こんにちは、ピッコです。
「影の皇妃」を紹介させていただきます。
今回は316話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
フランツェ大公の頼みで熱病で死んだ彼の娘ベロニカの代わりになったエレナ。
皇妃として暮らしていたある日、死んだはずの娘が現れエレナは殺されてしまう。
そうして殺されたエレナはどういうわけか18歳の時の過去に戻っていた!
自分を陥れた大公家への復讐を誓い…
エレナ:主人公。熱病で死んだベロニカ公女の代わりとなった、新たな公女。
リアブリック:大公家の権力者の一人。影からエレナを操る。
フランツェ大公:ベロニカの父親。
クラディオス・シアン:皇太子。過去の世界でエレナと結婚した男性。
イアン:過去の世界でエレナは産んだ息子。
レン・バスタージュ:ベロニカの親戚。危険人物とみなされている。
フューレルバード:氷の騎士と呼ばれる。エレナの護衛。
ローレンツ卿:過去の世界でエレナの護衛騎士だった人物。
アヴェラ:ラインハルト家の長女。過去の世界で、皇太子妃の座を争った女性。
316話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 後愛
「今、後宮選出と言ったのか?」
健康が悪化したリチャード皇帝に代わり、政務を執るシアンが大殿内の貴族たちに向けて、呆れたように問いかけた。
「その通りでございます、殿下。」
「世継ぎである私が後宮だと?信じられない話だ。」
シアンはあり得ないことだと、一蹴した。
大公家や四大家門を外戚として迎え入れるため、セシリアと政略結婚をしてすでに二年が経っていた。
今になって彼らが後宮を求めてくるのは、明らかに度を越した要求だ。
しかし、シアンの反対にもかかわらず、貴族たちはその要求を撤回する意思を見せなかった。
「王室の安寧と繁栄は後宮から始まると、彼らは主張しております。」
「陛下の健康が日ごとに悪化しております。数年間皇太子妃に後嗣がいないため、万が一に備えて後宮を入れ、皇室を強固にするべきだと考えております。」
「もちろんです。ですが、皇室のために我が子を後宮に差し出すとまで言う貴族たちの真意を無視することはできません。どうか彼らの請願を拒否なさらないでください。」
シアンは無表情のまま、冷たい目で貴族たちを見下ろした。
(偽善的な策士たちめ)
皇室のために犠牲を払うなどと装いながらも、その本心が自分たちの利益を追求するためであることをシアンが知らないわけがなかった。
「大公閣下も同じお考えですか?」
シアンの視線は、静かに立っているフランチェ大公に向けられた。
この男が背後で貴族たちを操っていることは、もはや周知の事実だ。
「私の意見など重要でしょうか? 貴族たちが皇室のためだと言っている以上、それが帝国の繁栄に繋がることは間違いないのです。」
シアンは苦々しい思いでフランチェ大公を見つめた。
いつも通りだ。
表向き貴族たちを前面に出し、自身は影から操る。
非常に狡猾で恐ろしい人物だった。
「この件については後ほど改めて話し合おう。」
シアンは皇座のすぐ下に置かれていた椅子から立ち上がった。
「皇太子殿下!」
「どうか、我ら臣下の深き忠誠をお汲み取りくださいませ。」
「殿下のご意向がそのようであるならば、後宮の選定に関する案件を十分に議論し、再び検討させていただきます。」
シアンは背後から聞こえる貴族たちのざわめきと嘆願を無視し、大殿を後にする。
執務室にたどり着いたシアンは、込み上げる苛立ちを辛うじて抑えた。
鋭い目つきで厳然とした姿勢を崩さず、その不快な感情を内心で噛み締める。
「一刻も早く皇宮近衛隊を改革しなければならない。」
無関心に埋もれていたシアンの野望が、ついにその姿を現した。
どうしても揺るがない皇室の威厳を取り戻し、その権威を強化してみせるという決意と熱意が、その目の奥に宿っていた。
「承知しました、殿下。」
執務室を訪ねてきたリンド伯爵が軽く頭を下げて礼を取った。
帝国の由緒ある名家の出身であり、皇太子妃セシリアの父である彼は、同時にシアンの義理の伯父でもあった。
「貴族たちが別宮に集まり、議論を重ねています。後宮を皇太子妃に相応しい地位に引き上げ、選定式を執り行おうとしている模様です。」
「全く、彼らめ。」
シアンの胸中は怒りに沸き返った。
皇室の権威がどれほど軽視されているのか、彼には理解できない。
どれほど必死に努力しても、彼らの策略には抗えないのかと不満が募った。
「陛下、これほどの状況で彼らの請願を聞き入れるのはいかがなものでしょうか。」
「本気で言っているのか?」
シアンが冷ややかに尋ねると、リンド伯爵は動じることなく、揺るぎない眼差しで答えた。
「当然です。最大の課題は皇宮近衛隊の改革です。無駄な後宮の選定を許すより、彼らの目をそらし、力を強化することに集中すべきです。」
シアンは目を閉じ、深く考え込んだ。
リンド伯爵の提案を拒むのは容易ではない。
彼はセシリアを皇太子妃に迎えるために貴族たちを抑え込んだが、今になって後宮の設置の話が持ち上がり、セシリアに対して申し訳ない気持ちが募った。
それでもリンド伯爵は毅然と続けた。
「いつかこのような日が来ると思っていました。あの子や私が悩んでいた問題です。」
「その上で、皇太子妃を見る目がないとはな。」
シアンは言葉に詰まり、何も返せなかった。
「貴族たちは選定式を行いますが、有力な候補者は二人に絞られています。アベラ令嬢とベロニカ公女です。」
「アベラ令嬢は控えめで、ベロニカは権威的で冷酷な性格だ。」
幼い頃に見たベロニカの第一印象は忘れられない。
隣国の皇太子でありながら、下の者を見下すような傲慢な視線、一度見た者を物扱いする冷徹さ、そして無邪気な動物さえも平然と傷つける残酷さ。
再び関わりたくない相手だった。
「最終的には、ベロニカ公女が有力候補となるでしょう。」
シアンも黙ってそれに同意したかのように、考えを巡らせた。
大公が策略を練って動けば、ベロニカの皇宮入りは既定路線として受け入れざるを得なかった。
「最悪の女性が皇室に入ることになりそうだな。」
厳しい選定式を経て、ベロニカ公女が皇太子妃として選出された。
アベラ令嬢との僅差ではあったが、ベロニカの優れた礼儀作法と大公の後押しが、他の候補者を圧倒したのだ。
皇太子妃の立場として後宮を管理しなければならない責任を負う身ではあるものの、彼女の孤立は明白で、行事で顔を合わせる機会さえも限られていた。
国際結婚とされるセシリアとは比較にならないほど、その地位は相応しくないように感じられた。
シアンは彼女に対して必要以上の視線を向けることもなく、形式的な関係で留めていた。
会話を交わすどころか、目を合わせることさえ避けていた。
そのため、互いに関心を持つ必要性も理由もなかった。
二人が初めて正式に向き合ったのは、賑やかな宴会での儀式的なダンスの場だった。
「殿下。」
ワルツに合わせてステップを踏む中、ベロニカがかすかに聞こえる声でシアンに呼びかけた。
何度か繰り返されたが、シアンはそれを無視し続ける。
彼女の顔が近づくにつれ、記憶の中の冷酷な彼女の姿がふと蘇った。
唇を開くことさえ躊躇い、言葉を交わしたくなかった。
二曲踊り終わるまで、内心で一言も話さなかった二人は、距離を保ったままだった。
儀式的な祝福を受けた後、少し遅れて宴会場を退出する。
初夜を迎えるためにシアンは身を整え、ベロニカの寝室を訪ねた。
初夜の晩を共に過ごすはずの王宮の寝室で過ごすことが義務であった。
「お越しくださいませ、殿下。」
薄い衣装を身に纏ったベロニカが、慎ましく腰掛けていた。
かしこまった様子であっても、彼女の丁寧すぎる態度はシアンにとって煩わしいものだった。
シアンの目が細まり、不快感を表していた。
その空間に向かい合って座ると、ぎこちない沈黙が流れた。
やがて、ベロニカが勇気を出して口を開く。
「ワイン、大丈夫ですか?」
「・・・。」
シアンは窓の外に視線を向けたまま、彼女の言葉を無視する。
冷たく吹く風が空気を揺らし、その態度に戸惑ったベロニカがワインボトルを取ろうとするが手を引っ込めた。
気まずさと不快感が二人の間に漂った。
シアンにとって、彼女はまるで透明人間のような存在だった。
ベロニカが口を開いて何か言おうとするたび、シアンの冷たい態度に萎縮し、最後まで言葉を発することができなかった。
その間、時間は静かに流れ、夜明けが訪れた。
カーテンの隙間から差し込む陽光が部屋を照らし始めた頃、シアンは椅子から立ち上がった。
夜の間、ベロニカには一切手を触れなかった彼の表情には、未練や惜しむ気持ちは微塵も見られなかった。
挨拶もせずに冷淡に部屋を出るシアンを、ベロニカはそっと見送る。
彼女も椅子から立ち上がり、一方の手で胸を覆いながら、か細い声で礼を述べた。
「ご無事でお戻りくださいませ。」
シアンは一瞬、背後から聞こえたベロニカの別れの挨拶に足を止めたものの、その声を無視して部屋を去った。
(礼儀正しいように聞こえるが、どこか自分を守るための言葉だな。)
プライドが高く、それを覆すことを許さない彼女であったが、この日のやりとりはお互いの意地と葛藤の一幕に過ぎなかった。
それがベロニカと身体を重ねること以上に、自分を苦しめるということを、シアンは知らないまま、想像を超えた新たな試練に向き合うことになるのだった。
「また監視しなければならないのか。」
そんな思いが彼の胸をよぎった。