の中へと足を踏み入れる。







