影の皇妃【１５２話】ネタバレ

しかし、エレナは失望しなかった。

そのような大公家を倒すために、自分は危険を甘受してまでここに残ったのではないか。

エレナは大公家の敷居を超える１台の馬車も見逃さず注視する。

記憶を辿って影響力の強い貴族たちを選び出した。

同時に彼らの身の上を思い出し、接近方法を考える。

「本来なら貴族会議に参加するための口実を作らなければならなかったけど、もうその必要はないわね」

エレナの口元に微かな笑みが浮かぶ。

レンがいなかったら、今頃エレナは貴族会議に参加する工夫をしていただろう。

貴族会議で扱われる案件を突き止めてこそ、それを基盤にエレナが貴族を分裂させる策を画策できるためだ。

・

・

・

コンコン。

大公家の敷居を超える貴族の馬車が少なくなる頃、ノックの音が聞こえた。

「お嬢様、アンです」

「お入りなさい」

エレナの許可が下り、部屋に入ってきたアンが黙礼をする。

「この階と３階の応接室に夫人と令嬢たちが集まっています。何人かは庭園を散歩していますが、すぐに戻ってこられるようです」

「そうなの？」

貴族会議だからといって、家主だけが来ると思ったら大きな間違いだ。

久しぶりに多くの貴族が集まる席であるだけに、夫人や令嬢を同行する場合は日常茶飯事だった。

貴族会議が終わると続く晩餐会の席で、いい政略結婚の相手を物色しようとする。

「ティータイムの準備は支障ない？」

「はい」

「じゃあ行きましょうか。少しでも顔を映してこそ礼儀なのだから」

原則として、招かれた夫人や令嬢を迎えるのは大公家顔人の役割だ。

今、大公家内でその役割を果たせるのはエレナが唯一だった。

エレナが応接室を訪れると、夫人や令嬢たちが一斉にソファから立ち上がり礼儀を弁える。

社交界の何が面白いのかというと、年齢より夫の爵位や権威、評判、名望で序列が分かれるということだ。

そのような脈絡から見れば、エレナは断然この席で最も高い人物だった。

「遠い道のりを来るのに、ご苦労様でした。皆さんのために特別ティータイムに気を使いました。足りないかもしれませんが、少しでも楽しんでください」

晩餐会で接触する貴族の夫人たちに注目する。

妻の影響というのが無視できないだけに、彼らに良い印象を与えることが重要だった。

エレナはいくつかの影響力のある貴婦人を選別して、心にもない称賛と言葉を並べながら好感を得た。

今後、領地に戻った貴婦人たちはエレナの提案を受けて、悩む夫に肯定的な助言をしてくれる重要な存在になるだろう。

全ての望みを叶えたエレナは席から立ち上がる。

「残念ですが、私はこれで失礼します。晩餐の準備をしなければなりませんので」

「公女殿下自身が気を遣っているのですか？」

「ええ。お客様がいらっしゃったのですから、何か一つでも無駄にもてなすことはできません。後ほどお目にかかりますね」

エレナは軽いが非の打ち所のない礼法で挨拶を終えて応接室を退出する。

今から夫人と令嬢たちはエレナについて話を交わすはずだ。

短いティータイムだったが、権威的ではなく、彼らを配慮しているという印象を与えたのだから。

きっと自分に対して肯定的な言葉が行き交うだろう。

部屋に戻ったエレナはアンを呼ぶ。

「まだ会議中？」

「はい、そうみたいです」

「アン、会議室の前に行って待機しなさい。会議が終わったら貴族たちの表情をよく観察してちょうだい」

「はい？表情ですか？」

訳の分からない命令を受けたアンが反問する。

「雰囲気が重要なのよ。会議が上手く終われば良いけど、そうでない場合に派手すぎるドレスを着たらどうなると思う？」

「なるほど！分かりました！」

アンはようやく言葉の意味を理解したのか、急いで寝室を出ていく。

・

・

・

アンは会議が思ったより長引いているのか、しばらく戻ってこなかった。

晩御飯に遅れるかもしれないと考えて、急いで着飾っていると。

「そ、それが一様に表情がとても悪かったです。怖くて見られないほどでした」

「そう？教えてくれて本当にお疲れ様。どうも今日は落ち着いたドレスを着た方がいいわね」

アンの報告を受けたエレナは心から嘲笑う。

（無理をしたみたいね）

貴族会議が予定された時から予想はしていた。

大公家に余力が残っていたのなら、あえて無理をして派閥会議を招集する理由がないのだから。

エレナはいつにも増して緻密に今回の仕事を準備した。

シアンを説得して皇太子妃選出式という強硬姿勢まで持ちながら、大公家に残っただけに回生不可能な打撃を与えたかったのだ。

そのため、レンと接触する前に貴族の態度と雰囲気をうかがう。

会議の結果による貴族の反応を把握し、能動的に対処するため。