メイドになったお姫様

メイドになったお姫様【117話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【メイドになったお姫様】まとめ こんにちは、ピッコです。 「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となって...

 




 

117話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 賢者ラクタ②

公明正大さと真実を求めるオロー神の神殿。

静謐でありながらも厳粛さを感じさせる白い神殿は、人々で溢れ返っていた。

皇太子ラシードとベロニカ公女の醜聞が、どのような結末を迎えるのか見届けようと集まった人々だ。

人々は小声で囁き合う。

「こんな上等な見世物が見られるなんて運が良い。」

大勢の人々が押し寄せることを予期したオロー神殿は、神殿に参席できる人数を制限した。

この騒動の主役であるラシードとベロニカ、そして両者の家族の席は設けられなかった。

そして残された席は――驚くべきことに信者を募って抽選で選ばせたのだ。

一部の貴族たちは「皇族と大貴族が関わる事件なのに、どうしてそんな粗末な方法で参席者を決めるのか」と不満を漏らしたが。

――【公明正大なる神オルオの御心に従うのが、最も公平なやり方です】

今、神殿に集まっているのは、そうして選ばれた公正さを重んじる人々だった。

人々の表情は緊張に固く引き締まっていた。

「果たしてラクター様は、今日どんな裁きを下されるのだろうか?」

「言うまでもないさ。もちろんベロニカ公女様の味方をするに決まっている。」

大半の世論は、ベロニカ側に傾いていた。

もっとも、ごく稀にラシードを支持する声もあったが。

「殿下がどれほど冷酷で、血も涙もない方か知っているだろう。あのお方は人間の女を抱くくらいなら、むしろ死を選ぶような方ではないか?」

そうした意見も少なからずあったが、結局は全体の流れを変えるほどの力にはならなかった。

しばらくして、神殿の中がざわめき始めた。

醜聞の当事者である二人が姿を現したからだ。

人々の視線はまずラシードに注がれた。

「なんてこと……。」

凶悪だと囁かれてきた噂とは異なり、白い衣をまとったラシードの姿はあまりにも美しく、気高く見えた。

一生罪など考えたこともなく、ただ呼吸をしているだけで、女性たちの心を奪ってしまいそうなほどだった。

もちろん冷静さを保った者たちもいた。

「惑わされるな。あの顔で数多の戦場を血に染めた人物なのだから。」

元来ただの狂人よりも、そうは見えない狂人のほうがはるかに恐ろしいものだ。

どうにか正気を取り戻した人々は、ラシードの隣に立つ女性へと視線を移した。

ベロニカは普段着ている華美なドレスではなく、地味で質素な妊婦用のドレスに身を包んでいた。

まだ妊娠初期で腹はほとんど目立ってはいなかったが、それでも公爵家の令嬢が青ざめた顔で立っている姿は、見ている者の心をざわつかせた。

一時はラシードに傾きかけていた世論も、結局はベロニカに戻っていった。

――「あんなに若いお嬢様が、血統ある皇太子殿下の名を騙るはずがないじゃないか。」

――「そうとも。腹の子が本当に外に出てきたものでなければ、どうしてそんな狂ったことをするだろう。」

「……そう考えているのでしょう、イヴリン?」

皇后が口を開いた。

彼女は神殿の一角、幕に覆われた場所に座っていた。

人々の視線や関心から皇后を守るために特別に設けられた席だった。

その背後に控えていたイヴリンが、かすかに喉を鳴らした。

「そうでしょう。人は誰しも弱者に心を傾けるものですから。」

イヴリンの言葉に、皇后は微笑んだ。

この場には貴族も平民も入り混じっていた。

しかしその中で、帝国随一の名門であるアンゲルス公爵家の庶子よりも強い力を持つ者はいなかった。

それでも人々は、ベロニカ公女を弱者のように憐れんで見ていた。

(だが今でなければ、あの者たちが公爵家の娘に同情する日など来るはずがない。)

皇后はそんな人々を嘲笑うように、かすかな笑みを浮かべた。

皇后は言った。

「やはり驚くべきことね。ベロニカ公女の性格がどうであれ、まさかこのような大胆な策を弄するとは……。」

もちろん、ここ数か月にわたりラシードとベロニカの醜聞を煽り立てたのは皇后自身だった。

時折二人を会わせ、ベロニカをそそのかしてラシードの寝室に案内するよう仕向けていたのだ。

だが、ベロニカが妊娠したと言い出し、ラシードを縛りつけようとすることまでは、誰も予想していなかった。

イヴリンがかすれた声で応じた。

「それだけ、ベロニカ公女も必死だったのでしょう。アンゲルス公爵も同じです。」

ベロニカはラシードを手に入れたい一心で衝撃的な言葉を放ち、アンゲルス公爵は、母のいない娘を皇太子妃に押し込めようとして、その言葉を信じ込んだのだ。

もちろん、皇后にとってはすべて滑稽でしかなかった。

ベロニカの言葉が虚言であると知っていたからだ。

「ラシードは、自分の嫌う者と同じ空間で息をすることすら耐えられない性格です。ベロニカ公女がどんなことをしようと、彼はむしろ切り捨ててしまいたいと考えるでしょう。」

それでもなお、皇后はアンゲルス公爵がその虚言にすがるであろうことを理解していた。

結局、ベロニカの言葉を信じることにした。

それこそが皇后の望んでいたことだからだ。

「ベロニカ公女のおかげで、ラシードの婚事は思ったより早く進むでしょうね。」

――ただそれだけのこと。

ベロニカは皇后に弱みを握られたのだ。

腹の中の子が皇太子の子だなどと、大胆にも嘘をついたのだから……。

(もし私がそのことを突きつければ、彼女は震えながら抵抗すらできまい。)

ただでさえ扱いやすい娘が、さらに手駒として便利になったわけだ。

皇后にとっては得るものばかりの状況であった。

イヴリンが尋ねた。

「ですが、殿下とベロニカ公女が結婚したら、公女のお腹の子はどうなるのでしょうか。」

「もちろん、皇室の子として迎えるわ。」

皇后には、その汚れた血が皇族の血統に混じることなど、少しも気にかける気はなかった。

そうしてベロニカは、ラシードにとってますます無視できない存在、完璧な花嫁候補のように見えた。

もしベロニカが皇太子妃となり、子を産み、その子がやがて皇位を継ぐならば……尊き王室の血統は連綿と続いていく。

その未来を思い描いた皇后の唇がゆるやかに吊り上がった。

幸福そうな微笑みだった。

「だからこそ、ラクター様にこそ明確な裁きを下していただかねば……」

皇后は声を張った。

そして、幕の隙間から見える壇上に、一人の人物――現聖者ラクターが立っていた。

 



 

白く抜け落ちた髪、皺に覆われた顔、脂肪など一切なく乾ききった体。

ラクターはまるで、長い時を生き延びてきた枯れ木のような老人だった。

しかし、その瞳の輝きは子供のように澄んでいた。

それでいて到底測り知れないほど深みがあった。

厳かな雰囲気の中、会議場に座っている人々の顔に張りつめた緊張感が漂った。

ラクタが口を開いた。

「この場で真実を語る者には神の赦しが与えられるでしょう。だが虚偽を口にする者は、神の下した鉄槌を受けることになります。」

「……」

「まずは互いに異なる主張をしている者たちの言葉を聞いてみましょう。」

最初に口を開いたのはベロニカだった。

彼女は今にも泣き出しそうな、切なげな顔で両手を組み、祈るように語った。

「賢明なるラクタ様、どうかベロニカの言葉をお聞きくださいませ。私は豊かな南部で過ごしておりましたが、二ヶ月前に都へ参りました。皇后陛下を拝見しようと宮殿へ遊びに行った折、皇太子殿下と顔を合わせる機会が増え、そのたびに殿下の堂々とした、男らしいお姿に心を奪われてしまったのです。」

ベロニカの沈んだ瞳が、一瞬だけ温かさを帯びた。

まるでラシードと過ごした日々を思い出しているかのように。

ベロニカは口を開いた。

「満月が昇ったあの夜、殿下が私を抱きました。婚姻を結んだ仲ではなかったので、本来なら殿下の手を振り払うべきでした。ですが、そうすることはできなかったのです。すでに私の胸の中には殿下しかいませんでしたから。そして、私は殿下と忘れられない一夜を共に過ごしました。」

荒唐無稽な話に、人々は驚いた顔でざわめいたが、ベロニカを激しく非難する声はそれほど多くはなかった。

あまりにも率直に語るベロニカの姿が、老獪な貴族の女ではなく、ただ愛に溺れて過ちを犯してしまった幼い娘のように映ったからだ。

もちろん、ラシードにとっては全くの事実無根でしかなかった。

ラシードの目は冷酷そのものだった。

もし視線だけで人を殺せるなら、彼は間違いなくベロニカを即座に葬っていただろう。

互いに視線を合わせた瞬間、すぐにでも弾け飛びそうなほど。

しかしベロニカは、そんなラシードの視線の中でも怯むことなく話を続けた。

「ですがその日以来、殿下は私に冷たくなり始めました。殿下の突然の変化に戸惑う中、体に異変が現れたのです。」

月経が途絶え、内側がむかつき、食事をするたびに吐き気に襲われた。

ベロニカは両手で自らの腹をしっかりと抱きしめながら言った。

「このお腹には皇太子殿下のお子を宿しておりますの。」

その姿は痛々しいほど気高く、哀れみを誘った。

集まっていた人々は、婚前に子を宿してしまった哀れな令嬢にどう接してよいのかわからず、ただざわめくばかりだった。

だがラクタは、少しも動じない静かな顔で口を開いた。

「この争いの解決を委ねられた以上、ベロニカ公女にはオルオ神の使徒たちとともに三度の――アンゲルス公爵家の侍医による診察、皇太子殿下付きの侍医による診察、
そして最後にオロー神殿所属の医師による診察の結果……」

ラクターが言葉を続けた。

「ベロニカ公女が身ごもっているのは事実です。」

会議の場に集まった人々の顔は一斉にこわばり、ざわめきが走った。

もともと察してはいたことだが、ラクターの口から告げられたことで、「まさか」という最後の一縷の疑念さえも消え去ったからだ。

晴れやかな笑みを浮かべるベロニカを一瞥したラクターは、次にラシードへ視線を移した。

「殿下も、仰りたいことがあればどうぞ。」

言葉を促され、ラシードはしばし口を閉ざしていたが、やがて氷のように冷ややかな表情で口を開いた。

「ベロニカ公女が妊娠していることは事実だ。彼女とどうであれ、私とは何の関わりもありません。私は公女といかなる縁もなく、共に夜を過ごしたことも、親密に語り合ったことも一度もありません。」

氷のような表情には、ベロニカに対するわずかな情すら見えなかった。

だからこそ、人々の間でラシードへの疑念はさらに強まった。

――あまりにも冷徹で恐ろしい男だからこそ、たった一夜の情で女を抱いて捨てることぐらいはあるのではないか、と。

もちろん、その目をまともに合わせるのが怖く、ラシードの真意を確かめようとする者はいなかった。

しかし今回も例外はラクタであった。

ラクタはラシードをまっすぐ見据え、言葉を放った。

「まったく縁がないとおっしゃるのは無理があります、殿下。私の調べによれば、ここ二か月の間、殿下と公女が宮中でたびたび顔を合わせていたのは事実。宮中に仕える多くの者たちもそれを証言しております。」

「それは……」

皇后が「これは仕組まれたものだ」と言い出す前に、ラクターが言葉を継いだ。

「しかし、それだけでお二人が特別な仲であったと断じるのは無理があります。なぜなら、先ほど皇太子殿下がおっしゃった通り、殿下は公女様に対して非常に冷淡で、もし顔を合わせてもすぐに席を外されていたと聞いております。つまり殿下は、公女様と共にいることを少しも望んでいなかったのです。」

その言葉に、ラシードの目の冷たさがわずかに和らぎ、反対にベロニカは眉をひそめた。

ベロニカは悔しさを滲ませるように声を張り上げた。

「しかしラクター様、私が満月の夜に皇宮へ行ったのは事実です。もし皇宮の使用人たちを調べれば、その時に私を見た者が必ずいるはずです!」

「もちろんです。」

ラクターは即座に肯定した。

だが、実際には皇宮の使用人から証言を得るのは容易ではなかった。

彼らは口が重く、少しでも誤ったことを言えば身の破滅につながるからだ。

彼らは重い罰を受けるのを恐れて慎重だった。

だが問いかけたのがオルオ神を祀るラクタであったため、多くの者が誠実に答えた。

こうしてラクタは、満月の夜に皇太子宮で起こった事件の一部を聞き取ることができた。

「その夜、ベロニカ公女が皇太子宮を出るのを見た者がいます。」

ベロニカの顔が一気に蒼白になった。

「ご覧なさい、私の言った通りです。真夜中に男女が同じ部屋にいれば、一体何をしていたと思います?」

卑しい想像を掻き立てる言葉に、ラシードは激しく問い詰めた。

「ラクタ殿、その夜、公女は私が宮を留守にしていた隙に無断で部屋に入り、勝手に腰を下ろしていただけです。それを見た私は即座に公女を追い出しました。そのことも調べれば明らかになるでしょう。」

驚いたことに、ラクターはすでにその件についても調査を終えていた。

「確かに。皇太子殿下が部屋に戻られた後、そう時間を置かずにベロニカ公女が部屋を出て行かれたそうです。男女の深い関係が成立するにはあまりにも短すぎる時間でした。」

不利な状況に気づいたベロニカは、慌てて声を張り上げた。

「それは誰が言ったのか知りませんが、嘘です!あの夜、殿下と私は口づけを交わし、愛を語らい、深く結ばれたのです。間違いありません!」

ベロニカはラクターではなく、後方に座る人々へ視線を向けた。

彼女は理解していた。

ラクターはどうであれ、会場にいる一部の人間が自分の味方であることを。

そして、ベロニカはそれを利用することに決めた。

「お願いです、もうこれ以上私を責め立てないでください。私の心労のせいで、このお腹の子に何かあっては困ります……」

[……ラシードがどう釈明しようと、私の子を宿したと主張する公女をそのままにはできない。]

数日前にベロニカを呼び出した皇后が言った言葉だった。

両手で顔を覆ったベロニカの唇が、わずかに吊り上がった。

『私、うまくやっているでしょう?皇后陛下?』

会場の様子を見守っていた皇后が満足そうに目を細めた。

「ええ、とても上手にやっているわ、ベロニカ公女。他のことは多少頼りなくても、演技だけは最高ね。」

流れは完全にベロニカの側へ傾いた。

これでラクタがどう判断しようとも、ラシードの言葉は世論に大きな影響を与えられない。

皇后が望んでいた状況に、彼女の赤い唇が弧を描いた瞬間だった。

「公女様のお言葉はすべて嘘です!」

「……?!」

神殿に響き渡った澄んだ声に、ベロニカも皇后も表情を固めた。

ざわめいていた人々も声を止め、その声の主を見つめた。

人々の間から立ち上がったのは、皇宮の侍女の証である深緑の制服を着た、控えめな若い女性だった。

『シアナ?!』

予想外の登場に、ラシードの目が大きく見開かれる。

人々の視線が集まる中、シアナは口を開いた。

「ラクター様、私は皇太子殿下にお仕えする侍女、シアナと申します。公女様が嘘を口にし、殿下を困惑させているのをこれ以上見過ごせず、勇気を出して参りました。どうか私の言葉をお聞きください。」

衝撃に顔をこわばらせたベロニカは、怒りに震える声で叫んだ。

「一介の侍女ふぜいが何を出しゃばってるのよ?!」

そんなベロニカにラクタが口を開いた。

「公女殿下、この場はオロオ神と多くの人々が見守る場です。それを承知の上で名と顔を明かして出てきたのなら、必ずや確信があるはず。話を伺う必要がありましょう。」

「しかし……」

ベロニカはそれ以上何も言えなかった。

ラクタの厳しい眼差しのためだった。

ラクタは再びシアナに視線を向けた。

シアナは軽く礼をしてラクタに感謝を示し、口を開いた。

「ベロニカ公女殿下が殿下と深い仲であることが事実であれば、公女殿下は私の問いに答えられるはずです。」

シアナは一呼吸おいて言葉を続けた。

「皇太子殿下のお体には、桜の花びらのような痣がございます。衣を脱いだ身体を見たなら、決して見過ごせないほど目立つ痣ゆえ、一夜を共にしたのであれば必ずご存知のはずです。」

「……!」

思いがけない侍女の言葉は、あまりにも衝撃的だった。

神殿の中にいたすべての者の顔が真っ赤に染まるほど。

遠くにいたラシードでさえ、言葉を失った表情でその方向を見つめていた。

その張りつめた空気の中で、ただ一人ラクターの瞳だけが輝いた。

ラクターは、この問いこそが膠着した状況を打開する鍵になると判断したのだ。

ラクターはベロニカを見据え、問いかけた。

「ベロニカ公女様、お答えください。殿下のお体のどこかに痕がございましたか?」

「そ、それは……」

元来ベロニカは頭の切れる方ではなかった。

これまで雰囲気を支配できていたのも、父である公爵と皇后の後押しがあったからにすぎない。

だが、まったく予想もしなかった事態が起こった今、彼女にはどう対応すべきか皆目見当がつかなかった。

ベロニカは必死に考えた。

『ひと目で分かる痣と言った?』

ならば足や腕ではなく、体のどこかにあるのだろう。

ベロニカは身を恥じらうように覆い隠しながら答えを絞り出した。

「え、ええ……こちらに痣がございました。」

どうにか繕った答えだったが、ラクタは納得していないように眉をひそめた。

「もっと正確にお答えください。」

「そ、その……実はあの夜はあまりに気が動転していて、はっきりとは覚えていません。ただ、確かに目立つ痣を見たのです。本当です!」

その瞬間、シアナの口元にわずかな笑みが浮かんだ。

シアナはゆっくりと目を開き、冷然と言い放った。

「公女殿下はやはり卑劣な嘘つきです。」

「な、なんですって?!」

目を見開き、シアナを睨みつけるベロニカ。

それは、黙って立っていたラシードが「私の侍女の言葉を証明しよう」と告げ、そのまま自ら衣の留め具をひとつひとつ外し始めたからだ。

人々は口を開けたまま、あまりに衝撃的な光景に言葉を失った。

ベロニカの背後で歯ぎしりをしていたアンゲルス公爵夫妻も、幕の後ろで鋭い表情を浮かべていた皇后も、言葉を失った。

それほどまでに衝撃的な場面だった。

人々の目の前で衣を脱ぐ皇太子だなんて――。

だがさらに驚くべきは、その大胆な行為にもかかわらず、皇太子としての威厳が一片たりとも損なわれていなかったことだ。

むしろ、それは荘厳な儀式の一部であるかのように、人々には神聖にすら映った。

ラシードがすべての留め具を外し終えたそのとき、シアナが静かに歩み寄った。

ラシードは目を大きく見開いたが、すぐに伏し目がちに視線を落とした。

ベロニカは複雑な顔をしながらシアナに身を預けた。

シアナは迷いのない手つきでラシードのシャツを脱がせるのを手伝った。

やがてラシードの体が露わになった。

長い年月、戦場を駆け抜けてきたことを証明するように、鍛え上げられた筋肉質の体。

だが、驚くべきことに痣などはどこにも見当たらなかった。

ベロニカは狼狽し、口ごもりながら言い訳を並べ立てた。

「そ、先ほどはあまりに慌てていて、記憶が曖昧だっただけですわ。他の場所に痣があるのです。ええ、た、例えば脚のほうに……」

ラシードはふっと、皮肉を含んだ笑みを浮かべた。

「ここで私にズボンまで脱げと言うのか?それは困るな。」

「……!」

「だが、ラクタ様が真実を確かめるために必要と仰るなら、脱いでも構わぬ。」

その言葉に、ラクターは初めて動揺の色を見せた。

「そこまでなさらずとも結構です。」

短くラシードを制したラクターは、続けて言った。

「皇太子殿下のお姿を拝見した限り、殿下のお体に乱れや傷跡などはございませんでしたね?」

その言葉に、ラシードとシアナは同時に息を呑んだ。

その瞬間になってようやく、ベロニカは自分が完全に欺かれていたことを悟った。

青ざめたベロニカの耳元に、ラクターの低い声が響いた。

「そもそもこの件は、いかなる方法でも確実に証明することのできないものでした。それでも私が仲裁を試みたのは、帝国で最も大きな力を持つ皇室とアンゲルス公爵家の間に深刻な対立が生じることを恐れたからです。しかし私が耳にした話は――」

ラクタの視線がベロニカへと向けられた。

「ベロニカ公女様のお言葉は主張こそはっきりしておられますが、それを裏づけるだけの確かな証拠は見当たりません。ましてやオルオ神殿で虚偽を口にされたことは、大きな過ちです。」

「ら、ラクタ様、それは……」

ベロニカが涙声になったが、ラクタは気に留めずラシードに視線を移した。

上半身をさらし、腕を組んで堂々と立つラシードを見据えながらラクタは言った。

「お二人が本当に特別な関係なのかは断言できません。ですが、皇太子殿下のお言葉は証言と事実が一致しています。私は殿下のお言葉の方に、より信頼を寄せます。」

もちろんラクタの言葉に法的な効力や絶対的な権威があるわけではなかった。

ただ、彼女は生涯をかけて書を読み、人々に奉仕してきた一人の人間の考えを述べただけだった。

それでも「賢者」と呼ばれ、尊敬を集めてきたラクタの判断は、それだけで重みを持つものだった。

その言葉には凄まじい力がこもっていた。

少なくとも、人々はもはや以前のようにベロニカの言葉を鵜呑みにすることはないだろう。

それを悟ったベロニカは、ついにその場に崩れ落ち、子どものように泣きじゃくった。

「違うの、違うのよ……!私のお腹の子の父親は、殿下に決まっているの……!」

泣き叫ぶベロニカの前に、シアナが静かに歩み出た。

涙に濡れたベロニカを優しく見つめながら、シアナは囁くように言った。

「公女様、ご心配なさらないで。」

「……?!」

「お腹に宿したその子の父親が誰であろうと、必ず私が突き止めて差し上げますから。」

「……!」

ベロニカの瞳が大きく見開かれた。

シアナはさらに一歩近づき、いっそう柔らかな声で続けた。

「たとえあの方が遥か遠くへ去っていたとしても、あるいはすでに命を絶たれ黄泉路を歩んでいたとしても、必ず見つけ出して連れてまいります。その後は二度と虚言を吐けぬよう、世に広くその方の名を知らしめましょう。」

どれほど鈍感なベロニカでも、その言葉が自分を思いやるふりをした明白な脅迫であることはわかった。

顔から血の気が引いたベロニカは、シアナを見つめながら震える声を出した。

「な、何よ?一体何なの?ただの一介の侍女が事情も知らずに首を突っ込んで、台無しにしてるんじゃないでしょうね!」

シアナはベロニカの耳元でささやいた。

「言うべきことは正しく言わなきゃ。でたらめを口にしたのは私じゃなくて、あなたでしょう?」

「……!」

ベロニカは目を固く閉じたが、もはや言い返す言葉を見つけられなかった。

シアナを見下ろす彼女の視線は、鋭く冷ややかだった。

伏し目がちな穏やかな眼差しの奥に、なぜこれほどの強さが宿っているのか、不思議でならなかった。

だが、それだけでは終わらなかった。

シアナの隣に歩み寄ったラシードの言葉は、さらに容赦なかった。

「皇族を愚弄する罪は重い。その子が無事に世に生まれて来られるよう、祈ることだな、公女。」

ベロニカは二人を交互に見つめながら、震える手で腹を押さえた。

まるで糸が切れたかのように、遅れて押し寄せる恐怖の波に呑み込まれていく。

 



 

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