ロクサナ〜悪女がヒロインの兄を守る方法〜【２４４話】ネタバレ

「え・・・？」

ちょっと待って・・・、何が必要だって？

心臓？

今、心臓って言った？

いいや、間き損なっただけだろう・・・。

そして再び目が合った瞬間、ノエルの顔に今までとは違う感情が染み込んだ。

彼はニックスの前に急いで近づき、かがんだ。

急激に縮まった距離感にニックスは一瞬ドキッとしたが、ノエルは気づいていないようだった。

「ニックス、ダンテが・・・」

彼は今、ニックスを捕縛して床に押し付けるよう命令したことが自分だという事実も忘れたようだった。

「ダンテがし、死んだ」

「それはまたどういうこと・・・？」

「私が見つけた時は首が変に曲がってしまって、息もしていないし、体も冷たくて・・・」

ノエルの声は、自分の家族や友人に訴えるように感情的だった。

事実上、ノエルはダンテが死んでから今初めて誰かに自分の衝撃と苦痛を吐露する機会を見つけたのと同じ。

当初、彼がそばに置いて感情を共有していたのはダンテとニックスしかなかったので、当然なら当然だった。

「それで、私がなんとかまた動かせようとしたがどうにもならなくて・・・」

ノエルはしどろもとろでとりとめのない話を言い続ける。

そうすればするほど彼の声はますます激昂していき、やがて顔をゆがめて泣きだしたりもした。

これまでの気苦労を証明するように、ノエルの顔はめちゃくちゃだった。

彼がニックスの前で我慢できずに言った言葉もそれに劣らずめちゃくちゃだった。

しかし、ニックスが文脈を把握する余裕はあった。

ダンテの死はニックスにも衝撃だった。

やっとノエルの変な姿が理解できた。

いつも彼のそばにくっついていたダンテが、なぜ聴聞会の間、見えなかったのかも今分かった。

しかし、割れた破片のように耳元に散らばってガサガサという言葉を間くほど、ニックスの胸の中にはノエルと違う感情が積もっていた。

「でも大丈夫だよ」

そんなニックスを知っているかどうか、ノエルは盲目的に感じる目で彼を直視し、後ろ首を悲しませる言葉を囁く。

「ニックス、君がいるから、もう大丈夫」

ノエルの顔には昨日見たのと同じ狂気がこもっていた。

つややかな眼光が青く感じられるほど強烈に輝いていた。

ノエルが吐いた言葉の意味を知ると、背筋に乗って流れる鳥肌を隠すことができない。

「君の心臓さえあれば、そうすればダンテも戻ってくるから」

自分の心臓を抜いてダンテにあげるということか？

ニックスの代わりにダンテを人形にするために？

そうすれは自分は死ぬはずなのに・・・？

「ニックス、あなたは私の人形じゃないか。だから私を理解してくれるよね？だよね？」

ノエルは絶望的な目でニックスを見下ろす。

そもそも彼の同意など求めるつもりもなかったくせに、非常に切実な声だった。

思わず一瞬同情するほど気の毒に見える顔でもある。

ニックスは思わず震える歯をかみしめた。

そもそも彼はノエルに本当に真心を尽くして心深く主人として仕えていたわけでもない。

それでも今この瞬間、耐え難いほど身震いした。

結局は・・・、結局は自分に予定された終わりもこんなものだったのか。

いくら綺麗だと言って大切にしてあげても、その愛は主人が暇つぶしに育てるペットに与えられる愛情と違わないということを知っていた。

ノエルの審査が歪む度に彼の手に壊れていく人形を見ながら「私は彼らとは違う」と自慰したが、事実はそれほど違わないという事実もやはり知らずにいなかった。

「・・・笑わせないで」

生臭い血の味が感じられるほど、固く噛んだ唇から押さえつけられた声が漏れた。

ニックスは噛みつくようにうめき声を上げながら、煽々とした目つきでノエルを見抜いた。

「笑わせるな、ろくでなしめ・・！」

好きなように自分を作っておいて、今になって使い物になって殺そうとするのか？

勝手に自分を生かして殺して！

そもそもこのように生まれたのも、やはり自分が望んだものでもなかったのに！

熱い火で心臓を打ったように胸が真っ黒に焼けていく。

全身が吹き荒れる怒りで震え、目の前が赤くなった。

「私の心臓を抜く？」

確かにニックスの始まりはノエル・ベルティウムだった。

しかし、だからといって人生の最後まで彼によって決定される必要があるのか？

「お前は何だ？」

だから人間が嫌いだった。

そのため、人間に酷く嫌悪感を覚えた。

彼らはいつも自分を虫扱いし、いつも自分を勝手に振り回そうとした。

それから無駄なゴミ扱いして自分を、自分を・・・。

「お父様、私・・・、私は死にたくないです」

目の前に奇妙な幻想が立ち上る。

もう数十回は夢で見たようなうんざりする光景。

「助けてください。助けてください、お父様。どうか・・・、どうか助けてください」

羞恥心も忘れてひたすら生きたいという欲望に押しつぶされ、彼はしがみついた。

このような哀願が通じるはずがないという事実を知りながらも必死だった。

しかし、目の前にいる人間は、面倒くさそうに足にしがみついた彼を、同情一点もない冷たい足で蹴った。

その時に当たって傷ついた左目が今も燃えているようにうずいてくる。

目の前に広がる血の間から黒い影が現れた。

歓迎の末、いつものように、彼を殺しに近づく使者の姿。

目を閉じてから覚めると、その黒い怪物の顔はノエルのものに変わった。

「お前が何で私を勝手に殺すと言うんだ」

冷たい炎が頭のてっぺんからつま先まで全部飲み込んだ。

・・・そうだ、これ以上は許せなかった。

「勝手に・・・」

今回だけは、あえて自分の最後を決めさせてはいない。

そんなことは・・・。

「誰が勝手に・・・！」

そんなことは過去の人生一度で十分だった！

ニックスは人形を振り切ってノエルに飛びかかる。

ガタン！

制限が発動されたが、そもそもニックスは完全な生物ではなかった。

それでその効果は完全ではなく、しかも今彼は理性を失って血管を流れる痛みさえ感じられずにいた。

ノエルが人形たちに最後に下した命令はニックスを捕まえろということだったので、彼らは彼を攻撃する代わりに捕らえようとする。

ノエルは突然の状況に驚き、すぐには反応を示さなかった。

しかし、ニックスの手が届く前に人形たちが彼を捕まえることに成功する。

当然、ニックスも素直にやられているわけではない。

ガチャガチャ！

彼は拘束具に繋がっている鎖を目の前の人形の首にかけて床を蹴る。

どかん！

ニックスはガラスの壁をもう一度蹴り、柔軟に体をひねった。

両側で彼を拘束していた人形たちから体を抜いたニックスが、鎖で首を巻いている人形の後ろにくっつく。

その後、彼は片手を下ろし、人形の腕をつかんだ。

ニックスにつかまった人形の腕がノエルに向かって殺到する。

「な、何やってんだ！早くニックスを止めて！」

クアグアクアク！

ノエルが座り込んで一撃を逃れると同時に、頭の上で恐ろしい音が鳴った。

ノエルの代わりに衝撃を受けたガラスに小さなひびが入ったのだ。

人形たちがニックスに飛びかかる。

ただ、ニックスがぶら下がっている人形は、まだ行動方向を決めていないようだった。

その間、ニックスは勝手に人形を動かし、他の人形を阻止した。

しかし、人形たちの防御がかなりしっかりしていて、彼の攻撃はノエルには届かない。