こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

98話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 懸念と愛情②
「……まただ。」
長椅子にもたれて座っていたラシードが、かすれた声でつぶやいた。
ラシードは左胸に手を当てた。
トクン、トクン、トクン。
心臓が激しく鼓動していた。
ラシードは自分の胸の上で小刻みに動く「チョクチョク」(白いフェレット)と「ナムナム」(ダラム鼠)を見つめ、思わず目をそらしてしまった。
「おかしいな?生まれてからずっと健康で、手のひらでつぶせそうなほど丈夫な体だったのに……。」
胸がドキドキする日が増えてきた。
バラの花が咲く夜会以降。
もっと正確に言うと、月明かりの下でシアナが自分を見て微笑んだあの時から。
『あの時のシアナの姿は、他の人々も見惚れるほど美しかった。それでこんなに胸が高鳴るのか。』
魅力的なものを見たときに興奮するのは人間の本能だった。
ただそれだけなのだろうか。
ラシードは自分の心の動きを正確に理解できず混乱していた。
そんなラシードに、副官の騎士ソルが近づいてきた。
「陛下、お客様がいらっしゃいました。」
ラシードは目を丸くした。
皇帝の代理を務めるラシードのもとに、多くの人々が訪れるが、彼らは数日前にあらかじめ訪問の日付を予約していた。
このように当日に訪れるのは、私的な関係でしかありえないことだ。
そしてラシードに、こんな形で訪ねてくる人間はこれまでほとんどいなかった。
ソルが続けて言った。
「ミスティック商団のキーアンという者です。バラの夜会のときに陛下のパートナーだった方について話がしたいとのことです。」
「……!」
それを聞いて、ラシードの脳裏に一人の少年が浮かんだ。
鮮やかなオレンジ色の髪と鋭い特徴的な目を持つ少年。
バラの夜会の夜、その少年はシアナをじっと見つめていた。
不快なほど執拗な視線だった。
その瞬間、ラシードの頭の中に小さな想像がよぎった。
バラが満開の夜会場で名前も知らない女性に一目惚れした少年。
夜会が終わった後、少年はその女性を探して彷徨ったが、何も掴むことはできなかった。
我慢できなかった少年は、女性のパートナーだった皇太子を訪ねてきた。
彼女について少しでも知りたいという一心で。
『もしそんなことなら……』
ラシードは目を伏せた。
『皇太子の女性に目を向けた罪を問うて、その目を摘み取らねばならない。二度とシアナをそんな目で見られないように。』
ラシードの顔には冷酷な笑みが浮かんだ。
その顔を見たソルは慌てて言った。
「殿下! ここは戦場ではなく平和な皇宮です。また、キーアンは皇帝陛下が大切にされているミスティック商団の商団主の息子です。ですから、決して殺してはいけません!」
「心配するな。殺しはしない。」
殺しはしない?
その言葉の微妙な意味を悟ったソルは青ざめた。
「殺さずに、他の危害を加えられるということでしょうか。」
「そうか、注意しよう。そして、さっさと彼を連れて来い。」
全く注意が必要と思えないラシードを不安げに見つめたソルは、心の中で事態が大事にならないよう祈りながら軽くため息をついた。
しばらくして、キーアンが皇帝の謁見室に姿を現した。
鮮やかなオレンジ色の髪と猫のように吊り上がった目、その下に輝く黄金色の瞳。
普通の商人の息子とは思えないほど豪華な外見を見たラシードは、内心で視線を落とした。
『まあ見たところ、まだ大したことない子供だ。』
冷静な評価を終えたラシードが無表情の顔でキーアンに問いかけた。
「それで、薔薇の花咲く宴の夜、私のパートナーだった女性について何か話したいことがあるのか?」
どんな言葉を引き出すにせよ、少しでもシアナについて疑念を抱かせたら、皇太子の愛人を探った罪で厳しい罰を受けることになるとラシードは覚悟していた。
しかし、キーアンの口から出た言葉は、ラシードが予想していたものとは全く異なるものだった。
「あの晩、殿下の隣におられた方は、アシルンド王国のシアナ姫で間違いありませんよね?」
「……!」
目を大きく見開いたラシードに向かい、キーアンは冷静で穏やかな口調で続けた。
「違うとは言わせません。知らないとも言わないでください。すべて調べがついています。」
シアナが立ち去った後、キーアンは調査を始めた。
まず最初に明らかになったのは、シアナが現在どこにいるのかということだった。
しかし、首都の隅々まで探し回っても、シアナの痕跡を見つけることはできなかった。
仕方なく、キーアンは皇宮にまで調査の範囲を広げた。
皇宮は厳重な警備で調査するのは非常に困難だった。
それは簡単なことではなかったが、ついに断片的な証拠を掴むことができた。
シアナは、自分の国を滅亡させた帝国の皇宮にいたのだ。
それも、たった一介の侍女として。
どうしても理解することができない話だった。
キーアンはさらに執着心を強め、このとんでもない事実の真相を追求した。
キーアンはラシードを見つめながら語った。
「アシルンド王国が帝国軍に侵略されたその日、姫君は姿を消されました。その後、皇太子殿下が前線から戻られる際に帝国皇宮へ連れ帰られ、姫君は皇宮の侍女に選ばれたのです。」
キーアンはこれが単なる偶然の一致だとは考えなかった。
さらに、帝国皇宮が侍女を選ぶ基準が極めて厳格だとしても、いくらなんでも、以前に帝国によって侵略された国の姫を侍女として迎え入れるなどあり得ない。
しかも、それをここまで秘密裏に進めるとは。
キーアンは鋭い視線を向けて言葉を続けた。
「陛下がシアナ姫を皇宮の侍女にしたのですね?」
「……そうだとしたら?」
「……!」
ラシードの平静な顔つきに、キーアンの心がかき乱された。
『立派に生きていた姫を捕らえ、侍女として扱うなんて、なんて侮辱的な!』
確固たる証拠は結局見つからなかったものの、いくつかの状況証拠から、ラシードが薔薇の宴でパートナーとして同行していた女性がシアナであることは明白だった。
そこまで知ったキーアンは、怒りを抑えきれずに皇宮へ駆け込んだのだ。
もちろん、キーアンの目の前にいる男が「血の皇太子」という恐ろしい異名を持つ存在であることも理解していた。
帝国で絶大な地位を誇る皇太子という存在が、皇帝に最も近い立場であることも。
それでも、言うべきことは言わなければならない。
「皇太子殿下、たとえどれほど偉大な方であっても……人を無理やり連れてきて奴隷のように扱うのは許されません。それは本当に悪行中の悪行だと分かっていますか!」
もし姉のキャロラインが横にいたら、「本気で死にたいの?」と叫んでいただろう。
しかしラシードは、キーアンの首を即座に切り落とすことも、無礼な発言をした咎で罰することもせず、代わりに冷静な声で答えた。
「何か大きな誤解があるようだ。私はシアナを無理やり連れてきたわけではない。彼女が皇宮の侍女になることを望んだから、その願いを聞いただけだ。」
通常、このような場面では、ラシードは自分に歯向かう者を無視するか、追い出すか、場合によっては殺してしまう。
だが、このように言い訳めいた弁明をするのは極めて珍しいことだった。
しばらくしてラシードは、なぜ自分がこんな愚かなことを言っているのかに気づいた。
『私はシアナに対して間違ったことをしていない。』
彼が言いたかったのは、それだけのことだった。
しかしキーアンがそんなふうに素直に頭を下げるわけがなかった。
彼は冷ややかな表情で話した。
「はぁ。誰が自分の国を滅ぼし、家族を殺した者にそんなお願いをしたがるでしょうか。」
「……。」
「公主様はただ生きるために何でもおっしゃっただけです。自分の命を奪った殺人鬼に死にたくはないからです。」
「……!」
キーアンはラシードの紫がかった瞳がわずかに震えるのを見逃さなかった。
彼はさらに毅然とした視線を彼に投げつけた。
「もしここで平凡な侍女が必要なら、ミスティック商団から適当な者を送らせます。もし公主様のように価値のある存在が必要なら、それ相応の代価をいくらでも支払いますから。それで……。」
そこで言葉を切ったキーアンはラシードを鋭く見据えた。
「シアナ公主様をこんな窮屈な場所から解放してください。あの方は本来、宮殿で優雅に暮らすべき方であって、こんな粗末な扱いを受けるような方ではありません。」
ラシードの美しい顔立ちは、氷のように冷たい表情で固まっていた。
キーアンが去ってしばらく経った後も、ラシードは謁見室に座り続けていた。
一人で座っていたラシードがぽつりと呟いた。
「よりによって、あんな生意気なことを言った者を厳重に守って送り出すとはな。」
普段のラシードであれば、絶対に考えられないことであった。
しかし、今回はそうせざるを得なかった。
「[公主様はただ生きるために何でも言われたのです。私の命を奪った殺人者に殺されたくなかったのです。]」
その言葉が胸に刺さり、体が動けなくなったのはそのためだ。
ラシードは本来、他人の感情に全く関心を持たない性格だった。
誰かが自分を非難しようが、自分を見て助けを求めて震えようが、いつも無視していた。
『しかし……』
今は違った。
シアナが自分に対してどんな感情を抱いているのかを考えると、血が逆流するような気分になった。
それは彼女に対する罪の意識のせいだ。
彼女の故郷を侵略し、彼女の家族を皆殺しにした罪。
しかしラシードは、それを一時的に忘れていた。
シアナが無心に自分の故郷について何も語らないのを見ていると、彼は彼女の内面に隠された感情を探ろうとしている自分に気づいた。
彼女が関心を持たないと言いながら、無関心であるべきだと淡々と微笑んだ。
しかし、その瞬間、恐れがふっと心に広がった。
『その言葉は本当なのか?』
シアナが必然的に嘘をつく必要があったのではないか?
どうにかして自分に合わせるために。自分に殺されたくないから。
ラシードは冷徹な結論に至った。
『シアナは実際、私を憎んでいるのかもしれない。』
ラシードの顔が青ざめた。
崩れた表情で座っていたラシードが体を起こしたのは、暗い夜が訪れたころだった。
ラシードは寝室のドアを開けた。
「ぎゃ!」
「ピシッ!」
暗闇の中で、白いフェレットとタラムネズミがラシードを見上げていた。
小さな動物たちの温かい体温を感じた後、ぐったりとしていたラシードの顔に微かな微笑みが浮かんだ。
しかし、その直後、ラシードの目が大きく見開かれた。
小さな動物たち三匹のうち一匹が見当たらなかったからだ。
「ジャックジャック?」
ラシードは驚いた顔で、いつもジャックジャックが休んでいた鳥かごを見つめた。
ジャックジャックがいつ出て行き、いつ戻ってきたのか分からないほど、鳥かごの扉は常に開けっぱなしにされていた。
『ここにもいないとすれば、一体どこへ……。』
広い部屋をあちこち探していたラシードの視線が、ある一点で止まった。
それは、片側が開いたままの窓だった。
ラシードの寝室にはいくつかの窓があり、そのうちの一つは常にそうやって開けられていた。
小さな動物たちが望めば、いつでも部屋を自由に出入りできるようにするためだった。
ラシードはゆっくりとした足取りで窓の方へ歩いていった。
開いた窓の外には、夜空の星々以外に何も見えなかった。
それでも、ラシードにはわかっていた。
『ジャックが去って行ったんだな。』
寂しい気持ちが押し寄せてきたが、全く驚くことではなかった。
こうしたことは一度や二度ではなかったからだ。
ラシードは森の中や街路、皇宮の庭など、様々な場所で小さな動物たちを拾い集めてきた。
その後、手ずから餌を与え、体を洗い、遊んでやった。
小さな動物たちは、いつしかラシードの懐にすっかり慣れ、甘えてくるようになった。
しかし、その時間は永遠ではなかった。
どれだけラシードの懐が心地よかったとしても、小さな動物たちはいつか必ず彼のもとを去っていった。
ラシードはそれを理解していた。
『どれだけ良くしてやったとしても、こんな場所に留まり続けるなんてあり得ないだろう。』
それを分かっていたラシードは、小さな動物を決して自分の元に留めておこうとはしなかった。
閉ざされた宮殿よりも、広がる青空と緑の草原に囲まれた場所の方が、彼らにとってはるかに幸せだと分かっていたからだ。
ある時、ソルとの会話が頭をよぎった。
ソルはラシードに尋ねた。
「シアナが宮殿を出たがっているなら、どうすればいいのか」と。
その質問にラシードはこう答えた。
『シアナが宮殿の外へ出たいと願うなら、そうさせてやるべきだ。』
その時を思い出したラシードの口元が少し上がった。
わずかな微笑だった。
ルビー宮。
庭園を整えていたニニが言った。
「薔薇の宴会の後、皇太子殿下がいらっしゃらなくなりましたね?」
ナナが頷いた。
「そうね。それまではアリス姫に許可をいただいても、しつこく訪れていたというのに。」
ニニとナナは同時に一か所を見つめた。
つば広の麦わら帽子をかぶり、優雅な所作のシアナに向かって、二人は「ふふっ」と含み笑いを浮かべながら尋ねた。
「シアナ様、もしかして薔薇の宴会の際に皇太子殿下と何かあったのではないですか?」
庭の薔薇の花束を整理していたシアナが、落ち着いた声で答えた。
「何もありませんでした。」
しかし、ニニとナナはその言葉を信じることができなかった。
「ええ~、シアナ様があんなに美しい姿に変身して現れたのに、何もなかったなんて言うんですか?」
「皇太子殿下が男性なら、そんなことは絶対にありえませんよ。明らかに胸がドキドキして、筋肉が落ち着かなかったはずです。」
「それで、殿下は最近ルビー宮に来られないんじゃないですか?」
「シアナ様に会うのが恥ずかしいから!」
楽しそうな表情でお互いに言葉を交わすニニとナナとは対照的に、シアナの顔は平然としていた。
ロマンス小説好きの二人のピンク色の空想とは違い、ラシードとシアナの間には本当に何も起こらなかったからだ。
だからこそ、より不思議だった。
『突然こんなに訪問が減るなんて、一体何が起こったのだろう。』
シアナは目を細めた。
数日後、シアナは皇太子宮を訪れた。
馴染みの侍女がシアナを迎えた。
侍女はシアナを青い木々と花々で飾られた応接室に案内した。
「皇太子殿下にお伝えいたします。どうぞごゆっくりお待ちくださいませ。」
相変わらず中級侍女とはいえ、彼女の態度は少々堅苦しい印象を受けた。
『それでも何度か顔を合わせたというのに、相変わらずぎこちなさは抜けないのね。』
シアナは以前よりリラックスした表情で椅子に腰を下ろした。
『そういえば、こうして殿下を訪ねるのは初めてのことね。』
シアナがラシードを訪れるときは、いつも確実な理由があった。
彼に何かを頼むときや、受けた助けに対する答礼のためだった。
しかし、今日は単純にラシードの安否が心配で訪ねてきたのだ。
そこまで考えると、自然と顔が熱くなった。
『私もか…。』
照れくさそうに顔を手で覆っていたところ、近くで足音が聞こえてきた。
シアナは目を向けて声の方を見た。
しかし、青い木々の間から現れたのはラシードではなく、近衛騎士ソルだった。
「……?」
不思議そうな顔で彼を見つめるシアナに、ソルは頭を下げた。
「お久しぶりです、シアナ様。」
ラシードがルビー宮に来なくなって以来、ソルも姿を見せなかったため、
薔薇の花宴以来、二人が会うのは今日が初めてだった。
シアナは軽く頭を下げながら尋ねた。
「殿下にお会いしたくて来ました。ですが、ソルさんだけがいらっしゃるなんて……。もしかして殿下はどこかでご休息されているのでしょうか?」
「いえ、そのようなことはありません。」
「そうですか?」
ソルは視線を下げながら答えた。
「……実は少し前に、殿下が飼っていた鳥がいなくなってしまったのです。そのため、殿下はとても気を落としていらっしゃいます。」
ソルの言葉にシアナの表情が曇った。
シアナは、以前ラシードの周りを飛び回っていた小さな鳥を思い浮かべた。
その鳥を愛おしそうに見ていたラシードの顔も。
『人が亡くなっても表情一つ変えない方なのに、動物に対しては誰よりも真剣で熱心な方だもの。どれほど心を痛めているのかしら。』
シアナはソルに向かって口を開いた。
「私がその鳥を探しましょうか?」
「え?」
「皇宮は広いですから、まだ宮殿のどこかにいるかもしれませんよ。宮殿にいる侍女たちにその鳥の外見や特徴を伝えれば、目撃者が現れるかもしれません。」
目を大きく見開いたソルを見ながら、シアナが言葉を続けた。
「そうだ、それから鳥が好きなものも教えてください。ニニとナナは鷹匠の娘なので、動物を捕まえるのが得意なんです。この二人の助けを借りれば、鳥を傷つけずに捕まえることができるでしょう。」
ソルはぼんやりとシアナを見つめた。
目を輝かせて話すシアナの姿を見ていると、彼女が動けば家出した鳥が自分から戻ってくるような気さえした。
それほど彼女の行動力は際立っていた。
落ち着きを取り戻したソルは、静かに口を開いた。
「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。殿下がお飼いになっていた動物は、どんなことがあっても必ず自分で戻ってくるはずですから。」
「……。」
「ご心配なく。時間が経てばきっと元通りになりますよ。」
「本当ですか?」
心配そうな顔を浮かべるシアナに対し、ソルは自信なさげに答えた。
「いいえ。」
「……。」
二人の間にしばし静寂が訪れた。
シアナは一瞬でソルが何か秘密を隠していることを察した。
シアナは目を細めて見つめた。
その小さなシアナの鋭い視線に、ソルは気づかぬうちに目を逸らしたが、長く持たなかった。
ソルは困惑した表情で口を開いた。
「間違いありません。」
「話してください。」
「少し前、ミスティック商団のキールアンという男が殿下を訪ねてきました。」
「……!」
思いもよらぬ名前にシアナの目が見開かれた。
ソルは話を続けた。
「彼が殿下にシアナ様を手放してほしいと伝えたようです。滅びた国とはいえ、こんな場所に公女様を置いておけるわけがないと言われたそうです。」
シアナはその瞬間、三つの考えが頭をよぎった。
一つ目は、キールアンへの失望。
『キールアン、私の言葉を無視して勝手に私について調べたのね。』
二つ目は、キールアンへの心配。
『どれだけ私のためだとしても、そんなことを殿下に伝えるなんて正気なの? もし大きな罰を受けたらどうするの?』
そして三つ目は……ラシードの返答に関する疑問だった。
「それで、殿下は何とお答えになったの?」
シアナが問いかけると、ソルは言葉を濁しながら答えた。
「……殿下もシアナ様を送り出すべきだとお考えのようです。」
どうしてだろう。
あれほど確固たる考えに基づいて決定したと思われる判断に、これほどまでに苛立ちを覚えるのは。
シアナは口を開いた。
「殿下に会いたいです。今すぐ。」
丁重な声の中には、どこか冷たく張り詰めた感情が滲んでおり、ソルは無意識に息を飲んだ。







