こんにちは、ピッコです。
「邪魔者に転生してしまいました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

36話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- やきもち
「え、エドウィン……?」
私はエドウィンの登場にただ戸惑うばかりだった。
『先に帰ったんじゃなかったの?』
さっきあんなにさっといなくなったから、先に家に帰ったのだと思った。
あるいは友達に挨拶に行ったとか。
「………」
私をじっと見つめていたエドウィンは、静かに目を伏せた。
イスマイルと握っているその手。
視線がそこに止まった瞬間、エドウィンの顔がほんの少し痛ましげにゆがんだ。
『……っ!』
悪いことは何もしていないのに、彼からにじみ出る鋭い気配を感じ、胸がひやりとした。
なぜかかすかな罪悪感で彼を見つめていたとき――
「……来い。」
彼は静かにイスマイルと視線を交わし、まるで命令のように言った。
私とイスマイルは言葉を失い、険しい顔で互いを見つめ合った。
「その手、離せよ。この野郎が……」
すると、エドウィンは拳をぎゅっと握り、じわじわと近づいてきた。
その恐ろしい殺気に、私は思わず驚いてイスマイルと握っていた手を引いた。
そして慌ててエドウィンの前に立ちはだかった。
「な、なんでよ、エドウィン! 私の友達だよ!」
「友達?」
エドウィンは立ち止まり、後退した。
私はその隙を逃さず、イスマイルに向かって慌てて叫んだ。
「お、お兄ちゃん! あとで私から連絡するから! 早く行って!」
「……」
突然怒られたイスマイルは困惑した表情を浮かべた。
言いながら、私もなんだか妙な気分になった。
この状況、絶対………何か不適切な現場だと思われてもおかしくない……
「もう、早く行ってってば?!」
そして急いでイスマイルを見送った。
彼は少し不満そうに見えたが、幸い黙ってその場を離れた。
「ふぅ……」
「友達?」
安堵のため息をついていたところ、エドウィンがさっきと同じような鋭い視線で振り返ってきた。
「お前、友達いないじゃん。」
「い、いるって!」
私は慌ててしどろもどろに答えた。
「いるよ! 今日できたてホヤホヤの友達!」
「いつできた?」
「えっ……?」
「いつ友達になったの? ずっと見てたけど、あんなヤツと話してるとこなんて見なかったよ。」
私は口をぽかんと開けたまま、言葉を失っていた。
『ずっと見てたって? どこで……?』
エドウィンとの会話はまるで迷宮に迷い込んだように感じた。
私は彼の視線を見つめながら、曇った水面のような目をじっと見つめた。
「さっき、トイレに行く途中に……」
すると彼は鼻で笑って、つぶやくように言った。
「いいな。友達が多くて。」
そしてさっきのように突然くるりと背を向け、素早く遠ざかっていった。
『友達はあっちのほうが多いくせに……』
私には遊ぼうと誘ってくる友達なんていなかったのに。
楽しく遊んできておいて、どうして私に八つ当たりするのか分からなかった。
唇を尖らせてぶつぶつ言いながらも、不本意ながら先に歩き出した彼が、ふと立ち止まった。
そして後ろを振り返って苛立ったように叫んだ。
「早く来ないのか?!」
「行け、行け!」
なんて言葉だろう。
私を置いていこうとする彼の姿に、私は戸惑うのをやめ、急いで彼の後を追った。
怒りをぷんぷん漂わせていたエドウィンは建物の外に出ると、豪華な宮廷馬車が待っていた。
私は周囲をきょろきょろしながら、気まずい空気を和らげようと先に口を開いた。
「……おじいちゃんは?」
「先に行ったよ。」
でも失敗だった。
呆然とした顔のままのエドウィンは私のことを完全に無視して、馬車に先に乗り込んだ。
「ふう……」
私は気まずくなって、すぐに口をつぐみながらあとに続いた。
エドウィンがなぜあれほど怒っているのかはわからなかった。
でも理由が私にあることはわかっていた。
私はエドウィンの隣に座るとすぐに口を開いた。
「ごめんね、エドウィン。」
私をまるでいないかのように窓の外だけ見つめていたエドウィンが、私の言葉にふっとこちらを見た。
「……何?」
「ごめん。私が悪かった。」
私の言葉に彼は顔をしかめた。
「……君が何を悪くしたっていうんだ?」
「ただ、全部……。」
正直に言って、何が悪かったのか自分でもよくわからなかった。
ただ謝ってしまえば、彼が視線を外した。
「悪いこともしてないのに無理やり謝るのが癖だなんて、直したほうがいいよ。」
「じゃあ、ベルチェにはなんであんなに怒ったの?」
「怒ってない。」
「怒ってたよ。」
「怒ってないって言っただろ?」
「怒ってたじゃない!」
「はあ……。」
短い沈黙の後、彼はめんどくさそうな顔で深いため息をついた。
「はいはい、怒ったよ。これでいい?」
「……エドウィン。」
「わかったらもう口を閉じて行けよ。」
ようやく彼が怒ったことを認めた。
しかしその態度が、むしろ私を傷つけた。
ディアナを押しのけて成長した瞬間でさえ流さなかった涙が、一瞬でポロポロと溢れ出た。
「もう……私のこと、嫌いになったの?」
私は震える声で尋ねた。
原因を探して迷っていた思考が、そこにたどり着いた。
『私、うとましくなったんだ……』
久しぶりに貴族の友人たちと会ったことで、平民である私に情が冷めたのかもしれない。
あるいは、ディアナとの癒しの力の差を感じて、新たな人生を始めようと思ったのかもしれない……あるいは。
孤児院の院長や子供たちさえ裏切ってしまう自分が、奇妙で後ろめたく感じたのかもしれない。
自責の念が絶え間なく私を蝕んだ。
「別に?公爵家からいなくなればいいのに。」
私の涙に、エドウィンの目が大きく見開かれた。
「君、なんてことを……」
「じゃあそうだってことにして!」
私は叫んだ。
「私は嫌なのに、ずっとずっとくっついてるなんて、うっ……。」
「……。」
「そんなの、絶対にやらないから!」
身分すら知らない卑しい平民、カリオスの寄生虫、聖女に嫉妬して追い出され、公爵家の信頼を失った魔女。
私はもう二度と、そうなりたくなかった。
そうなる前に、タイミングを見て去るか、死ぬかを考えていた。
『だから、そんなに面倒でつまらないなら、いっそ別れようって言って。』
去れと言われたら、いつだって出ていく覚悟はあった。
私は真っ赤になった顔を隠したくて、両手で顔を覆いながらわっと泣き出した。
「はあ……」
エドウィンのため息が聞こえた。
まるでため息混じりにぼやくようで、さらに悲しみが込み上げた。
そのときだった。
バサバサという音とともに、隣のクッションが沈む気配がした。
同時に誰かの腕の中に体がふわりと包まれた。
『あれ……?』
私は泣くのをやめ、少し戸惑った。
「……ごめん、ベルゼ。」
「……」
「僕が悪かった、泣かないで。」
「……」
「もう二度としないよ。うん?」
頭の上から優しい声が降り注いだ。
春風がふっと吹き抜けるように、体のどこかがくすぐったくなる気分だった。
明らかに深く傷ついていたはずなのに、エドウィンの一言の謝罪で一気に心が和らいだ。
けれど、私はなぜか少し恥ずかしく、気まずくて、手のひらに顔を埋めたまま、さらに下を向いてしまった。
「ヤキモチ焼いたからなんだ。」
エドウィンはそんな私をそのまま抱きしめながら、落ち着いた声で言った。
『ヤキモチ……?』
思いもよらぬ言葉に、滲み出ていた涙が一気に引っ込んだ。
「君、あの子に“お兄ちゃん”って呼んでたじゃないか。」
「……」
「“お兄ちゃん”って呼んで、手まで握ってたじゃないか。僕、あんな言葉を軽々しく使うなって言ったよね。」
「お兄ちゃんの何がいけないのよ!」
私も思わず声を荒げて反論する。
その瞬間、鼻先にいた金色の瞳と視線がぶつかった。
無表情に私を見つめていたエドウィンが、呆れたような目つきで私をにらんだ。
「……鼻水。」
「ヒック!くしゅんっ……!」
「ここでかんで。」
エドウィンは、私が鼻水を吸い込む前に素早くポケットからハンカチを取り出し、私の鼻に当ててくれた。
「くしゅん!」
私は彼の合図に従って思いきり鼻をかんだ。
そのせいで体液まみれになったハンカチを、彼から2枚もらう羽目になった。
鼻をすっきりとかんだ私は、目を伏せてぼんやりと涙ぐんだまま呆然としていた。
「お兄ちゃんの何がいけないのよ……」
「お前のことを好きなんだって、間違って思うようなバカもいるかもしれないだろ。」
彼は苛立たしそうに眉間にしわを寄せながら言った。
私はエドウィンがなぜ怒っているのか、どう関係があるのかまったく理解できなかった。
「そうかもね。」
息苦しさに耐えかねてそう返すと、彼はあっさりと鼻をすすった。
「そうだ、お前の言う通りだ。勘違いするかもしれない。」
「うん。」
「そして、勘違いして痛い目に遭うかもしれないし、何だってあり得る。」
「そうよ!」
投げやりにうなずきながら言い返した私は、ふと顔を上げて見た。
「……え?」
「なに?」
エドウィンが不思議そうな顔で私と目を合わせた。
『さっきちょっと変なことを言われた気がする……』
気まずさを感じていると、彼が私を抱きしめていた腕をほどき、手を伸ばしてまだ潤んでいる目元を拭ってくれた。
「目が赤くなってるよ。」
「ひん。」
優しいぬくもりに、私はかえって恥ずかしくなってしまった。
「ファン・テジャとはどういう関係なの?」
唇を尖らせていると、エドウィンが尋ねた。
「知らない人だけど……?」
「じゃあ、なんであいつが君に万病万能薬を100個も買ってくれるんだ?さっきトロフィーもらったとき、君の耳元で何か囁いてただろ。」
「……」
「それに。」
「……」
「知らない人なのに、どうして表彰の場でその男の名前が出てきたの?」
彼のぶつけるような、ブドウのように酸っぱい言葉に、私はふと口を開いた。
『そ、それ全部見てたってこと……?』
その時ようやく、エドウィンがなぜ怒っていたのかがわかった。
「そして、私たちベルジェ商団の最優秀顧客様!カリオス公爵様、クラウド大夫人、そして……あ、あ……!」
「ファン・テジャ様!この栄光を捧げます! 以上です!」
『まさか……スピーチで自分の名前を言わなかったから……?!』
今日裸足で駆けつけて私を助けてくれた彼が、大きな誤解と失望を抱いたに違いない。
逆の立場で、もしエドウィンが、私ではない知らない女性――特にディアナ――の名前を挙げていたとしたら、私も大変傷ついていたに違いない。
『そんなつもりじゃなかったのに……』
私はエドウィンに急に申し訳なくなった。
罪悪感でどうしていいか分からずにいる私の姿を、誤解したのか、エドウィンが苛立ったように言った。
「なんで何も言わないんだ?あいつが何か言ったのか?」
「べ、別に何も!そ、その……よく効く万能痛み止めってだけ。」
正直に言うわけにもいかず、私は曖昧に答えてそっぽを向いた。
すると彼のこわばっていた表情が少し和らいだ。
私はその隙を逃さず、顔を向けた。
「ねえ、エドウィン。実はね、ファン・テジャ様には何も感謝してないんだよ!」
「え?」
私の言葉に、エドウィンは困惑したように眉をひそめた。
「じゃあ、どうしてスピーチで言ったの?」
「だって、みんな私の万能痛み止めがどれだけすごいか知ってるじゃない!」
「……はぁ。つまり、その一言のために名前を出したのか?」
さすが、賢いエドウィンらしくすぐに私の言葉を理解してくれた。
私はついでに、彼のすねた気持ちをしっかり解いてあげることにした。
「うん! 公爵様、大夫人様、ファン・テジャ様! みんなそのレベルよ!ベルチェの上顧客たち!」
「………」
「あなたは違うけどね!」
『公爵様、ごめんなさい。』
私は心の中で公爵に謝った。
でも、すっかり拗ねてしまったあなたの息子をなだめるには仕方がありませんよ。
「ふぅ……」
エドウィンは深いため息と共に片手で私の顔を覆う。
なぜかその指の隙間から見える彼の顔が真っ赤だった。
しばらく何も言わなかった彼が、そっと手を下ろした。
『まだ耳まで赤いけど……』
イチゴのように赤くなった彼の耳をぼんやり眺めていると、彼がぶっきらぼうに言った。
「その男たちの前で、笑うなよ。」
「えっ、笑ってないけど……」
「“お兄ちゃん”って呼ぶのも禁止。」
「じゃあ何て呼べばいいの?」
次々と増える禁止事項に私は不満げに頬を膨らませた。
「私より年上の子たちみんなに“おい”って呼ぶわけにもいかないでしょ!それでベルチェに殴られたらどうするの?」
「誰が君を殴るって?」
私の言葉にエドウィンは目を細めた。そしてやや冷たい声で続けた。
「……ジョシュアみたいに“お姉さん”って呼べば?」
「………」
『それはないでしょ。』
私は呆れて思わず吹き出した。
『“お兄さんってそんなに嫌なのね。』
—これにより、新たな情報が追加された。
-「お兄さん」という呼び名には強烈な拒否反応あり。
だが、難しいことでもなかった。
エドウィンがこれほど嫌がるのなら、私も無理に好んで呼ぶような愛称ではなかった。
「……わかった。」
おとなしくバックルを締め直すと、エドウィンの表情は先ほどよりずっと穏やかになった。
ドン!
たまたま石にでも乗り上げたのか、車が大きく揺れた。
「うわっ……!」
私より背が高く重いエドウィンはびくともしなかったが、私は無防備に揺られた。
「こっちに来い。」
私を慌てて抱きとめたエドウィンは、揺れが止まった瞬間、私を抱き上げて自分の膝の上に乗せた。
「ひゃっ!」
私は驚いて真っ青になった。
『これ、ちょっと違うんじゃない?』
同じ子どもなのに、抱きしめられて座るなんて!
彼の膝の上から降りたくなったが、また車が大きく揺れた。
エドウィンが私を膝の上にしっかりと乗せたまま、ぎゅっと抱きしめた。
すると不思議なことに、体がまったくぐらつかなかった。
心臓がドキドキしていた。
たった4歳差なのに、エドウィンは何もかも私より大きかった。
手も、肩も、腕も、脚も…… 力もはるかに強かった。
私は耐えられず、体をもぞもぞ動かした。
「ねえ、もう降ろしてよ……!」
「じっとしてて。重いから。」
「ひゃっ!」
その言葉に私はショックを受けて固まってしまった。
『ジョシュアにもよくやってあげてることだよ!私だけにやってるわけじゃない、本当だよ!』
私は心の中で必死に言い訳をして、つぶれそうな息を飲み込んだ。
幸い向かいにいるのは見知らぬ人で、恥ずかしさはすぐに引いた。
元々エドウィンが座っていた反対側の席を見ながら、私は続く言葉を我慢できず口を開いた。
「……いるじゃん。」
「……」
「エドウィンもそうなの?」
「何が。」
頭の奥で鈍い響きがした。
その鮮烈な感覚に息をひそめていた私は、思い切って聞いてみた。
「私が……エドウィンのこと好きかと思って、“お兄ちゃん”って呼ばないように言ったの?」
「違う。」
返事はすぐに返ってきた。
「僕が君にとって違う意味であってほしいから。」
「それってどういう意味?」
よくわからないその言葉に私はごくりと喉を鳴らしながら聞き返そうとした。
しかし、もぞもぞと動く私の身体にも、エドウィンは膝の上に置いた手をぴくりとも動かさなかった。
「もう!どいてよ!」
「知りたきゃ、早く大きくなれ。」
結局、身じろぎすらできなくさせた彼が、私をしっかり抱きしめながら、ため息のように重くつぶやいた。
『ちっ。私はもう全部知ってたよ。』
こぼれそうになった愚痴をぐっと飲み込んだ。
エドウィンは当然、私が幼いからその言葉の意味を理解できないと思っているようだったが、私が聞きたかったのはそんな意味ではなかった。
『ここから先にどれほどの意味があればいいんだろう……』
私にとって彼という存在がどれほど特別な意味を持つかを知ったら、むしろぎょっとするだろう。
それだけのことだった。
驚き、気まずがり、少し避けられても御の字だ。
私のせいで死んだ君を放っておけなくて。
帰還後も君にまたまっすぐに向かってきたと言ったら、君は果たして何と言うだろう。
『君が私の心臓のような存在だって言ったら。』
私はふとした気持ちで寂しそうに笑いながら、窓を見つめた。
そんな日は結局来ないだろう。
これ以上、欲をかかないと決めたのだから。
私にできるのは、エドウィンが差し出してくれた言葉のぬくもりに身を寄せて、この今を感謝することだけ。
そうして私は彼の胸に身を預けたまま、静かに目を閉じた。










