影の皇妃【１４９話】ネタバレ

シェフのクイルは礼儀正しく部屋を出ていく。

すると、アンがフォーチュンクッキーをチラチラ見ながら関心を示した。

「アン、一人でお茶を飲みたいわ。しばらく出ていてちょうだい」

「はい、お嬢様」

アンが退出した後、エレナは籠に入れられたフォーチュンクッキーを二つに割ってメモを取り出す。

＜皇太子妃選出式だが、我々の古臭い殿下の考えではないはずだ。お前の考えだろ？＞

「相変わらず鋭いわね」

他の人は知らなくてもエレナは知っている。

レンの頭脳が非常に優れていることを。

彼があの頭脳をまともに活用すれば、本当に恐ろしい男になるだろう。

念のため他のフォーチュンクッキーも割ってみた。

その中にもレンのメモが。

２つのクッキーの中にはくだらない内容が。

意図の分からない話に、エレナは呆れて頬をピクピクさせた。

苛立ちながらも次のクッキーを割ると。

＜貴族会議の案件、気になるよな？喜んで、私も招待されたから＞

「レンが貴族会議に参加する？」

これはエレナに取って嬉しい知らせだ。

そうでなくても貴族会議でどんな内容が交わされるのかを知るために方法を考えていたところだったから。

口元に久しぶりに笑みが浮かぶ。

レンが味方になったことを、やっと少しだけ実感する。

一度も感じたことのない頼もしさが感じられた。

最後のフォーチュンクッキーにはくだらないメモが。

不思議だ。

自分を積極的に助けてくれたからかもしれないが、レンに対する警戒心が大分和らいでいる。

そのためか、レンの是非や悪戯に敏感に反応しなくなった。

ティーカップにメモを入れてマッチの火をつける。

燃え上がった炎は、メモの形が分からないほど黒い灰に変わった。

社交界の評判は貴族にとって体面や自尊心ほど重要だと思われる。

生まれつき貴族自体が他人の目に映る姿と評価に敏感に反応する部類であるためだ。

一時社交界の女王と呼ばれたエレナは、どうすれば確実に評判を得ることができるのか知っていた。

鷹のように制したり、鶴のように孤高になったり。

過去のエレナは社交界を圧倒的な威勢で制した。

気に入らない令嬢がいれば、リアブリックから学んだ心理学で窮地に追い込んだ後、服従させた。

逆に孤高とは誰もが無闇にできない品位を意味する。

もしLが社交界デビューすれば、それと似たような評判を得ることができるだろう。

社交界の令嬢たちと混ざり合わないにもかかわらず、孤高に輝く星。

「どちらにせよ、ベロニカがその評判を得ることはないけどね」

エレナは内心を隠したまま、手に持ったワインを飲み干す。

ネック伯爵の誕生日パーティー。

リアブリックが皇太子妃選出式に必要な評判を得るためにエレナを送った初のパーティーだ。

「リブの期待に応えないといけないわよね？」

ホールに入場したエレナの笑みが濃くなる。

「いらっしゃいませ、公女」

ネック伯爵と伯爵夫人が明るい笑顔でエレナを歓迎する。

他でもなく大公家の後継者であり、皇太子妃として取り上げられているエレナが直接祝いに来たということ自体に意味があった。

「おめでとうございます、伯爵様」

「ははは、ありがとう。公女が親しく祝ってくださって本当に嬉しいです」

エレナは笑みを浮かべながら形式的な挨拶をした後、背を向ける。

他の客と挨拶ができるように時間を長く奪わないのが礼儀だ。

挨拶を終えたエレナが一番最初にしたことは宴会場の雰囲気を調べること。

（社交界で影響力があるという貴婦人たちは到着しているわね）

出席者たちを見ると、リアブリックが気を遣って送ったパーティーらしい。

マダム・ド・プランローズには及ばないが、彼女に匹敵するほど社交界で名望のある貴婦人が数人目についた。

皇太子妃選出式の第１次競合の参観者として招かれてもおかしくない貴婦人たちだ。

（リブの望み通り、目印を押してあげましょうか？）

エレナが動こうとすると、それより一足先に彼女を注視していた貴族たちが声をかけてきた。

これまで社交界に出入りしていたエレナが久しぶりに姿を見せただけに人脈を築こうとしているのだろう。

エレナは巧みな話術で彼らを相手にする。

一言に過ぎなかったが、相手の機嫌が悪くならないように答えながらも、対話を長く引きつける余地を与えなかった。

邪魔者を片付けたエレナは、記憶の中の貴婦人たちを思い出す。

年齢と名望、評判、位相の順でパーティーに参加している貴婦人たちの序列が瞬く間に付けられた。