こんにちは、ピッコです。
「影の皇妃」を紹介させていただきます。
今回は318話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
フランツェ大公の頼みで熱病で死んだ彼の娘ベロニカの代わりになったエレナ。
皇妃として暮らしていたある日、死んだはずの娘が現れエレナは殺されてしまう。
そうして殺されたエレナはどういうわけか18歳の時の過去に戻っていた!
自分を陥れた大公家への復讐を誓い…
エレナ:主人公。熱病で死んだベロニカ公女の代わりとなった、新たな公女。
リアブリック:大公家の権力者の一人。影からエレナを操る。
フランツェ大公:ベロニカの父親。
クラディオス・シアン:皇太子。過去の世界でエレナと結婚した男性。
イアン:過去の世界でエレナは産んだ息子。
レン・バスタージュ:ベロニカの親戚。危険人物とみなされている。
フューレルバード:氷の騎士と呼ばれる。エレナの護衛。
ローレンツ卿:過去の世界でエレナの護衛騎士だった人物。
アヴェラ:ラインハルト家の長女。過去の世界で、皇太子妃の座を争った女性。
318話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 後愛③
リチャード皇帝の葬儀が執り行われた。
首都は静まり返り、3か月間の宴会や祭典などの行事は一切禁じられた。
シアンは荘厳な場でリチャード皇帝の遺体を見下ろしていた。
その瞳には虚無が宿っているように見えた。
皇帝という地位を超え、リチャードはシアンにとって父であった。
頑固で時に無茶をする皇帝だったとしても、シアンにとっては大切で頼りにしていた存在だった。
そんなリチャード皇帝の最後を瞳に焼き付け、シアンが振り返ると、ベロニカの姿が目に入る。
「・・・。」
シアンはしばし彼女から目を逸らすことができなかった。
リチャード皇帝の死を悼むベロニカの全てが神妙だった。
作り物のように見えても、その涙で濡れた瞳には真実味が滲んでいた。
ガイア教団の教義に従い、12日間の葬儀と3か月間の喪の期間が終わった。
皇宮は息つく間もなく忙しさを増していく。
シアンの皇帝即位式の準備のためだ。
3か月間の準備期間が終わると、シアンは皇帝に即位し、皇太子妃セシリアは正式な皇后として内宮の主となる。
皇妃の地位を持つベロニカは皇太子妃としての称号を得た。
大陸各国から送られた祝賀の使節たちが続々と訪れ、地方の貴族たちも貴重な贈り物を持参して首都に集まった。
皇宮内では2週間にわたる記念式典が催される。
シアンは記念式典を、貴族社会における自己の地位を確立する場、そして外れた中央貴族たちとの交渉を進める機会と見なしていた。
皇宮の改革を進め、自分に忠誠を誓う貴族や支持者を増やすには、このような場は絶好の機会だ。
セシリア皇后とベロニカ皇妃も同行し、皇宮の一員として招待客を迎える義務が彼女たちに課せられていた。
その日も同じだった。
式典会場の隅で皇宮改革に役立つと思われる貴族たちと会話を交わしていたシアンが、ふと一息ついて控室に足を運んだ後、再びホールへ戻る途中、女性たちの話し声が耳に入った。
「またこんな感じ?本当に傷つくよ。」
「すみません。本当に頑張ったんですが、どうしても解決できなかったんです。」
その場をやり過ごそうとしたシアンの足が、声を聞いて思わず止まった。
(この声はベロニカとレンか?)
特に聞くつもりもなく、足を止めずに戻ろうとしたシアンだったが、二人の会話が耳に引っかかった。
「いっそのこと全部燃やしてしまおうか? あなたの政体が揺らいだらどうなるか、大公があなたを見捨てるかもね。」
「そんなことはしないでください。どうかお願いします。」
シアンはその場で動きを止めた。
(どういう意味だ? 政体が揺らぐとは何のことだ。大公がベロニカを見捨てる?)
その会話の内容は不可解であり、疑わしい部分が多かった。
特にベロニカが懇願するような様子は彼女らしくなかった。
レンはベロニカより一歳年上で、大公から独立していたが、その直系と分家の立場における序列は明確だ。
それでも、今の会話はあまりにも一方的だった。
「これが、遠縁である彼らが持つ秘密か。招待されていない不審者がいるとはな。」
「・・・。」
「この話の続きはまた今度にしよう。」
レンは意味深な言葉を残すと、フォーマルな態度を取ることなく控えめにその場を立ち去っていく。
「あ。」
力尽きたベロニカが壁にもたれかかるように崩れ落ちた。
蒼白な顔色は、今にも倒れそうなほど異常なくらい危うげだった。
ほとんど息をすることさえ難しい状態で、彼女は震える体を壁に預けていた。
その時、廊下の隅からシアンが現れた。
「へ、陛下!」
「・・・。」
シアンは無言で彼女を支えながら見下ろした。
目に見えるのは、華やかに装った姿とは正反対の、まるで網にかかった獣のような怯えきった顔。
シアンは視線を外し、そのまま立ち去ろうとした。
「陛下、少しお待ちください!」
ベロニカは何とかして彼を引き留めようと手を伸ばしたが、シアンは振り返ることなく去っていった。
取り残され、ただ壁に凭れかかったままのベロニカは小刻みに震えていた。
シアンは部屋を後にし、何もない屋外のテラスへと足を運んだ。
皇宮の全景が見渡せる場所に立ち、シアンは一息ついて目の前の風景を眺める。
「私は一体何を考えていたんだろう?」
ベロニカを見た瞬間、シアンは激しい衝動に襲われた。
彼女を慰めてあげたかった。
しかし、それができないとわかっているシアンはその衝動を抑え、彼女を冷たく無視した。
目を合わせるだけでも気持ちが揺らぎそうで、彼はさらに徹底して無視し続けた。
頭ではこれが正しい選択だと理解していたが、胸の奥が苦しく詰まったように感じた。
冷たい風にあたれば少しは気分が良くなるだろうと、シアンはテラスへと足を運んだ。
だが、思考を整理しようとする彼の耳に、会話の内容が途切れ途切れに届き、混乱を引き起こした。
「陛下、ここにいらしたんですね。」
「君はロマン伯爵だな。領地の話を聞いたよ。最近、石炭鉱山が発見されたとか?」
シアンはテラスに入ると、その話に耳を傾け、深い会話を始める。
無駄な考えに囚われるよりも、何かに集中したほうがずっと良いと思えたからだ。
「陛下、しばらくの間外出を控えられるのがよろしいかと思います。」
シアンの執務室を訪ねてきたリンド伯爵が低い声で言った。
「監視者たちのせいか?」
「はい、外部のことは私とフィギン卿にお任せいただき、政務に集中されるのが良いかと存じます。」
リンド伯爵の忠告にシアンは無言で頷いた。
皇帝となってから数か月、地方大公家の監視と牽制が強まっていた。
さらに、密かに進めていた皇宮近衛隊の改革や貴族の結束強化も支障が出始めていた。
しばらくの間、改革案について深く話し合っていたリンド伯爵は席を立つ。
「これで失礼いたします。」
「皇后に会っていかないのか?」
「・・・お会いしても心が痛むばかりです。宮中でお言葉をたくさんかけて差し上げてください。」
リンド伯爵は微笑みを浮かべて去っていった。
自由を愛するセシリアにとって宮廷での生活は監獄も同然だ。
それを知っていたリンド伯爵はいつも心を痛めている。
彼が去り、急な用事を終えた後、シアンも執務室を出た。
意図せず巻き込まれた策略の犠牲者となったセシリアを、時間が許す限り訪ねていた。
道義的な負い目もあったが、彼女は宮廷の中で唯一、気を許して接することのできる存在だった。
皇后の宮殿に向かうシアンの視線に、ひっそりと控えている侍女の姿が映る。
シアンに気づいた侍女は急いで頭を下げ、挨拶した。
「ベロニカ皇妃様をお迎えする侍女たちでございます。」
後を追っていたデンがその言葉を聞いてシアンに耳打ちすると、彼は豪華に装飾された扉を見上げた。
その直後、機敏な侍女が報告した。
「ベロニカ皇妃様は宮廷画家ラファエルに絵を習っておられます。」
「皇妃が絵を習うだと?」
シアンはリンド伯爵の推薦によって、名高い画家ラファエルを宮廷画家に任命していた。
彼は《天使の墜落》という名画を発表し、その評判が広がっていた。
宮廷の権威を高める目的もあり、セシリアと親しい彼女を慰めるためにその決定を下していた。
(何かよく分からない。)
関心がないように体を回し皇后の宮殿に向かうシアンの表情は非常に混乱していた。
上品なベロニカが絵を描くという事実が信じられなかった。
(いずれにせよ確認してみる必要がある。)
数日後、シアンは別の人を使いラファエルを執務室に呼び出した。
「皇帝陛下にお目通りいたします。」
「入れ。」
学術院時代、セシリアを通じて何度か顔を合わせたことはあるが、親しく話したことはなかった。
「噂を聞きました。皇后の話し相手を務めていると?」
「・・・陛下もご存知の通り、皇后殿下とは以前からの旧知の仲です。」
「誤解しないでくれ。礼を言いたくて呼んだんだ。」
シアンは茶を一口飲み、茶碗を置いた。
「皇妃も絵を学んでいるそうだな?」
「皇妃殿下から、ぜひお願いしたいとの要望を断ることはできませんでした。」
「皇妃がお願いされたと?それは意外だな。」
無関心を装うよう努めていたが、シアンの関心はベロニカに集中していた。
「失礼ですが、一言申し上げてもよろしいでしょうか?」
「許可する。」
「絵は人間の内に秘められたものを引き出し表現する手段です。どんなに隠そうとしても、絵を描けば内に凝り固まったものが現れるものです。」
「興味深いな。続けてくれ。」
「・・・ベロニカ皇妃殿下は、その深い孤独に耐えていらっしゃいます。」
「孤独だと?」
シアンの眉間が僅かに動いた。
大公家の後継者としての運命を受け入れているかのように見えたベロニカが、孤独に苛まれているとは意外だったのだ。
「私はただの画家に過ぎませんので、政治的な関係についてはよく分かりません。ただ、絵に映し出された内面について話すだけです。」
「・・・」
「私が判断する限り、皇妃殿下は決して悪い方ではありません。」
ラファエルを送り出したシアンは深い思索に沈んだ。
ベロニカに対する周囲の人々の言葉が、彼の考えとはあまりにも異なり、困惑していた。
「確かめる必要があるな。」
シアンは考えを改めた。
これまで彼はベロニカを徹底して無視してきた。
彼女と関わりを持ちたくなかったのだ。
しかし問題は、そうすればするほどベロニカへの好奇心が膨らむ一方だ。
そのためか、彼女に対する関心が抑えられなくなっていた。
果たしてどれが彼女の本当の姿なのか、これを確かめるまで疑念は解消されないだろうと考える。
シアンは王宮外部で活動中のヒュインに人を送り、ベロニカの調査を依頼した。
どうやら王宮近衛隊改革の任務にも関わっているようだ。
調査は進展したものの、依然として核心には至らなかった。
ベロニカが修道院で自らを律して過ごした過去3年。
レンとベロニカの間で交わされた理解不能な会話。
理解できなかったベロニカのあの目の輝き。
その答えを見つけて疑念を解消できるなら、シアンは忍耐強く待つつもりだった。
その間に季節が移り変わり、酷暑が収まり、北方から冷たい風が吹き込んだ。
10年ぶりに都に雪が降ると、人々が喜び勇んで街に繰り出したその日、セシリア皇后が息を引き取る。