こんにちは、ピッコです。
「邪魔者に転生してしまいました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

47話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 疑惑④
トン、トン。
その足音が次第に私たちがいる図書館の方へ近づいてきて、ついに——ギイィ——図書館の扉が開き、細身の人影が現れた。
「……あ?ベルチェ、ここにいたんだな?」
噂をすれば影と言うように現れたその人物は、扉を開けて入ってきたマグヌス大神官だった。
高院の新しい院長として赴任した若い男性だ。
「図書館で物音がしたって聞いたから、誰かと思って来たんだ。」
彼の視線が自然に私の横に移った。
「探していた友達って……イスマイルだったのか?」
「……はい。」
私は突然の彼の登場に少し緊張した。
『まさか、あの追いかけてきた連中が告げ口したんじゃ……?』
まさかそんなはずないと思いながらも、後ろめたさがあったせいか、気持ちが落ち着かなかった。
「ここで二人だけのお茶会中だったんだな。もしかして邪魔してしまった?」
マグヌスがにっこり笑って尋ねた。
『ふぅ。』
幸いにも子どもたちを殴っていたところを見られたわけではなかったようだ。
私は胸をなで下ろしながらも、冷静を装い無表情で答えた。
「いえ! 院長様もご一緒にいかがですか?」
「そう?」
予想外の提案にもかかわらず、院長はためらわなかった。
図書館の扉を閉めた彼は、まるで待っていたかのように、私たちが座っているところまで足取り軽く近づいてきた。
トントン。
イスマイルが驚いた表情で私を見つめ、急いで机の下で私の足を蹴ってきた。
しかし、どのみち避けられないことだった。
マグヌス代信官がどんな人物なのかということだ。
『もしも、ドンケスキの後継者のようなやつだったら……』
それなら最悪だった。
前に見たとき、彼はドンケスキとは違い、教皇からの信任までも受けているようだった。
そんな人物が孤児院を直接任されたとなれば、イスマイルが隠している能力などすぐに見抜かれただろうし、さらに進んで、私やカリオスにとっても良いことは何一つなかった。
「失礼します。」
子どもたちのおもちゃのようなテーブルにもかかわらず、きちんと挨拶をして、彼は私の正面に座った。
その直後、イスマイルがパッと立ち上がり、私の隣に席を移した。
その行動は、先ほど新任院長が「変わり者」と言っていたのと一致していた。
「イスマイルは恥ずかしがり屋なんですね。」
マグヌスはそんなイスマイルを見て、不快感を見せることもなく、むしろ穏やかな笑みを浮かべた。
『……思ったより手強いかもしれない。』
子どもだからと侮って、軽く扱おうとする大人たちより、そうやって徹底的に仮面をかぶっている人間の方が、むしろ恐ろしいものだ。
席につき、テーブルの上をすっと撫でたマグヌスが口を開いた。
「改めてお礼を言うよ、ベルジェ。おかげで子どもたちが今日はおいしいデザートをたくさん食べられて、喜んでいたよ。」
「えへへ。」
「ちょうど先日の聖女訪問の後、また会いたいと思っていたのに、こんなふうに再会できるとはね。神様もベルジェを可愛がっているのかも?」
「ありがとうございます!」
褒められた言葉に、私はただ穏やかに笑った。
「……ところで。」
私とイスマイルを優しい目で見つめていたマグヌスが、ふと口を開いて尋ねてきた。
「君たち二人、もしかして……さっき何か話してなかったかい?」
「え?何のこと……」
「二人の声が聞こえたような気がして。聞き間違いだったかな?」
マグヌスは口元に微笑を浮かべたまま、じっと僕たちを見つめた。
イスマイルがわずかに体をこわばらせた。
私もまた、冷たい汗がつうっと流れ落ちるのを感じた。
だけど、今ではこんな程度の取り調べくらい、うまく切り抜けられるようになった。
そういう意味では、この子どもの体はかなり優秀な仮面になってくれていた。
「はい!こんなふうにしてました!」
「……」
「お兄ちゃん、手!」
膝の上でぎゅっと握っていたイスマイルの手を、私は強引に引きはがした。
そしてその手のひらに、文字を書くふりをして合図を送った。
――合図、終了。
「……!」
私の言いたいことを理解したのか、イスマイルが揺れる瞳で私を見つめた。
マグヌスは当然、私の手の文字を読み取れなかった。
「……でも、イスマイルが話すはずがないし。」
彼はすんなりと疑念を取り下げて、髪をかきあげた。
「聞き間違いだったみたいだ。」
私は握っていたイスマイルの手をそっと離した。
汗でしっとりと濡れたその手は、彼がどれほど緊張していたのかを物語っていた。
マグヌスは落ち着いた声で続けた。
「……それにしても、ベルゼは本当に思いやりがあるな。イスマイルがちょっと不便なところがあるんだけど、それを気にせずにこんなに素敵にやり取りできる方法を見つけたとは。」
「えへへ。お兄ちゃんが教えてくれたんです!」
「二人は、もともと仲が良かったのか?」
「はい。神殿で一緒に暮らしていたので仲がいいんです!」
「そうだったのか。」
首をかしげていた彼はふと懐かしそうな表情で顔を曇らせた。
「君たちを見ていると昔のことを思い出すな。私も孤児院で育ったんだ。」
彼は優しいまなざしで図書館の中を一度見回した。
「ここで本当にたくさん本を読んだっけ……」
「院長さんも孤児だったんですか?」
「そうだよ。」
その答えに、私は少し気持ちが高ぶった。
『ロゴンに続いて、今度はマグヌス代信官までもが。』
一日の間に同じ孤児院出身の大人に二人も会うなんて、どれほどの確率なのだろう。
そんなとき、マグヌス代信官がふと笑みを浮かべて思い出したように言った。
「そういえば、公爵邸で同期の一人が働いているって話を聞いたけど、ベルゼ、君のことだったのか?」
「……」
「ロゴン、という名前だ。」
予想外の収穫だった。
ロゴンが神殿内の誰かと繋がっているのかを探ろうとして頭を悩ませていたのに……疑っていた人物が自分の口で話すとは。
「もしかしたら見かけたことがあるかもしれないな。聞いた話ではカリオス公爵の補佐官をしているそうだ。」
「やった!」
これ以上彼から得られる情報はなさそうだった。
私は自然に横を見ながら言った。
「イスマイル。」
「……」
「今。」
「今……?」
私のささやきに、マグヌスの顔にかすかな光が宿った。
イスマイルは戸惑った目で私と彼を交互に見たあと、何かを悟ったような表情を浮かべた。
「……大司祭マグヌス。」
子供のものとは思えないほど力強さを帯びた声が図書館内に重々しく響き渡った。
私の口をつぐんでいたイスマイルの声に、マグヌスが目を大きく見開いた。
「えっ、イスマイル?君が……」
しかしそれも束の間、パッ—!星のような彼の目から焦点が消えた。
人形のように空っぽの瞳孔を確認したイスマイルは、すぐに私を見てカッと怒った。
「やっ! そんなに無計画にやれって言ったらどうするの! 能力が通じなかったらどうするつもりだったの!」
「通じたじゃん……」
私はバツが悪くて小さく答えた。
するとイスマイルはさらに顔をしかめて言った。
「君、通じてなかったでしょ!」
「……」
「聖力のある人には通じないんじゃないかと思ったのに」
「分かってる、僕がどれだけ……!」
大声を出したイスマイルは、すぐに恥ずかしそうな顔で口を閉じた。
長い間あれこれと調べ続けてきた彼に対して、私は少し冷たすぎたかもしれないと思い直した。
「……ごめん」
私は素直に謝った。
前回バレルロッテの後輩には問題なく能力が通じたので、当然マグヌスを操るのも問題ないと思っていた。
けれどイスマイルの言う通り、能力が効かない場合もあるようだ。
「……でも、なんで僕には通じなかったんだろう?」
そのときは子どもたちにすごく怯えていた直後だったからかもしれない。
『もちろん今も特別変わったことはないけど……』
私はぶつぶつ文句を言うイスマイルを見つめながら、少し笑って言った。
「私にも今、使ってみて」
「一度に一人にしか使えないんだ」
「ケチだな」
私の言葉にイスマイルがあきれた顔でこちらを振り返った。
「お前みたいに考えなしに生きてるやつには通じないんだよ」
「なんで私が考えなしなの?ちゃんと考えて動いてるんだよ!」
「もういいよ。それで何させるつもりなの?」
カッとなって反論する私を無視して、イスマイルは冷静に尋ねてきた。
私はしばらく考えてから答えた。
「うーん……外に出て誰も入ってこないように見張ってて」
マグヌスを操作しようとしたのは特に理由があったわけではなく、イスマイルにこっそり伝えたいことがあったからだ。
この意図を知らないイスマイルは不満げな顔をした。
「そんなことさせるために……」
「……」
「はあ……大神官マグヌス。外に出て誰も入ってこれないようにして」
それでも、言われたことは全部やってくれた。
イスマイルの命令にマグヌスはゆっくりと席を立った。
背を向けた彼はすぐに図書館の入り口へと歩いていき、ドアを開けて出て行った。
前にも見た光景だが、何度見ても不思議だった。マグヌスが消えた扉を見ている間に、イスマイルが淡々と言った。
「操作できる時間は最大で1時間だけだ」
それだけあれば十分だ。
私はすぐに机の引き出しから紙片を取り出した。
「院長がもうすぐ君に話があるって言ってくるはず。早ければ明日とか?」
イスマイルが困惑した顔で振り返った。
「……それ、どうしてお前が知ってるんだ?」
「今日、誰かを操作したでしょ」
どれだけ口止めしても、あの図々しいやつの口までは塞げなかった。
本来、孤児院の子供たちは問題を起こすと、院長と個別に面談するのが常だった。
前院長なら何とかして大事にせず済まそうとしたかもしれないが、マグヌスは就任して間もない状況。
男子寮にまで足を運ぶとなれば、状況把握に積極的に動くはずだ。
「そ、それは……!」
私の言葉にイスマイルの顔が一気に青ざめた。
「それ、お前がやったんだろ!」
「僕は工房にいたから呼べなかったんだ!」
「そ、それでも……だからって、なんでわざわざ巻き込むんだよ……!」
彼は悔しそうな表情でしょんぼりした。
だがすぐに落ち着きを取り戻した。
もしかしたら処罰されるかもしれない。
こうなることを恐れて、イスマイルは奴らの機嫌を損ねないように、ただ合わせていただけなのだと、私もよくわかっていた。
彼に申し訳ない気持ちはあったが、それでも後悔はしなかった。
たとえまた同じ状況になっても、私はあいつらをもう一度ぶちのめすだろう。
『そして次はもう少し容赦しないだろう。』
鼻血を流しながらうずくまるだけでは終わらない。
『何度も繰り返すうちに、あいつらのほうが先に疲れて離れていくんじゃないか?』
かなり暴力的な想像をしていると、しばらく口を閉ざしていたイスマイルがぽつりと口を開いた。
「……僕は殴られてもいいけど、君は?」
「え?」
「君、本当に大丈夫なの?」
思いがけない彼の言葉に私は目を見開いた。
「……あのぬいぐるみを人形として使ってたのがバレて困ってるんじゃないのかって。」
さっきまで悔しそうだったイスマイルが、いつの間にか私を心配そうに見つめていた。
その優しい目に、胸の奥の硬い何かがふっとほぐれた。
『……なんで、あんな目で僕を見てくるの?』
たとえその過程で彼を困らせることになったとしても、それはむしろ私の得だった。
それでも、なぜ彼が私を心配するのか理解できなかった。
すすり泣きながら助けを求めるイスマイルの顔の上に、かつて私に冷酷に圧をかけてきた前世の教皇の顔が重なった。
私は今でも、あの時のことを忘れられなかった。
新しい教皇がディアナを聖女に任命した直後、それがたちまち笑いものになった、あの惨めで、空虚だった瞬間を。
正直に言えば、イスマイルの能力を知ったあと、どうにかして自分の有利になるように利用できないかと考えなかったわけではない。
今イスマイルにやらせようとしていることも、結局はそういう思惑がある。
主人公候補と絡むのは少しためらわれたが、それでもディアナよりも先に彼に会えたのは幸運だと思った。
そのすべての裏に、前世のイスマイルに対する恨みや見返りを望む気持ちが混ざっていたことは否定し難かった。
『でも助けたんだから、それくらいは許されてもいいだろう。』
だが、何も知らないまま私を心配している澄んだ目を見ると、なぜか……
「私のせいで困ってるの?」
「……違う。」
慎重な表情で再び尋ねるイスマイルの様子に、私は遅れてゆっくりと首を振った。
「公爵様が危険なときに使えと渡してくださったものだよ。」
それに、公爵様はこのような危機的状況があったという話を聞けば、むしろよくやったと褒めてくださるだろうという強い確信があった。
だから私の心配は消えた。
「よかった。」
ようやくイスマイルは表情を和らげて少し笑った。
私は少しだけ心のどこかが重くなるのを感じながら、彼の目を避けて視線をそらした。
「……すごく怖いなら、公爵様にアイツが僕を殴ろうとしたって言うよ。」
「いいよ。もう気にしないで。」
「でも……」
「それで、僕が園長と面談したら?」
イスマイルがすぐに話題を戻した。
「次は何をすればいいの?」
やはり、彼はすでに第15警鐘を鳴らした後だった。
彼は鋭く、私が単に面談を予告しただけではないとすぐに見抜いた。
「その時にもう一度、園長室の警報を操作して。ロゴンに会おうという緊急メッセージを送れるように。その後は……」
私はそっと彼に計画を説明した。
「わかった。」
イスマイルは少し緊張した表情で短く答えた。
それでもこちらに対して何か見返りを求めるような取引条件などは言わなかった。
代わりに、ただ私の力不足を心配するように、私の能力の穴をぽつりと指摘しただけだった。
「でも君も知ってるだろうけど、持続時間は1時間だけなんだ。僕が操作できるのは一人だけで、その上、同じ人を繰り返してずっと操作することはできないんだ。」
前世での教皇の姿が思い浮かぶほど誠実な反応に、私はまたしても妙な気持ちに包まれた。
「……うん。ありがとう!」
ついに話を終えた私たちは一緒に図書館を出た。
イスマイルの指示どおり、マグヌスの代わりの補佐官が扉の前にどっしりと立っていた。
時間はあまり経っていなかったので、まだ複製は空いたままだった。
私はイスマイルの視線を追ってマグヌスの腰を軽く叩いた。
「園長様!ティーパーティー全部終わりましたよ!」
するとぼんやりしていた彼の瞳にすっと生気が戻ってきた。
「お、ああ……」
正気を取り戻した彼は、戸惑った目で周囲を見回した。
イスマイルによると、彼の能力を使われた対象は操作されている間の状況を記憶していないのだという。
私は呆然と立ち尽くしているマグヌスに、平然と尋ねた。
「どうなさったんですか?」
「いや……最近ちょっと疲れてたからかな、先生にぼんやりしてたみたいだ。」
図書館から出たことをまったく覚えていない彼は、困ったように笑った。
私は彼が気まずくならないように、さっと話題を変えた。
「もう帰らなきゃいけないみたいです!」
「そうか。早く案内してもらわないとな。」
彼は外出のときと同じように、すぐに補佐官を呼んで私を案内させた。
「お嬢様!楽しく遊んでこられましたか?」
孤児院の外に出るとすぐ、馬車の前で待っていたタラが私に笑顔で挨拶した。
後から出てきた補佐官と子どもたちに丁寧に挨拶をして、私はそのままイスマイルの前に立った。
「イスマイル、覚えてて。」
「……」
「どうにかして探してみせるって言ったこと、忘れないで。」
私は別れの挨拶の代わりに、ささやかな決意を口にした。
前回はただ軽く口にしただけだったが、今回は本気だった。
イスマイルの赤褐色の瞳が一瞬揺れた。
再び無言になった彼は、私の片手を取ってそっと持ち上げた。
そしてその手のひらに、何かを書いた。
―― タメ口はやめて。










