こんにちは、ピッコです。
「ロクサナ〜悪女がヒロインの兄を守る方法〜」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

どういう訳か小説の中の悪の一族、アグリチェ一家の娘「ロクサナ」に生まれ変わっていた!
アグリチェは人殺しをものともしない残虐非道な一族で、ロクサナもまたその一族の一人。
そして物語は、ロクサナの父「ラント」がある男を拉致してきた場面から始まる。
その拉致されてきた男は、アグリチェ一族とは対極のぺデリアン一族のプリンス「カシス」だった。
アグリチェ一族の誰もがカシスを殺そうとする中、ロクサナだけは唯一家族を騙してでも必死に救おうとする。
最初はロクサナを警戒していたカシスも徐々に心を開き始め…。
ロクサナ・アグリチェ:本作の主人公。
シルビア・ペデリアン:小説のヒロイン。
カシス・ペデリアン:シルビアの兄。
ラント・アグリチェ:ロクサナの父親。
アシル・アグリチェ:ロクサナの4つ上の兄。故人。
ジェレミー・アグリチェ:ロクサナの腹違いの弟。
シャーロット・アグリチェ:ロクサナの妹。
デオン・アグリチェ:ロクサナの兄。ラントが最も期待を寄せている男。
シエラ・アグリチェ:ロクサナの母親
マリア・アグリチェ:ラントの3番目の妻。デオンの母親。
エミリー:ロクサナの専属メイド。
グリジェルダ・アグリチェ:ロクサナの腹違いの姉。
ポンタイン・アグリチェ:ラントの長男。
リュザーク・ガストロ:ガストロ家の後継者。
ノエル・ベルティウム:ベルティウム家の後継者

17話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 犬と主人⑩
「サナ姉さん!」
部屋を出て数歩進んだところで、今回はジェレミーと出くわした。
廊下の端から歩いてきたジェレミーが、私を見つけて目を輝かせながら呼びかけ、まるで子犬のように駆け寄ってきた。
私は驚いて扉の前で立ち止まった。
ジェレミーも私を見るなり、なんだか気まずそうに足を止めた。
もちろんそれはほんの一瞬のことで、私もジェレミーもすぐに何事もなかったかのようにお互いに近づいていった。
「どうしたの、姉さんの服に血がついてるよ?」
ああ、私に付いた血のことを言っているのね。
私はまだ口を覆っていたハンカチをそっと動かし、口元を隠すふりをしながら服に付いた血を指で軽く拭った。
「執事の言うことを聞かなかったから、少しお仕置きしてきたの。」
「へえ、あの犬野郎がね。」
幸い、顔についた血はそれほど目立たなかったらしく、ジェレミーもあまり深く追及する様子はなかった。
むしろ、私がカシスにお仕置きをしてきたという話にさらに興味を持ったようだ。
アグリチェの子供たちはみな幼い頃から毒を摂取してきたが、各々がどんな毒を摂取しているのか、またそれがどの程度の副作用を示しているのかは、他の者に知られないようにされている。
それは、自分の弱点が明らかになることで不利になる可能性があるから。
実際、評価の際に高順位を得るために、その情報を利用しようとする兄弟たちもいた。
もちろん、ジェレミーがそういったことを理由に私を脅かすつもりだとは思わないが・・・。
とはいえ、こうした防衛機制は、アグリチェで生きる中で習慣のように形成されたもの。
もしジェレミーの視線が血を吐いたところを目撃していたなら別だが、それがそうでない以上、わざわざ自分から事実を告げる理由はなかった。
「姉さん、そろそろその話はやめたほうがいいんじゃない?ずっと続けてると気が滅入るよ。」
「そう?まあ、服に血がついてると思うと確かに不愉快ね。」
ジェレミーの言葉を受けて、私は腕を下ろした。
少し袖口を下げてみると、胸元に付着した血の痕が意外にも自然に見えた。
この程度なら、他の誰にも特に気にされることはないだろう。
「部屋に戻って洗わないとね。」
いや、でも何でそんなにぺろぺろ舐めるような表情なの?
ジェレミーがカシスの血を「汚い」と表現した自分の言葉にあざけりを込めているような気がしたけれど、まるでキャンディを舐めた子供のように満足そうな顔をしていた。
「ジェレミー、ここで何してるの?私を探しに来たの?」
「姉さんが部屋にいないから、もしかして執事長のところに行ったのかと思って見に行ったんだ。」
なるほど、私を探しに来たのか。
今日は珍しく、カシスがいる部屋から早く出てこれてよかった。
「それなら、私の部屋に行こう。」
私はジェレミーに向かって一歩近づいた。
そのとき、ジェレミーが一瞬鼻をくんくんと鳴らしてから口を開いた。
「でもサナ姉さん、また毒蝶の孵化室に行ったの?」
私はぎくりとした。
この子、嗅覚が鋭いなんて。
まさか今、匂いで気付いたってこと?
「姉さんから毒草の匂いがするよ。ほんの少しだけど。」
カシスを犬扱いするなんて…と呆れつつも、この程度ならジェレミーも気付かないはずがない。
そもそも私が毒蝶の孵化室に出入りしているのは、ジェレミーも以前から知っていたので、特に秘密にするようなことでもなかった。
「うん、ちょっと前に寄ってきただけ。」
とはいえ、いくら香りが微かだとしても、ジェレミーが匂いに気付いたということは、私の身体にまだ温室の毒気が残っているということだ。
それなら、もしかするとカシスにも私から毒の影響が及ぶ可能性がないとは言い切れない。
今後はカシスに会う前には、温室には行かない方が良さそうだ。
「今回は孵化すると思う?」
私の隣を歩いていたジェレミーが落ち着いた声で尋ねた。
「やっぱりその卵、ただ捨てちゃダメなの?他の誰かにあげてしまうとかさ。」
以前にも似たような話をした記憶があった。
ジェレミーは最初から私が毒蝶を孵化させることに対して、あまり良い印象を持っていなかった。
極端なことを言えば、以前エミリーが私の指示で毒蝶の卵を手に入れてきた日、彼はそれをうっかり壊してしまおうとしたくらいだ。
「ジェレミー。」
まさかとは思うけど、それでも私は一度、再び注意を促す必要があると感じて声をかけた。
「もしまた前回みたいに邪魔しようとしたら、本当に怒るからね。」
「そんなことしないよ!」
私の言葉にジェレミーは驚いた声をあげた。
以前、彼がわざとではないと言い訳しながらも毒蝶の卵を壊そうとした時、私が彼に向けた一瞬の冷たい視線は、彼にとってかなりの衝撃だったらしい。
「僕はただ、あんな寄生虫みたいな生き物を孵化させて、誰かの血を吸わせなきゃいけないなんて、嫌なだけだよ。」
ジェレミーが少し戸惑いながらも話を続けた。
私も彼がそうする理由を正確には理解できなかった。
なぜなら、毒蝶を自分のものとして認識する主は、実際には毒蝶の宿主となる自分自身であるという事実を彼が理解しているからだ。
それ以外にも、魔物という存在自体が常に危険を伴う存在であることを否定できなかった。
典型的な例として、毒蝶の各個体化に成功した後、血液の供給ができなくなった毒蝶が、育てていた主を襲って食べてしまい、主が命を落とすという事態も過去に報告されている。
そのため、ジェレミーは本当に私のことを心配して、こうしているのだろう。
私は隣にいるジェレミーに手を伸ばそうとしたが、途中で空中でその動きを止めた。
「頭を撫でてあげたいんだけど、手に血がついてる。」
「大丈夫、僕も洗えばいいから。」
まるで待ち望んでいたかのようにジェレミーが返事をした。
その即答ぶりには少し驚かされたが、思わず笑みを浮かべてしまう。
私は彼が望むままに、血のついた手で彼の頭を優しく撫でた。
私はジェレミーの頭を撫でてあげた。
それでもジェレミーは喜んだ様子で、髪の毛をボサボサにしながらも私に笑いかけた。
「それでも、直接孵化させようとした卵のうち二つは結局死んじゃったよね……。あ、いや!もちろんサナ姉さんが望んでいた結果にならなかったのは僕も残念だけど……。」
ジェレミーが考えなしに話し出したことに、自分でも驚いた様子だった。
「まあとにかく、一つ以上の個体を慣らすのは難しいし、今回は成功すればいいってことだよ。僕の言ってること、わかるよね?」
「わかってるよ。やっぱり私にここまで気を遣ってくれるのは、ジェレミーだけだね。ありがとう。」
もじもじとしながら勇気を振り絞るようなジェレミーの姿を見て、私は彼の不安を解きほぐしてあげた。
優しく笑みを浮かべ、もう一度彼の頭を撫でてあげたジェレミーは、安心したような表情を浮かべた。
その目はまるで新しい小鳥のようだった。
私はジェレミーを連れて、自分の部屋へと向かう階段を上っていった。
さっきジェレミーが言ったことが頭をよぎった。
私はすでに毒蝶の卵を一つ孵化させることに成功していたのだ。
・
・
・
閉ざされた扉を見つめるカシスの顔は、いつもよりずっと厳しい表情だった。
今さっき、その扉を通り抜けたばかりの私の姿が、まだ彼の視界に残像のように残っているかのようだ。
外から聞こえていた微かな足音も、すぐに消えた。
静寂が満ちた部屋で、カシスはついに手にしていたコップを置いた。
少し前まで私が座っていた席には、赤い液体の入ったガラスが置かれていた。
カシスの眉間にはわずかなシワが刻まれた。
さっきから漂っていた食欲をそそる香りのする食事が目の前に置かれていたが、そこに彼の視線が向かうことはない。
元々あまり強くない食欲が、完全に消えてしまったのだ。
もちろん、その理由はさっきの出来事が原因だった。
「気にしないで、大したことじゃないから。」
「うん。こういうの、元々よくあることだから。」
そんなふうに当たり前のように反応するなんて、血を吐くことがそんなに珍しいことじゃないのか?
実際、ロクサナにとってはすでに慣れたことらしい。
彼女自身、血を吐くことが他の人を驚かせるとは思わなかったと語った。
無表情で口元を拭うロクサナの姿が脳裏をかすめた。
白いハンカチと、その上にじわりと広がる赤い染み。
実は、カシスはロクサナを見るたびに何かしらの疑念を抱いていた。
ロクサナとの距離が非常に近くなると、微かな毒の香りが彼をよぎることがあったからだ。
最初は錯覚だと思いたかったが、何度か経験するうちにその考えが正しいと確信した。
もちろん、彼女から感じる毒の香りは極めて薄いものでしかなかった。
カシスが感じ取ったことが事実だとすれば、ロクサナがこれまで毒を扱ってきたのには、それなりの理由があるに違いない。
ただ、彼女が特に敏感な体質でない限り、このような兆候をカシスが見逃してきた可能性は低い。
いずれにせよ、このような状況が生じた原因として考えられるのは二つ。
身体内部で毒を自ら生成しているか、外部から毒を摂取しているか、のどちらかだ。
前者であれば病的な状態を示し、後者であれば毒への依存を意味する。
ロクサナがどちらに該当するかは、カシスにも判然としなかった。
ただ、彼女と会うたびに毒の匂いを感じることから、かなり長期間にわたって現在の状態を維持していることは明白だった。
ところが今日、昼食の時間にカシスの部屋を訪れたロクサナからは、いつもよりも強い毒の気配が漂っていた。
さらに彼女からは、微かに血の匂いさえ感じられた。
そのためカシスは、ロクサナがこの部屋に初めて入ってきた時から、彼女の様子を陰ながら観察していた。
まさか目の前で血を吐くことになるとは……。
そう考えると、地下牢にいた頃からもカシスはどこかロクサナに注目していた。
以前、ロクサナがカシスに「しばらくこの場所には来れない」と告げた日、彼女の言葉を聞いて部屋を去った後のことだった。
理由の説明もなく、ただその日だけはっきりとした血の匂いを漂わせながら、地下牢に彼女が訪れた記憶が蘇った。
その時も今のように吐血していたのだろうか?
カシスはその出来事を反芻し、深い考えに耽った。
ほんの数日前、ロクサナがカシスを訪ねて呟いた一言が脳裏に浮かぶ。
「……死にたくないのに……」
その時カシスは、自分の状況に必死だったこともあり、彼女の呟きを特に深く考えはしなかった。
しかし、床に広がる赤い血を見た今、その一言が急に記憶の中で重みを増し、頭の中でぐるぐると回り始めた。
それから、カシスがこの部屋に最初に連れて来られた際に男たちが交わしていた会話が突然頭に浮かび上がった。
「四代目様のことだよ。さっきアシル様の名前を出したのを聞いたか?」
「こいつがアシル様に似てるって?全然似てないと思うけど。」
「そうだよ。ロクサナ嬢も奥様も以前はこんなことに関心を持たなかったのに、どうして急に二人とも興味を示したんだろうね。二人の目には彼が似て見えるのか?」
「アシル様が亡くなられた時と年が近いんじゃないか?だからこいつがこんな役割を果たしてるのを見ると、アシル様のことを思い出してしまうんじゃないかな。」
今回の出来事と直接関係があるかどうかは分からないが、その日の記憶はカシスの心に何かしらの棘のように刺さっていた。
胸の奥で妙にざわつき、取れない魚の骨が喉に引っかかっているような感覚だ。
この感覚は以前にも味わったことがあった。
それは、ロクサナがカシスの傷を自分の手で治療した時だった。
シルビアが兄の話をするロクサナを見つめるカシスは、その瞬間何かに圧倒されるような感覚を覚えた。
もしそれがなければ、カシスは自分の治療をロクサナに任せることはなかっただろう。
カシスは顔をしかめ、やや乱暴に前髪をかきあげた。
その手つきには迷いがありながらも、彼の視線はドアの外へ向かっていた。
最後にロクサナが見せたかすかな微笑みが、カシスの瞳の端にちらついた。
「でも君は僕のことを嫌っていると思っていたよ……。そんな君が僕にまで気を遣ってくれるなんて、親切だね、君。」
「ありがとう。」
ロクサナがそっと呟いたその言葉は、カシスの胸の奥に引っかかるものをさらに重くした。
カシスは深く眉間に皺を寄せ、いら立つようにその感情を振り払おうとした。
その後、カシスはしばらくの間、その記憶を心の片隅に追いやろうと努めたが、ふと昼食の時のことを思い出し、ベッドの上で視線をさまよわせた。
そして、食事が置かれたトレイに目をやった。
食事はすでに冷たくなっていた。
依然として食欲は湧かなかったが、カシスは無言のままそれを全て口の中に押し込んだ。
そうだ、とにかく体を回復させることが最優先だ。
この瞬間でさえ、彼の家族のために血を吐くのを耐えているという心配を思い出させられた。




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