こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
131話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- もう一度②
再び目を開けたとき、そこはまさに昨日まで過ごしていた客室だった。
粉々に割れていたガラス窓は元通りになっていた。
オスカーが修理したのか、それとも従業員が直したのかはわからない。
ただ、この場所にオスカーがまだ滞在していたことだけは確かだった。
鼻先に、オスカー特有の香りがほのかに漂っていた。
かすかに懐かしく思っていたその香りに、気持ちが緩んだ。
『でも、オスカーはどこに行ったの?』
部屋の中はすっかり空っぽだった。
応接室、寝室、浴室、クローゼットまで隅々探してみたが誰もいなかった。
床に転がっていたのは、空の酒瓶だけだった。
レリアはそっと指先を動かす。
窓を開けて外をのぞくと、日がかすかに陰っていく風景が見えた。
人々が忙しく行き交っていたが、その中にオスカーの姿は見えなかった。
レリアはもう一度窓を閉めようとして手を止めた。
トク、トク。
空から雨が降り始めた。
あっという間に押し寄せた雲が空を覆う。
暗くなった通りには雨粒が勢いよく降り注いだ。
雨だれはいつの間にか集まり、道行く人々の服をびしょ濡れにするほどだった。
レリアは窓を閉めた。
濡れた石のように、ひんやりとした静けさが胸に押し寄せてきた。
ゴロゴロッ。
まるで横から殴られたように、空が崩れ落ちるかのような大きな雷鳴が鳴り始めた。
その音が自分を責めるかのように感じられた。
最初にオスカーをなぜ置いてきてしまったのかと責めているかのようだった。
オスカーは雨の日を怖がる。
急に冷え込んだ部屋の温度に、レリアは肩をすくめた。
こんなに雨が降っているのに、オスカーはどこへ行ったの?
その間にどこかへ行ってしまったの?
どこへ行ったかもわからないの?
『まさか、フレスベルグ帝国に行ってしまったんじゃ……。』
もしそうなら……一度も行ったことのない場所だ。
魔法のスクロールは記憶にある場所しか行けない。
もしオスカーが本当に本国へ戻ったのなら、すぐに探し出すことは不可能だった。
『違う、まだこの近くにいるはず。』
部屋の中にはまだオスカーの香りが残っていた。
レリアはほんのわずかな希望にすがりながら、そっと扉を開けて外へ出た。
部屋に戻っていないオスカーが、どこかで雨に打たれて震えているかもしれないという思いが頭をよぎった。
探さなければ。
恐れの中にいるオスカーを救わなければという思いだけが、頭の中を埋め尽くした。
レリアは寒ささえ忘れて、雨の中を歩き始めた。
人々はみな雨を避けて建物の中へ入り、道を離れていく人はほとんどいなかった。
「オスカー!」
返事のない名前を思いきり叫んだ。
果物店の前で品物を整理していた女性が、レリアを訝しげに見つめた。
視線の中には、子どもを探し回る母親を見たかのような戸惑いが滲んでいた。
レリアは路地という路地を注意深く見回しながら駆け回った。
激しい雨で前がほとんど見えなかった。
『いっそ、オスカーと一緒にいるときに雨が降ってくれればよかったのに。』
自分ではどうしようもない状況なのに、後悔の念が押し寄せてきた。
むしろあのとき雨が降っていたなら……霧の中でオスカーを抱きしめてあげられたかもしれないのに。
レリアはしばらくあたりを歩き回っているうちに、あまりにも暗くなっていることに気づいた。
「オスカー……」
震える声で呼びながら歩いていると、見知らぬ人々と目が合った。
路地の隅で雨を避けていたのは、くすんだ灰色の服を着た人々だった。
険しい表情の男たちが、雨に濡れたレリアを見て睨みつけてきた。
まるで詮索するような粗雑な視線に、レリアは不快感を覚えた。
レリアは背を向けて歩き始めた。
「おい、見ろよ、お嬢さんだ!雨の中をどこにそんなに歩き回ってるんだ?」
「濡れたままうろつかないで、ここで一緒に雨を避けたらどう?」
低くかすれた声に、レリアは耳をふさいで走った。
背後からはじゃぶじゃぶと足音が複数聞こえ始めた。
誰かが自分を追ってきているようだった。
不意に恐怖がこみ上げてきた。
少し歩みを速めたその瞬間——
パッ!
不意に手首をつかまれた。
思わず驚いて腕を引き、振り向いた。
叫び声を上げかけたそのとき、赤くなった目の持ち主と目が合った。
「お…オスカー?」
間違いなくオスカーだった。
雨に濡れたオスカーが鋭い目で自分を見下ろしていた。
レリアは振り返ってその背中を見つめた。
ついてきている人はいなかった。
「オスカー、大丈夫なの?」
レリアは何度も目の前の雨粒を手で拭いながら尋ねた。
雨音が激しくて、声が届かないように感じた。
オスカーはただ怒っているように彼女を見つめているだけだった。
その目に映るレリアの姿が幻なのか現実なのか、判断がつかない様子だった。
「……っ!!」
そんなとき、オスカーが突然レリアを抱きしめた。
レリアも思わずオスカーの首に腕を回した。
その腕の中で、子どものように泣き出しそうだった。
オスカーが無事で本当によかった。
オスカーはすぐに雨を避けて滞在していた客室に戻ってきた。
中に入るなり、腕に抱えていたレリアをそっと下ろした。
彼の首に巻きついていたレリアの腕が、ゆっくりと離れた。
「オスカー……」
「お前、正気か?」
オスカーは怒ったように彼女の肩をつかんだ。
つかんだ手に力が入らないよう気を使いながらも、腕全体に震えが伝わっていた。
「なぜ戻ってきたんだ、どうしてだ!」
「……」
オスカーが泣きそうな声で叫んだ。
その表情は怒りに満ちていた。
レリアは怯えた目で彼を見つめた。
気まずさに涙がにじんだ。
オスカーは怒りを露わにしながらも、まるで地獄から救われたような瞳をしていた。
「…心配で… 苦しんでるみたいで。だから……」
「俺のこと、心配だったの?」
「……」
「君が、俺を心配してくれたの?」
オスカーが微笑むように言った。
なぜそんなふうに言うの?
なぜ急にそんなに冷たくなったのか……。
「君をこの惨状に引きずり込んだのは僕なのに、僕を心配してるのか?」
「……それってどういう意味……」
オスカーは意味のわからない言葉をつぶやいた。
レリアは混乱するオスカーを見つめたまま、衝動的に彼の腰に抱きついた。
雨に濡れた二人の体が密着した。
濡れた布越しに、しっかりとした体と温かい体温が感じられた。
「オスカー……」
レリアは呟くように彼の名を呼んだ。
そのとき、窓の外がひときわ明るく光った。
ゴロゴロ――
遅れて響いた雷鳴に、鼓膜が裂けそうになった。
レリアは、オスカーが怖がっていることを思い出した。
「……」
オスカーはまるで雷鳴のように無反応なまま、レリアを見下ろした。
ただ腰にしがみつかれているだけなのに、まるで心が縛られたかのようにぎこちなかった。
そんな彼に向かって、レリアは静かに告白した。
「私は……私は家族たちを捨てることはできないの。」
「……」
「だから、むしろあなたが……あなたがすべてを捨てて、私のところに来て。」
「……」
「そうしたら、私も君を…君を受け入れられる気がする。だから、もし…もし君が皇位を放棄できるなら…シュペリオン領地から出てきてくれたら…」
言葉は最後まで続かなかった。
オスカーは強い手つきでレリアを引き離した。
レリアは呆然とした目でオスカーを見上げた。
「演技が上手くなったね。」
「……」
「…うっかりだまされるところだった。」
オスカーは濡れた髪をかき上げながら冷たく笑った。
「もう嘘はやめろ。二度とだまされないって言っただろ。」
「オスカー、私は……」
「あんなに行かせてくれって懇願してたくせに。なんで戻ってきたんだよ?」
「……」
「行けって、あれほど言ったのに、なんで……」
「あんたこそ、いったいなんなのよ?急にどうして……」
「……」
「私を迎えに行くって言ったじゃないか。なのに今さら来て、行けって言うの?どうして私をもてあそぶの?」
オスカーは答えなかった。
レリアは押し寄せてくる感情を抑えることができなかった。
「なぜ、あなたは……」
ちゅっ。
瞬く間に近づいてきたオスカーが、彼女の唇を塞いだ。
窓の外が閃光で光り、間もなく雷鳴がとどろき、続けて激しい雨音が鳴り響いた。
その音の中でも一切の迷いもなく、オスカーはレリアの頬を掴んで口づけを続けた。
誰のものかもわからない涙が、唇の隙間にも流れ込んだ。
荒く食い込むように深く入り込み、柔らかな粘膜を優しくなぞり、飲み込んだ。
まるで喉元まで届くほどに激しくも切なげに求めてくるようだった。
「はぁ……」
レリアの口から、かすかな吐息がもれた。
息が詰まり、苦しさに唇が離れた。
彼女がようやく呼吸を整えようとしたその時だった。
「な、何してるの……?」
レリアは呆然とした表情でオスカーの行動を見つめた。
さっきまで彼女を抱きしめキスしていたオスカーが、突然空中に手をかざし、円を描いた。
魔法陣が現れた。
「……」
丸い魔法陣の向こうに、見覚えのある風景が見えた。
シュペリオン領地──彼女の部屋だった。
「オスカー……」
「一緒に来てくれる?」と聞こうとしたその瞬間、オスカーがポンと彼女の背を押した。
強い力だった。
その魔法陣によって、レリアは向こう側へ転送された。
力なく床に崩れ落ち、後ろを振り返った。
「…オスカー!」
魔法陣はそのまま消えていた。
消える直前、オスカーは虚ろな目で彼女を見つめていた。
まるで最後のように、固く決意した視線だった。
「なぜ、どうして……」
自分の言葉を信じてくれたと思っていた。
深いキスを交わした瞬間、想いが届いたと感じた。
なのに、なぜ?
キスが終わるや否や、オスカーは魔法陣を作り、彼女をそこへ送り出したのだ。
一緒に来ると思っていたのに、一人だった。
レリアは濡れたままの状態で、部屋の中に座り込んでぼんやりしていた。
最後に見たオスカーの目を思い出すと、全身がぶるぶると震えた気がした。
どきりと胸が痛んだ。
オスカーはまるで、二度と彼女に会わないかのように淡々と行動していた。
赤くなった目元に浮かんだ感情に動かされ、遅れて押し寄せた衝撃で肩ががたがたと震えた。
「ふ……うぅ……」
レリアは濡れた子ネズミのようにすっかり濡れたまま泣き出した。
いったいなぜ、どこから間違ってしまったのか。
オスカーにすがりついて聞きたかった。
なぜこんなにも突然彼の気持ちが一瞬で変わったのか、なぜこんなにも冷たく振る舞ったのか、その理由を知りたかった。
そのとき、胸の中にしまっていたもう一つの魔法のスクロールが目に入った。
レリアは泣くのをこらえ、震える手でそれを取り出した。
幸いなことに、特別な仕様ではなかった。
もう一度、オスカーに会わなければならなかった。
聞かなければ、答えを得なければ。
レリアは少し前、彼と共にいたあの客室を思い浮かべながら、スクロールを発動させた。
視界が変わった。
少し前のあの客室だ。
しかし、部屋の中はすっかり空っぽだった。
窓は開け放たれたままで、オスカーの姿はなかった。
「……オスカー。」
レリアはまたしても、さっきと同じ状況がやってきたことに自然な感覚を覚えた。
それでも心を落ち着かせることにした。
「きっと戻ってくる。」
レリアは薄暗い窓の外をじっと見つめた。
雨はまだ降り続いていた。
吹き込んでくる風に肩が震え、唇が震えた。
カタカタと、歯が鳴るのを感じて、窓を閉めた。
悪寒が押し寄せた。
体は弱いほうではないが、風邪にはめっぽう弱かった。
レリアはオスカーが戻ってきたときに、みっともない姿でいるわけにはいかないと思った。
ちゃんと話すには、少なくとも正気を保っていなければならなかった。
彼女はすぐに浴室に入り、温かいお湯を浴びた。
すぐに浴室の中は熱い蒸気でいっぱいになっていった。
全身が壊れそうに痛んだが、レリアはなんとか温かいお湯で体を洗い終えた。
濡れた服は乾かしておき、客室に備え付けられていた女性用の寝間着に着替えた。
ベッドに上がってシーツにくるまり、しばらくの間待った。
まだ寒さが押し寄せ、歯がカチカチと鳴った。
オスカーが永遠に戻ってこないかもしれないという恐れが、寒さ以上に身に染みるようだった。
窓の外が再び光った。まもなく大きな雷鳴が耳を打った。
レリアは思わず肩をすくめた。
オスカーは一体どこにいるのだろう。
どこかでこの雷鳴を聞いているのだろうか。
もうこの音が怖くないのだろうか。
もう私のことが嫌いになったのだろうか。
いくつもの思いが頭の中でぐるぐると渦巻き、それが彼女を苦しめた。
そしてある瞬間、意識がぱたりと途切れた。
目を覚ましたときは夜明けだった。
一晩中降っていた雨がやんだのか、窓の外は明るく、雨音も聞こえなかった。
「……」
レリアは、今もなお空っぽの部屋を見つめながら、オスカーが戻ってきていないことに気づいた。
彼の気配はまったく感じられず、鼻先に残っていたオスカーの香りも完全に消えていた。
『まさか、行ってしまったの?』
レリアは乾いた服を見つけて着替え、外へ出た。
雨も止み、太陽が昇っていたため、オスカーを探しに行こうと思ったのだ。
昨日、街をさまよっていた彼女を見つけたように、きっとまた現れると信じた。
もしかすると、こっそりと見守っていて、彼女が危険に陥った時に現れるかもしれない。
昨日のように。
レリアは周囲を見回しながら歩き始めた。
人々は乾いた服を着て屋台の準備をしていた。
ぶるぶる震えているレリアを、まるで狂った人のように見つめる人もいた。
その中には何か言いながら小声でつぶやく者もいたが、オスカーを探すことに夢中なレリアはまったく気づかなかった。
一日中、同じ道を行き来しながら広い大通りをうろついた。
そうしているうちに、いつの間にか夜が更けていた。
足がしびれてふらつき、もう歩くことができなかった。
レリアはついに路地裏の片隅に腰を下ろし、壁に背中をもたせかけた。
ふらふらとした人たちを見て声をかけてみようかとも思ったが、昼間のせいか、そんな人たちはほとんど見えなかった。
元気よく行き交う商人や通行人しか目につかなかった。
レリアは疲れ切ったように目を閉じた。
『ロミオが心配してるかもしれない。』
言葉のひとつでも残してくればよかった。
そして気づいたのは、帰るときに使う魔法のスクロールがもうなかったこと。
何の考えもなく焦った気持ちで、残りの一つを使ってしまったようだ。
どうしてもオスカーに会えると信じていたからこそできた行動だった。
今さらになって母への心配と、消えてしまったレリアのことを心配している家族の顔が浮かんだ。
最悪だった。
また家族を心配させたという罪悪感と、オスカーを見つけられなかった不安が入り混じっていた。
オスカーを見つけられなければ、戻る手段もなかった。
カーリクスがまた彼女を探してくれるのを待つか、自力で陸路を使って戻るしかない。
レリアは無気力に床を見つめていた。
ふとした瞬間、オスカーの瞳が思い出されて胸が苦しくなった。
もう少し休んで、また探しに行こう……。
本当にダメなら、どこかの噴水台のような場所にでも落ちていればいい。
オスカーが見ていてくれるなら、きっと彼が助けに来てくれるはずだった。
そう思っていたところに、突然頭の上に影が落ちた。
一人の影ではなかった。
レリアは顔を上げて見た。
「……」
人々の隙間から差し込む光のために目がくらんだ。
何度かまばたきしてようやく、誰なのかをはっきり見ることができた。
初めて見る人たちだった。
ただ、特別な点があるとすれば、全員が鎧を着ていた騎士だった。
彼らの鎧には特別な紋章が刻まれていた。
彼女の記憶が正しければ、あれは……。
「ついに見つけましたね。」
「失礼いたします。」
意味のわからない言葉をつぶやいたかと思うと、瞬く間に騎士の一人が彼女の手を取った。
レリアはその場で力なく目を閉じて、崩れ落ちた。
最後に目を閉じる瞬間、ある紋様が思い出された。
幼い頃、神殿で過ごしていたときに見た聖騎士たちの制服に描かれていたその紋様だった。







