こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
今回は36話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
36話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 母親として
固く閉ざされたドアの前、アンジェリーナは「ふう」とため息をつく。
シアナは言った。
「19回目のため息をつきました。どうぞお入りください」
アンジェリーナは「もう一度」と言おうとしたが、口をぎゅっと閉じる。
自分を見つめるシアナから無言の圧迫が感じられたためだ。
アンジェリーナは唾をごくりと飲み込んで部屋のドアを開けた。
シアナもそっと一緒に入る。
部屋の中にはレイシスが床にしゃがんでいた。
レイシスは人の気配に肩をすくめただけで、2人を見向きもしなかった。
その無関心がアンジェリーナをさらに緊張させる。
(何を言おうか)
アンジェリーナはレイシスに話しかけたのがいつだったかさえ覚えていない。
声をかけるたびにレイシスは感情の分からない顔で独り言をつぶやいた。
その度に極限の恐怖を感じたアンジェリーナは、ある瞬間から息子に話しかけなくなってしまった。
侍従たちに任せていつも一歩離れて見ていただけ。
シアナはためらいがちなアンジェリーナに視線を向ける。
「できます!」
アンジェリーナはためらった後、レイシスのそばに近づき、口を開く。
「レイシス、何をしているの?」
「・・・」
予想通り、返事は返ってこない。
少しの反応もないレイシスを眺めると、あらゆる物が一列に並んでいた。
レイシスのために用意した小さなおもちゃから、部屋の中にあった枕、燭台、時計まで。
多くの物が正確な間隔でナイフのように並べられている。
気まずい顔でそれを見ていたアンジェリーナが何かを見つけた。
「人形が曲がってる」
人形に向かって手を伸ばしていたアンジェリーナは、何かを思い出して手を止める。
このように遊んでいる時、誰かがその物に触れるとレイシスは大騒ぎになった。
普段は感情がないのか、と思うほどおとなしい子供が暴悪な犬のように唸るのだ。
アンジェリーナは眉をひそめて呟く。
「確かに、こんなに一生懸命作ったのに。許可も得ずに触ると気分が悪くなるだけよね」
「・・・」
そうして時間がどれくらい経ったのだろうか。
物の垂れ下がりを終えたレイシスが、ある瞬間から爪で床をかき始める。
一度熱中し始めれば何時間も同じ行動をする子供だからそうだろうと思ったが、詳しく調べてみるとそうではなかった。
ここの床を掻いて。
ごろごろ転がって、あの床を掻いて。
またあの床を掻いて。
アンジェリーナはその光景をじっと見つめながらつぶやいた。
「ひょっとして退屈なのかな?」
レイシスが退屈だと思ったことは一度もなかった。
レイシスはいつも理解できない行動をしていたので、そのような平凡な感情があるとは思ったことがなかったのだ。
アンジェリーナは新鮮な目で床に長く垂れ下がっている物を見る。
「そうだね。レイシスもあれだけ続けるには飽きるだろう」
アンジェリーナは悩み始めた。
(子供が退屈している時は何をしてあげればいいの?)
甘いものを食べる?
しかし、レイシスは食べ物があまり好きではない。
おしゃべり?
レイシスと?
話にならない。
動物は?
レイシスは動物にも何の関心もない。
音楽の感想は?
音に敏感なレイシスに楽器の音は鬼門である。
いらいらした顔であれこれを思い出していたアンジェリーナが「ああ!」と叫んだ。
アンジェリーナは隅に立っていたシアナに何か頼んだ。
シアナはアンジェリーナの言ったことをすばやく持ってきた。
間もなく部屋の中には真っ白なキャンバスと色とりどりの絵の具が用意される。
もちろんレイシスは、そうでなくても少しも関心がなさそうだった。
まだ爪で床を掻いているだけだ。
アンジェリーナは息子の反応をあまり気にせず、パレットに絵の具を絞り始める。
「実は私は絵を描くのが大好きだったの。お父さんが貴族の令嬢が筆を持つのは体の不自由な行動だと叱られてしまって、まともに学ぶことはできなかったけど・・・」
それでも時々友逹の家に遊びに楽に絵を描くことができる日があった。
アンジェリーナは筆に絵の具をつけて話し続ける。
「大きくなれば絵ぐらいは自分の思い通りに描けると思ったが、そうでもなかった」
皇居には眼が多かった。
彼らは幼い皇妃に何か言いがかりをつけることがないか、いつも目を光らせた。
絵を描くことは上品さとはかけ離れた行動。
それでアンジェリーナはまだ筆を上げることができなかった。
それでも我慢できないほど寂しい時、涙が止まらないほど悲しい時には、部屋の中で一人で絵を描いていた。
アンジェリーナの手が優雅に動き始める。
間もなく真っ白なキャンバスに真っ黄色の絵の具が広がり始めた。
窓際に置かれている黄色いチューリップを描いたものだ。
アンジェリーナは黄色っぽいキャンバスを望むながら思った。
(私が絵を描かなかったのは体のせいでもあるが、実力のせいでもあるはず)
謙遜ではない。
キャンバスに描かれた絵は、いい言葉でも立派だと感心するほどのものではなかった。
くねくねとしたのがまるで子供が殴り書きした落書きのようだった。
(いや、子供が私より上手に描くかも)
改めて恥ずかしくなって視線をそっと向けると、驚くべきことにレイシスがこちらを眺めている。
正確には彼女ではなくキャンバスの絵を。
「・・・」
アンジェリーナは2度目のショックを受けた。
いつもボーっとした表情をしていて感情が分からなかったレイシスが目を細くしていたためだ。
まさかあんなものを絵として描いたのかと言うように。
アンジェリーナの顔はあっという間に赤くなる。
彼女は思わず言い訳するように叫んだ。
「わあ、もともと好きなものと才能は別物なんだ。そして私はまともに教育を受けることもできなかったし、油絵は元々見た目より難しい・・・」
アンジェリーナは言葉を続けることができなかった。
つかつか近づいてきたレイシスが自分の手にあった筆を奪っていったためだ。
レイシスがこのような行動をしたのは初めてだった。
「レイシス」
レイシスはアンジェリーナが何か言う前に手を動かす。
ふぃっ!
キャンバスの上を涼しげに横切る筆が鮮やかな跡をつけた。
ひゅっ!ひゅっ!
レイシスはためらわずに手を動かした。
彼が手を動かすたびにめちゃくちゃだった絵が変わった。
枯れた花びらは華やかに満開し始め、さわやかな色はきっと甘い花の香りがしそうだった。
奇跡のような光景にアンジェリーナは目を見開く。
それは一歩離れたところで二人を見守っていたシアナも同じだった。
息子と向き合うことで、レイシスの才能を発見したアンジェリーナ皇妃。
これは大きな前進なのではないでしょうか?
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