こんにちは、ピッコです。
「政略結婚なのにどうして執着するのですか?」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

90話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- それぞれの戦場⑧
ナディアが再び目を開けたとき、彼女は白い天幕の中に横たわっていた。
「うう……」
どうしてこの場所で目を覚ましたのか、その過程を思い出すのには少し時間がかかった。
『アラウンドに救援物資を直接届けに行こうとして……そこでグレンが撤退するという知らせを聞いて……ああ!その後、突然モンスターたちが押し寄せてきた……』
気を失う直前、グレンと騎士団の姿が見えたことを思い出した。
まだ自分が生きていることを見ると、あれは幻ではなかったようだ。
グレンがどうやってアラウンドの危機を察知したのかはわからないが、援軍が適切に到着したのは奇跡的だった。
もし彼が少しでも遅れていたら、自分は今頃生きていなかっただろう。
彼女は大きく安堵の息をつきながら、他の人々の安否を思い浮かべた。
『他の人たちはどうなったのだろう?』
疲れた頭の中に浮かんだのはファビアンの顔だった。
最後の激戦が巻き起こっていたとき、彼の姿はまだ戦場に留まっていた。
その傷を抱えながらも、彼は戦い続けていた。
「他の人々は無事だろうか」と思いながら、彼女は立ち上がろうとした。
しかし、その動きは短く、痛みを伴うもので止まった。
身体中の筋肉が反発しているかのようだった。
彼女は横たわった状態で聞こえてくる声に耳を傾けた。
それは、近くで彼女に呼びかけるような声だった。
「ナディア? 起きてるのか?」
その声はグレンのものだった。
彼女が横を向くと、椅子にもたれかかったグレンの顔が見えた。
彼は完全に眠るでもなく、薄目を開けたような状態だった。
「ここは……どこですか?」
ナディアが弱々しく尋ねると、グレンが少し微笑んで答えた。
「アラウンド城近くの工場だ。本館では負傷者の対応が追いつかないから、ここで治療しているんだ。」
「そうしましょう。すべて壊したのだから……。」
「それより、体は大丈夫か?」
「大きな怪我はないみたいですが……筋肉痛が少しひどいです。起き上がるのを少し手伝ってもらえますか?水が飲みたいです。」
彼はナディアを支え、彼女が背中を預けられるよう助けた。
その後、彼は水の器を手渡し、ナディアが急いで尋ねた。
少し焦った声でこう尋ねた。
「他のみんなはどうなったのですか?それと、ファビアンは無事ですか?腕に大きな怪我を負ったようですが……。」
「ファビアンなら、幸いにも命は助かっている。しばらくは安静にする必要があるが。」
「それは良かったです。それでは、他の騎士たちはどうですか?」
「……」
グレンの表情に影が差した瞬間だった。
彼女の胸がどっと重く沈んだ。
「本城から連れてきた騎士たちの中で……三人が戦死した。残りは大小の怪我を負ったものの無事だ。」
「……あ……」
彼女は戦死した三人の名前を尋ねる勇気を持つことができなかった。
しばらく言葉を選んでいたナディアが、ようやく口を開いて尋ねた。
「なぜ……モンスターウェーブが起きたのでしょうか?まだその時期ではないのに……。」
おそらく前世でも同じ時期にモンスターウェーブが起きたのだろう。
しかし、その当時のナディアは、それが北部で対処されるべき問題だと考えて深く気にかけなかった。
その時、彼女はおそらく薬草師と父親の部下たちが無事に帰還することだけを祈っていたのだろう。
もし北部の状況にももう少し注意を払っていたなら、彼らを救うことができたのだろうか?
犠牲になったのは、いつも通り城にいた騎士たちだけではなかった。
アロンドの警備兵や、普通の村の住民たちまで犠牲を強いられることになった。
もし前世で、もう少し外部の状況にも関心を持っていたなら……。
そのとき、グレンが涙を流す彼女の肩に手を置いて慰めた。
「悪魔族の大規模な侵攻が影響を及ぼしたのだろう。それは君が予測できることではなかったのだから、責任を感じる必要はないよ。」
「……そうですね。」
軽く目頭を押さえて涙を拭い、姿勢を正した彼女は、視界の中で何か奇妙なものに気づいた。
意識を取り戻したときは、気づかなかったが、あれは確かに……。
「グレン、まさか泣いていたのですか?」
「いや。」
答えはすぐに返ってきた。あまりにも速すぎて不自然なくらい。
「目が赤いですよ?それに少し腫れているようです。」
「そんなことはない。北部の騎士は簡単には涙を見せないものだ。」
「それなら、今日はその困難な姿を見せてもらったというわけですね。」
「本当に違う。」
「使用人たちに頼んで鏡を持ってきてもらいましょうか?」
「……」
彼は口を閉ざしたまま視線をそらした。
ついさっきまで深く沈んでいた気持ちが少し晴れてきたようだった。
グレンのような男性をからかうのは、やはり楽しいものだった。
しばらくの沈黙の後、グレンがしぶしぶ口を開いた。
「……正直に言うと、ほんの少しだけ。」
「そうですか、ほんの少しだとしても。ところで、どうして泣いたんですか?」
「……」
彼は困惑したように顔を少しそむけた。
ナディアはさっきよりもさらに楽しさを感じていた。
「君が……もしかして目を覚まさないんじゃないかって思ったんだ。」
「大きな怪我もないのに、どうしてそんな心配を……。」
手を振り払おうとした彼女は、ふと「あ」と小さな感嘆の声を漏らしながら尋ねた。
「まさか私が一晩中あなたのそばで祈っていたとか思ってるんですか?」
「それは……まあ、一日くらい。」
「……」
視線をそらす様子を見て、やはり自分が少し困惑させたのだと気づいたようだった。
「夜通し見守ってくれたなんて、それは当然のことですよ。そう見えなかったのに、意外と動揺してるんですね。」
「動揺しているわけじゃない。ただ、顔色がどれだけ真っ白だったか……。」
「はい、はい、わかりましたよ。人が生きているのを見て、少しぐらい泣くこともあるでしょう。」
ナディアは彼をからかうのをやめることにした。
目を赤くして涙ぐんでいる人をからかうのは少し申し訳ない気がしたからだ。
ちょうど入口の扉が開いて誰かが入ってきたのはその時だった。
「領主様、どなたとお話を……おや、目を覚まされたのですね。」
素早く歩み寄ってきたのは他でもないヨハン卿だった。
グレンとともに本拠地を離れていた彼らの一人であり、彼と再会するのはほぼ1年ぶりのことだった。
ナディアは微笑みながら挨拶した。
「本当にお久しぶりですね、ヨハン卿。またお会いできて嬉しいです。」
「私も同じ気持ちです。それよりもお体の調子はいかがですか?」
「筋肉痛がひどい以外は大丈夫です。軽い傷だけなので、徐々に治るでしょう。」
頭の中で一つの疑問が不意に湧き上がったのはその瞬間だった。
ナディアは好奇心を抑えられず、すぐに尋ねた。
「ところで、アロンドの使者はどうして来なかったのでしょうか?本拠地に入ってからここに来るには時間が足りなかったはずですが……。」
「ああ、それはそうです。あの者たちのおかげです。少しだけお待ちください。」
そう言うと、ヨハンは足早に来た道を引き返し、入口の外へと出て行った。
再び戻ってきた彼の手には、小さな黒竜が抱えられていた。
「この子が、回復していた私たちにアロンドの知らせを届けてくれたんですよ。」
「キルル。」
「竜ですか?本拠地に送ったのに、どうやって知ってそこに行ったのか……。」
「たぶん、本拠地に使者が到着しても時間内に間に合わないと判断したのでしょう。空を飛べるこの子が、私たちに助けを求める方が良いと判断したんだと思います。」
ナディアの口が少し開いた。
「竜がそこまで判断する知能を持っているとは……。驚きですね。」
「まあ、主人が驚いておられるようなので、それをお前が説明しろ。」
言葉を話せない小さな竜に説明を求める。
ノアを軽く叩きながらそう話すヨハンの行動に、彼女は思わず微笑みを浮かべた。
「竜がどうやって言葉で説明をするんですか?冗談でしょう……。」
「こいつ、意外と話が上手いんだよ。」
「え?」
ナディアの目が丸くなった。
「今、何を言っているんですか……。」
「非常に流暢だった。完璧な共通語を話していたよ。」
その主張を裏付けたのは、他でもないグレンだった。
彼は回想するように語った。
「小さな黒い竜が空から飛んできて、突然アロンドに行かなければならないと言い出したときは、どれだけ驚いたことか……。」
「そうです。私は自分が夢を見ているのかと思いました。」
「……」
突飛な主張をされると、耳を傾けないわけにはいかなかった。
彼女の視線がノアに向けられた。
ヨハンの手の中に抱えられた小さな黒竜は、必死に視線を避けていた。
「……本当なの?」
「キュウ。」
「鳴き声が普段と違うね?」
「キ、キーッ。」
「……」
急に静かになったが、すでに広がった疑念は収まらなかった。
どういうわけか鳥のような声が頭の中で反響し、感覚に刻まれた。
何か考え込んでいるようだ。
慌てて気を逸らそうとしたノアは、次の作戦に移ったのか、ヨハンの手から抜け出し簡易ベッドの上に飛び乗った。
「キルッ。」
そして、比較的白いお腹を見せながら尻尾を振り始めた。
「これは一体……。」
「ただ撫でてほしいだけみたいですね、主人に。」
ノアはその言葉に同意するように、ナディアの膝に頭をこすりつけた。
そのとき、ヨハンは微笑みながら笑声を漏らした。
「足に手紙もつけていたのに、わざわざ言葉で伝えたということは、それだけ急を要していたということですね。」
「まあ……その一件で今回は貸しを作ったようだな。」
「ただ可愛く許してあげてください。」
「……」
ナディアの視線は、相変わらずお腹を見せている小さな黒竜に向けられていた。
かぼちゃのような丸い瞳がきらきらと輝いている。
その愛らしい目の輝きに彼女は思わず微笑み、言葉を飲み込んだ。
ナディアは少し赤らんだ顔で髪を撫でながら考えを切り替えた。
「おかげで助かったわ。」







