こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

126話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 未来②
「いってらっしゃい。」
「……え?」
私は戸惑ってしまった。
目の前には微笑んでいる父と母がいた。
私は朝の挨拶をするために一時的に皇宮を訪れていたところで、ついでに友達の旅行計画について話したのだった。
でも私の予想に反して、両親はあまりにもあっさりと許可してくれたのだ。
「え、本当ですか? でも……けっこう遠いですし……」
両親の反応が信じられなくて、私は思わず尋ねてしまった。
以前なら心配ばかりしていたふたりだ。
そんな両親が、今回は母がこう言った。
「安全はもちろん大事よ。でもアイシャには自分を守る力があるじゃない。だからそれほど心配してないの。」
「それに……」
父が続けた。
「俺たちから見ても、お前は少し休んだほうがいいと思うんだ。」
父の言葉に、私は少し呆然とした。
「……え、そんなに私、疲れて見えますか?」
気づかれまいと頑張っていたのに、両親には何をしても隠し通せなかったようだ。
私も知らず知らずのうちに少し憂鬱になっていた。
そのとき、母がふっと微笑んだ。
「そんなに深く考えすぎないで、アイシャ。」
「お母様……」
「いろんなことがあったじゃない。あなたには休息が必要だという意味で仰ったのよ。」
「………」
その言葉には確かに一理あった。
「行って、ゆっくり休んできなさい。あなたが元気でいることが、私たちにとって一番の喜びなのよ。」
そこまで言われて反対する理由もなかった。
結局、私はうなずいた。
こうしてなんとなく旅行が決まったわけだ。
でも心のどこかでは、もやもやとした思いが募っていった。
『これでいいのかな?』
もしかしたらそれは、自分に残された時間がもうあまり多くないという、かすかな不安のせいかもしれない。
あと十年足らずの時間の中で、私は何をすべきなのか——私はまるで霧の中で迷子になったような気分だった。
それから宮殿に戻ったときのことだ。
久しぶりに、アルセンがくれた通信球が光っているのを見つけた。
イデンベルで彼に会って以来、連絡が途絶えていたので、とても嬉しかった。
私はすぐに通信球を手に取った。
魔力を込めてまもなく、アルセンの姿が球体に現れた。
「お久しぶりですね。」
なぜ彼が突然通信をしてきたのか気になった。
通信球に映る彼の顔が、いつもより少し真剣に見えたからだ。
私は尋ねた。
「何かあったんですか?」
——「特に用があるわけではないんですが。」
彼は肩をすくめた。
以前、イシスお兄様のお言葉の後、私たちは礼儀を守りながら、しばらくの間敬語で接することにしていた。
――本日、イシス総督様がイデンベレにご到着されました。
「わあ、お兄様が!」
私は思わず感嘆の声を上げた。
「旅の途中で体調を崩されたりしませんでしたか?お兄様はうまくやっておられますか?人々の反応はどうですか?」
――……息が詰まりそうです。
アレセンは言葉を失ったように口ごもった。
――お体はとてもお元気そうで、ちょうど到着されたところですので、これからどうなるかは分かりません。人々の反応も……それもこれから見守るべきことでしょう。
「それもそうですね。」
私はそっとため息をついた。
「でもアルセン、お願い。兄さんのそばで少し手助けしてあげてください。」
私の言葉に、アルセンは少し皮肉げに口元をゆがめた。
――「どうして僕がそんなことを?」
「そんなこと言わないで。」
私は思わず笑った。
言葉は素っ気なくても、彼が兄を助けてくれる気がするのはなぜだろう。
たとえ無愛想でも、彼は本当は情の深い人だから。
「それより……」
私は言いかけて言葉を切った。
「そのことを伝えるために連絡してきたんですか?」
少し疑念も湧いた。
イシス兄さんがイデンベレに到着したのは、私にとって大切な知らせではあるけれど、アルセンが久しぶりに連絡をくれた理由としては、もっと大きな何かがあるのではと思ったのだ。
「……アレセンはどうですか?」
彼は短く答えた。
――私も同じです。
「……」
私は黙って彼を見つめた。
彼の気持ちを世界で一番よく理解できるのは、おそらく私だろう。
十数年間追い求めてきた復讐を遂げ、今や目標を失い、空虚さに満ちた彼の心を、とてもよく理解することができた。
私はそっと微笑んだ。
「……少しずつよくなるでしょう。」
私も、そうであってほしいと思った。
私の言葉にアレセンはうなずいた。
通信が終わったあと、私はこんな時間にもかかわらずベッドに横になってしまった。
あらゆる思いが頭の中で渦巻いていたからだった。
何よりも……。
「……会いたい。」
私も知らずに、つぶやいていた。
その瞬間、自分でも驚いた。まわりの精霊たちに聞かれてしまったかと心配になった。
『……会いたい。』
私は心の中で繰り返した。
ルン様に会いたい。
でも、それについて深く考える間もなく、侍女が部屋に入ってきた。
「姫様、皇帝陛下から姫様のために馬車と随行員の準備をするようにと仰せつかりました。ご出立のご準備をなさいますか?」
「……ああ……」
私はベッドからそっと起き上がった。
少し茫然としていたけれど、気を取り直してうなずいた。
「うん。それと、友だちに手紙も送らなきゃ。紙とペンを持ってきてくれる?」
「はい、かしこまりました。」
止まっていたい気持ちとは裏腹に、まわりの空気が私を先へと押し進めていった。
私は侍女が持ってきてくれたペンをしっかり握りしめ、友人たちに旅行に行けることになったという手紙を書いて、降りていく準備を始めた。
友人たちに手紙を送り、荷物をまとめ、父の許可を得て王室のゲートを通り、避暑地の都市レチェに到着するまでには一週間もかからなかった。
大きな期待はしていなかったが、それでも今回の旅行で友人たちと一緒にいて、少しでも気分が晴れることを願っていた。
そしてレチェに到着したとき――
私の考えは完全に変わってしまった。
「……一生こうして暮らすのも悪くないかも。」
私はパラソルの下の長椅子に横になりながらつぶやいた。
靴を脱いだ私の素足は、個人用の浜辺の砂の上に無造作に埋もれていた。
私の言葉を聞いたクロエが笑った。
「出発前は深刻な顔してたのに。」
「でも……ああ、すごく気持ちいい……」
私は、陽射しの下でアイスクリームのようにとろけるような感覚に身を任せていた。
ただ気分が少し良くなるという程度ではない。
私は、この場所でずっと過ごしていたいとすら思った。
久しぶりに召喚されたルも、温かい砂浜に足を埋め、じんわりと癒されているようだった。
「……あったかい……」
初めてレチェの海辺に来たとき、私は戸惑いながらこう言った。
人々が砂に埋もれているのを見たからだ。
ここではそれを「砂湯治」というのだとか?
死んだ人でもないのに、砂に埋もれるなんて本当に奇妙な風習だとしか思えなかった。
でも、この星の使用人たちはその行為を積極的に勧めてくれた。
その強い勧めに、最初は「そうね、せっかくだし試しにやってみようか」という気持ちだったが、今ではその理由がすべて理解できた。
日差しが暖かく足元を照らし、馬車の移動でたまった疲れがすっかり癒えた。
私の隣には友人たち――ローズ、アシュリー、クロエまでが仲良く並んで横たわり、砂浜に足を埋めていた。
召使いたちは私たちのために忙しく飲み物やおやつを持ってきてくれた。
暑ければ、大きな木のそばのうちわでそよそよと風を送ってくれたりもした。
「これが幸せってもの?」
私は真剣にそう思った。
「そう、他に幸せがある?今、身体が楽なのが一番大事でしょ。」
目の前には青い海がザザーッと波を打ち寄せていた。
隣にいた召使いが言った。
「昼食は浜辺に用意するか、もしくはこの近くの飲食店で海を眺めながら召し上がれます。」
少し悩んだ末、私は近くの飲食店で食べることを選んだ。
昼になると日差しが強くなりそうだったからだ。
侍従がメニューを持ってきてくれた。
貝類と肉を野菜と一緒にグリルした料理がメインで、レチェの特産である海産物を使った澄んだスープやアイスティー、熱帯果実などが用意されるという。
そこに冷たいレモンティーを頼み、私は箸を手にした。
新鮮な海の空気が肺の奥まで染み渡るような気がした。
「旅行に来てよかった。」
両親や友人たちの言っていたことは正しかった。
旅行に来たことで気分もリフレッシュされ、抱えていた悩みも少しずつほどけていくように感じられた。
私がにっこり笑っていると、アシュリーが私に近づいてきて言った。
彼女はわくわくと期待した表情を浮かべていた。
「アイシャ、もしかして花火って好き?」
「花火?」
私はアシュリーの言葉に目を丸くした。
花火は錬金術と魔法を応用して作られる、かなり高級な催し物だ。
そのため、花火は人気があるにもかかわらず、頻繁には見ることができないものだった。
エルミル帝国でも、重要な宴会や祝賀の場でなければ、ほとんど花火を打ち上げることはなかった。
私は素直に顎を縦に振った。
「すごく好き。でもどうして?」
私の言葉に、アシュリーはパッと笑顔を見せた。
「ちょうど今日が祭りの初日なんだって! 夜に記念行事として花火をやるんだって!」
「夜には夜市も開かれて、面白い劇団も来るみたいだよ。」
隣にいたローズが割り込んできた。
小都市レチェは観光都市としても有名な場所だけあって、観光客向けの様々な見どころや祭りがたくさんあった。
もしかするとレチェの別名は「祭りの街」なのかもしれない。
休暇シーズンが本格的に始まるにはまだ時間があるのに、今日から祭りが始まるとは、やはりレチェらしい。
「夜市も見に行こうよ、花火も見よう!」
友人たちの言葉に、私は箸を置いた。
侍従たちが用意してくれた昼食はとても美味しかった。
風に当たりながらだからか、宮殿にいた時よりもずっと食欲が湧いたようにも思えた。
お腹いっぱいになるまで食べた私たちは、日が暮れるまで海で泳いだり、おしゃべりをしながら時間を過ごした。
そして、ついに夜になると通りに出かけた。
レチェの通りは昼間よりもさらに華やかになっていた。
通りには色とりどりの提灯が吊るされ、数多くの屋台が並んでいた。
華やかな衣装を着た演劇俳優たちもとても多かった。
ファンたちは彼らの視線を一度でも受けようと大騒ぎしていた。
ホテルに戻ってくる俳優たちに向かって手を振る人々の声も相当な大きさだった。
首都と比べても劣らないほどの熱気に、私は感嘆してしまった。
あちこちを見回しながら歩いていると、一人の少女が私の前にスッと入ってきた。
「よい夜ですね!レチェの記念品にご興味ありませんか?」
私たちが観光客であることは一目で分かったのだろう。
その子は薄手のリネンのワンピースに、さまざまなアクセサリーをたくさん並べていた。
興味本位でそのアクセサリーを見ていると、少女がにこにこしながら自分の持っていた箱を見せてくれた。
「かわいいアクセサリーがたくさんありますよ!」
私はその箱を覗き込んだ。
カラフルな貝殻で作られたネックレスやブレスレット、木彫りの彫刻などが箱の上に並べられていた。
私が興味を示すと、少女は嬉しそうに話し始めた。
「うちのお店の品物は他のところよりずっと丁寧に作られてるんです。他のも見ていかれますか?私のお店はあの角のすぐ前にあります!」
少女が並べていたものは、貝殻や木のような素朴な素材で作られていたが、作り手のセンスが良くて、私の目にも魅力的に映った。
私は財布を取り出した。すると隣にいた友人たちも財布を出して物色し始めた。
「なに? ネックレス?」
「きれいね。部屋に飾ったらよさそう。」
友人たちもかなり肯定的な反応を示した。
店が目と鼻の先にあったのか、数歩も歩かないうちにすぐに露店が現れた。
少女のお母さんと一緒にやっている場所なのか、店主は少女とそっくりな顔立ちだった。
「まぁ、皆さんどうしてこんなにお美しいのかしら。素敵な方々。ご自由に選んでご覧ください。」
店主はにこやかに笑いながら、私たちにいろいろな品を見せてくれた。
その中で最も興味深かったのは、木でできた仮面だった。
おそらくレチェの伝説に出てくる守護動物を模したもののようだったが、犬でも猫でもない点が不思議だった。
私は笑いながら友人たちの方へ身体を向けた。
仮面を友人たちに見せてあげようと思ったのだ。
「ねえ、これ見て!」
けれど次の瞬間、私は思わず驚きの声を上げた。
見覚えのある顔を見たからだ。
驚きは悪いことばかりではなかった。
私を見た彼の目も大きく見開かれていた。
「……アイシャ様……」
彼は私の名前を呼びかけたが、ここが市場の真ん中であることに気づき、口を閉じた。
私は急いで尋ねた。
「ビオン殿下?」
私の言葉にビオン殿下はうなずきながら財布を握った。
屋台のランプの明かりのせいで、彼の青い目はオレンジ色に輝いて見えた。
「ええ、お久しぶりです。」
私は改めて彼の姿を見つめた。
普段は騎士団の制服か礼服しか見たことがなかったので、今日のようにラフな格好はとても新鮮に映った。
そうだとしても、別に不思議なことではなかった。
ようやくその年頃に見えるようになったのかもしれない。
夜の不夜城のような都市は、きらきらと輝いていた。
私が彼に質問しようと口を開いた瞬間、それより早くビオン公子が口を開いた。
「近衛騎士はどこにいますか?」
彼は不安げな顔で周囲を見渡した。
誰かが王宮騎士団の団長なのではないかと警戒しているようだ。
私は肩をすくめ、何人かの騎士を手で隠してみせた。
いつも私たちと一定の距離を保っている騎士たちは剣を携えていたが、彼らの服装はこの都市の風景と違和感なく溶け込んでいた。
彼は私と友人たちを数人の騎士が護衛していることを確認したあと、安心したように息をついた。
「騎士じゃなくても、自分の身くらい守れますよ。」
「何が起こるか分かりません。お守りするのが、彼らの使命なのです。」
まるで模範解答のような律儀な言葉に、私は思わず笑いながら、串焼きをひとかじりした。
「もうこの状況だし、これからは“アイシャ”って呼んでください。」
「……はい、アイシャ様。」
それから、今度は私が彼に尋ねた。
「次は私の番ですね。どうしてここに?休暇中とか?それともお祭りの視察ですか?」
彼に一番似合わない言葉があるとすれば、それは「休暇」や「旅行」だった。
でも、どうやらその気配を感じ取ったのか、彼はふっと微笑んだ。
軽やかな服装にぴったりの、穏やかな笑みだった。
「こちらに住んでいる祖母様に会いに来たのですか?」
「……ああ」
「皇太子様がイデンベールに向かわれた後、私も少しの休暇をいただいたのです。」
彼は周囲の人々を気にしているせいか、やや小声で話した。
私はうなずいた。近衛隊を経てきたビオン公子は、王宮騎士団の団長職と兄の後継者としての地位を兼ね備えていた。
兄がイデンベールに旅立ったことで、彼の仕事も少し落ち着いたのだろう。
望めば彼もイデンベールについて行けたかもしれないが、彼もまたベルトモア家の後継者であるため、そう簡単にはいかなかったようだ。
「これからは……」
彼は少しぼんやりしながら口を開いた。
「騎士団長の職を降りて、後継者の育成のために領地へ戻るつもりです。」
その言葉に私は少し驚いた。
だが同時に納得もした。
彼はまだ20代だが、貴族は早く結婚し職位を継ぐことが多いからだ。
「……そうなんですね。」
会話が一段落すると、私たちは一瞬静まり返った。
少し気まずい空気が流れたそのとき、友人たちがビオン公子を見つけて挨拶にやってきた。
「ビオン卿ではありませんか?」
最初に声をかけたのはローズだった。
彼女は以前、武道大会や宴会などで何度か顔を合わせていたため、気さくに話しかけた。
「ここでお会いするなんて、本当に素晴らしい偶然ですね!」
「今夜は良い夜ですね。お祭りを見にいらしたのですか?」
「久しぶりですね。」
クロエとアシュリーが後ろから声をかけてきた。
彼女たちの顔には好奇心に満ちた色が漂っていた。
「もしよろしければ……」
クロエが優しく提案した。
「私たちと一緒に花火を見に行きませんか?」
私は目をぱちぱちと瞬かせた。
彼が許可するかどうかが気になった。
視線を移して彼を見ようとしたそのとき、彼を見つめていたビオン公子と目が合った。
彼の顔にはかすかな微笑みが浮かんでいた。
「はい。」
友人たちの顔が明るくなった。
「光栄です。」
こうして、私たちはそろってビオン公子に招かれることとなった。









