こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

88話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 戻ってきた日常⑦
朝陽が差し込む朝。
つば広の麦わら帽子をかぶったシアナが宮殿に出てきた。
彼女の手にはブラシが握られていた。
『そっと、音を立てずに。』
肩を軽くすくめたシアナが慎重にブラシを使おうとしたその瞬間。
「シアナ様!」
「今、何をしていらっしゃるのですか!」
ニニとナナの慌てた声が聞こえてきた。
「わーっ!」
ものすごい速さで走ってきたニニがシアナの手からブラシを奪い取った。
ナナはすぐにシアナの小さな体を抱き上げて宮殿の中に連れて行った。
『悪党逮捕完了。』
まるでそんな場面。
ナナの両腕に捕まったシアナは、困惑の表情を浮かべた。
「ただ庭を掃除しようとしていただけなんです。」
ニニが目を細めながら言った。
「それは私たちの仕事です。」
ナナも目を細めながら言った。
「ブラシがけをしていて、昨日夜にお手入れした手が台無しになったらどうするんですか。」
いつの間にか現れたアリスも一言加えた。
「それに、日焼けはどうするの。この強い日差しの下でそんな作業をしていたら、せっかく管理した肌が台無しになっちゃうわ。」
シアナは非難するような目で自分を見ている三人に向かって、弁解するように言った。
「だから手が傷つかないように手袋をはめてたし、帽子もかぶってたんです。」
それでも三人は納得しない様子で眉をひそめた。
シアナは泣きそうな表情になった。
最初、三人がシアナを飾ると宣言したとき、シアナはそこまで深刻に考えていなかった。
まず助けてくれると言ってくれたのがありがたかったし。
しかし、三人はシアナが思っていた以上に情熱的で真剣だった。
その後、シアナが侍女としてしなければならないどんな仕事もできないほど、厳しく部屋の中に連れ込まれ、顔にパックをされる始末だ。
泣きそうな表情でシアナが訴えた。
「皆さんが私のためにここまでしてくれるのはわかっています。でも、こんなにしなくてもいいんです。だって、たった一日だけ皇太子殿下のパートナーをするだけなんですから。それだけのことなんです。侍女の仕事をおろそかにするつもりはありません。」
シアナの隣に座っていたアリスは、ため息をついて深く考え込んだ。
「本当にわからないの、シアナ?」
「何がですか?」
「あなたの主人である私が望んでいるのよ。あなたが最も美しい姿で宴会に参加することを。だからそのために精一杯飾るのが、あなたのすべきことよ。」
シアナは一瞬言葉を失った。
『本当にロマンチックなことを言いますね、公主様。毎日ロマンス小説を一生懸命読んでいらっしゃるだけのことはありますね。』
しかし、それほど簡単に済む話ではなかった。
シアナは視線を落とした。
「公主様のお考えはよく分かりました。でも、公主様、私はルビー宮の侍女です。私が仕事をしないと、ニニとナナが困ってしまいます。」
『それにしても、これは一体何なのだろう。』
ニニとナナは断固として首を横に振った。
「ルビー宮は小さいです。二人でしっかりやれば、すぐに仕事は終わりますよ。」
「それに、体が少し疲れるくらいならどうってことありません。シアナ様を美しく装う手助けをすることで疲れが吹き飛びますから。」
驚いたことに、二人の言葉は本気だった。
10歳の幼い公女を飾り立てるのも大きな喜びだったが、16歳の令嬢を美しく装うのはまた違った充足感を与えるようだったのだ。
ニニとナナは熱い意志を込めて言葉を続けた。
「私たちは毎日、シアナ様が今以上にどれほど美しくなれるかを想像しています。」
「どうか、私たちのためにも協力してください。」
「……。」
ニニとナナまでそんなふうに言うので、シアナは黙り込んでしまった。
シアナはついに折れて、うなずいた。
「わかりました。三人がそこまでおっしゃるのなら、今日から宴会の日まで侍女の仕事は休むことにします。」
「やったー!」
アリス、ニニ、ナナはぱっと笑顔を見せ、手を取り合った。
アリスが活気に満ちた声で言った。
「ニニ、ナナ、昨日買ったオイルを用意して!マッサージから始めるわよ!」
「はい!」
ニニとナナは嬉しそうに答えた。
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「どうしてそんなにじっと見ているんですか?もしかして私の顔に何かついていますか?」
シアナが目をぱちくりさせながら、ラシードを見つめた。
二人はダンスの練習のため、皇太子宮の宴会場で手を取り合っていた。
ラシードはシアナに目を伏せながら言った。
「最近、何かが変わった気がする。」
「えっ……」
シアナは目をぱちくりとさせた。
最近のシアナは侍女の仕事を一旦中断し、外見のケアに集中していた。
その効果は確かに現れていた。
短い間に肌は滑らかになり、髪は艶やかさを増していた。
シアナは目を細めて微笑みながら言った。
「そんなに劇的に変わったわけではないですけど、気づいていただけるとは意外です。目の付け所がいいんですね。」
シアナの褒め言葉に、ラシードは照れくさそうに微笑んだ。
宴会場の隅で様子を見守っていた護衛騎士のソルがこの光景を見ていたなら、息を呑むほど驚いたに違いない。
ラシードには「目の付け所」すら存在しないと思われていたのだから。
おそらくソルが両手で頭をかきむしって、汗だくで現れたとしても、何が変わったのか気づかないだろう。
しかし、それはそれとして、シアナはシアナだった。
ラシードはシアナの小さな変化さえも気づくことができた。
自分でも不思議に思うほどに。
「……」
シアナは一瞬動きを止めた。
『また私をじっと見ているのね。』
ラシードは時々、シアナを言葉もなく真剣な眼差しで見つめることがある。
そのたびに、シアナの胸はドキドキと高鳴った。
『これほど息を呑むように美しい男性が、声が聞こえるほど近い距離で、手を握りながら私を見つめるなんて、当然のことよね。』
18歳の少女らしい、極めて自然な反応だと思った。
ただ、ラシードにこんな感情を抱かせたくはないと、シアナは話題を変えることにした。
「明日はダンスの練習に来られません。」
にこやかに笑っていたラシードの目の輝きが、一瞬にして冷たくなった。
「なぜ?」
「ローズフェスティバルの時に着るドレスやアクセサリーを合わせる予定だからです。」
氷のように冷たかったラシードの視線が、春の日差しのように明るく輝いた。
「一緒に行こうか?」
一瞬視線が微妙に変化するラシードを不思議そうに見つめていたシアナが、慌てて否定した。
「いいえ。」
「……!」
ラシードは視線を落とした。
まるで主人と一緒に散歩するのに失敗した犬のように。
その様子は少し寂しげにも見えたが、シアナはラシードと一緒に街に出かけるなんて考えたこともなかった。
シアナはラシードを説得するように話した。
「ローズフェスティバルでは、私は自分の正体を隠して皇太子殿下のそばに立ちます。そのためには、できるだけ目立たないよう静かに準備を進める必要があります。」
しかし、ラシードと一緒に街に出てドレスを選んでいる瞬間……
『皆さん、こちらを見てください!私は今回のフェスティバルで皇太子殿下のパートナーを務める者です!』
と叫び声を上げているのと同じような状況になることが目に見えた。
ラシードは、心配することはないと言わんばかりに言葉を続けた。
「以前のようにスカーフで顔を隠していけばいい。」
「そのときと今では状況が全く違いますよ。」
あのときは平民たちの祭りだったため問題はなかったが、今回はフェスティバルを準備している貴族たちが街に溢れている。
スカーフ1枚ではラシードの正体を完璧に隠すことはできなかった。
「そういうことです。私は一人で行くつもりです。」
ラシードはしばらく黙った。
寒い色はまだ隠れられなかったが。
しかし、こうして話を終えた二人は今日の練習を終わらせた。
「ではこれをお持ちします。」
シアナはラシードに腰をくねらせて体を動かすように言った。
「ちょっと、シアナ。」
「はい?」
「もしかして何か置き忘れていったのかと思って」と言って、シアナが目を丸くして顧客を見上げた。
トク。
その瞬間、シアナの口の中に甘い何かが入ってきた。
「何ですか、これ?」
シアナが両頬を膨らませながら尋ねると、ラシードがくすくす笑いながら答えた。
「イチゴジャムが入ったチョコレートだよ。」
「甘酸っぱいイチゴの香りと甘いチョコレートの味が合わさって、本当に美味しいですね。でも、次回はこんな素敵なものを渡してくれるなら、きれいな箱に入れて丁寧に渡していただけますか?」
チョコレートを飲み込んだシアナが眉を上げながら言った。
「たった一晩だけですが、私は前夜のパートナーになる予定ですから、それにふさわしい対応が必要です。」
その大胆な言葉に、ラシードは笑みを浮かべた。
まるで、「その通りだ」と言わんばかりに。







