こんにちは、ピッコです。
「ヤンデレを演技していたら本物に執着されました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
60話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 錯綜する思惑
ハイルレン帝国の皇都。
マルトス公爵は、手にした古書『レマンの伝説譚』を激しい勢いでめくっていた。
「『レマンの伝説譚』第4章5節、8行目――」
彼の目は素早くその一節を追う。
かつてレクティスの挑戦者がドラゴンと遭遇し、本格的な試練が始まったとき、大地は激しく揺れて地形がねじ曲がり、レクティス全体が一つの有機体のように変貌を遂げたという。
「『そうなると、隠されていた鉱石が姿を現す……』」
マルトス公爵は最後の一文を低く読み上げた。
「『――それを神の鉱石と呼ぶ』」
ミスリル。
神が悪魔を打ち払うため、人間に授けたとされる伝説の鉱物。世界で最も強固な金属。
「はは……!」
公爵は歪んだ笑みを浮かべると、着ていた服の裾を掴むようにして、持っていた本を容赦なく投げ捨てた。
「バイウードから書信が届いていただと? もしや……あそこでミスリルが発見されたとでも言うのか!」
伝説など端から信じてはいない。しかし、『神の鉱石』という文句だけは本物だと確信していた。
バハルトはもともと鉱石資源が豊富な土地だ。本当にミスリルが眠っていたとしても何の不思議もない。
『世界で最も明るい鉱石は発光石、最も強い鉱石はミスリル』
思い返せば以前、マルトス公爵は皇帝に後頭部を殴られるような憂き目に遭っていた。
公爵家が独占していた発光石鉱山の所有権を、皇帝が巧妙な手口で奪い取り、一般の帝国民へ安価で開放したのだ。そのせいでマルトス家は甚大な損失を被っていた。
「はっ! 今度はあの親友までもが私をカモにしようというのか!」
このままでは、己の手にある権力さえ揺らぎかねない。
「ベレウェン……ベレウェン! まったく、胸糞悪い奴だ!」
彼の怒声に、側近が遠慮がちに口を挟んだ。
「ですが当主様、同じ公爵位とは申しましても、ベルトウェン公爵家は建国の功臣であり直系です。人々の評価もあちらの方が……」
「黙れ! 建国の功臣だと!? 貴様、この私に向かって何を見下した口を利いている!」
運良く公爵位を継いだ傍系の自分と、剣を崇拝する大陸の気風に乗って崇められる直系のベルトウェン。その差を突きつけられるたび、マルトス公爵の尊厳は激しく削り取られていた。
「あの若造め……何度も私の意見を黙殺しおって!」
激昂したマルトス公爵は、我を忘れて叫んだ。
「誰でもいい、外の者を呼べ! 今すぐバイウードへ向かうぞ! この目で確かめて、本当にミスリルがあるのなら――奪い取ってやる!」
投げ捨てられた本を拾い上げた部下を前に、公爵はギラついた目を光らせた。
「ハハ! だからあの皇太子に狂ったフリをしていたのか! バハルト皇太子に目くらましをし、バイウードを手に入れたというわけか!」
世間には「皇太子の親族が住む役立たずの土地を、皇帝への追従の褒美として貰い受けた」と見せかけていたベルトウェン公爵。だが、その裏にミスリルの存在があったとしたら――。
「そうだ、あり得るわけがない! たかが皇帝一人のために、あ奴が何の利もない領地を差し出されるはずがないのだ!」
書斎に響き渡る怒声はマルトス邸を揺らし、密かに潜んでいた者たちの耳にも届いていた。
ベルトウェン公爵の側近たちにも、すぐさま報せが走る。
「マルトス公爵がバイウードへ向かったそうだ。ベレウェン公爵様にあの地を奪われたことを相当根に持っているらしい」
「公爵様は現在狩りに出ておられ、連絡がつかない。まずはマルトス公爵がなぜそれほど荒れているのか、事の真相を調査しよう」
「ああ、北部に知らせを送り、バイウードの動きを探らせる」
こうして、ひとつの伝説の鉱石を巡る陰謀と利権の争いが、静かに、そして確実に燃え広がり始めていた。
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黒魔法使いバロンがやって来る時期が近づき、私は古い召喚石を取り替える準備を進めていた。
昨夜のうちに何らかの知らせを受け取ったのか、レシウスはすでに孤児院を立ち去り、皇宮へと戻っていた。
「うわぁぁん! お姉ちゃん、行かないで!」
「私たちを置いていかないでよぉ!」
孤児院の庭では、子供たちが私の服にしがみついて大泣きしていた。
腕にはナマケモノのように、脚にはコアラのようにぴったりと引っついて離れない。
「ちょっと、みんな重いってば! 誰かに見られたら、私が毎日あなたたちを虐待してると思われるでしょ! ほら離れて! 行くからって叩いたりしないから!」
私が叫ぶと、横からラテルが呆れたように子供たちを押し押しとなだめに入った。
「ああもう、忙しいんだから……お願いだから早く行って」
疲れ果てた私を、ラテルは半ば無理やり馬車へ押し込もうとする。
まったく、相変わらず薄情なんだから。私がどれだけこの子たちに愛されているか分かっていないのね。
「……これ」
ふと、ラテルが私の胸元に小さな巾着袋をぐいっと押し込んできた。
「……たいした額じゃないけど。あなたのせいで一ヶ月間、おやつの時間がなくなったんだからね。これ、子供たちのおやつ代だったんだから」
そう言いながら手渡してくる彼女の優しさに、胸がキュッとなる。
「子供たちも、自分のおやつはいらないから、あなたにあげてってさ」
照れくさそうに短い髪を掻くラテル。その髪はカツラだ。
かつての私と同じように、女性が一人で生きていくのが難しいこの世界で、彼女は少年の姿に変装して必死に生計を立てていた。
「ラテル」
彼女は、私がベレウェン公爵との話し合いを終え、公爵領へ向かうのだと思っている。だからここで別れることになっていた。
「あなた、後で騎士になりなさい。私が公爵領に行ったら、うまく話を通してあげるから」
ラテルは「何をバカなことを」と言いたげな目を向けた。
「……私には剣術の才能なんてない。ベレウェン公爵に剣を見せたときも、笑われたもの。本気でやったのに……」
落ち込む彼女の肩を、私はポンと強く叩いた。
「ラテル、私が認めるわ。あの公爵が笑ったのはね、あなたの才能があまりにも素晴らしくて、嬉しくなったからよ」
「……え?」
「私には分かるの。暗い夜空に輝く一番星みたいに、あなたの才能は眩しかった。あの時、あなたが並の剣を振るっていたなら、私は名前すら覚えていなかったでしょうね」
まっすぐに見つめ返すと、ラテルの瞳に小さく情熱の火が灯るのが見えた。
「その光を、絶対に消しちゃダメよ」
私は北部にむかう乗合馬車に乗り込み、窓から手を振った。
動き出す馬車の中で、私は思わず「ふふっ」と笑いを漏らした。
「何がそんなに嬉しいんですか?」と尋ねる同乗者に、私は深く頷いて答えた。
「ううん、素敵な後任をスカウトできた気がしてね」
ラテルはきっと騎士になる。あの瞳は、夢を諦めた人間の目ではなかったから。
才能を磨き、使い物になるまでには時間がかかるだろう。私の引退はもう少し先になりそうけれど……でも、ようやく希望の光が見えてきたのだ。
(これで、おばあちゃんになっても杖をつきながら国境警備をしなくて済むわ!)
晴れやかな気持ちのまま、私は目的地である廃屋の近くで馬車を降りた。
古びた廃屋の中では、黒魔法使いバロンが静かに私を待っていた。
いつものように手首を取って脈を測った彼は、重い口を開いた。
「……このままでは、公爵様は長く持ちません」
「……そうか」
「全身を巡る魔気の濃度が高まりすぎています。その影響で、公爵様かけられていた黒魔法が自然と解けてしまったのです」
やはりそうだったか。何もしなくても魔法が解けた理由は、私の身体が限界を迎えている証拠だったのだ。
黒魔法にさらされる時間が長くなればなるほど、肉体には耐性がつく。
だが耐性がつけば、さらに強力な黒魔法をかけなければならず、やがて肉体はその過酷な循環に耐えきれなくなる。
「このまま黒魔法を使い続ければ……数年以内に命を落とされるでしょう」
ソードマスターといえど、肉体の構造は人間だ。神ではない。
「時間の問題だった、というだけよ」
私は静かに袖をまくり、腕をバロンに差し出した。
生き延びるためにソードマスターにまで上り詰めた私だったが、死そのものが怖いわけではない。一度転生を経験している私にとって、死は次の場所へ赴く過程に過ぎなかった。
ただ――大切な人たちとの思い出が消えてしまうこと。
レシウスやロザリンと、二度と会えなくなってしまうことだけが、たまらなく怖かった。
「生命力をギリギリまで残して施術してください。周囲の魔力を吸収させて、少しでも時間を稼ぐの」
「公爵様……」
「時間を稼ぎさえすればいいの。この帝国を守り、あの子たちが脅かされないよう皇室を支える……その後継者さえ育て上げられれば、私はそれで十分だから」
残された時間が、どうかその目的を果たせるほどには長くありますように――そう深く祈りながら、私は静かに目を閉じた。
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同じ頃、ハイルレン帝国の皇宮。
大殿に集まった大臣たちは、壇上に立つベレウェン公爵の顔を見て息をのんだ。
その両目は血走り、誰が見ても激しく泣き濡れた後だとわかる状態だったからだ。
(まさか、あの冷血な公爵様が涙を流すはずがない……遠征の疲れが溜まっておられるのだろう)
誰しもがそう思い、見て見ぬ振りを決め込んでいた。
しかし、ベレウェン公爵の胸中に渦巻いていたのは、余限いくばくもない愛しい者への情念と、迫り来る危機への怒りだった。
(……あいつの命は、もう長く持たない)
バロンの言葉が、脳裏で何度も酷毒な残響となって響き渡る。
(魔気の濃度が上がり、魔法が解けた……数年以内に死ぬだと? そんなことがあってたまるか!)
自分の命を削ってまで帝国と皇室を守ろうとする彼女。
その尊い犠牲を足蹴にし、欲望のままに群がるハエどもを、絶対に許すわけにはいかなかった。
マルトス公爵がバイウードの利権に目をつけ、怪しい動きを見せているという報せはすでに届いている。
(マルトス……あの愚か者がバイウードに手を伸ばそうというなら、あらかじめその芽を潰すまで)
ベレウェン公爵は、意を決して皇帝の前へと歩み出た。
「陛下!」
「申してみよ、ベレウェン公爵」
「北部より緊急の報告が入りました。バイウードにて『ミスリル』が発見されたとのことです!」
その言葉に、謁見の間がどっとどよめいた。
「正確な経緯と埋蔵量を把握するため、ただちに現地へ視察団を派遣していただきたく存じます!」
公爵の目的は明確だった。
あえて大々的に公表して世間の注目をバイウードに集め、マルトス公爵が裏で暗躍できないよう手を縛るのだ。注目が集まれば、下手に兵を動かすことも奪い取ることもできなくなる。
「なに、ミスリルだと……!? すぐに視察団を編成せねばならん!」
驚愕する皇帝の声を背に、ベレウェン公爵は冷ややかな光を宿した瞳を閉じた。
信頼できる側近たちにはすでに手を打ってある。
彼女が遺そうとした大切な場所と、彼女自身が繋ごうとしている未来を――この命に代えても守り抜いてみせる。
帝国の命運を賭けた静かなる戦いが、いま幕を開けようとしていた。
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伝説の鉱石「ミスリル」を巡る陰謀と対立マルトス公爵はバイウードに伝説の鉱石「ミスリル」が眠っていると察知し、奪取のために動き出します。一方、ベレウェン公爵は公の視察団派遣を皇帝に提案することで動きを大々的に開示し、マルトス公爵の暗躍を封じ込めようと策を講じます。
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主人公の過酷な宿命と後継者への希望ソードマスターである主人公は、帝国を守るための黒魔法の影響で命が残り数年という限界を迎えています。しかし死を恐れるよりも未来のために時間を稼ぐことを選び、後継者として才能を見出した少女ラテルに希望を託して旅立ちます。
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守るべき未来のための静かな戦い主人公が自らの身を削って帝国と大切な人々を守ろうとする一方、ベレウェン公爵は主人公の命が長く持たない事実を知り、絶望と憤りを抱えながらも、彼女が遺そうとした場所と未来を守り抜くために動き出します。