こんにちは、ピッコです。
「邪魔者に転生してしまいました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

46話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 疑惑③
「言いなさい。“もう二度としません!”と」
「もう一度!」
「イスマイルをいじめません!」
「イスマイルをいじめません!」
「イスマイル、ごめんね! 許して!」
「イスマイル、ごめん! 許してよ!」
「復唱3回、実行!」
「もう二度と!イスマイルをいじめません! イスマイル、ごめん! 許して!」
ひざまずいた子の両隣で、両手を上げていた子たちも私の号令に合わせて3回ずつ繰り返した。
「……」
イスマイルはそんな彼らを見つめながら、どこか微妙な表情でうなずいた。
大体納得したようだ。
実際、鼻血をずるずる流しながらうずくまっていた子と、今にも泣きそうな2人の前に立ち続けているのもつらいだろう。
もちろん、望めばもっとやってやることもできるが……。
とはいえ、イスマイルはこの状況にどこか落ち着かない様子だった。
幼いモンテニュース三世は、まだ心が柔らかいようだった。
『あんなにひどくいじめられたのに、不思議だな。半分死ぬくらいやり返しても気が済むと思ってたのに……』
胸が詰まりながらも、こみ上げる感情を堪えている自分に、ふと目の前で平然としていた前世のイスマイルを思い出すと、信じがたいほど対照的だった。
それだけではなかった。
新しく任命された若い教皇が、ユダリだけには容赦なく冷酷だという評判も鮮明に思い出された。
南主の慈悲や配慮が、なぜかユダリには一切働かないという法則を知らなかったときの話だ。
『幼いころにあまりにも慈悲をもらえなかったから、大人になってああも冷酷になったのかな?』
もやもやとした気持ちでイスマイルと三人の子を見つめていた私は、ついに一歩を踏み出した。
「ねえ。」
その言葉に、三人の子の顔に一斉に緊張と恐怖が走った。
「静かにして。今日のことをどこかで喋ったら……コムコムドリが目を覚まして、本当にドカンと行くからね!」
私は腕に抱いていたクマの人形を上にバッと掲げて見せた。
当然、子どもたちは震え上がった。
「ひっ!」
「ひえぇっ!」
「拷問モード、見せてもいいの?いいのよね?」
私の脅しに、子どもたちはまるで発狂したように首を縦に振った。
「う、うん!わかった!いや、はい!」
「絶対、絶対に言いません!」
何度も念を押して確認した私は、満足げな表情を浮かべて立ち上がった。
「じゃあ、あの子が起きるまで隣に座って見張ってなさい。静かにね。」
「は、はい!」
「行こう、イスマイル!」
すっかり大人しくなった子たちを残して、私は背を向けた。
正直、泣きじゃくるその子たちのせいでうんざりしていて、これ以上一緒にいたくなかったのだ。
ところが、ふと足元を見ると、地面にいくつかの潰れた箱が落ちていた。
今日私が持ってきたデザートの箱だった。
イスマイルの分はもちろん、他の子たちの分まで奪い取ったのか、全部で6つの箱が無造作に地面に転がっていた。
『はぁ……』
私はため息をついて、その前にしゃがみ込んだ。
すでに食べ終わって空になった箱もあったが、まだ包装すら開けられていないものもあった。
「……?」
綺麗なままの箱を2つ大切に拾い上げると、後ろからついてきたイスマイルが不思議そうな目で私を見つめた。
それをなぜ拾うのか、という目だった。
「うちの厨房のおじさんが、私のために作ってくれたんだよ。」
一度くらい元気出せと、心を込めて作ってくれたデザートなのに……。
それがあんな最低なやつらの手に渡って、人をいじめる道具に使われたかと思うと、汚れた床に転がってるのも見ていられなかった。
「チッ……あいつらにはもうおやつも無し。全部あげないから!」
「ひぃっ!」
イラッとして振り返ろうとしたら、さっきまで腕を下げていた子たちが、青ざめた顔で慌てて手を挙げ直した。
そんな私を、イスマイルは黙って見守っていたが、やがて近づいてきて、私が持っていた箱を取り上げた。
コムコムドリのせいで手が塞がっていて片手で必死に持っていたものだったので、助かった。
私たちはようやくその臭くて湿っぽい場所から脱出した。
裏口から戻ると、静かな食堂が私たちを迎えた。
中からかすかに話し声が聞こえるところを見ると、皆が私が持ってきたデザートを食べながらおしゃべりしているようだ。
「こっち来て。」
私はイスマイルを連れて裏口のすぐ近くにある[本棚ルーム]へ入った。
幸いにも図書館は空っぽだった。
誰もいないことを確認した私は、ドアから少し離れた粗末な机の前に腰を下ろした。
イスマイルはぽかんとした様子で私のあとについてきて、反対側に立った。
「座って。」
私がそう命じると、彼はようやく手にしていたデザートの箱を机の上にそっと置いた。
私は平然と2つの箱のうちの1つの包装を開けた。
幸い中身は崩れておらず、きれいだった。
「ほら、食べて。」
私は開けた箱をイスマイルの前に差し出しながら言った。
あんなひどい奴らにいじめられていたせいで、きっと一口も食べていなかっただろうと思って。
「……はぁ。」
けれど、そんな私の行動に対してイスマイルは、どこか困ったような顔をしていた。
まるで「君と一緒に食べるなんて…」と言いたげに。
「なんで?美味しいのに。」
私は手を伸ばしてクマ型クッキーを一つ取った。
ガブッと一口。
そして何でもないように噛んで見せた。
毒も入ってないし、汚いものでもないってことを示すためだった。
しかしイスマイルはクッキーをじっと見ながら、私にしかめっ面を見せるだけで、結局口にはしなかった。
代わりに周囲を注意深く見回してから、私に小声でささやいた。
「……どうすればいいの?」
突然のその言葉に一瞬止まった私は、すぐに口元をほころばせて笑った。
「何が?」
「トミのこと。先生たちにチクるとか言ってたけど、どうすればいい?」
「だから口止めしたじゃん。」
「じゃあ、トミは?」
私が知らないと思ったのか、イスマイルは慌てたように聞き返してきた。
「鼻血を垂らして気絶したやつ。」
「ああ……」
つまり、あいつは口止めされていなかったということだ。
ただ気絶していただけで、目覚めればすべての状況を覚えているだろう。
私は少し考えた末に、イスマイルに言った。
「うーん……君、記憶消せない?少しぐらい操作できるでしょ?」
「はっ! 僕が何かの魔法使いに見えるの?それに、操作してもせいぜい一時間くらいが限界だよ。」
イスマイルは不満そうに言い返した。
(能力はあるのに、持久力が全然ダメね。)
まだ子どもだから仕方ないのかもしれない。
私はまたクッキーを一口食べた。
するとイスマイルが深くため息をついた。
「……トミって貴族の私生児だって言ってたじゃん。きっとグラッセ家の人間が探しに来るよ。」
「孤児院に捨てたのに、なんで探しに来るの?」
「捨てたんじゃなくて、事情があって一時的に預けただけみたい。思ったより頻繁に訪ねてきてるみたいだし、別で支援もしてるっぽい。」
「支援……?」
支援してるってことは、神殿にそれなりのお金を渡してるってことだ。
孤児院に置き去りにして支援するなんて、なんとも妙な話だった。
けれど、だからといって私は全く驚いたり怯えたりしなかった。
私は冷静に返した。
「大丈夫。私の支援者はカリオト公爵様だから。」
つまり私はそれに勝てるってこと。
イスマイルは、そんな私の自信満々な発言にも寂しげな顔で凍りついた。
「当然、お前は大丈夫だろうけど。」
「……」
「でもさ、ここでずっと生きていかなきゃいけないのは、僕なんだよね?」
「うん……」
「だからって、じっと我慢してるだけじゃないんだ。」
彼は、見捨てられなかった貴族の私生児に向かって反抗すればさらに大きな報復を受けるのではないかと怖れているようだった。
だが、それよりも私は、彼が言ったもう一言にさらに驚かされた。
「ここでずっと暮らすだなんて……」
「私が、方法を探してみる。」
「少しでも早く抜け出す方法を……」
以前、確かに私はここから脱出させる方法を見つけてみると言った。
けれど、イスマイルはそれを全く気にも留めていない様子だった。
一縷の望みすら持たない彼の姿に胸の奥がひんやりと冷たくなった。
さらに、まともな方法を見つけてもいないくせに一方的に熱く語っていた自分が恥ずかしくなった。
彼は「方法を探す」という私の言葉にまったく耳を貸そうとしなかった。
「じゃあ……」
しばし考えた末、私はより現実的な妥協案を提示した。
「またあの悪いやつにいじめられたら手紙を書いて。私がまた来てゴムボールでボコボコにしてあげる!」
「……え?」
「そうだよ、私はカリオトだから大丈夫なんだもん!」
「はあ。君って本当に……」
彼は言葉を詰まらせたような顔で私に応じた。
痛々しいその目がかすかに揺れた。
しばらく私を不可思議な目で見ていたイスマイルは、やがて視線を落とした。
私の腕の中のクマの人形を見つめる彼の表情には、少しばかりの寂しさがにじんでいた。
「でも、それって……本当に悪霊が憑いてたってことじゃないよね?」
「うん! 精霊が憑いてたの。」
「どこの誰の精霊がそんなに狂ってるんだよ……」
しばらく呆然としていたイスマイルは、ふと話題を変えた。
「それより、君はどうしてここに来たの?」
「うん。図書館で調べたいことがあって。それに、君に会いたかったんだ!」
「何を調べるの?」
疑わしそうなイスマイルを見つめながら、私はしばらく言葉を失った。
もちろん彼は将来、身を捧げて素晴らしい教皇になるだろうが、今はまだただの子どもにすぎない。
それに、将来ヒロインを愛するであろう男性にこの奇妙な“紫の光”のことを話してもよいのか判断がつかなかった。
『でもまあ、いいか。どうせディアナが奇妙な光で治癒したとは言わないだろうし。』
考えがまとまらず、私は慎重に尋ねた。
「もしかして……“紫の光”について知ってる?」
「紫の光? 何の紫の光?」
「ううん。神殿では紫の光なんて使わないでしょ。」
イスマイルの質問に私はしばし固まってしまった。
そして思い返してみると、子どもたちのために可愛く装飾された孤児院の紫色のものの中に、それらしきものはなかった。
妙にざらつくような違和感に、私は言葉を失った。
「聖典の勉強してないの?」
イスマイルが呆れたように言った。
「……それって、悪魔を崇拝する異教徒たちを意味する色じゃないか。」
「い、異教徒?」
私は思わずイスマイルを見つめた。
紫色にそんな意味があるなんて、初耳だった。
「そ、それってどこに書いてあるの?」
「第15聖典に。」
「1、15聖典?」
「うん。悪魔を崇拝する異教徒は紫の黒魔法を使うって書いてあるよ。ああ、君はまだそこまで進んでないのか。」
「うーん……」
イスマイルの説明に、私は気まずそうに笑った。
『第5聖典にもようやく手をつけたくらいなのに、第15聖典なんて……』
読んでいるわけがない。
最初から神官になる目的でなければ、そこまでして聖典を勉強する理由がない。
チャキ教皇感は何か違うという曖昧な感傷に浸る暇もなく、私は冷たく凍りついた。
『じゃあ……ディアナが黒魔法を使ってるってこと?』
でも、それもおかしい。
ディアナはたった5歳だった。
5歳の子がどこで黒魔法を習って使えるというのか?
『それとも、私みたいに転生者?』
十分にあり得る話だった。
この前スローピーカンパイを食べてアレルギーを発症したディアナは、本当に普通じゃない、正気じゃないようだった。
これまで私は幼い子どもだと無視してきたけど、普通5歳の子どもがするような行動では全くなかった。
『もしディアナも転生者だとしたら、あの子が逆行の奇跡を起こしたってこと?』
これもあり得る推測だ。
原作でも、前世でもディアナは結局聖女になった。
でも、そうだったとしても疑問は残る。
『なぜ?』
最後には悪女を退けて聖女になったヒロインに、時間を戻すほどの理由があったということか?
『エドウィンが死んだから?皇太子が独身だから?』
有力な男性主人公候補のうちの一人を愛したヒロインが心を痛めて時間を戻したというのが自然な流れだった。
それでもやはり納得はいかなかった。
『じゃあ最初に、皇太子やエドウィンがその地位になるまで、なぜ何もしなかったの?』
馬鹿げた話に聞こえるかもしれないが、私は皇宮の監獄に閉じ込められた公爵が消息を絶ったという話を聞いたときでも、エドウィンが黙っているとは到底思えなかった。
婚約の話が出ていたからこそ、ディアナがきっと彼を助けようとしたのだと考えたからだ。
だが――
……泣かないで、ベルジェ
君がそんなに泣いたら…… どうすればいいか分からないよ
エドウィンはついに死んだ。
そして、帰還してすぐに彼に再会した途端、涙を流した私とは違い、ディアナは……。
ディアナは少しも動揺する様子を見せなかった。
公爵邸でエドウィンと一緒に会ったときも、奉仕活動の日に皇太子を初めて目撃したときも。
私は今でもエドウィンに会うたびに胸が締め付けられたし、今この瞬間が夢ではないかと疑ったりもした。
でも、二人のうち誰かを愛して時間を戻して帰還したという話なら、それは……
『そんな顔をするはずがないじゃないか。』
何も知らないという、あの無垢で無邪気な顔をするはずがない。
「……ジェ?」
「………」
「……ベルジェ!」
深い思考に沈んでいた私は、名前を呼ぶ声にハッと我に返った。
「……うん?」
「なんでそんな顔してるの?」
イスマイルが驚いた目で私を見つめていた。
「どこかで紫の光を使う黒魔術師でも見たの?」
その問いかけに私は言葉を失った。
同時に、私を無理やり癒そうとしたディアナの姿がよみがえった。
はっきりと見た、彼女の手先から放たれた紫の癒しの光。
それだけではない。
トンケスキ、第2皇子、ローガン――彼らの身体から見えた紫の光が脳裏をよぎった。
「……本当に見たの?」
イスマイルは突然口数が減った私の様子をおかしいと思ったのか、ひどく慌て始めた。
私は慌てて否定した。
「ち、違う!見てないよ。」
まだ何も明らかになっていない状況で、軽々しく口にできることではなかった。
『……一瞬見間違えたのかもしれない。』
私は不安で揺れる気持ちを無理やり押さえつけた。
イスマイルは「なら、そうだね」とでも言いたげな表情を浮かべた。
「そんな邪悪な異教徒たちは、聖殿と一緒にすべて消えたって。」
「うーん、グルナ……。」
ぼんやりとした記憶をたどっていたところ、イスマイルは急に声を低くして素早く付け加えた。
「今はそんな黒魔術師みたいなことを言ってる場合じゃないよ。」
「いや、でもちょうど君に手紙を書こうとしてたところだったんだ。ちょうどよかったよ。」
「え? 手紙って何の……」
「君も知ってるだろ? ダンケスキ大神官が捕まって、悔い改めの部屋も消えたこと。」
唐突な言葉に私は目をぱちくりさせながらも、素直にスプーンをかき回した。
「うん、知ってる。」
私が原因で起こった出来事だったので知らないはずがない。
私の返事にイスマイルの表情が一層暗くなった。
「でもまだ神殿では能力を持つ子どもたちを連れて行ってるんだ。少なくとも二人は連れて行かれたよ。」
「えっ!?」
思いがけない知らせに私は驚いて呆然とした。
「どうして、なんで?」
「それは分からない。」
イスマイルは肩をすくめたが、続けて言わなくても、二人ともその理由はわかっていた。
『子供たちの能力を奪おうとしている連中が、神殿にまだいるってことだ。』
トンケスキ一人の犯行ではなかったことは予想していた。
しかし首謀者と思われる人物はすでに始末されたものと考えていた。
なのに、こんなにも早く再び動くとは。
私は深刻な表情で独り言のように呟いた。
「……トンケスキみたいな悪いやつらが、まだ残ってるってこと?」
「トンケスキ?ああ、ダンケスキ。」
イスマイルは戸惑いながらも考え込んだ。
「わからない。でも、今回来た元長官もなんだか変なんだ。笑った顔がちょっと……」
そのときだった。
ごん、ごん、ごん。
ぼんやりと遠くから聞こえてくる不気味な足音に、私は思わずイスマイルの腕をとっさにつかんだ。
「シッ。」
静かに、という目配せをすると、イスマイルはすぐに口をつぐんだ。
彼の目は不安に揺れていた。










