こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

95話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 皇太子のパートナー②
バラの花の宴と呼ばれる華やかなイベントの会場は、宮殿の広大な庭園に美しく飾られていた。
庭園には、この日のために育てられた何千ものバラが満開だった。
バラは多彩な色合いを帯びていた。
赤、青、紫、白、ピンク、そして黄色。
咲き誇る一本一本のバラは、宝石のように美しかった。
春の日のときめきとバラの花の甘い香りが漂う美しい宴会場に、人々が次々と集まり始めた。
宮殿から直接招待されたこの宴会には、参加者はみな一流の家柄の人々ばかりだった。
高級なドレスをまとい優雅な所作をする参加者の中でも、ひときわ目立つ人物がいた。
それは、皇室の三番目の皇女、グレイスだった。
グレイスは以前とはまったく異なる姿をしていた。
以前は黒檀のように長かった髪を短く切り、ほとんど化粧をしていない顔にはその素顔の精悍な魅力が際立っていた。
その下には、体にぴったりとしたドレスをまとっていたが、はっきりと浮き出た背筋や腕は以前の華奢さをまったく感じさせなかった。
引き締まった筋肉が細やかに浮き出ており、非常に力強い印象を与えていた。
どう見ても「公主(姫君)」らしくない姿だった。
年配の貴族たちはグレイスを見て「あれは一体どういうことか」と眉をひそめたが、若い貴族たちはそうではなかった。
「以前とは違う意味で美しいですね。」
「そうですね、健康的で力強い印象を受けます。」
特にグレイスを羨望や嫉妬の目で見ていた他の女性たちは、彼女を目にして顔を赤らめた。
それはまるでおとぎ話の中の王子様に出会ったような光景だ。
その一方で、グレイスの隣に立っている小柄な人物は、この場の雰囲気を好ましく思っていなかった。
周囲の人々の視線を気にしている様子で、小柄な人物は苦笑いを浮かべながらグレイスに耳打ちした。
「公主様、私があれほどお願いしたじゃありませんか。普段どれだけ食べても運動をしようが全く構いません。でも今日だけは、私が用意したドレスを着てくださいとお願いしたんです。それがそんなに難しかったんですか?」
それは切実な願いが込められた声だった。
しかしグレイスは、どこかそっけない表情で答えた。
「着てみたけど、そのドレスは私には小さすぎたの。」
「それはどういう意味ですか?」
「あなたも目があるなら分かるでしょう。最近私は少し体格が大きくなったので、そのドレスのような小さめのサイズは合わないんです。」
もちろん、無理やりにでも体重を減らしてコルセットで締め付ければ着られるかもしれない。
しかし、グレイスはそこまでする気もなければ、操り人形のようなデザインのドレスを着る気もなかった。
グレイスは冷ややかに言い放つ。
「そんなにそのドレスが好きなら、自分で着ればいいんじゃない?」
「え、何ですって?」
グレイスの言葉を聞いたその小柄な人物は顔を強張らせた。
彼がまた文句を言い始めるのを聞きたくなかったグレイスは、立ち上がる。
その小柄な人物は目を大きく見開いた。
腰をすっと伸ばしたグレイスの視線が、彼よりも明らかに上から見下ろしていたからだ。
グレイスの口元が上がった。
「わざわざヒールを履いているなんて見ものだ。」
これまでアイザックと一緒にいるとき、グレイスはあえてヒールの低い靴を履いていた。
アイザックよりも少しでも背が低く見えるようにするためだ。
しかし今は、そんなことを全く考える必要もなかった。
むしろ、顔を引きつらせる婚約者を見下ろすのがなかなか気分が良かった。
「私の姿があまりお気に召さないご様子ですね。でも幸い、私も同じ考えです。お互いに迷惑をかけ合うだけですから、距離を置いて別々に行動するのが得策でしょう。」
「……!」
まったく言葉にならない話だ。
最近関係が悪化していると言っても、二人は婚約者同士だった。
それなのに別々に行動するだなんて。
「人々が何と言って噂するか、想像もつかない!」
そう思いつつも、アイザックがどう思おうと、グレイスは全く気にしていなかった。
情が薄れていく婚約者を見ても、もはや煩わしいだけ。
これ以上彼に良い印象を与える理由はなかった。
「バラの花フェスティバルが終わったら、母に婚約解消を申し出ることを話そう。」
彼女の母親、ライラ皇妃は目を細めて軽蔑の視線を送るかもしれないが、グレイスの話には耳を傾けるだろう。
彼女は大して関心を示さないものの、娘が望むことには大半同意してきたのだから。
そんな母の気持ちを知ることもなく、アイザックは笑顔を浮かべてグレイスに近づいてきた。
「グレイス王女、どうか心を鎮めてください。私は決して王女の姿を非難したわけではありません。今日も本当にお美しいです。ただ、人々が以前のような華奢な姿だと思っているかもしれませんので、そう見えるドレスのほうがいいのではとお伝えしただけです。」
言葉巧みに、彼はそう述べた。
人々はその華やかな場面を眺めながら、互いにひそひそと話し合った。
集まりの中には、ミスティック商団の代表キャロラインとキルアンもいた。
キャロラインが目を輝かせながら言った。
「まあ、皇太子殿下も素晴らしい美男子でしたけど、皇女様も素晴らしいですね。帝国の皇族は美人が多いって聞きましたけど、本当みたいです。」
しかし、隣にいた弟キルアンは何の関心も示さず、テーブルに置かれた菓子だけを無心で口に運んでいた。
美人が十人いようが百人いようがどうでもいい、といったような冷淡な表情だった。
その顔を無表情で眺めていたキャロラインが口を開いた。
「あっ、あの人はまさかシアナ皇女様ではないでしょうか?」
「どこに!」
キルアンが素早く菓子を手にしたまま鋭く反応した。
キャロラインは既知の顔を確認したような声で続けた。
「まあ、違うわね。髪の色が似てるだけだったみたい。」
そこで初めて、姉が自分を驚かそうとしていたことに気づいたキルアンだった。
キャロラインは顔を険しく歪め、拳を握りしめた。
「私が言ったでしょう?そんな幼稚な冗談はやめなさいって。」
「幼稚な冗談に引っかかるあんたが馬鹿なんだ。たとえ正気を失ったとしても、よく考えてみなさい。ここにシアナ皇女がいるわけないでしょう?」
ここは帝国皇室から招待を受けた者たちが集まる「薔薇の花の宴」。
滅亡した国の皇女、シアナがいるはずがなかった。
キャロラインはキルアンの額をコツンと軽く叩きながら言った。
「皇太子殿下を見た時のように、バカみたいなことを言わないで正気を保ちなさい。ここにいる人々はみんなミスティック商団の商品を買うかもしれないお金持ちであり、お客様なんだから。」
「ふん。」
「もしまた失敗したら、本当に許さないからね。シアナ皇女を目の前で探すなんてこと、考えられなくさせてやるわ。全身を縛り上げてどこかに放り投げるわよ、そのつもりでいなさい。」
姉の執拗な脅しが真剣でないと分かっていながらも、キルアンは心の中で毒づきながらも口を堅く閉ざした。
『まあ、我慢しよう。今日だけ大人しくしていれば姉もシアナ皇女を探す協力をしてくれると言ったし。』
キルアンにとって重要なのはそれだけだった。
会場がざわめき始めた。
薔薇の花の宴の主催者であり、皇帝の代理でもある皇太子ラシードが登場したのだ。
「きゃっ!」
あちこちから抑えきれない悲鳴が上がる。
皇太子の非現実的なまでに美しい容姿がその原因だった。
皇室の血統を象徴する銀色の髪と、同じ色の長い睫毛の下で輝く紫色の瞳。
「血の皇太子」と呼ばれる冷酷な異名が全く似合わない繊細な顔立ちだった。
しかし、その下に見える紺色の制服を着た身体は鍛え上げられた筋肉そのものだった。
顔つきからは少しも感じ取れなかった異名の事実を証明するかのように。
会場にいたすべての人々が広がった口を閉じられないまま皇太子を見つめていた。
やがて一人二人と正気を取り戻した人々が、疑わしげな顔をしてこう口にした。
「でも、どうして殿下はお一人なんでしょう?」
参加者全員がパートナーと一緒にいるべきというのは、主催者にも適用される長年続く薔薇の宴の規則だった。
ラシードは人々の考えをすべて読み取ったかのように、貴族たちに向かって言葉を放った。
「心配は無用だ。少しすれば私のパートナーが到着するから。」
その言葉に、数人の貴族が目を細めた。
まだ正式な宴の開始時間ではなかったが、皇太子を待たせることは重大な失態となるため、全員が気を引き締めていた。
ただし、ラシードは少しも気にする様子もなく余裕の表情を浮かべていた。
威厳ある立ち姿でいるラシードを見つめながら、隅にいた女性たちは目を細めてささやいた。
「まあ、殿下のパートナーが一体どんな人であれば、あんな優雅な顔つきで待たれるのかしら。」
その話題に関しては、すでに多くの噂が飛び交っていた。
「外国のお姫様ではないか。」
「北方の貴族の女性だって聞いたわ。」
いずれにせよ、その女性が誰であれ、ラシードを心の底から崇拝する貴族女性たちにとっては新たな競争相手の登場だった。
『どれほど美しい女性なのか、この目で確かめてやる。』
『もし殿下に釣り合わない女性だったら、きっと失望するわ。』
『きっと驚くだろう。』
女性たちが胸に秘めた焦りや嫉妬を知らず、ラシードは穏やかな思いに浸っていた。
『シアナ、早く会いたい。』
シアナに会えない時間が、彼にはとても長く感じられた。
ラシードはシアナの姿を一目でも早く見たいと思っていた。
しかし、ラシードのその願いとは裏腹に、シアナは今日の宴の開始時間にぴったり合わせて登場すると伝えてきた。
【薔薇の宴でお見せする私のテーマは、自信に満ちた傲慢なお姫様です。】
以前、シアナが書いた手紙を読んだとき、ラシードはどれほど笑ったことか。
『自信に満ちた傲慢な、だと?』
ラシードが知っているシアナの姿とは、まるで結びつかないものだ。
『誰も彼女がシアナだと気づけないだろうな。確かに今日は全く違う姿で飾ってくるだろう。』
しかし、あの丸い顔立ちと穏やかな目元がどこに行くというのだろう。
たとえ高価なドレスを身にまとい、派手な化粧をしたところで、その可愛らしさは変わらないはずだ。
ラシードはそう考えていた。
宴会場に入ってくる女性を見るまでは。
宴会の始まりを知らせる鐘が鳴る直前、一人の女性が宴会場に入ってきた。
最初、会場にいた誰もがその女性に注意を払わなかった。
しかし、一人、二人と、徐々に多くの人々が目を見開き、その女性を見つめ始めた。
女性はその視線を全く意に介さない様子で、堂々と歩みを進めた。
カツ、カツ。
「……。」
ラシードは何も言葉を発することができず、彼の方へ近づいてくるその女性をただ見つめるだけだった。
はっきりした瞳と赤い唇。
揺れ動く淡い髪には、きらめく薔薇形の宝石が数多く飾られていた。
豊かな胸元と引き締まった腰、そしてその下に広がる赤いドレスには、さまざまな色の飾りが美しく散りばめられている。
その女性はまるで薔薇そのもののようだった。
清らかで愛らしく、しかし近づけば棘が刺さるような気高さを持つ薔薇の花のように。
ラシードと目を合わせた女性が、両目を優雅に細めて微笑んだ。
その表情は、鮮やかさと華やかさが混ざり合い、目も覚めるようなエメラルドの輝きを放っていた。
彼女を茫然と見つめるラシードは、息を呑んだ。
「まさか……。」
シアナなのか?
ラシードが名前を呼ぼうとした瞬間、女性が先に口を開いた。
「ロザンナと申します。今日は光栄にも、尊貴なる殿下の隣に立たせていただくこととなりました。」
「……。」
ロザンナ。
シアナが事前に知らせてきた偽名だった。
目の前の女性はシアナに間違いなかった。
だが、ラシードはその事実をどうしても信じられなかった。
視線を合わせることはなかったが、宴会場にいる人々は揃って一か所を注視していた。
彼らの視線の先には、皇太子ラシードと赤いドレスを身に纏った女性がいた。
貴族たちはざわついた。
「皇太子殿下のパートナーというからどんな女性かと思えば、すごい美人じゃないか。」
その言葉に、人々は同意のうなずきを見せた。
さらには、少しでも欠点を見つけられないかと探り始める者もいた。
他の貴族女性たちでさえ、嫉妬の炎を燃やしていたが、この美貌には反発することができなかった。
そして、それは彼女の隣に立っていたラシードも同様だった。
ラシードは視線をそらしながらも、その女性をちらりと見た。
目元に深く引かれたアイライン、鮮やかな赤い唇。
この華やかで大胆な女性がシアナだとは、どうしても信じられなかった。
ラシードの視線を感じ取ったシアナが、さりげなくラシードと自分の口元を扇で隠しながらささやいた。
「殿下、どうしてそんなにじっとご覧になるのですか。もしかしてアイメイクが崩れていますか?」
顔立ちとは異なり、柔らかく落ち着いた声は間違いなくシアナのものだった。
そのため、ラシードは少し目を細めて言った。
「どう見ても別人のようだ。」
その言葉にシアナはくすっと笑った。
「殿下がそうおっしゃるなら、成功したようですね。」
「一体どうやったらこんなことが可能になるんだ?」
「メイクとドレスの力ですよ。」
「女性が化粧をすると顔が変わるのは知ってる。でもこれほどまでに変わるのは初めて見た。」
「私が言うのもなんですが、私の顔立ちは化粧がとてもよく映えるんですよ。」
シアナの柔らかく白い肌は、ぱっと見は普通に見えたが、意外にも顔の造りやバランスが非常に整っていた。
さらに滑らかな肌質が加わり、化粧をするには最適な顔立ちだった。
『化粧を初めてしたときも、きっと注目を集めただろう。』
美しさという力を放棄した後、化粧をせず人気も失ったかのように人々の記憶から消えたが――。
その後、ちゃんと化粧をして人前に出たのは今日が初めてだった。
『予想通り、誰も私だと気付かないわね。シアナを知る数人の淑女たちだけでなく、あちらにいるグレイス皇女さえも全く気づいていないようだ。』
ラシードは手を挙げて言った。
「では、始めましょうか、ロザンナ。」
シアナは赤い唇を軽く上げて笑顔を見せながら、ラシードにそっと腕を差し出した。
ラシードとシアナは、会場中央に設置された装飾の美しい壇上に上がった。
華麗なバラの花模様が施された壇上に立ち、二人は互いに頭を軽く下げ、礼儀正しく挨拶を交わした。
会場の片隅では、楽師たちが演奏を始めた。
薔薇の宴の幕開けを告げる音楽だ。
この宴は、参加者たちを祝福し、幸福を祈るために行われる特別な舞踏会のようなものだった。
今年は皇帝と皇后が席を空け、若い皇太子とその身分が不明な淑女が代わりにその場に立ったが、どこか物足りない感じが拭えなかった。
その場にいる人々は、美しいバラのように輝く若い男女の美しさに目を奪われ、言葉を失っていた。
「ただ踊りを見ているだけなのに、なぜか心がときめきますね。」
「ええ、まったくその通りです。まるで情熱に溢れていた20代に戻ったような気分です。」







