影の皇妃【２３８話】ネタバレ

「リハーサルだけで６回もあるよ。これでも問題が生じれば、それは空が崩れても生じる問題だよ」

「どういうことですか？空が崩れてもサロンは崩れてはいけません」

「ああ、行ってもう一度点検するよ」

エレナの小言に勝てなかったカリフは、振り向いて応接間を出る。

そうでなくてもお客さんが到着する時間が迫っているだけに、遅滞することはできなかった。

一人残されたエレナは手に汗が溜まるのを感じる。

何人くらい来るだろうか？

半分？いや、もう少し来てくれて６割、７割？

別館の開場式があった日、ベロニカを追いかけた追従者たちは正確に２８人だ。

エレナはその中で半分だけ来ても成功だと思っている。

黙々とそんな彼女の後を守っていたヒュレルバードが口を開いた。

「緊張しているようです」

エレナは首を傾げる。

彼女と一緒に少なからぬ波風を経験したヒュレルバードは、氷の騎士という名声に相応しい姿をしていた。

「私ですか？でも緊張しているだけではないんです」

「・・・」

「私は今ワクワクしています。とてもたくさん」

エレナはとても気分が良かった。

適切な緊張とときめきが混ざって、いつにも増して良いリズムを維持していた。

このようなリズムは、そのまま現場で貴賓に伝えられるだろう。

「今日のファッションショー、私の生涯で指折りに数えられる最高のイベントになりそうな気がしますね」

サロン本館の入口でカリフは貴賓を迎えるのに余念がなかった。

ファッションショーまでは時間が少し残っていたにもかかわらず、サロンの外まで長い列が続いている。

「招待状を見せていただけますか？」

「どうぞ」

綺麗に着飾った令嬢がそっと招待状を見せた。

それを受け入れたカリフの目が異彩を帯びる。

（シュヴァルツ令嬢？）

カリフはチラリと見上げて、目の前の令嬢を見つめた。

招待状には固有の番号が付けられている。

招待状を確認する際、ベロニカの追従者たちが何人来たのか確認するためだ。

（面の皮が厚いよね、本当に）

シュヴァルツの二重性を心の中で非難し、カリフは微笑んで迎えた。

「お越しいただき、ありがとうございます。思う存分お楽しみください」

シュヴァルツはあごを上げて高慢な歩き方でサロンに入っていく。

その後ろ姿を見るカリフは呆れていた。

自分の足でサロンを軽蔑するように見つめながらベロニカを追いかけていたあの日の姿とはあまりにも対照的だったからだ。

カリフは振り向いて再び招待状を確認する。

（また？約束でもしたのか？なんでこんなに早く）

開場したばかりにもかかわらず、あの日ベロニカについて行った追従者たちが既に１１人もサロンに入場していた。

なんと半分近い数字だ。

（随分ヤキモキしていたみたいだね）

カリフは失笑を辛うじて堪える。

（半分なら成功だね）

エレナはきっと来ると豪語したが、内心誰も来なかったらどうしようと気を揉んでいたカリフとしては一安心できるようになった。

その後、稀に１０人に１人の割合でベロニカの追従者たちを見ることができた。

今入った令嬢も別館の開場式があった日、ベロニカのすぐそばに立って肩に力を入れて意気揚々と出ていった令嬢だ。

（憎たらしくて、図々しい奴だね。あっ、それより何人まで数えたっけ？）

最も重要なことを忘れかけていたカリフはすぐに思い出した。

（２４人！じゃあ、今入った子まで含めて２５人・・・。ちょっと待って、２５だって！？）

無意識に数字を数えていたカリフは驚愕する。

ベロニカについて行った２８人の追従者のうち、なんと２５人がサロンに入ってきたのだ。

（す、すごい！）

カリフは心の中で叫ぶ。

このニュースはメイを通じてエレナにすぐ伝わった。

「お嬢様、なんと２５人も来たそうです！」

「思ったより多く来たわね」

淡々としたフリをしたが、エレナの口元にかかった会心の笑みが今彼女が感じている喜びを推察させている。

「嬉しくないのですか？」

「嬉しいわ。嬉しくない理由がないでしょう？」

「とても淡々としているので・・・」

エレナは首を横に振った。

満面の笑みは変わらないまま。

「ここで満足すればいいの？喜びはもう少し後で享受しても遅くないわ」

メイは改めて目の前のエレナを見る。

本当に凄い人だ。

一瞬も隙を見せずに大公家を絶えず圧迫して締め付けているのだから。

「そろそろ降りましょう」

「はい、お嬢様」

先立って歩くエレナの後ろ姿を眺めるメイの目に誇りが芽生える。

この小さな女性の後ろ姿は、他のどの人よりも巨大に感じられた。