こんにちは、ピッコです。
「政略結婚なのにどうして執着するのですか?」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

85話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- それぞれの戦場③
厩舎から冷たい風が吹き込んできた。
それはまるで肌を刺すような。
北方の冬はそれほど厳しいものだった。
それでも、不安に駆られて進軍の速度を緩めることはなかった。
一刻を争う事態だったのだ。
『魔物の群れが人間の領地を蹂躙するのを放っておくわけにはいかない。』
アドリアンは服をさらにしっかりと羽織り、襟を正した。
周囲を見回すと、不満を口にすることもなく、誰もが粘り強く耐えているのが目に入った。
「やはり。」
彼は、北部人としての誇りが感じられる光景だと思った。
アドリアンが問題の中に長所を見出すことができたのは、そのためだった。
少し離れたところで言葉を詰まらせているグレンの姿が、やけに目についた。
彼はしきりに視線を下に向け、そわそわとしている様子だった。
「どうしたんだろう?」
アドリアンは半ば心配しながら、その光景を見つめた。
興味と疑問が入り混じった心境で、彼は領主に近づいた。
「領主様、何かご不便なことでもございますか?」
彼がそっと近づいた後でようやく、グレンが手で弄っていた物が何なのかがわかった。
それは剣の柄に取り付けられた装飾品だった。
青い糸でぎこちなく結びつけられた装飾。
名剣に取り付けられるには、あまりにも粗末で未熟な作り物だった。
それがグレンの目にも気になっていたのだろう。
だからこそ、彼はそれを手に取っては、不安げに弄っていたのだ。
一体どこの誰が、このような低品質の品を領主の剣に取り付けようと考えたのか。
アドリアンの視線には明らかな疑念が浮かんでいた。
リガが勢いよく声を張り上げた。
「いや、あの青いリボンのようなもの、一体何ですか?誰がそんなものを領主様に渡したというんですか?すぐに外して捨ててください。大領主の体面が……。」
「ナディアが作ってくれたものだ。」
「さすがに驚きましたが、奥様の作品でしたか。自由奔放なデザインのリボンが、非常に芸術的ですね。こんな芸術作品をなぜ剣の柄に結びつけているんです?持ち物の中に、いえ、金庫の中に大切に保管するべきですよ。」
「……。」
主君の、何とも言えない目つきを感じ取ったが、それでもリガは気にせず話を続けた。
「なぜそうされるのですか?」
「……いい。話すのはやめよう。」
そう言いながらも右手はアドリアンの言う通りに装飾を取り外した。
そしてそれを服の内ポケットにしっかりと入れた。
失うことになれば大きな代償ではないか?
数晩は夜もまともに眠れないだろう。
「本当に魔法使い様が作ったものなのは間違いないようですね。カバよりももっと慎重に扱われているのを見れば。」
「うるさい。」
短く答えたグレンが外套の襟を立てながら振り返って後ろを見た。
本城の城壁はいつの間にか見えなくなるほど遠ざかっていた。
霞みに隠れて見えないその向こうに、彼の故郷と家族がいる。
いつか再びあそこへ戻れるかどうかは、まだ分からないことだった。
しかし、長く待つことはないだろう。
いつの日か再び目にするその時を心待ちにしながら、彼は前へと歩みを再開した。
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バベル2世14年、2月。
悪魔戦争勃発。
バベル2世15年、3月。
1年という時間を費やした戦争が終わりを迎える。
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戦争勃発から1年が経過した後、東部の中心都市ベラクサス。
かつて東部地域で最も繁栄していた都市だったその場所は、怪物軍団の拠点に占領されてから久しかった。
それでも幸運だといえるのは、それが彼らの最後の占領地であるという点だった。
つまり、ベラクサスを奪還することさえできれば、この戦争は終わるということだ。
東部各地に散らばっていた国王の忠臣たちは、ベラクサスへ向かう途中で合流し、一斉に攻撃を仕掛けることにした。
しかし、集結した彼らを待ち受けていたのは、
「城の中から煙が立ち昇っているように見えるけれど?」
悪魔族ではなく、すでに火に焼き尽くされた城の姿だった。
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ベラクサスへ無理に進入した英雄たちは、地獄と化した街の姿を目にすることになる。
すべてが燃え尽きていた。
城の内部だけでなく、外部の農地や村まですべて。
生きているものは何一つとして残されていなかった。
城の内部を見て回ってきたジスカラが短く報告した。
「遺体は見当たりません。いや、一部は見えるものの、この場所の人口を考えるとあまりにも少ないです。」
「つまり、全員が連れ去られたということか。」
「そうでしょう。殲滅を恐れて全員逃げ出したようです。」
「この……悪党どもが。」
荒れ果てた城の内部の光景から、目を離すことができなかった。
自分が統治していた城ではないにせよ、他種族の手によって人類の文明が破壊されたのだ。
もう少し状況が悪化していたら、北部も同じような結末を迎えていたかもしれなかった。
他の領主たちも同じ感情を抱いているのか、無事に突入したことへの喜びよりも、恐怖と怒りが空気を支配していた。
だが、衝撃的な光景はさておき、彼らはこれからどう行動するべきかを決めなければならなかった。
最後の決戦を挑みに来たのに、敵はすでに逃げ去っていた。
その場で臨時会議が開かれることになった。
最初に発言したのは、他ならぬグレンだった。
「大多数を連れ去ったのだから、遠くには行けていないはずだ。すぐに追跡しなければならない。」
ベラクサスの元々の人口を考えると、少なくとも数百、多ければ数千人の人間が連れ去られたに違いない。
ここに集まった者たちの中で、魔族が人間の捕虜をどう扱うか知らない者はいなかった。
彼らを救出しなければ、それは全員の死を黙認するのと同じ意味を持つ。
奴らが幕を越えて逃げれば手遅れになる。
グレンは改めて他の忠臣たちに言葉を投げかけた。
「ラファイエット子爵の侵攻が城の火種を点けたのはほんの前のことだ。時間がない。今は悠長にしている場合ではない。」
「……。」
しかし、彼の言葉に積極的に反応する者は誰もいなかった。
一部の者がグレンに賛同するような素振りで喉を鳴らしたが、大多数は口を閉ざしたまま、視線をそらしていた。
グレンは戸惑いの表情を浮かべ、再び口を開くしかなかった。
「どうしてみんな黙っているんだ?」
「侯爵様、我々の任務は王国の領土を守ることにありました。」
淡々と答える声の主は他でもないタクミだった。
グレンの視線がその声の方向に向けられる。
「それはどういう意味だ?」
「ベラクサスを奪還した時点で、王国軍の任務は完了したということです。無血開城で終わったのは幸運でした。」
「……正気の沙汰か? 王国の国民たちが怪物どもの捕虜になった。魔族が人間の捕虜をどう扱うか知らないわけでもないだろう。それを知りながら放置するつもりか?」
「我々が敵軍を追撃したところで、彼らが素直に捕虜を解放すると思いますか? 必ず戦闘が勃発し、その過程でまた犠牲者が生まれます。兵士たちもまた我々の王国の国民ではありませんか? 戦いを避けることもまた命を守る手段です。」
「今、一体何を言っているんだ……。」
「慎重を期すべきですが、私もまたタクミ侯の意見に同意します。」
ラファイエット子爵もまたタクミ侯の意見を支持した。
全く慎重さを欠いた声ではなかった。
彼は集まっている忠臣たちに向かって言葉を発した。
「我々はそれぞれ別の戦場で戦い、ここに集結してからまだそれほど時間が経っていません。互いの連携も十分ではない。このような状況で、あの冷酷な連中を相手にした場合、勝率がどれほどになるか……。」
「命を救おうとして、かえって命を失うこともあります。兵士たちもまた、我々が守らなければならない存在ではありませんか?」







