ロクサナ〜悪女がヒロインの兄を守る方法〜【１話】ネタバレ

この話は親愛なる私の父がある少年を拉致してきたことから始まった。

「お父様、これは誰ですか？今まで見たおもちゃとちょっと違うけど？」

「生意気な犬の息子なので、教育を受けさせようと連れてきたんだ」

私は一目でその子が誰なのか気づく。

あんな存在感溢れる人は、この世界の主役なのだろう。

「じやあ、私が遊んでもいいですか？もう私もしっかり教育できると思います」

「私も、私も！」

父親に似て目が黄色い弟たちが餌を目の前に置いた小鳥たちのように貪欲にびよびよと鳴いた。

「とりあえず、ちょっと従順になるまで地下に閉じ込めておけ」

父親の命令を受けた部下たちが少年の髪をつかんだ。

彼は、大魔物用の拘束具を手足につけて、口に轡までくわえていた状態だった。

しかし、単身で死地に転がり込んできた人とは信じられないほど、少年から漂う気迫は凄かった。

彼は地下の刑務所に連れて行かれる間も、最後まで私の家族を厳しくにらみつけた。

その殺気立った目つきに私は痺れるほどだ。

「おお、今度のおもちゃは面白そうだね」

「早く一緒に遊びたい」

前にも言ったように、私は彼が誰なのかすでに知っている。

まさに女性主人公の兄であるカシス・ペデリアン。

浮かれて騒ぐ弟たちとは違って、今私の頭の中をいつばいに満たしている考えはただ一つだけ。

わぁ、これは完全に締め切られた。

とうとうこのお父さんが私に死亡フラグを差してしまったのだ。

もちろん私も最初からここが本の中の世界だという事実を知っていたわけではない。

私が交通事故に遭って死んだのは吹雪の真冬。

しばらく卒業論文で格闘して図書館で遅く帰宅するところだったが、雪道に滑った車が歩道を襲った。

私は運悪くも、よりによってその場を通り過ぎていたのだ。

そうして私は死に、転生した。

まあ、前世のことは口々に詠まずに省略するようにする。

どうせ別に面白くもないだろうし。

今になって過去を懐かしんで反省しても私に役に立つことは一つもないから。

そして、ここで重要なのは私が過去の人生でどんな人生を生きてきたのかではなく、どれほど乞食のようなところで転生したのかということだった。

スタートは意外と悪くなかった。

「今度は娘だなんて。慰めの言葉があるから、ちょうといいね」

生まれて一番最初に聞いた母の声は優しく暖かかった。

聞いてみると、私の上に息子ができたので、二番目には娘が欲しかったようだ。

もちろん、死から生まれ変わったという事実にかなり大きな打撃を受けたが、それでも私はかなり早く現実を受け入れた。

そうでなければどうしようもない。

もう私は死んでいるし、いくら望んでも以前には戻れないのだから。

それに私はもともと適応力がかなり良い方だ。

新しい私の母はとても美人だった。

純金を溶かして作ったような蜂蜜のような甘い金髪に湖のような深く青い瞳を持った母親は、童話の中に出てくるお姫様のように美しい。

わぁ、こんな美人を勝ち取った男だなんて。

私の父は完全に幸運児だね。

私はかなりの間抜け気質があり、以前からハンサムな兄たちよりは綺麗な姉たちを見るのが好きだった。

それに私の母は混血なのか、東西洋が組み合わさった実に完璧な美親を持っていた。

私は毎日母の顔を見て感心した。

「そう、この子か」

しかし、私の父は母よりも印象的な外見をしていた。

「あなたによく似ているようだね」

黒髪に赤い目をした男と視線が合った瞬間、私はびっくりするしかなかった。

彼は私の母とはちょっと違う意味で目立つ人だ。

目鼻立ちがとてもはっきりしているためか、それとも瀑う雰囲気がとこか尋常でないためか、彼は一度見れば忘れられないような非常に強烈な印象を持っていた。

かなりの美男子でもあったが、周囲の雰囲気に押されて、むしろ美形の外見が目立たない感じ。

「はい、でも目はあなたに似た赤い色です」

私の母は清楚な笑みを浮かべて言った。

こうなると、私は自分の美親が期待され始めた。

この2人の遺伝子を持って生まれたなら、私も美統を見せるのが当然ではないか？

「ロクサナ。この子の名前はロクサナにする」

彼は私の名前だけつけて、一人で外に出てしまった。

そういえば、この人は私の視野が開けるまで、たった一度も私を訪ねてこなかった父だ。

今私を見下ろしていた父の眼も、娘を見ているとは信じられないほど無味乾燥だった。

あんな愛想のない人が私の父だなんて。

「ロクサナ。私のかわいい赤ちゃん」

お母さまも、少しお惰やみのように、それでも、いつものように、にこやかに笑って、私を見下ろした。

「旱く無事に育って立派なアグリチェにならなければならないと」

その瞬間、不思議な既覗感がした。

アグリチェ。

どこかで聞いたような名前なんだけど。

それにしてもお父さんまでがあんなのを見ると、私は外国で転生したのかな？

使用する言語が英語ではないようだが、私が自然に聞き取れるのを見ると、それなりに転生者パフというものを受け取ったような気もした。

しかし、すぐに眠りに落ちたため、長く悩む事ができない。

赤ちゃんはよく寝るそうですが、本当にそうですね、うん。

私は母の励ましの言葉でぐっすり眠った。

その時まで私は知らなかった。

私が属しているこのアグリチェがどれほど恐ろしく恐ろしい家門なのか。

そして私がとんでもないところで転生してしまったという事実も。

まあ、知っていてもできることは何もなかったけどね。

私の上には兄一人だけではなかった。

後で分かったことだが、この世界は個人の能力次第で一夫多妻制や一妻多夫制が許される世界。

私の父の妻は全部で4人だと言った。

今まで生まれた父の子は私まで合わせて5人。

そしてその中で私と同じ母を持つ兄弟はたった一人だけ。

私と四つ違いの兄の名前はアシルだった。

「サナちゃん、可愛い私の妹。私が必ず守ってあげる」

お母さんに似た金髪とお父さんに似た眼を持った私と違う知り合いは、頭の先から足の先まで皆お母さんに似ていた。

彼は子犬のようなやつだった。

このような悪毒な家で生まれ育った奴らしくなく、心が優しくて澄んだ笑いを持った少年でもあった。

彼は私がゆりかごにいる時から、馬鹿みたいにへヘへと笑って、そんな小生意気なことをよく言っていた。

それでも実際の私よりずっと幼いくせにお兄さんと言って私を気遣う姿が笑わせたりもした。

私がこのような家でそれなりに適応して暮らしたのは、アシルの影響が大きいだろう。

私の家の名前はアグリチェで、この家の家風はかなり独特だった。

簡単に説明すると、アグリチェは裏世界に位置する犯罪者一族。

例えば、盗みをしたり、詐欺をしたり、麻薬や毒物も密売したり、そうして必要ならば人も殺し、それで稼いで暮らす一族だった。

マフィアの集団でもないのに、私は呆れた。

しかし、さらに呆れたのは、この家門で生まれた子供たちもそのような家風に従わなければならないという事実だ。

これまでもアグリチェはそのような形で命脈を維持してきたし、私たちも真のアグリチェになるために幼い時から地道に教育を受けなければならないと言った。

しかし、日本の平凡な人だった私が、そのような家風を簡単に受け入れることができるはずがなかった。

いくら私の適応力が速かったとしても、これは例外。

ここで毎日勉強することっていうのは武器の扱い方とか、毒と麻薬とか、隠れ方とか、人の急所とか、そういうことだったから。

むしろ覚えるだけの勉強なら良かったが、私は特に実技の方にオ能がなかった。

「何一つ特出なところがないね」

「私の父」という人間も容赦なく評した。

私はその時8歳で、その間この人間の顔を見た回数もその程度だ。

一言で言えば、私たちは情のない親子だった。

私の父であるラント・アグリチェは子供たちにあまり興味がない。

まあ、その間、奥さんも子供も増えて、もうこの家にいる私のお母さんたちは十人、私の兄弟たちの数は十六人になった。

だから、彼ら全員に均等な関心を向けるのも無理だろう。

「一つでも優れた部分があれば、そちらをもう少し開発させてみるが」

品定めのように私に目を通す視線に気分が悪い。

まるで娘ではない物を見ているような目つき。

いや、私がいつこんな家のために働きたいと言ったっけ？

不快に何か一言言ってあげたかったが、母親と知り合いが数日前から私を捕まえて何かを頼んだことがあって、ただじっとしていた。

母はそんな私のそばで、なんだか怖くなるほど緊張していた。

とうとう父が私の顔をちらりと見て、また口を開く。

「それでも他の方に使い道があるだろう」

私の使い方を決めたのか、父はこれから私に別の教育をさせるよう命じた。

それで私がその日から学ぶようになったのは・・・。

まさに「魅惑術」だった。

やばい！

いや、もちろん美人のお母さんに似て、私がずば抜けて綺麗なんだけど！

それでも普通の家庭なら、8歳の子供にこんなことを教えるはずがないよね？

他の方に役に立つだろうと言っていたのがこんなものだったとは。

＜そっ、＜そっ。

どうやら、後で相手を惑わして情報を探したり、暗殺したりするために私を教育しているようだった。

こんな子供に惑い酒なんか教えるなんて、実にいやらしい家柄に違いない。

「お母様、私はこういうことを学びたくないんです。私はなぜこんなことを勉強しなければならないのですか？忘れていらっしゃるようですが、私は今やっと8歳です」

「サナ、そんなこと言ってはいけないわ。お前はアグリチェよ。一生懸命勉強してこそ、後で立派な家門の一員になれるんだ」

考えてみると、その時私の肩をぎゅっとつかんで話していた母には、ある切迫感があった。

私は母の哀れなまなざしに勝つことができなかった。

その上、この家は上命下麗の概念が非常に透徹していて、家の主人である父の命に逆らうということはありえないことだった。

とても汚くてずるかったが、結局私は状況を覆すことができず、言われた通りに教育を受けることに。

しかし、熱心にする気が到底できなかったためか、その後も私の成績は全く遅々として道まなかった。

そんな中、私の友人であるアシルが「廃棄処分」になった。

彼が15歳の時のことだった。

「アシル・・・！」

耳元に響く母親の悲鳴は極めて非現実的だった。

数日前まで私の前で明るく笑っていたアシルは冷たい死体になって母と私の元に戻ってきた。

私はすっかり気が抜けた。

自分を「執行官」と紹介した女性は、アシルがアグリチェにふさわしくないと判明したため、規則に従って彼を廃棄処分したと話す。

私たちの世代にその規律が発動されたのはその時が初めてだった。

その瞬間、冷水を浴びたようにばっと気がつく。

それと同時に全身に悪寒が走る。

『何一つ特出なところがないね』

3年前、物を品定めするような目で私に目を通していた父のことを思い出した。

その日に限って不思議なほど緊張していた母親の姿も。

この家が奇異にねじれているという事実は知っていたが、まさかこの程度だとは想像もできなかった。

気弱な母親はアシルの遺体を前にして気絶する。

そしてその後、10日間ほど寝込んだ。

当然、私も大きな衝撃を受けた。

このままではいけないと。

アシルが廃棄処分されたなら、その次は私かもしれない。

そんな考えをすると、背筋に鳥肌が立つ感じだった。

父親のラント・アグリチェはどんな形であれ役に立つ人が好きだ。

まず私はその後、かつてないほど熱心に教育に取り組んだ。

そしてそれと同時に冷静に私が置かれた状況を再び把握し始めた。

「サナ、最近勉強はうまくいってるの？」

「はい、頑張っています」

「そうだね、立派なアグリチェになるために今日も最善を尽くさなければならない」

「はい、お母様」

私はもう彼女の言葉に反輪しない。

8歳以後に主力分野が人を魅了する技術に変わっただけで、後日の使い道のために依然として多様なことを学ばなければならなかった。

基本的な体術から色々な武器を扱う方法、また毒に対する知識、全般的な情勢に対する情報習得と話術など、私が勉強しなければならない科目は非常に多かった。

家族愛というものは全く見られないこの家門は、月に一度大晩餐会の時間を持ったりした。

父親はその場に1ヵ月間、大きな成果を見せた上位3人の子供を呼んで一緒に時間を過ごす。

当然のことながら、今まで私と知り合いは一度も大晩餐会に招待されたことがなかった。

アシル以来さらに2人の子供が処分された。

そのうちの1人は、自分が死ぬという事実を予感し、アグリチェからの逃走を試みた。

しかし、結局捕まり、これまでの中で最も無残にも射殺された。

その頃、私はこの世界に疑問を抱いていた。

そして、その答えを求めるのは父親のラント・アグリチェしかいないことに気づく。

アシルが死んで1年が過ぎた12歳の夏、ついに私は大曖餐会の席に招待された。

そしてその時、私が転生したここが本の中の世界だという事実を確信する。