こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

124話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- ラキアス・デル・イデンベル
落ちる石が床にぶつかって鳴る音。
耳がうなるほどに耳障りなその音が、繰り返し続いていた。その音は円形の塔の上で鳴り響き、そして次第にかすかになって消えていった。
ラキアスは顎を上げた。
時計塔の階段は天井まで果てしなく続いていた。
塔には窓が一つしかなく、その窓から見える外はまだ暗かった。
夜明けはまだ来ていないのだ。
ここはあまりにも騒がしかった。
そしてその前にはマリアンヌが立っていた。
まるで見てはならないものを見たかのように、彼女は顔を完全にこわばらせていた。
普段の彼女からは絶対に見られないような顔だった。
「なぜだ?」
ラキアスは不思議に思いながら考え、その答えに気づいた。
自分の体からは濃い血が絶え間なく流れ出ていた。
マリアンヌが自分を刺したからだ。
気づいた瞬間、巨大な痛みが押し寄せた。
どうして今になってようやく気づいたのか、自分でも不思議に思うほどだった。
そしてそれは単なる体の痛みだけでなく、心の苦痛でもあった。
ラキアスは背後に立つ誰かの気配を感じた。
彼女はそっと動きを止めていた。
前に飛び出して正解だったという思いがよぎった。
倒れていなかったら、ここで血を流して倒れていたのは彼女だったのだから。
そしてその想像だけでも、ラキアスの頭は痛んだ。
過去のことが思い出される。
理由はわからないが、彼はここ20年間、どこかが壊れていた気がする。
皇帝の座につき、平穏な家庭を築いた彼には、何一つ足りないものなどなかったはずなのに。
普段は何ともなかったが、ふとしたときに大きな虚しさを感じることがあり、そんなときはその空虚を何で埋めても埋まらなかった。
しかし今は、今この瞬間の痛みと悲しみが、その心の虚しさを覆い尽くすような気分だった。
ラキアスは自分の前に立つマリアンの姿を見つめた。
かつて彼が無条件に愛した人。
男たちが称賛する聖女だったり、美しかったり、あるいは賢かったからではなく、ラキアスはただマリアンヌがマリアンヌだったから愛していた。
だが、今になってようやくすべてが錯覚だったと気づいた。
ルミナスという精霊王が見せてくれた映像が思い浮かんだ。
その中でマリアンヌはアリサに濡れ衣を着せ、ついには死に至らしめるように操っていた。
そしてアリサの地位を奪い、自らがその座に就いたのだ。
その映像の中で、自分は今とは正反対の立場にあった。
マリアンヌをかばい、アリサを前にして彼女を追い詰めていた。
マリアンヌには何の罪もなく、彼女をアリサだと誤って思い込んでいたせいで起こった出来事だ。
そしてその後に起こったすべてのこと。
ラキアスは、自らの忠誠心と能力を証明するため、隣国エルミールの王族を殺そうとし、戦争を起こした。
最初のボタンをかけ間違えたように、ラキアスはそのまま無理な道を進み続けた。
マリアンヌがつぶやくように言った言葉が思い出された。
「お姉さんの席を奪った私は悪くない」――と。
いや、彼女は間違っていた。
その証拠に、彼は記憶を失っていた時期でも、時折時間ができるたびにアリサの宮殿を訪ねていた。
人々は皆、廃された皇族の宮殿は廃棄した方がいいと言った。
噂もよくなかったうえ、宮殿の管理にも別途予算がかかるため、皆の言葉はもっともだった。
だがラキアスは、自分でもその理由がわからないまま、彼らの言葉を無視した。
そして今になってようやく、幼いころの彼はその理由に気づいた。
頭では理解できなかったが、心では上の魂が探していたものだった。
彼女の空席を埋めるためだ。
マリアンヌは、そんなに大切な子の地位を平然と奪おうとしたのだった。
ラキアスは口を開いた。
「……お前の考えは全部間違っていた。」
マリアンヌの目が大きく見開かれるのが見えた。
「他人の命を踏みにじれば、自分が愛されると思ったのかもしれないが……」
あまりにも思い上がっている。
アリサの場所は、決して彼女が代わりに立てる場所ではなかった。
「俺が愛したのは、決してお前のような卑劣な人間じゃない。」
ラキアスは、自分の心の中から煮えたぎる怒りが湧き上がるのを感じた。
「ようやく分かった。俺が本当に愛していたのは――」
またしてもどうしようもない愛情と悲しみが胸の中に込み上げてきた。
今になってようやくすべてを悟った自分に、平手打ちの一つでもしてやりたい気分だった。
ラキアスは苦いものを吐き出すように、苦しげに言った。
「私の妹アリサ。」
そうだ、すべては彼女だった。
「私の愛情はすべて、あの子のためのものだった。」
背後から震える気配が感じられた。
「だから、お前が受け取ったものは、すべてまやかしだったのだ。」
なぜ今になってやっと気づいたのだろう。
怒ったマリアンヌがラキアスの体を何度も突き飛ばした。
彼は抵抗することができなかった。
それでも――不幸で、この苦しみを与えているのが彼女でなかったことが、せめてもの救いに思えた。
マリアンヌが逃げるように後ずさりし、ラキアスはもう自分の体を支えることができず、その場に崩れ落ちてしまった。
そして彼は、自分の後ろに立っていた彼女と目が合った。
「……あ。」
その少女は澄んだ顔で彼を見つめていた。
ラキアスは彼女をじっと見つめ返した。
彼女の銀髪は暗闇の中でも輝いているようだった。
以前、彼女がアリサだった頃と似た色合いだった。
しかし髪の色とは異なり、彼女の目や表情、さらには声や身振りまでもがすべて変わっていた。
アリサは変わってしまったのだ。
そして変わらざるを得なかったのだ。
アリサは死んだのだから。
ラキアスは初めてアイシャと真っ直ぐに目を合わせた。
青い瞳は混乱に揺れていた。
まるでどうすればいいのか分からないといった様子だった。
どうすればよいのか分からなかったのは、ラキアスも同じだった。
ただ彼は、ただ彼女を見つめることしかできなかった。
嵐のような時間が流れたように感じたが、もしかするとほんの短い時間だったのかもしれない。
「……ア、リサ。」
彼女の名前を呼んでから、言い直した。
「いや、今はアイシアか……」
変わった名前のように、ラキアスにとってアイシアはどこかよそよそしかった。
ラキアスは彼の妹、第4皇女アリサを深く愛していた。
あの子が明るく笑うと、世界に光が満ち溢れるように感じられ、あの子が話すと、白い紙が澄んだ音を立ててめくれるように感じられた。
帝国で最も美しいとされた金色の瞳と、これ以上ないほど愛らしい外見、そして端正な性格まで。
あの子には近づくだけで癒やされるようで、呼吸する空気さえも甘かったのだ。
みんながあの子を愛していたから。
ラキアスも決して例外ではなかった。
「アスお兄ちゃん!」
彼に笑いかけながら駆け寄ってきた姿を、今になって思い出す。
冷淡な皇帝と皇后のもとで育った彼と、彼の幼い妹は互いにとても頼り合っていた。
「もう少し早く気づいていれば。」
そうしていれば、何かが変わっていただろうか?
幼いアリサはいつもラキアスの授業が早く終わるのを待ち望みながら、教室の外でうろうろしていた。
すると先生はいつも授業を早めに切り上げてくれた。
ラキアスは長い授業から解放され、アリサの手を取って庭園へ遊びに行った。
空はどれほど青く澄んでいて、握っていたアリサの手がどれほど温かかったことか。
その時の自分は——その微笑を浮かべていたことさえも思い出した。
そのぬくもりを守れるのなら、何でもするつもりだったのに。
『だけど……』
同時に彼は思い出した。
いっそ何も知らなかったほうがよかったと。
『自分の手で、アリサを打ったんだ。』
あの子の頬を叩き、死刑を宣告した。
その記憶がまるで心臓にガラスの破片が突き刺さったように胸に降りてきた。
しばらくアイシアを見つめていた彼は口を開いた。
彼女にどうしても伝えたかった。
「ごめん」と。
許されないと分かっていても、彼女にだけはどうしても伝えたかった。
彼はあまりにも未熟で、幼かった長兄だった。
できることなら、これから一生彼女に罪を償いながら生きていくつもりだったが、もう時間がなかった。
ラキアスは、自分の時がここで止まるということに気づいた。
彼にはまだ幼い息子と一生を共にすると約束した相手がいた。
彼らに最後の挨拶もできずに、このまま去ってしまうのがただただ申し訳なかった。
少しずつ目が閉じていく。
それでも最後までアイシャを見つめるのをやめなかった。
その子は涙一つ流さなかったが、なぜかラキアスにはアイシャが泣いているように思えた。
アイシャは昔から想像力の豊かな子だったから。
つたない自分のために、少しくらいは悲しんでくれるだろう。
その事実が本当に申し訳なかった。
生きている彼女にまた別の重荷を背負わせるようで。
初めてアリサに出会ったときのことを思い出す。
あの頃はラキアスもまだ幼く、妹と言われても何がなんだかよく分かっていなかった。
でも、その子に初めて出会ったとき、ラキアスはそのまま恋に落ちてしまったのだった。
アリサ、まだ赤ん坊のようだったあの子がどれほど不思議な存在だったか。
自分を見つめて笑うその顔。
ラキアスはその穏やかな顔をいつまでも守ってあげたいと思った。
「……ラキ、アス……」
あんなにも愛おしかった子が、今、自分に向かって少しずつ近づいてきていた。
ラキアスは、死んだらそれで終わりだと思っていた。
その魂は神の懐に抱かれて、もう二度と戻ってくることはないのだと。
『でも……』
彼は先ほどルミナスが言ったことを思い出した。
「死んだ人は皆、再び生まれ変わることができる」――と。
自分は罪をあまりにも多く背負いすぎて、もう一度生まれ変わることができないかもしれない。
それでも、もし許されるなら、もう一度この地、この大地に生まれたいと思った。
最も高貴とされる皇族でなくても構わない。
最も低い場所で、一日一日を生き延びる乞食になってもいい。
また一度、あの子の家族になりたいという欲もない。
いや、人間になる必要すらない。
草一本、風一吹き、それでもなければただの灰でも構わない。
だからあの子が生きて呼吸し、ここに存在してほしい。
ただの灰として生まれても、自分は嬉しい。
一瞬でもあの子が自分を見て通り過ぎていくとしても、その子にたった一度でも会えるならば、自分はきっと嬉しいだろう。
でも……。
ラキアスは完全に目を閉じた。
また会えるのなら、それでいい。
ゆっくりとすべての感覚が遠のいていった。
「……お、兄さん。」
風のようにその子が呼んだ気がした。
未熟な自分を「お兄ちゃん」と呼んでくれたことに、ラキアスは嬉しさを感じた。
だから彼は微笑みながら掴むことができた。








