こんにちは、ピッコです。
「政略結婚なのにどうして執着するのですか?」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

99話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 死を迎えた時期⑤
地平線の近くで黒い煙がもうもうと立ち上っていた。
ウィンターフェルの兵士たちが北部連合軍と合流するために移動している様子だ。
遠くからその様子を見つめていたナディアが静かに呟いた。
「領地に戻ってきてから、まだそんなに経ってないのに……また出ていくことになるのね。」
その言葉に応えたのはファビアンだった。
どこか戸惑ったような声だ。
「領主様のことですか?」
「ええ、東部に出陣して戻ってきてから、まだそれほど経っていませんでしたよね。」
「えっと、それ……もう数ヶ月も経ったみたいですね……。」
今度はナディアが慌てる番だった。
「数ヶ月?」
「はい、ご帰還祝いのパーティーを開いてからどれくらい経ったか覚えておられませんか?」
「……そ、そうかな?」
思い返せばアラウンドで再会してから、すでに半年以上が過ぎていた。
それなのに一緒に過ごした時間がどうしてこんなにも短く感じられるのか……。
混乱したナディアは何も言葉を発することができなかった。
すると、ファビアンがどこか物悲しい眼差しと共に口を開いた。
「でも、本来恋人と一緒に過ごす時間って短く感じるものですよ。」
「恋人だなんて!私は……」
思わず反論しようとした彼女の声が途切れた。
疑わしげなファビアンの眼差しが感じられたからだ。
『それにしても、他の人たちには私はグレンを熱烈に片思いしているという設定だったよね……』
でもそれは単なる演技のはずなのに……なぜグレンと離れることが悲しいと感じてしまうのか、自分でも分からなかった。
ナディアの沈黙を別の意味で解釈したかのように、ファビアンの眼差しはまるでこの世の中すべてが哀れに見えるように変わった。
「まぁ……お心を痛めておられるようですね。しかし、愛しい人と一緒に過ごす時間というのは、どんなに長くても短く感じられるものです。」
(違うよ。違う。それじゃないって!)
ナディアの心の中の声がそう叫んだが、口からはその言葉が出なかった。
『一時的な現象にすぎない、少し時間が経てば元に戻る。大したことじゃない。』
いつも一緒にいた仲間が隣からいなくなったという喪失感。
それに加えて、負傷しているのではないかという不安が重なって、ますます気分が沈んでいくだけのことだ。
忙しく仕事に追われていれば、しばらくは忘れられる感情。
そう判断したナディアは歩を返して言った。
「とにかく、早く入りましょう。冷たい風にあたると余計に感傷的になるみたい。」
「はい、奥様。」
しかし、一日、二日、三日……
ついには一か月という時間が過ぎても、その虚しさは消えなかった。
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「奥様、ソーセージを作りました。一度お味見なさいますか?」
「奥様、防寒用の服を作ったのですが、服地が届いたので一度ご確認いただくのが……」
最前線のどこかでは激しい戦闘が繰り広げられているだろうが、直接見ていない以上は現実感が薄れるのも無理はない。
前線を支援する後方の状況は、今日も平和そのものだった。
使用人たちは貯蔵食料を作るために忙しく駆け回り、技術者たちは作業場の隅で顔を出すとは思っていなかった。
彼らを管理するのはナディアがずっとしてきた仕事だった。
つまり、彼女の日常には何の変化もなかった。
ただ変わったのは、ナディア自身だったということ。
「……」
「えっと……奥様?」
「……」
「奥様?侯爵夫人?」
どれだけ呼びかけても、奥様からは返事が返ってこなかった。
ただ、手すりにもたれたまま、ぼんやりと地平線を見つめているだけだった。
匂いだけで食欲をそそるソーセージを傍で振って見せても、彼女はまったく無反応だった。
侍女たちは目で会話を交わした。
『数日前からずっとあんな調子だけど……本当に具合が悪いんじゃない?』
『ほんとに。医者を呼ぶべきじゃないかな……』
――その時だった。
「侯爵夫人、領主様からお手紙が届きました。」
幕舎の入口から聞こえてきた声に、侍女たちの視線が一斉に向いた。
そこには伝令が立っていた。
侍女たちが奥様に伝令の到着を知らせるために、再び呼び鈴を鳴らそうとした時だった。
「奥様、領主様から…… え? どこに行かれたのですか?」
奥様が座っていた席は空っぽだった。
不審に思って周囲を見回すと、彼女たちはすぐに奥様の行き先を見つけることができた。
ナディアは伝令から直接書状を受け取っているところだった。
「グレンが直接書いた手紙だって?」
「はい、奥様が心配されているかもしれないと直接お渡しになられました。」
「ご苦労だった。」
ナディアは手紙を読むため、元の席へ戻った。
ちょうど封を切ろうとしたその瞬間だった。
周囲から奇妙な視線を感じる。
「……みんな、どうしたの?」
「……」
自分を見つめる周囲の視線はどこか張り詰めていた。
まるで何かを悟ったような目つきだった。
いや、それよりも――
「あなたたち、いつからここにいたの?」
「さっきからです。厨房でソーセージを作ったと言うので持ってきたのですが……」
「……ソーセージ? いつ?」
「こちらです。」
侍女たちがテーブルの上に置いていた皿を差し出した。
粗く焼かれたソーセージの1本が鈍くてどろっとした姿をしていた。
「……」
そのときになってようやく幕舎の中に充満した冷たい臭いが鼻を突いた。
なぜそれに今まで気づかなかったのか?
目の前に証拠があるのだから、これ以上言葉は必要ないだろう。
ナディアは呆然とした顔で話題を変えなければならなかった。
「……ちょっと。ぼんやりしていて我を忘れていたみたい。まずはグレンの手紙から読まなきゃ。」
すると侍女たちは待っていたかのようにレターオープナーを差し出した。
ナディアはそのまま席に着き、手紙を読み始めた。
大部分は伝令を通してすでに聞いていた内容ではあったが、グレンの視点で語られる話はとても新鮮だった。
初勝利を収めた時の喜びや、統制をよく守っている北部の兵士たちについて感謝の気持ちだったり、一日でも早くこの内戦を終わらせたいという決意だったり、あまりにも簡単に勝っていることへの戸惑いだったり。
手紙をすべて読み終えたナディアの口元にかすかに笑みが浮かんだ。
奥様が微笑むと、そばで見守っていた侍女たちが駆け寄って尋ねた。
「なんて書いてありました?え?」
「最初の戦闘で勝利したって。それに、これすべてが私のおかげだって。」
手紙を読み終えたナディアの顔は、さっきとは違って明るく輝いていた。
さっきまで今にも死にそうだった顔とは全く違う。
その変化に気づかないはずのない侍女たちは、笑いながら言った。
「気分、少しは良くなられましたか、奥様?」
「うん、確かにそうね。」
「領主様の手紙一つで表情が変わるなんて……奥様は領主様のこと、本当にお好きなんですね。」
「それは……」
すぐさま否定しようとしたナディアだったが、口を開きかけてやめた。
これ以上否定するのが無意味に思えたからだった。
それが感じられたのだ。見慣れない感情だからといってずっと無視するのは正しくない。
考えてみて。
彼が自分を守ってくれると言ったとき、心臓がどれだけ激しく跳ねたか、まだ昨日のことのように鮮明だった。
また別れなければならなかったとき、憂鬱な気分を見せないようにどれだけ努力したかも。
最前線からの知らせがしばらく届かなかったとき、どれだけ不安で眠れなかったかも。
最初の勝利を知らせる伝書鳩が飛んできたとき、どれだけ嬉しかったかも。
「……」
その瞬間、ナディアはついに悟った。
『私、彼のことが好きだったんだ。もしかしたらずっと前から。』
小雨に濡れるように、自然としみこんでいた。
あまりにも少しずつだったから、気づけなかっただけだった。
いつかウィンターフェルを離れなければならないと思っていた理由は、ビダンの周囲の人々に情が移ったからだけではなかった。
ウィンターフェル——もっと正確に言うなら、グレンのもとを離れたくなかったからだ。
今ようやく分かった。ようやく気づいた。
感情の奥底に押し込められていた小さな気持ちが顔をのぞかせた。
ナディアはただ、声を出して笑ってしまった。
しばらく沈黙していたのち、ひとりで笑い出す奥様を侍女たちはとても不思議そうな目で見つめなければならなかった。
「奥様、ご気分は大丈夫ですか……?」
「リサ、ペンと便箋を持ってきてちょうだい。」
「え? あ、はい。分かりました。」
なぜ突然笑い出したのか、その理由はわからなかったが、とにかく命令に従うのが先だった。
「領主様にお返事を書かれるのですか?」
「うん」
ナディアは机の上に紙を置いて、簡単な文をさらさらと書きつけた。
そして自分の首にかかっていたペンダントを外し、それを手紙の封筒の中に入れて封をした。
「リサ、シーリングワックスも持ってきて。」
「えっ、もう全部使われたんですか?少々お待ちください。」
長文の返事を書くと思っていたリサは、まさか一行で終わるとは思っていなかった。
余裕たっぷりに待っていたリサは、慌てて後ろを振り返って駆けていった。
シーリングワックスを取りに行く途中、リサはふと思った。
『でも、もともと堅い信頼がある恋人同士には多くの言葉は必要ないものよ。』
「こちらです、奥様。」
こうして手紙の封が閉じられた。
ナディアは外で待っていた伝令たちを呼び、笑った。
グレンがこの手紙を読んでどんな反応を見せるのか、それを直接見ることができないのが少し残念だった。







