こんにちは、ピッコです。
「政略結婚なのにどうして執着するのですか?」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

100話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 罠
同じ時刻。
ヘラ川下流のテニア城。
最低限の守備兵だけが残った城はひっそりとしていた。
コケだけが城壁を赤く染めていた。
ガシャン!
その音に、ガラスの杯が割れる音がさらに響き渡った。
北棟まで響いたその音に、使用人たちは不思議そうに部屋の中を覗き込んだ。
「大丈夫ですか、タクミ卿?」
幻覚でも見たのではないかというほどだったが、石畳の上にはガラスの破片が散らばっていた。
そしてその横にはひざまずく従者が一人。
苦しそうにうめきながらも必死に机にしがみついているこの人物は、城主に代わって城の警備を担っている騎士、タクミ卿だった。
「うぅう……」
肘掛けにもたれた彼からは、苦しげなうめき声が漏れ続けていた。
侍従は驚いて駆け寄った。
「ど、どうかなさいましたか? 医師をお呼びしましょうか?」
「はぁ、うっ……」
返事は返ってこなかった。苦痛のためだ。
気まずさのような沈黙だけが深まるばかりだった。
ほとんどの兵力が去った今、城主代理まで倒れてしまえば普通では済まされない事態だ。
「医師を呼べ!今すぐに!」
侍従が慌ててそう叫んだ。
他の使用人たちも状況の深刻さを理解したのか、足早に外へと駆け出していった。
「わ、私の声が聞こえますか?少しだけお待ちください。すぐに医師が……」
「……ま。」
「え?」
何かを呟いていたが、聞き取ることはできなかった。
侍従は少し腰をかがめて彼の耳元に近づけた。
するとかすかに微かな声が耳に届いた。
タクミが絞り出すような声で言った。
「必……要……ない……呼ぶ、な。」
思い出した。
前世で起こったすべてのことを。
頭が割れるような頭痛が襲ってきた。
彼は、しきりに安否を尋ねる使用人たちを退けるために、ひたすら歯を食いしばるしかなかった。
どれくらいの時間が過ぎたのだろうか?
「はあ……。」
タクミがうめきながら身を起こした。
頭が周囲を見渡せるほどには落ち着いた頃には、すでに日は沈んでいた。
カーテンを開けると、完全に暗くなった夜空が見えた。
満月と星が浮かぶ夜空は静かで……静かなはずだった。
だが、外から音が聞こえてきた。
『何の音だ?』
タクミが不審そうに下を見下ろした。
暗い夜空とは対照的に、窓の下には灯りが一面に灯っていて、まるで昼のように明るかった。
その明るい光の中に、ぽつんと存在感を放っていたのは、ポルトゥナ家の紋章だった。
ポルトゥナ伯爵が従者たちを連れて戻ってきたようだ。
彼は短くため息をついたあと、すぐに廊下の下へと向かった。
外に出ると、副官が後ろからついてきて声をかけた。
「タクミ卿! もうお身体は大丈夫ですか?」
「今は問題ない。外が騒がしかったが、何があったんだ?」
「ポルトゥナ伯爵様が雑兵たちを引き連れていらっしゃったようです。」
やはり予想通りだった。
本館の入口を出ると、会話を交わしているエイデンとポルトゥナ伯爵の姿が見えた。
実のところ、それは会話というよりも、一方的な叫びに近かったが。
「勝てない……!これは勝てません!一瞬のうちに矢が飛んできたんですよ!私の兵たちがまばたきする間に、馬のひづめの下から矢が飛んできて……!公爵様に援軍をさらに要請しなければなりません。そうでなければ到底……!」
ぼさぼさの髪と汚れた顔、ゆったりした衣服。
約1ヶ月前、自信満々に兵力の支援を要請していた姿とはまるで別人のようだった。
エイデンの前で自分の敗北をどう説明すればいいか悩んでいた彼は、近づいてくるタクミを見てぎこちない表情を浮かべた。
だが、見て見ぬふりはできなかった。伯爵は小さく震えながら挨拶をした。
「おお……お久しぶりです、タクミ卿。」
「本当ですね。あれほど自信を持っていたわりには、長引きましたね。」
侯爵に対して無礼な口をきくなんて。
ビアナンゲリムが遅れて現れると、伯爵の目つきが鋭くなった。
「ち、今、私が卿の言葉を無視したからこんなことになったと思っているのですか?」
どうして分かったんだ?
間抜けなやつのくせに察しは早いようだ。
タクミが何か答える前に、伯爵が先に声を荒げた。
「こ、この敗北には卿の責任もあるのだぞ! 卿が先日の会議で提案した方法に従ったのに、全く効果がなかったではないか! どうやって察したのか、あいつらはすでに対策を……!」
その言葉にタクミはただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
『俺の助けなしでも勝てるって大口を叩いていたくせに、結局は頼ったのか。』
その浅はかさは予想していたことなので、驚きはしなかった。
そしてすべての記憶を取り戻した今となっては、敵軍がこちらの策を事前に読んでいたこともやはり驚くに値しなかった。
『彼女は俺のことをよく分かっているからな。』
ナディアは俺の腹の内を読んでいる。
彼女が夫であるウィンターフェル侯爵に助言を与えたのだろう。
「つまり今度の敗北の責任が私にあるということですか?」
「すべてではなくても、ある程度はあるということです!」
「私の提案など必要ないと言っていたのに、何の怒りですか?忠告を守っていれば敗北することもなかったでしょう。」
「じ、自分、それが今重要な問題だと思っているのか!」
タクミはぶつぶつと文句を言うその声を無視し、エイデンの方へ視線を向けた。
対話は言葉が通じる相手とするものだ。
「ポルトゥナ伯爵が戦場で多大な支援をしたことは承知しています。しかし、それは過去のことであり、今回の敗北の責任を――」
「……聞け……」
「エイデン卿!聞く必要はありません!タクミ卿の言葉に従ったからこそ、今日のような大敗を喫したのではありませんか?」
タクミは目を軽く閉じてから開けた。
拳を振り上げたい衝動を抑えるためだった。
一方、二人の間に挟まれたエイデンは困惑した表情を浮かべていた。
二人とも副官という立場なのが最大の問題だった。
「はぁ……」
エイデンの口から短いため息が漏れた。
どちらが無理を言っているのかは明らかだったが、それでもポルトゥナ伯爵に面子を立てなければならなかった。
エイデンは今、病身の伯父の代わりに南部の貴族たちをまとめている立場だ。
そしてポルトゥナ伯爵は、南部の大評議会の代表として立っている領主であり、野軍の原老格に相当する人物だった。
ここでまだ若いタクミの手を取ったならば、伯爵が良心の呵責を感じることなどまずないだろう。
そうなれば野軍の間に感情的な亀裂が生じ、選択肢を選ぶことができなくなる。
さらに……。
『この者は危険だ。』
エイデンの視線がタクミに向けられた。
傍から見れば、寡黙で忠誠心のある騎士のように映るが、彼の本性を知っているのはおそらく自分だけだろう。
今はバラジット家の忠実な家臣として振る舞っているが、いつ態度を変えてこちらに剣を向けるか分からない存在なのだ。
『状況が状況なだけに、ある程度は利用するとして、これ以上騒ぎが大きくなるのは避けるべきだ。』
そう判断したエイデンはタクミに視線を送る。
まるで「君の方が理解力があるのだから、もう一度だけ我慢してくれ」と言わんばかりに。
「エイデン卿……!」
激昂したタクミが何か言い返そうとしたが、エイデンの視線はすでにポルトゥナ伯爵のほうへ戻っていた。
「公のお気持ちはわかりました。これで戻ってお休みください。雑兵を収めるのにご苦労が多かったでしょう。」
「もう一度、もう一度だけ機会をいただけるなら、今回の敗北を挽回してお見せいたします。」
勝てないと狼狽えていたのはいつで、今度はまた口調を変えるのか。
無能な野軍は、有能な敵軍よりも危険な存在だ。
エイデンと共に去っていく伯爵の後ろ姿を見ながら、タクミは荒々しく舌打ちした。
「チッ。」
そして彼は手の合図で副官を呼んだ。副官が急いで駆け寄り、彼のそばに立つ。
「ご命令でしょうか?」
「公爵様に連絡すべきことがある。非常に緊急だ。」








