こんにちは、ピッコです。
「影の皇妃」を紹介させていただきます。
今回は321話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
フランツェ大公の頼みで熱病で死んだ彼の娘ベロニカの代わりになったエレナ。
皇妃として暮らしていたある日、死んだはずの娘が現れエレナは殺されてしまう。
そうして殺されたエレナはどういうわけか18歳の時の過去に戻っていた!
自分を陥れた大公家への復讐を誓い…
エレナ:主人公。熱病で死んだベロニカ公女の代わりとなった、新たな公女。
リアブリック:大公家の権力者の一人。影からエレナを操る。
フランツェ大公:ベロニカの父親。
クラディオス・シアン:皇太子。過去の世界でエレナと結婚した男性。
イアン:過去の世界でエレナは産んだ息子。
レン・バスタージュ:ベロニカの親戚。危険人物とみなされている。
フューレルバード:氷の騎士と呼ばれる。エレナの護衛。
ローレンツ卿:過去の世界でエレナの護衛騎士だった人物。
アヴェラ:ラインハルト家の長女。過去の世界で、皇太子妃の座を争った女性。
321話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 後愛⑥
シアンは横になり、高熱が体を苛み、意識が朦朧としていた。
全身に冷や汗が滲み出し、着ている服は湿り、背中には汗が染み込んでいる。
宮中医師は、過労による体調悪化と診断し、しばらく静養が必要だと告げた。
その高熱に、周囲の者たちも驚きを隠せず、思わず動揺するほどだ。
(休めと言われたときに休むべきだった・・・)
高熱にうなされながら眠るように横たわるシアンは、かすかに目を開ける。
今も冷や汗が流れ、背中の湿り気が体をさらに重くしていた。
高熱は依然として収まらず、体はまるで火照るように熱を持っている。
「・・・」
シアンの寝室を満たす空気は、不穏な気配が漂っていた。
体調不良が直接の原因であるのは確かだが、それ以上に彼の心を蝕んでいるものがあった。
リチャード皇帝の死後に課せられた責務と責任、そしてセシリアの死がもたらした喪失感、さらには・・・。
「陛下、陛下、お気を確かに持ってください!」
その言葉にシアンはゆっくりと目を向ける。
朦朧とした意識の中でも、目の前の女性が誰なのかは分かった。
彼女の存在は、シアンの心の奥深くに突き刺さるように、そして月桂樹のように根を張っていた。
シアンの目の前に立っていたのは女性だった。
偽物のベロニカが彼を心配そうに見下ろしている。
「君は誰だ?」
「え?」
偽物のベロニカの瞳が激しく揺れた。
「君は誰だと聞いている。」
「・・・」
一度も問いかけたことのない言葉。
しかし、千回でも問いかけたかった言葉だった。
「君は誰だ?」と。
シアンは朦朧とした意識の中で、無意識にその質問を口にしていた。
予想外の問いに、偽物のベロニカはしばらく言葉を失っていた。
やがて、彼女は微笑んだ。
その微笑みは、痛ましく、悲しいものだった。
「私です。皇后セシリアです。」
「・・・!」
セシリアだと?
セシリアのはずがない。
彼女は死んだのだ。
しかし、偽物のベロニカは自分がセシリア皇后だと名乗った。
なぜ?どうして?
その答えは、偽物のベロニカの悲しい微笑みに込められていた。
まるで彼女自身が、そう名乗る以外に選択肢がないとでもいうように。
彼女は事実を知られたら、シアンが自分を拒絶するのではないかと恐れ、嘘をついてでもシアンのそばにいたかった。
苦しむシアンを見捨てることができず、彼をそばで支えたかったのだ。
シアンは何も言えなかった。
その気持ちがあまりにも痛々しく見えて。
自分に近づこうとする彼女の真心が切なく、胸の奥深くにしまい込んでいた自分の思いもまた、彼女と同じように痛みを感じた。
だからだろうか。
シアンは混乱と疲労の中で、肩にのしかかっていた義務感や責任を下ろしてしまいたいという衝動に駆られた。
彼女の気持ちを裏切る勇気が、どうしても湧かなかった。
シアンを覆っていた分厚い殻が静かに溶け出す。
熱に浮かされている体ですら、彼女が愛おしく思えた。
シアンは彼女の手を掴んだ。
「へ、陛下?」
偽物のベロニカの体が驚きに震えるのが分かる。
驚いた顔をしばし見せた後、彼女は目を閉じ、二人の唇が重なった。
しかし、それは互いに傷を慰めるための、悲しいキスでしかなかった。
「陛下?」
「・・・」
「私の話を聞いていますか?」
フィギンの続いた呼びかけに、まるで人形のように座り込んでいたシアンがようやく意識を取り戻した。
「すまない。続けてくれ。」
「陛下もご存じの通りです。あの方は宮廷改革のために莫大な資金を惜しみなく提供した、かつてのラファエル殿下です。」
「・・・」
シアンはまるで魂が抜け落ちた人のように、その話を聞き流していた。
それもそのはず、今の彼の頭の中は、昨夜の偽物ベロニカのことで埋め尽くされていた。
彼は、昨夜の出来事を通じて、自ら抑えてきた感情に向き合わざるを得なくなった。
熱が上がり、意識が朦朧としていながらも、彼女の手を取った時のことが思い出される。
それは完全に彼の意志であり、選択だった。
シアンはあの日が戻ってきたとしても、同じ選択をしただろう。
彼の心の奥深くで、彼女がすでに特別な存在として居座っていると気づいていたからだ。
「陛下?」
「ラファエルはセシリアと親しい間柄だった。何も心配せず、伝えてくれ」
集中力を取り戻したシアンが、毅然とした口調で言った。
「分かりました。そして、報告すべきことがあります。」
「言ってみろ。」
「大公の隠れ家を発見しました。」
「隠れ家を?」
シアンの目が見開かれる。
その隠れ家は、大公の秘密が隠された場所と見なされていた。
それを発見したというのは大きな成果だ。
「はい、首都の近郊にそのような邸宅を所有しているとは思いませんでした。周辺の警備が厳重で近づくのは容易ではありませんでしたが、大公は定期的にその場所を訪れていました。」
「詳しく話せ。」
「調査によると、そこでは主に嗜好品や薬品が納品されていましたが、最近になって商品リストが変化し始めています。貴族が好むような高級ドレスや装飾品、靴のようなものです。」
「・・・!」
シアンの目が揺れた。
毒によって死亡した議員たちが関与していた時期と隠れ家に届けられる商品が変化したという話は、大きな関連を示唆していた。
与えられた情報をもとに、シアンは一つの仮説を立てた。
(もしベロニカが生きているとしたら?そして戻ってくる準備をしているのだとしたら・・・)
代役にはふさわしくない彼女を排除する可能性がある。
いや、排除しなければならない。
フランチェ大公やその噂に満ちたリアブリックが、彼女を助けるほど甘くはないだろう。
「この件をリンドン伯爵にも伝えたのか?」
「まだです。さらに調べて報告する予定です。」
シアンは内心落ち着かなかった。
経験の浅いフィギンは情報分析能力が低い。
彼が実際にベロニカを見たことがない以上、彼の推測がどこまで信頼できるのか不明だった。
推測には限界がある。
しかし、リンドン伯爵の場合は違う。
この程度の断片情報でも、彼に与えられればベロニカが大役者である可能性に気づくかもしれない。
(伯爵が気づいてはまずい。)
そうなれば、リンドン伯爵は手段を選ばず、偽のベロニカを利用するだろう。
代役を演じさせて王室を凌辱する行為は、大公であっても簡単には許されない。
しかし、そうなれば偽のベロニカもただでは済まない。
「しばらくの間、リンドン伯爵には伏せておく方が良さそうだな。」
「え?どういう意味ですか?」
「隠れ家は秘密の場所だ。大公がそこを訪れた時、王妃を失った証拠が伯爵が独断で行動することを誘発するのではないかと懸念される。」
「はい、陛下。そのようにいたします。」
報告を受けたシアンは急いで王宮に向かう。
戻る道中でも、シアンは不安感を拭い去ることができなかった。
王宮が空になったこの瞬間にも、本物のベロニカが戻ってきて彼女を殺すかもしれないという思いが、影のように付きまとっていた。
(デンに指示を出さないといけない。いや、それでも足りない。別の人をつけないと・・・)
シアンの頭の中は彼女のことでいっぱいだった。
彼女を守らないといけない、という一心だけが支配し、それ以外の考えが入り込む隙間はなかった。
それからしばらくして、王室に騎士でない騎士が訪れた。
ベロニカの懐妊の知らせだった。