ロクサナ〜悪女がヒロインの兄を守る方法〜【４話】ネタバレ

くそっ、アグリッチェめ。

カシスは吐き気を感じながら口の中に溜まった血を吐き出する。

少し前に看守が来て彼を一度拷問して行ったのだ。

縛られたまま鞭打ちされたのは今回が2度目。

情報を調べたり、他の目的があるからではなく、単に彼を苦しめるためだった。

綺麗だったカシスの姿は、すでに凄惨な状況になって久しい。

皆が喜んで彼を「青の貴公子」と仰ぐようにした要素の一つである秀麗な容貌にも今はサディスティックな傷痕がいっぱい刻まれていた。

彼を拉致するためにアグリチェで使った毒物と呪術、そして罠の後遺症による内傷も相当なものだ。

カシスがここに来てから4日ほどの時間が過ぎた。

黒のアグリチェがどれほど卑劣で邪悪なのかは、彼も以前からよく聞いていた。

しかし、まさかこんなに「青のぺデリアン」に堂々と宣戦布告をするとは想像もできなかった。

これは戦争の始まりを知らせるようなものだ。

あえてぺデリアンの地を踏んで入ってきて、後継者である自分を攻撃して捕虜のように運れてくるとは・・・。

体の痛みよりは、心の中から沸き立つ怒りがカシスを覆う。

すぐにでもラント・アグリチェを切り捨ててここから抜け出したかったが、先も
まともに見えない今では無理だった。

カシスは鋭い目つきで鉄格子の向こうを睨みつける。

まだ覗界がぽやけて光だけがかすかに見えるほどだったが、昨日よりは状態が良かった。

少女が言ったように，徐々に視力が回復し始めている。

その時、遠くからドアが開く音が聞こえた。

その後、小さな足音が続く。

カシスは息を殺してその音に耳を傾けた。

先ほど来た看守ではなかった。

それよりも歩幅が小さく軽い足音がカシスのいるところに向かっている。

彼女だった。

すでに何度も彼を訪ねてきている得体の知れない少女。

「今日はちょっとひどい格好ね」

鉄格子のドアを開けて入ってきた少女が彼を見るやいなや言った。

どこか残念そうな口調で。

かすかにため息をついたような気もした。

突然前で人の気配が感じられ、ほのかな香りが近づいて鼻先をかすめる。

カシスは体に触れる体温を感じ、冷たく言った。

「私に手を出すな」

「ひどい外傷がないか確認するだけだから、じっとしてて」

大事な手が破れた服をあばくような感じで自然に体が硬直する。

もがいて少女の手を振り払おうとしたが、すぐにじっと目の前の顔を注意した。

探索する視線が目の前の少女に釘付けになった。

しかし、もどかしい視野にはぼんやりとした人の形しか映らず、披は顔をしかめるしかなかった。

「幸い、まあまあいいと思う。それでも痛かったら痛み止めをあげようか？」

「必要ない」

カシスは少女の声を聞くたびに少し変な気分になる。

妙に甘い感じを漂わせる音声は、玉が転がるように清雅で柔らかだった。

その上、言葉では説明できないある奇異な力が宿っているかのように、いつの間にか気が付いたら無意識のうちにその声に耳を傾けている自分を発見してしまった。

「これ食べて。飢え死にしたいのでなければ」

ふと口に何かが触れてきた。

やや柔らかな手触りの丸い何か。

そこでは馴染みのある薬草の匂いがかすかにした。

カシスは少女が差し出したものが何なのか難なく気づく。

これは人が摂取しなければならない栄養素を精製、濃縮して作ったもので一粒を食べれば食事なしでも3日程度は持ちこたえることができた。

おそらく少女は、今刑務所の床に転がっている器を見たようだ。

アグリチェは彼をすぐ殺すつもりはないのか、一日に一度食べ物を渡した。

しかし、それは匂いを嗅ぐだけで吐き気が押し寄せる汚物のような正体不明の食べ物。

その上、カシスはたとえ山海の珍味を出してきたとしても、アグリチェからもらったものを食べるつもりは全くなかった。

「私が何を信じてあなたがくれたものを食べなければならないの？」

それは少女がくれたものといっても同じ。

カシスは今目の前にいる人も信じていなかった。

もちろん少女の態度は妙なところがあり、また彼の死を望まないとも言ったが・・・。

それでも、自分の前に突き出たものを食いつぶすほど、少女を信頼してはいない。

何よりも彼はまだ目の前にいる人の正体も知らずにいた。

カシスの拒否に少女はしばらく黙っていた。

「そうなの？じやあ仕方ないね」

次の瞬間、目の前で感じられる怪しい気配に、カシスは何かに気づいて急いで口を開いた。

「ちょっと・・・！」

パァッ！

しかし、すでに手遅れだ。

「ぅっ！」

カシスは初めて少女に会った時のように腹部に食い込む痛みを感じながら呻いた。

しかし、今回は毒にやられた前回より、彼の体調が良くなったせいか、一気に気絶しなかった。

少女はその事実に少し困った様子だ。

「あれ、今度はちょっと軽く打ったからかな？ごめん、もう一発殴ね」

その直後、本当に腹部にさっきより一層強い力がこもっていた。

こんなずるい・・・。

今度はカシスも仕方なく意識を失ってしまう。

「これは何をしているんだ？」

次に再会した少女に向かって、カシスは鋭い反応を見せるしかなかった。

自分を勝手に気絶させてしまった少女に腹が立ったり、また当惑したりもした。

さらに、このようなことをしたのは今回が初めてでもない。

「私があげるものは食べたくないのでしょう？だからしょうがないじゃん」

うなる彼に向かって少女が彼をなだめるような口調で話した。

だが、言い方が申し訳なさそうだっただけで、その内容は全くそうではなかった。

「だからといって人を気絶させるのか？」

「じゃあ、これからはおとなしく食べる？」

カシスの厳しい視線を正面から受けながらも、少女はびくともしなかった。

「まあ、態度が慎重なのはいいよ。好意で接近したように見える人にも簡単に疑いを抱かない。今後も私以外の人が与えることも立派だし。実際、この家のものはできるだけ受け取らないで。私以外にあなたに良い意図で接近する人はいないだろうから」

カシスはこの少女を本当に理解できなかった。

声にまだ幼い感じが残っていることや、ぼんやりと視界に映る形を見れば、それと似た年齢だったり、もう少し幼いようだ。

ところが、する行動や言葉は彼が想像した範囲を外れていた。

少女はすでに2回も彼を気絶させたが、結果的に彼女がくれたものを食べて病気になったことは一度もない。

あえて事実を明らかにしなかったが、率直に言えばむしろ体の状態が以前より楽になった状態だった。

それに少女は今また彼のことを気にかけてくれるようなことを言っていた。

傷を確認する時の手は、容赦なく急所を打つ時と違って、慎重で柔らかい。

それでカシスはこの少女がどんな人なのかまだまともに把握できなかった。

カシスはしばらく黙って少女を見つめる。

もちろん、こうしたからといって何も見えなかったと思う。

それでもこうすれば、目の前に立った人の雲囲気や内面に隠された意図を読むことができたように、彼は黙って静かな視線を送るだけだった。

少女もカシスが自分を探索し、何かを考えるのを邪魔せず、ただじっと待っている。

しばらくして、カシスはゆっくりと口を開いた。

「私にまた何を食べさせたか言って。口に薬の匂いが残っている」

「鎮痛剤と抗生剤だよ。表に見える傷は目立つから治療してない。しばらくだけ我慢して。少し待てば今より楽にしてあげるから」

カシスは再び少女の正体が気になったが、どうせ言ってくれないと思って他のことを聞く。

「私がここから生きて出られると考えてるのか？」

しかし、そのように聞きながらも、カシスは答えを知っていた。

ラント・アグリチェは自分を殺すつもりで連れてきたはず。

このように堂々と自分を引っ張ってきたラント・アグリチェの意図を知らないわけがない。

ぺデリアンに対する政治的挑発の意味であれ、それとも何度も続いてきたぺデリアンとの摩擦に対する単なる腹いせであれ、それともその両方であれ。

いずれにせよ、アグリチェはカシスを生かして送り出すつもりはないだろう。

もし彼が生きてアグリチェを出るなら、紛争の種になることは明らかだった。

ぺデリアンはあえて彼らを先に攻撃したアグリチェを決して許すはずがなく、カシスもこの恥辱をただで済まさないだろう。

「誰が言ったの？」

少女はなんとなく少し不機嫌な声で聞いた。

彼の言葉を否定したいような感じでもあった。

「ラント・アグリチェが」

「・・・」

どういう意味の沈黙なのかは分からなかった。

カシスは今少女が作っている表情が少し気になった。

しばらくして、細い声が再び彼の耳元に流れる。

「あなたは死なない。なぜなら私が・・・」

しかし、少女は最後まで話を続けなかった。

監獄の中には再び沈黙が降り、2人の低い息づかいだけが耳をくすぐるだけ。

その時、違くからあるかすかな騒音が伝わってきた。

何だか外が少し騒がしいようだ。

少女もその声を聞いたように、首をかしげるような小さな気配が前で感じられる。

しばらくして少女がカシスに向かってもう少し近づいてきた。

「これ食べて」

感触から見て、口に届いたものは薬のようだった。

カシスはさっきより近くなった顔を見下ろす。

昨日よりほんの少し明るくなった視界に、まだかすかな形が映っていた。

ちらっと空中で目が合ったようだった。

すぐにカシスの唇がゆっくりと開く。

彼は自分に差し出された薬を初めて何も言わずに受け取った。

口に入れるやいなや薬が溶けたため、水がなくても飲み込むのは難しくない。

少女はすぐに出ず、依然として彼の前に立っていた。

他の時は、彼の状態を調べるやいなや、すぐにここを抜け出したのに・・・。

もしかして、さっき聞こえてきた外の騒ぎと関係があるのかな？

カシスは五感を高め、周りのすべての剌激を敏感に受け止め、再び口を開いた。

「名前」

「え？」

「あなたの名前はなんだ？」

正体は何かという質問には答えなかったが、名前だけなら大丈夫かと思って聞いた。

しかし、少女からは何の返事も聞こえてこない。

「やっばり無理かな」と思って、カシスが内心失笑して諦める頃、囁くような小さな声が彼の耳に焼き付いていた。

「ロクサナ」

ロクサナ。

カシスは鼓膜にある名前を頭に刻み込むように口の中で静かにつぶやいた。

ロクサナ・・・。

暗い夜のカーテンが晴れると訪れる夜明けの名前を。

闇が立ちこめる深い夜。

「・・・そう、誰もいなかったって？」

小さくささやく声が部屋の中に漂う寂真感の上に散る。

窓のカーテンは風に景ってゆっくりと揺れていた。

窓際に座った少女の上に月明かりが憎しみなく降り注いだ。

「じゃあ、今度は西の境界に行ってみて」

神が直接息を吹き込んだとしても信じられるほど非現実的なほど美しい少女。

腰まで降りてきてスムーズに波打つ髪の毛が夜空の星の光と初夜明けの光を一つに集めて編んだように闇の中でも燦然と輝いていた。

赤い血を精製して宝石にしたような瞳には、誰もが視線に向き合った瞬間、戦慄を感じざるを得ないほどの魅惑が溢れている。

か弱い肌は月の光を受けて白玉のようなほのかな光を放っていた。

高貴な感じさえ漂わせる少女の姿は極めてうっとりと美しく、圧倒的な衝撃を感じさせる。

「彼を探している人を見つけたら、その中で最も強い力と盲目的な心を持った人を探してちょうだい」

ロクサナは彼女の忠実な召使いに新たな命令を下した。

すると、指の上に座っていた赤黒い蝶が答えるように、そよそよと羽ばたく。

まもなく彼女の手を離れた蝶が空中に飛び上がり窓の外に飛んでいった。

ロクサナの視線が闇に埋もれていくその後姿を追う。

東と南は徒労だった。

だから西側の境界からしか、カシス・ぺデリアンを訪れる人々がいたらいいなと思った。

行き違いで接触が遅れると、時期を合わせるのが難しくなるからだ。

ロクサナは地下牢にいる少年のことを考えて低くため息をつく。

美しい顔に浅く覆われた水深が切なさをそそった。

彼女の頭の中は少し忙しく動いていた。

さっきロクサナが地下監獄にいる時、ドアの外がうるさかったのは、彼女の腹違いの妹の一人であるシャーロットがそこを訪れたためだ。

シャーロットは新しいおもちゃを見たいと言って、門番ともめごとをしたという。

門番は思ったよりかなり決断力があって、シャーロットが群れをなしてもドアを開けてくれなかった。

しかし、このような状態がいつまで続くかは断言できない。

「どうしようか・・・」

ロクサナの瞳が低く沈んだ。

さっきカシスは気絶させる方法を使わなくても、彼女がくれる薬をおとなしく受け取っていた。

少しは自分に対する警戒を緩めたという意味だろうか。

トントン。

ロクサナの指が窓枠を軽く叩く。

今回の月例評価は、カシス・ペデリアンがアグリチェに来る前に行われた。

まもなく大映餐会が開かれる時期。

ロクサナは今回も不動の2位で大映餐会に出席する権限を得ることになった。

その場には父親のラント・アグリチェも一緒にいるだろう。

どうやら今回は正面突破がよさそうだった。