こんにちは、ピッコです。
「影の皇妃」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
フランツェ大公の頼みで熱病で死んだ彼の娘ベロニカの代わりになったエレナ。
皇妃として暮らしていたある日、死んだはずの娘が現れエレナは殺されてしまう。
そうして殺されたエレナはどういうわけか18歳の時の過去に戻っていた!
自分を陥れた大公家への復讐を誓い…
エレナ:主人公。熱病で死んだベロニカ公女の代わりとなった、新たな公女。
リアブリック:大公家の権力者の一人。影からエレナを操る。
フランツェ大公:ベロニカの父親。
クラディオス・シアン:皇太子。過去の世界でエレナと結婚した男性。
イアン:過去の世界でエレナは産んだ息子。
レン・バスタージュ:ベロニカの親戚。危険人物とみなされている。
フューレルバード:氷の騎士と呼ばれる。エレナの護衛。
ローレンツ卿:過去の世界でエレナの護衛騎士だった人物。
アヴェラ:ラインハルト家の長女。過去の世界で、皇太子妃の座を争った女性。
325話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 後愛⑩
夜が皇宮に訪れた。
厳重に閉じられた城門は外部の出入りを制限していたが、別宮は例外だった。
貴族たちの秘密裏の集まり、そしてシアンの計画に必要な面会が進行中だった。
その場所を訪れた者たちのランタンは、貴族たちの中に光と影を織り成した。
リンドン伯爵と共に新たに任命された親衛隊員たちが混じっていた。
彼らは、皇宮を掌握し、腐敗した現行の親衛隊を一掃して新しい秩序を築くために派遣された者たちだ。
リンドン伯爵は仮面をつけ、貴族たちの集まりに紛れ込んでいた。
皇宮内部に潜伏していた親衛隊の数名が、別宮側の裏門を守る兵士たちを制圧し、本宮へと通じる秘密の通路を開放する。
そこを通って侵入した新任の親衛隊員たちは指示された位置に移動し、現行の親衛隊を排除した。
夜間の勤務中であった彼らはすべて貴族の出身で、価値のある者たちと判断されたため、その場で処罰はしなかった。
「陛下、この遅い時間にどちらへ・・・。」
親衛隊が守っていた部屋から姿を現したシアンもまた、瞬時に敵を制圧するその剣さばきで知られていた。
帝国の三剣豪として名高い彼の剣技は、大公家が送り込んだ騎士たちを圧倒し、彼らがまともに戦う間もなく敗北させた。
「陛下、本宮を制圧いたしました。」
皇宮掌握に成功したリンドン伯爵が駆け寄り、報告した。
「後のことは任せる。」
「陛下!陛下!何をしている!お前たちは陛下をお守りしろ、早く!」
シアンは振り返ることなく走り出し、驚いた様子で皇宮親衛隊の三人を別に呼びつけた。
シアンの冷静で鋭い剣術には疑いの余地はなかったが、その独断的な行動は一歩間違えば危険を伴った。
馬厩に到着したシアンは馬に乗り、皇宮を出発した。
「絶対に無事でいなければならない。」
シアンは目が血走るほどの勢いで馬を走らせた。
暗闇の中、皇宮から都市を抜け出す道は熟知していた。
夜道は不鮮明で困難ではあったが、彼は何度も地図を見て覚えた経路を迷わず進んでいった。
疲れ果てた馬を走らせ続け、ようやくシアンの目の前に一軒の屋敷が現れた。
この深い森の中にあって異様な存在感を放つその屋敷は、一目で危険な場所であることが分かった。
「誰だ!」
屋敷を守っていた騎士団員たちがシアンの行く手を阻んだ。
大公家の指示を受けているだけあり、その騎士たちもなかなかの実力者であったが、シアンの剣術には太刀打ちできず、瞬く間に制圧された。
シアンが屋敷に駆け込んだ。
敵意を向けてくる者は容赦なく倒し、ただ一人だけ残した。
「ここに連れて来られた女性がいるはずだ。その居場所を教えろ。」
「ち、地下監獄の一番奥の部屋です。どうか命だけは・・・うぐっ。」
シアンは相手の無駄な弁明を許さず、屋敷内を走り抜け、男が示した地下監獄に向かった。
鉄柵越しに囚われた多くの罪人たちが助けを求めて叫んでいたが、シアンの耳には何一つ届かなかった。
「無事でいてくれ・・・。」
地下3階の最奥部に到着すると、目の前には鉄柵が見えた。
男が言っていた最奥の部屋だ。
「皇妃!」
そこには鉄柵の向こう側に倒れている彼女の姿があった。
シアンは息が詰まるような感覚に襲われた。
絶望が彼を押し寄せる中で、彼は手を伸ばしその鉄柵を掴んだ。
胸は虚しさでいっぱいだった。
ただ、どうか間に合ってほしいと、彼女の命を救うことだけを願った。
「どうか無事でいてくれ。」
シアンは必死に祈りながら駆け寄る。
閉ざされているはずの鉄柵はなぜか半分開いていた。
逃げるつもりなどなかったのだろう。
むしろ鉄柵が完全に閉ざされていれば、こんなに不安にならなかったはずだ。
「皇妃!」
動かず倒れ込んでいる彼女にロウソクの炎が映った。
ドレスの裾に付いた赤い血痕がシアンの心臓を締め付けた。
倒れた彼女を抱き上げると、その体は氷のように冷たかった。
シアンは彼女をしっかりと胸に抱いた。
その手に触れる彼女の肌はまるで冬の霜に触れるような冷たさだった。
シアンは唇をかみしめた。
彼女が冷気の中にいたからだと信じたかった。
しかし、生気を失った彼女の顔を見た瞬間、シアンは膝をつき、崩れ落ちた。
「目を覚ませ。」
シアンの声は震えていた。
「間違っていた。二度と君を傷つけないと約束する。だから、許してくれないか?」
必死に訴えるシアンの声は次第に弱まっていった。
涙が彼の声をかすれさせた。
生きていると信じたい。
ほんの一瞬でもいい、彼女が意識を取り戻すことを。
ただ、彼女がいつも通りに彼の疲れた人生を整えてくれることを期待していた。
しかし、その願いが叶わないものだと気づくまでに、彼は長い時間を費やさなかった。
彼女は笑わなかった。
悲しみを感じながらも、その腕の中で微動だにしなかった。
「・・・涙すらも流せなかったほど、辛かったのだろうか?」
シアンは喉が詰まった。
監獄の中には彼女の血痕があり、それが腹部に広がった状態で鉄格子の方へと向かっていた彼女の姿が浮かんだ。
どれほど悔しくて、涙すらも流せずに死んだのだろう?
死に際に彼女が感じた恐怖や絶望を思うと、シアンはドレスを強く握りしめずにはいられなかった。
守ると約束したのに。
虚しい言葉にしてしまった自分があまりにも情けなくて、耐えられなかった。
「ごめん。」
音もなく涙を流していたシアンは、ついに涙をこぼした。
伝えたい言葉は山ほどあったのに、それを彼女にもう二度と届けられないことが分かっていた。
事実が彼を狂わせた。
もう少し正直に自分の気持ちを伝えておけばよかった。
そうすれば、彼女が傷つくこともなかっただろう。
何も伝えられず、名前すら聞けずに終わってしまったことが、耐えられないほど悔やまれた。
シアンは言葉を失った。無言のまま。
「ごめん・・・」
彼女を強く抱きしめたシアンの虚ろな叫びが、牢獄の中でメアリーのように響き渡った。
・
・
・
シアンが皇宮に戻った時刻は、すべてが収束した後だった。
その間に、新たに編成された皇宮近衛隊が皇宮を完全に掌握していた。
亡きデンが収集した情報をもとに、貴族たちの隠密な活動を手助けしていた侍女や下僕、警備兵たちは、星宮の広場に集められ、即座に処罰された。
そこには血の粛清があった。
「成功しました、陛下。」
「遅ればせながら、ご報告申し上げます。」
戻ってきたシアンを見て、リンドン伯爵と新しい皇宮近衛隊長であるフィンが祝辞を述べた。
まだシャンパンを開けるには時期尚早だが、皇宮を掌握し、皇宮近衛隊を改革しただけでも、目を見張る成果を上げたことは疑いようがない。
しかし、シアンの表情は冷たく硬直していた。
絶望と悲しみ、そして怒りに満ちた姿は、どこか哀れにも見えた。
「大公は?」
「静かにしております。」
「四大貴族は?」
「特に目立った動きはありません。」
今の時点で皇宮で行われた改革については既に報告が届いているはずだ。
それにもかかわらず、動きがないというのは、彼らが今は様子を見ているということだと判断することができた。
「首都の貴族たちに使者を送れ。全員皇宮に集まるように。」
「来ないでしょう。」
皇宮が掌握された時点から、彼らは身を引くことを決めていたのだから。
彼らは命を失うことになるだろう。
むやみに皇宮に来て皇宮近衛隊から追放されるよりもマシだった。
「来ないなら、それもまたいい口実になる。」
狂気じみた野心を燃やし、生存を諦めないシアンを見て、リントン伯爵は慎重に助言した。
「陛下、もう発射号令を出したばかりです。貴族たちをあまり追い詰めてはなりません。」
シアンは返事をせず、代わりに体を回して無視した。
何かが起きそうな気配を感じたリンドン伯爵は尋ねた。
「どこへ行かれるのですか、陛下?」
「ベロニカを見なければならない。」
シアンはベロニカの背後に「皇后」という肩書きを重ねていなかった。
彼にとって、皇后とは彼女ただ一人だけなのだ。
西宮に到着したシアンは、まっすぐベロニカの寝室に向かった。
大公に付いてきた従属騎士ロレンツォは、フィンの手にかかりすでに死んでいた。
ベロニカもまた寝室で拘束され、厳しく監禁されていた。
「陛下。」
寝室に入ると、ベロニカが振り返る。
シアンは彼女をじっと見つめた。
彼女に似ているようで全く違う女性。
権威的で傲慢で、さらに残酷な女性。彼女が過ごしてきたこの場所を侮辱するかのように、ベロニカがまるで自分のもののように使っていることだけでも、シアンにとっては嫌悪感を抱かせた。
「昨夜、皇宮がざわついていましたよね?」
「・・・」
「ロレンツォ卿も姿を見せず、私たちの陛下が何をなさっているのかしら?」
ベロニカはすべてを知っていながらも、知らないふりをして微笑んだ。
皇宮が取り戻されたという状況の緊張感を感じつつも、大公という後ろ盾に対する確固たる信念があるため、自然と余裕を見せることができたのだろう。
「陛下のために血となり肉となることが、まだ必要なのでしょうか?」
「・・・」
「やめましょうよ。これ以上線を越えれば、双方とも疲れてしまいますよ?」
ベロニカは意味深長にそう語ると、揺り籠の中で眠っていたイアンを抱き上げた。
ぐっすり眠っていたイアンがベロニカの腕の中に収まるや否や、思わず声をあげて泣き始めた。
ベロニカに対して、まるで、自分が抱えている事実を嫌悪し、不快に思っているかのように。
「ご覧ください。陛下が血の匂いを漂わせるから、この子も驚いているじゃないですか。」
「よく言ったものだ。」
シアンが剣の柄をしっかり握りしめながら、ベロニカに向かってゆっくりと歩み寄った。
やってみろと言わんばかりに余裕を見せていたベロニカだったが、突然息を呑んだ。
シアンの目に宿る傷ついていない光から、揺らめく狂気を感じ取ったのだ。
「お、お待ちください、陛下。」
ベロニカは後ずさりしながら緊張した。
なぜか分からないが、背中に冷や汗が流れた。
喉を締め付けるような恐怖が襲ってきた。
後ずさりしていたベロニカの体が窓枠にぶつかった。
ベロニカは焦った。
本当にこの男がシアンにふさわしいのかと思うほど、狂気に満ちていた。
自分を殺すことすらもいとわないのではないかという恐怖心が湧き上がった。
「わ、私に手を出したら、父上が黙っていないでしょうよ。」
夕暮れ時。
「私は陛下の妻です。そしてイアンの母親でもあります。一度は対話を試みるべきではないでしょうか?」
シアンが一歩、一歩と近づくにつれ、ベロニカの顔から余裕が消えていった。
その瞬間、シアンに対抗する術がイアンしかないと悟ったベロニカは、現実を受け入れる以外に道がないと考えた。
ベロニカの腕に抱かれていたイアンを、シアンは彼女から取り戻した。
「イアン。」
シアンは最後に子どもの名前を呼びながら、温かい眼差しで見下ろした。
誰にも記憶されない彼女、大逆という理由だけで痕跡すら残せなかった彼女。
名前さえ知られなかった彼女。
そんな彼女が唯一この世界に残した大切な存在がイアンだった。
「もう二度とお前がイアンに会うことはない。」
「何をおっしゃるんです?」
シアンは無言の通告を残し、イアンを抱きかかえたまま背を向けた。
彼女を守れなかったとしても、イアンだけは命を賭けて守る。
それが、亡き彼女のためにシアンができる唯一のことだった。
「陛下、陛下。ちょっと待ってください!そこで止まってください!」
振り返らずに去ろうとするシアンに向かい、ベロニカが叫んだ。
しかし声だけが響き渡り、彼女の足は一歩も動かなかった。
シアンの冷たい視線に圧倒され、その場にすくみ上がってしまったのだ。
「よく眠っているな。」
シアンの腕の中で、イアンはいつの間にか安心しきって眠りについていた。
初めて抱かれたにもかかわらず、まるで父親の腕の中にいることを知っているかのように安らかだった。
シアンはそんなイアンに一言も語ることができなかった。
喉が詰まりそうになりながらも、涙を飲み込み、冷静を保とうと努めた。
「イアン、お前の母親はね、この世で一番美しく、心優しい女性だったんだ。お前を一瞬たりとも愛さなかったことなどない。だから覚えておくんだ、たとえ絵の中だけの存在になったとしても、彼女は誰よりも素晴らしい皇后だったということを。お前と私だけは、そのことを忘れてはいけない。いいな、イアン。わかるか?」