ロクサナ〜悪女がヒロインの兄を守る方法〜【２５５話】ネタバレ

オン・アグリチェは夢を見ていた。

このような時代があったのかさえ、はるかに遠い過去、彼が今よりずっと幼い頃の記憶。

その時、デオンは教育を受けに行く途中、偶然誰かと出会った。

金色の髪と青い目をした天使のような男の子に。

視線が合うやいなや彼が近づいてきて笑ってデオンの頭を撫でる。

異母兄のアシルだった。

不快感を示して手を打ってもいいが、デオンはその行為に何の感情も感じなかったので、彼を放っておいた。

アシルは振り向く前にデオンの手にキャンディーを握らせる。

他の弟たちには秘密という言葉と共に。

デオンは目の前で明るく笑う彼の顔を無表情な顔で見上げた。

アシルが視界から消えた後、デオンは再び足を運びながら手に握られていた飴を芝生に捨てる。

そのように歩いていて後ろから人の気配が感じられ、こっそりと首を回してみると、彼が捨てた飴を拾っている女の子が目に入った。

目が合った瞬間、デオンより幼かった女の子はあっという間に15歳の少女に変貌する。

焚き火のように輝く赤い瞳が彼を正面から見つめた。

憎悪、恨み、怒り、挫折、悲しみ。

デオンとしては、一度も感じたことのない感情で満たされたその目が、そのまま彼を飲み込んでしまいそうだった。

デオンはこの場面を知っていた。

ついに透明な涙が彼女の青白い頬の上に流れ落ち、あごの下まで転げ落ちる。

それを見ていると・・・不思議なことに少し心臓がしびれてきた。

自分でも理解できない痛みなので、デオンは思わず胸に手を上げる。

しかし、指先に触れたのはがらんとした穴だけ。

その時、彼と向かい合っていた少女が口を開いた。

「・・・」

しかし、デオンの耳には何の音も届かなかった。

その間も、覗界に映る涙は相変わらずで、デオンは思わずそれに向かって手を伸ばす。

その瞬間、あっという間に洪水のように膨らんだ涙がデオンを飲み込んだ。

口を開けると、整理されていない言葉の代わりに白い泡が外に出てきた。

これが死か？

深い深海の中に果てしなく沈みながら、デオンは考える。

＿＿＿いいえ。

その時、耳元に低い声が漏れた。

すぐにでも消えそうで、とても小さく細い声。

ついに触れた少女の声にデオンは息を殺したまま耳を傾けた。

＿＿＿こんな安らかな死はあなたには似合わない。

ちらっと耳元に何かが羽ばたくような騒がしい音が響いた。

白い泡をかき分け、血煙のような赤い波が彼に押し寄せる。

「ああ、そうなんだ・・・」

デオンはようやく耳元でささやかれた声に込められた意味が何かを悟った。

その後、彼はにっこり笑ってしまう。

浅はかな笑いが酷くて、中で白く散らばった。

「そうだね、君が望むのがそういうことなら」

デオンは順応するように体から力を抜く。

すぐに赤い蝶の群れが荒波のように押し寄せ、デオンを襲った。

それは息づかいも残さず、頭のてっぺんからつま先まで彼をすっかり食べ尽くした。

遥か彼方で揺れもなく彼を眺めている赤い瞳が、霞む視野に映る。

これこそデオン・アグリチェにふさわしい死だと、その無情なまなざしが語っていた。

実はこれはもう何度も繰り返されている夢だった。

しかし、デオンはここから抜け出したい気持ちも、その意志も持っていない。

すぐに覗界から光っていた小さな光が完全に点滅した。

そしてもう一つの夢と死の始まり。

デオンは果てしない幻覚と過去の記憶の中で目を閉じる。

気だるい午後。

狭い部屋の中の情景は静かで平和だった。

開いた窓から入ってくる風に薄いカーテンが揺れ、その前にあるベッドの白い布団の上には明るい日差しが落ちる。

「・・・」

カシスは静かな部屋の中で一人で眠っているように横になっている男を黙って見下ろしていた。

屋敷の中には他の人たちもいたが、誰も知らないうちにここまで入ってくるのはそれほど難しくなかった。

デオン・アグリチェ。

初めて会った瞬間から敵だった男。

彼は今、カシスの前で無防備に横たわっている。

動かずに目を閉じている顔がとても穏やかに見えた。

しかし、カシスは彼の体から漂っている死の気運を読み上げた。

カシスがここに立っている間も、それは刻々と濃くなっていく。

そっと目を動かすと、窓際に置かれた草花の上に赤い蝶が一匹座っている姿が視界に入ってきた。

カシスの静かな視線がそこにしばらく留まる。

「デオン・アグリチェ」

やがて、小さく開いたカシスの唇から低い声が漏れた。

眠っている人を起こそうとするような呼び声だ。

しかし、依然として戻ってくる反応はなく、カシスは首を回してそんなデオンを冷ややかな目で見つめる。

あの日、きらめいて砕けるガラスの破片の間で一寸の迷いもなくロクサナを彼に押し出した男の姿が重なった。

「こんな風に一人で満足して死ぬつもりか」

カシスは今、デオン・アグリチェがどんな心境なのかぼんやりと見当がつくようだった。

『もしあなたがいつか私に完全に飽きたり疲れて私の元を去ろうとしたら』

先日、ロクサナが自分にそう囁いたとき。

『私の手であなたを殺してしまう』

カシスが感じた感情と確かに完全に同じではないだろうが、全く違うこともないのではないか。

自分を犠牲にしてロクサナを危険から救い、彼女が見る前で生の最後の瞬間を迎えようとするなんて。

完璧すぎる終わりとしか言いようがなかった。

だから温度も今このようにどんな未練も感じない安らかな顔をしているのだろう。

それを見るカシスの瞳が沈んだ。

実際、カシスはあの日、ロクサナを送りたくなかった。

デオン・アグリチェとニックスがお互いを殺そうとなかろうと、実は彼には関係ないことだ。

いや、むしろ彼らが一気に消えることは彼の立場で歓迎すべきことだと思われたりもする。

彼らはロクサナの指に刺さったトゲのような存在だった。

だから時々カシスはそれを跡形もなく取り除いてしまいたい衝動に駆られた。

しかし、ロクサナはそれを望んでいなかったし、彼女の許可がない限り、彼は勝手に動くことができない。

だから、そのような2人がお互いを排斥して一緒に没落するならば、カシスとしては悪いことはないことだった。

でも・・・。

いざそのような瞬間が目の前に迫ると、カシスは少しも嬉しくなかった。

それさえもそうだが、このまま彼らが最期を迎える場合、ロクサナがこのことを簡単に振り払うことができないことは自明だ。

しかも、よりによって彼らの最後の姿が彼女の心臓を深く刺さざるを得ないもの。

それでカシスはあの日、ロクサナを彼らに送るしかなかった。

その後、何があったのかカシスは直接目撃できなかった。

しかし、このように平穏なデオンの顔を見ると、どんな形であれ彼の最後を占めたのが口クサナだったという事実だけは分かるような気がする。

そしてそれはカシスが望まないことだった。

「勘違いするな、デオン・アグリチェ」

静かに横になっている男の上に、低い吟醸が塵のように散らばった。

「私はあなたのためにロクサナを送ったのではない」

実を言うと、デオン・アグリチェがこのまま死ぬのもカシスとしては気が進まないことだった。

「それなのに、このまま一人で満足して死にそうだなんて」

しかし、今これがロクサナが望んでいた終わりではないという事実を知っているからだ。

「それはあまりにも利己的だと思わないか？」

そのため、カシスはデオン・アグリチェの死を受け入れることができなかった。

まもなくカシスの手がベッドに横になっている人に向かって伸びる。

このままデオン・アグリチェの首を絞めたとしても、彼を止める人は誰もいなかった。

実際、今この瞬間にもそのような衝動を全く感じないわけではない。

今目の前にいる人はカシスと何度も殺意を抱いて対決したことがある相手。

ついにカシスの冷たい手がデオン・アグリチェの体に触れた。

ロクサナにとって最大の脅威だと思っていた男が、彼の目の前で彼女を守っていた光景がまだ両目に焼きついている。

あの日の残像はカシスの脳裏に深く刻まれ、忘れられずにいた。

だからこそカシスは決めた。

もしカシスが見たところに来たアグリチェの最後が違う姿だったら、今この場にこのように彼が立っていることはなかっただろう。

そして・・・。

カシスを動かしたもう一つの理由は、かなり利己的なことだと言える。

カシスは自嘲混じりの冷笑を浮かべながら手に力を吹き込んだ。

もし、デオン・アグリチェが今このまま死ぬなら、どんな意味でもロクサナの中に長い間消えない記憶として刻まれることが明らかだったからだ。

接する場所に綺麗な空気が流れ込んだ。

この前2回彼と対決する間に奪っていった物を返す仕事。

カシスがすべきことはそこまでだった。

いつか彼の手で恐喝した生命力が再びデオンの体に流れ込んだ。

周辺にうずくまっていた死の気運が徐々に薄くなる。

カシスは窓際にある赤い蝶を最後に一度視野に入れた。

その後、彼はそのまま振り向いてその場を離れる。