こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

84話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 帰郷②
アウラリア首都皇城
ルートは無表情で庭園を歩いていた。
レイモンド卿が首都を離れたという知らせを聞いて、彼は気分が晴れなかった。
別れの意味で贈り物を置いて黙って去ったのが、妙に心に引っかかっていたのだ。
『まさかあれで怒って早く行ってしまったのか?』
そう思うと後悔が押し寄せてきた。
だがユリアナ皇女の頼みである以上、どうしようもなかった。
『それにしても、何も言わずにあんなふうに去るなんて。』
それなりに深い友情を築けたと思っていたので、失望した。
これからも長く付き合っていけると思っていたのに。
友情を育んで義兄弟のように過ごしたいと思っていたのに。
実のところ、ルートには親しい友達がほとんどいなかった。
そのため、ロミオやその友人たちを見ると羨ましく感じることもあった。
レイモンド卿も彼らと親しくしていたが、ルートは自分の方がより親しい間柄だと信じていた。
そんな中、失望と裏切られたような気持ちが込み上げた。
あれこれと考えて気分が落ち込んでいたところに、突然侍従が近づいてきた。
「ルート卿、ユリアナ皇女様がお呼びです。」
「……わかりました。」
ルートは鏡の前で服の乱れを整え、緊張した気持ちでユリアナ皇女の私室へ向かった。
最近、彼はユリアナ皇女と非常に親しい間柄だった。
レイモンド卿から贈り物として受け取った城をユリアナ皇女に渡してからは、さらに関係が良くなっていた。
ユリアナは今では彼を見るたびに明るく笑い、2人はまもなく皇族たちに自分たちが恋人同士であることを打ち明けようとしていた。
ルートは今日も、いつものようににこやかなユリアナ皇女の顔を思い浮かべながら宮殿の中へと入っていった。
しかし彼を迎えたのは、怒りで顔を紅潮させたユリアナ皇女だった。
「ルート卿!この城は偽物です!」
「えっ?」
突然の言葉に、ルートはただ目をぱちぱちさせるばかりだった。
ユリアナ皇女は息を詰まらせるように説明した。
「今日、中立地域で神官が皇帝の遺物を探していると聞いて、訪ねてきて尋ねてみたんです。そしたらその神官が言うには『これは偽物だ!』って!」
「そ、そんなはずは……」
ルートは慌ててユリアナから遺物を受け取って、細かく調べた。
自分が持っていた遺物とまったく同じだった。
違いはなかった。
「神官もこれほど精巧な複製品は初めて見たそうです。これだけ精巧なら、相当な腕前の錬金術師がいる証拠だとも言っていました。」
「でも、これは私がずっと持ち歩いていたものです!子供の頃に願いを叶えてくれたりもしたんです。絶対に偽物なんかじゃないのに……」
「もしかして、レイモンド卿がすり替えたんじゃないですか?」
「……!!!」
「これはとても価値のある品なんです、ルート卿!高額を払ってでも手に入れようとする人が大勢いるんですよ。」
「は、でも……」
「ルート卿もその人にそう言ったんでしょう?本当に大事な品だって。」
「……」
「だめです。私たち、一緒にその人を告発しましょう!」
「告発ですか?」
「ルート卿がそれを渡した短い期間で、それを複製したというのなら、この首都内に優れた腕を持つ錬金術師がいるかもしれないじゃないですか。調査しないといけません。」
「ですが、皇女様……」
「これは帝国の安全保障に関わる問題です。そんなに優れた腕を持つ錬金術師なら、脅威になる可能性もあるんですよ!」
「……」
ユリアナの言葉はもっともだ。
本当にこれが偽物なら、それほどの技量を持つ錬金術師が帝都に潜んでいるということになるからだ。
戦争が終わった後、神殿は再び錬金術師を見つけ出すことに注力していた。
今日、神官が訪ねてきたのも、帝国に協力を求めるためだった。
『最初から偽物だった可能性は?』
ルートは悩んだが、そんなはずはなかった。
聖なる品は明らかに神聖な光を放ちながら、彼の願いを叶えてくれた。
それに、それ以降一度も体から離したこともなかった。
ルートがそれを持っていたことを知る者はいない。
誰かが盗み出した可能性も考えにくい。
もし偽物にすり替わっていたのなら、それは間違いなくレイモンド卿の仕業だ。
ルートはその事実を信じられなかった。
「レイモンド卿がそんなことをするはずがない。私を裏切るはずが……。」
「ルート卿、しっかりしてください!私が誰だと言ったと思ってるんですか!あの人は神官の仮面をかぶった青髪の男だったじゃないですか?」
「……」
「神官はこの聖物の件でアウラリア首都をこっそり調査するって言ってました。父にも捜査の許可は取っていないって言ってましたよ。」
その言葉にルートの表情が一気に曇った。
皇帝に取り入るだけでは足りず、神殿にまで疑われる羽目になるとは。
「それどころか、神殿がすべての罪をルート卿に押しつけるかもしれません。」
「でも私は……」
「ごめんなさい。偽物だと知っていれば、そんなことはしませんでした……私はただ、この聖物が本物だと思って……ルート様と一緒に、直接中立地帯へ行って寄付しようと思っていたんです。」
「……」
「神殿がルート様に大きな感謝を抱くようになれば、父もルート様のことを気に入ると思って……だから、そうしようとしたんです。」
ユリアナは事態がこうなってしまい悔しそうに顔をしかめた。
ルートはそんな彼女を慰めた。
そうだ、ユリアナ皇女の言うとおりだ。
理不尽に罪を着せられる前に、自分を裏切ったレイモンド卿を告発するべきだった。
だが、それでもまだ信じられなかった。
あれほど自分の仕事を助けてくれたレイモンド卿がこんなことをするなんて。
『まさか、最初から聖物の存在を知っていて、私にうまく近づいてきたのか?』
その考えにゾッとした。
「それにその人、急いで皇都を離れたんですよ?複製品だとバレるのを恐れて、そうしたのかもしれません!」
ユリアナの推測にルートは目を固く閉じた。
そうだ。それは明らかだった。
そうでなければ、あんなに急に去るはずがない…。
「それに、ロミオ皇子とそのご友人方も、今日皇都を離れました。」
「彼らまでですって?!」
「共犯かもしれません。あまりに怪しくありませんか?急に去った理由って、それ以外にありませんよね?」
ユリアナの言葉は正しかった。ルートはぎゅっと口を引き結んだ。
「…皇女殿下のおっしゃる通り、すぐに彼を告発いたします。」
まだ夕方にもなっていないのに、空はどんよりと暗くなっていた。
草原を抜けて広い森に入ったあたりだった。
突然空が暗くなり、雨がザーッと降り始めた。
通り雨かと思って無視したが…雨脚はますます激しくなった。
向こう側に見える黒い空と雨脚は容赦なかった。
「雨が止むまで避難しなければなりません。」
レリアの言葉にオスカーは答えなかった。
二人はしばらくさまよった末、森の奥にある幕のような古びた家を見つけた。
小さな囲いに馬を入れた後、中に入った。
森も道を外れてからかなり経っていたのか、内側は冷たかった。
レリアは古びた壁の前にしゃがみこんだ。
火を起こさなければならないのに……。
道具もない状況では、錬金アイテムを使わなければ火を起こせなかった。
レリアナはちらりとオスカーの様子を伺いながら彼を見たが、すぐにまた正面を向いた。
オスカーは上着を脱いだまま、水気を軽く絞っていた。
床にポタポタと落ちる水の音が、心臓に矢が刺さるように鋭く響いた。
カーリクスと同様に、オスカーも服を着ているときはそれほど体格が良く見える方ではなかった。
しかし上着を脱ぐと、大きな骨格と引き締まり厚みのある筋肉が目に飛び込んできた。
水に濡れた滑らかな肌に、筋肉がより一層際立って見えた。
レリアナは緊張を悟られまいと、静かに息を吐いた。
『まさか、私にも脱いで乾かせってことじゃないでしょうね?』
無駄な考えにふけっていたレリアが薪をくべているとき、オスカーがこっそり錬金アイテムを取り出し、火を起こそうとした。
パチッ。
突然、目の前の壁の炉に火が灯った。
ただの火種ではなく、勢いよく燃え上がる炎だった。
レリアが驚いて後ろを振り返ると、オスカーが近づいてきていた。
服を着るように言おうとしたが、濡れた服を乾かすでもなくそのまま着るように言うのはおかしかった。
オスカーはレリアの隣にきて、すっと座った。
すると、水で濡れて冷えきったレリアを見て、気の毒そうに眉をひそめた。
「…私はこのまま乾かす方が楽です。」
レリアの言葉に、オスカーは何も言わなかった。
ただ、レリアはなんとなく壁際にある割れた鏡をじっと見つめた。
『ん?』
そのとき、ふとレリアの視線が鏡の中に向かった。
『髪の色が…!』
いつの間にか薬の効果が切れたのか、髪の色が元の色に戻っていた。
皇城で過ごしていたときは、毎日鏡を見て、薬で変えた髪と目の色を確認していた。
城を出る直前までも髪と瞳の色は染めたままだった。
しかし都を離れてからは鏡を見ることもなかったので、効果が切れて自然に戻っていたのだ。
『なぜ何も言わないんだろう?』
だがオスカーはその点について何も聞こうとはしなかった。
レリアは聞いてみようかと思ったが、口をつぐんだ。
わざわざ掘り返して気まずくなる必要はなかった。
「火力がすごくいいですね……。」
レリアは気まずさを払おうと、小さくつぶやきながら、手をかざすように火の前に差し出した。
温かくなった手を触っているうちに、ほのかに不安だった気持ちが落ち着いてきた。
一瞬でこんな火を起こすなんて。
オスカーの力は神聖力や魔力、またはそれに似たものとは少し違っていた。
彼が使う力は、古代の魔族たちが使っていた力だ。
神殿ではそれを「破滅の力」あるいは「闇の――」
「…その力、神殿に知られたら危険なんじゃないですか?」
レリアはつい心配になってそう言ったが、オスカーは聞いている様子もなかった。
おそらく神殿は想像もしていないだろう。
オスカーは光竜との戦いでもその力を一切使わなかったのだから。
最初、彼の魔剣には神聖力が感じられた。
神官たちがその神聖力を隠していたのなら話は別だが、戦場ではそんなことはあり得ない。
周囲には強大な神聖力を持つ神官たちが多くいたため、魔剣が自ら力を隠していたのだろう。
それでも戦場で優れた実力を誇っていたということは、最初の時点ではその力がなくても、オスカーは卓越した剣士という意味だった。
そんな人物に「闇を操る力」が宿ったのだから、恐ろしくて不安になるのも当然だ。
そのとき、低い声が聞こえてきた。
「俺のことが心配なのか?」
言葉の終わりが少し震えていた。
レリアは冷たく見つめてくる彼の目を見つめてから、視線を落とした。
「当然です。」
「本当に心配しているなら、あんなことはしなかったと思うけど。」
「……」
失望をにじませた口調に、レリアは返す言葉がなかった。
しばらくの沈黙が流れた。
レリアは頭を巡らせながら窓の外を見つめた。
雨のしずくは依然として止まなかった。
「………」
しばし考えにふけっていた彼女は、ふとオスカーを見つめた。
彼女の記憶の中で、オスカーは雨の日、特に雷の鳴るのを怖がっていた。
今もそうだろうか?それとも、当時のトラウマを乗り越えたのだろうか?
そう思っていると、オスカーがまるで彼女の考えを読んだかのように答えた。
「誰よりもよく分かってると思うけど…俺は雨が嫌いだ。」
「…レオ様から聞きました。」
ぶっきらぼうに反論するレリアを見て、オスカーはあきれたように苦笑した。
だが、再び口を開いた。
「雨が降ると、ぞっとする記憶が蘇るんだ。」
今ではもう違うけど——その言葉はオスカーの心の中に飲み込まれた。
レリアは心配そうな目で彼を見つめた。
オスカーはゆっくりと目を閉じ、その視線を味わった。
ふと、幼い頃の「ぞっとする記憶」が蘇った。
彼の父親は暴君だった。
特に、人々がオスカーの目の前で殺されていくのを、「立派な皇帝になるための教育だ」と言い放った。
彼の母親が死んだ日も、雨が降っていた。
皇帝は血に染まった刃物を振り回しながら、そばで怯えていた幼いオスカーに笑いかけた自分の妻の姿。
幼い頃はその記憶のせいで、雨の日になるたびに過敏に反応し、苦しみに沈んでいた。
しかしレオと出会ってからは、そうではなかった。
いつの間にか、雨の日はもはや苦痛の日ではなくなっていた。
レオの優しい声、あたたかな手のひら。
これまで一度も感じたことのなかった慰めが思い出された日だった。
そんなレオが亡くなったという知らせを聞いてから、再び雨の日が辛く感じるようになったが——
それでも感謝の気持ちだった。
今はまた、雨音が心地よく感じられただけだった。
「雨が降ると、思い出す記憶はないの?」
「え?」
「雨が降ると蘇る人なんて、いないって。」
見つめるように言ったオスカーの言葉に、レリアは言葉をぐっと飲み込んだ。
「…いてほしいですね。」
「……」
その返答に、オスカーはかすかに笑った。
その目元が少し穏やかに見え、レリアはほっとした。









