こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

73話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 苦い過去⑤
シアナは心の中で考えた。
『グレイス皇女様がきちんと食事を取れるようになるには、まず食べ物に対する否定的な感情をなくさないといけないわ。』
食べ物を食べると太る。
グレイスにとって、その考えは深く根付いたものであった。
その恐怖を取り除かなければならなかった。
「皇女様、ティバタの僧侶たちをご存じですか?」
突然の問いにグレイスは目を見開いた。
神ティバタに仕える僧侶たち。
彼らは深い森の中で神に祈りを捧げながら暮らす生活で知られている。
「祈りを捧げるために宮殿に来た僧侶たちを見たことがあるわ。」
「痩せ細っていましたよね?」
ひどくやせた僧侶たちを思い出したグレイスは顎に手を当てた。
「……そうだったわ。」
「ティバタの僧侶たちは生きている生命体を決して食べないそうです。倫理的に供える果物や米さえも食べません。」
「それじゃあ、何を食べるの?」
「自然界では植物だけを食べるそうです。」
「……野菜のこと?」
「はい。キャベツ、ニンジン、パプリカ、トマト、そういったものです。野菜はたくさん食べても太りません。」
「……!」
グレイスは目を見張った。
初めて聞く話だったからだ。
帝国では「ダイエット」という言葉はあったが、それは極端に断食を行う方法を指していた。
野菜を食べれば少し太り、肉を食べればさらに太る、という知識しか広まっていなかった。
だからグレイスは少し困惑した表情で言った。
「ゾウは野菜だけ食べるのに、あんなにがっしりしているじゃない。」
「まあ、ゾウに例えるなんて面白いですね。その動物たちは太っているのではなく、丈夫な体つきを持っているんです。草だけを食べる動物の中に、太り過ぎた動物はいません。私が保証します。だから、まずは食事を野菜中心に変えてみてください。」
そうして野菜に慣れたら、卵も食べて、パンも食べて、肉も食べて。
いろいろな食品を少しずつ増やしていけば、自然と普通の食事ができるようになるでしょう。
シアナは図書館でたくさんの本を読んで得た知識だった。
グレイスはどこか納得しきれない顔をしながらも、そっとグラスを握りしめた。
「……やってみるわ。」
思いがけず素直な返事に、シアナは笑顔を見せた。
「どうかお願いします」と助けを求めてきた彼女の言葉が、本気であることを嬉しく思った。
しかし、これで終わりではなかった。
『たとえ野菜が太らないと言われても、グレイス皇女様の食事への恐れは完全には消えない……。体がすぐに消えるわけじゃない。そして、口に合えばまた別の食べ物を食べたくなるかもしれない。』
そうなると、グレイスは再び全てを吐き出してしまいたくなる衝動に囚われてしまうだろう。
その問題も解決しなければならなかった。
「皇女殿下、これからは食事をした後、運動をするようにしてください。体を動かせば、それだけお腹に入ったものが消化されるんです。」
グレイスは眉をひそめた。
それもそのはずで、皇女にとって「運動」という言葉は「労働」かそれに近いものとしか感じられなかったのだ。
「運動なんて、騎士たちが体を鍛えるためにやるものじゃない?」
「そんな過激なものだけが運動ではありませんよ。体を動かせばそれは全部運動です。散歩はお好きですか?」
最も簡単で負担の少ない運動だった。
だが、グレイスは冷ややかに首を横に振った。
「散歩は嫌い。」
日光の下に長くいると肌が焼けるからだ。
どれだけ日焼け止めを使ったとしても限界がある。
「人々が私を見て一番感嘆するのは、この白い顔よ。肌が傷つくのは絶対にダメ。」
グレイスの言葉に、シアナは目を細めた。
その言葉が何を意味するのか、彼女には理解できたからだ。
優雅でか弱い皇女。
グレイスはその姿を保ちたいのだ。
『自分の意思ではなく、他人の目線を意識して。』
シアナはグレイスが不憫だった。
その考えがどれだけ重く、苦痛であるかを知っていたから。
だが、そんな思いを口に出すことはしなかった。
今のグレイスは、その言葉を全く受け入れられないだろうから。
むしろ自分を理解していないとして、シアナを疑うかもしれない。
だからこそ、そんな言葉を発するよりも、グレイスにぴったり合った運動を提案する方が良いと思った。
『日差しで肌が焼けるのが嫌なら、山登りのようなものもきついだろうし。じゃあ何がいいのかな。』
その時だった。
そばでそわそわしていたチュチュが口を挟んだ。
「皇女様、それならお部屋の中で私と一緒に運動するのはどうですか?」
チュチュが力強く腕を上げて屈伸させた。
引き締まった上腕二頭筋が隆起していた。
「これ見てください。ただの筋肉じゃありませんよ。全部、自分で努力して鍛えたんです。他人を運動させることにも自信がありますよ!」
得意げなチュチュの言葉に、グレイスは呆れたように目を細めた。
『今、本気で言ってるの?私はあなたみたいな筋肉オタクにはなりたくないわ!』
しかし、グレイスが口を開く前に、シアナがさっと手を挙げてそれを遮った。
「それ、いいですね。」
「何ですって?!」
「室内でできる運動なら日差しを避けられるし、他人の視線を気にしなくてもいいでしょう。それに、チュチュは皇女さまの事情をよく理解していますから、気まずいこともないはずです。」
「でも……!」
グレイスが逃げようとして言い訳を探そうとしたところで、シアナが素早く追い打ちをかけた。
「皇女さま、最近歯がグラついたりすることはありませんか?それに、食べ物を飲み込むとき、喉が少し痛むことも。」
「……!」
目を見開くグレイスに向かって、シアナは静かに語りかけた。
「あまりにも頻繁に嘔吐を繰り返したせいで、身体がすっかり弱ってしまったんです。この状態を続けていれば、さらに悪化するだけです。歯が次々に抜け落ち、喉が荒れて、食べ物を飲み込むことさえできなくなってしまいます。」
「……」
「そうなると本当に終わりです。」
単に美しさが失われる問題ではありません。
死んでしまう。
それは明確な脅迫だった。
その意味を理解したグレイスの顔は一瞬で青ざめた。
しばらくの沈黙の後、グレイスは答えた。
「……分かったわ。チュチュと運動する。」
「やった!」
チュチュは嬉しそうな顔で両腕を上げて歓声を上げた。
「最高です、皇女さま!私が皇女さまを世界で一番強靭な体にしてみせますよ!」
「そんな大げさなことはやめて。私は食べた分だけ消化できる程度に動くだけよ。私が望んでいるのは、今の体型を維持することだから。」
「はい、ええ。そうですね。」
大柄で自信に満ちた侍女。
眉をひそめた上品な皇女。
『相性がいいペアだな。』
シアナは満足そうな顔で二人を見つめていた。








