影の皇妃

影の皇妃【339話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

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フランツェ大公の頼みで熱病で死んだ彼の娘ベロニカの代わりになったエレナ。

皇妃として暮らしていたある日、死んだはずの娘が現れエレナは殺されてしまう。

そうして殺されたエレナはどういうわけか18歳の時の過去に戻っていた!

自分を陥れた大公家への復讐を誓い…

エレナ:主人公。熱病で死んだベロニカ公女の代わりとなった、新たな公女。

リアブリック:大公家の権力者の一人。影からエレナを操る。

フランツェ大公:ベロニカの父親。

クラディオス・シアン:皇太子。過去の世界でエレナと結婚した男性。

イアン:過去の世界でエレナは産んだ息子。

レン・バスタージュ:ベロニカの親戚。危険人物とみなされている。

フューレルバード:氷の騎士と呼ばれる。エレナの護衛。

ローレンツ卿:過去の世界でエレナの護衛騎士だった人物。

アヴェラ:ラインハルト家の長女。過去の世界で、皇太子妃の座を争った女性。

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339話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 大切な人⑦

エレナは、目の前の彫像をじっと見つめた。

世間に知られることもなく、誰かに記憶されることもない画家の人生のように、自分の存在も薄れていくものだと思っていた。

そんな自分を本当に愛し、覚えていてくれた人がいたのか?

両親を除いて思い浮かぶ人などいなかった。

『両親ではないわ。』

ガイア教団の教えでは、両親の子への愛は絶対的であるとされている。

そのため、聖典にも記されているように、エレナの両親ではないと考えるのが自然だった。

『じゃあ、誰なの?』

エレナは全く答えが思い浮かばなかった。

ベロニカの時代、「教会の花」として称えられ、幾人もの高位の司祭たちが彼女を熱心に求めた時期もあった。

しかし、それらの愛はエレナの背負った地位や名誉によるものであり、彼女自身に向けられたものではなかった。

その事実を彼女はよく知っていた。

『まさか……。』

思わずエレナは、近くで見守るシアンを振り返った。

その目を捉えた瞬間、エレナの瞳が震えた。

『違う。彼のはずがないわ。』

エレナは心の中で否定した。

あり得ない。

そんなはずがない。

彼女の記憶に残るシアンは、決して彼女にそのような感情を抱いているような人物ではなかった。

そして、もしも彼がそんな想いを抱いていたなら、彼女がそれを感じ取れないはずがなかった。

哀しげな表情を浮かべるエレナを見て、シアンが優しく尋ねた。

「大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫です。ただ昔のことを思い出しただけです。」

エレナはぎこちなく微笑む。

優しく接する今のシアンの姿と過去のシアンの姿が重なり、彼女をさらに混乱させた。

「ご立派な方々がいらっしゃったのに、老人の無駄話が長引いてしまいましたね。どうぞ、行きましょう。」

ベネディクト枢機卿は再び身を翻して歩き出した。

聖職者たちさえも見えなくなるほど教皇庁の奥深くへと進み、小さな祈祷室の前に到着すると、そこで足を止める。

「どうぞお入りください。」

案内に従って足を踏み入れると、部屋の正面にはガイア女神の像があった。

その下には聖水が満たされた黄金の水盤が見え、その前には礼拝用の長椅子が整然と並べられている。

「こちらにお座りください。」

シアンが軽く促しながら、女神像の下に立ち頭を下げる。

立ち尽くしているのが気まずく感じたエレナも、彼の隣へと静かに立った。

「これより安息の祈りを捧げます。」

「安息の祈り?」

安息の祈りとは、亡くなった者がガイア女神の腕の中で安らかに眠れるよう、生者が願う祈りのこと。

意味を知らず困惑するエレナに、シアンが冷静に告げた。

「イアンのための安息の祈りだ。」

「……!」

「僕ができるのはこれだけなんだ。」

シアンは目をしっかり閉じた。

大切な人を失った悲しみを抱えながら、心から祈りを捧げる。

一方で、エレナは動揺を隠せなかった。

目の前のシアンとイアンには何のつながりもないはず。

しかし、これほどまでに真摯な祈りの姿を目の当たりにすると、彼の心に深い哀しみがあることを感じ取らずにはいられなかった。

『どうしてこんなにも……?』

さらにエレナは、これまで気づけなかった彼の気持ちを、今こそ理解したいと切望した。

そして、彼女自身も手を合わせて祈りを捧げた。

ベネディクト枢機卿の儀式に則り安息の祈りが終わり、一行が祈祷室を出た時、遠くから歌声が響いていた。

「またお会いしましょう。」

「どうぞお気をつけて。ご加護がありますように。」

ベネディクト枢機卿の別れの挨拶に対し、エレナは敬意を込めて深く頭を下げる。

「本当にありがとうございました、ベネディクト枢機卿。」

彼はただの人ではなく、次期教皇に任命される予定の人物。

彼が主導した安息の祈りは、ガイア女神の手がわずかでもイアンに触れ、彼が安らかに眠れることを願うものだった。

「感謝の言葉をいただけるとは、これ以上の喜びはありません。しかし一つ、気になることがあります。どうして私の名前をご存じなのでしょうか?私は自己紹介した覚えがありませんが。」

「え?とても有名な方ですから。」

エレナが何か失礼なことをしたのではと焦りつつ答えると、シアンが彼女に尋ねた。

「ベローナには初めて来たわけではないのか?」

「は、初めてです。」

エレナが戸惑いながら答えると、ベネディクト枢機卿は意味ありげな微笑を浮かべた。

「もう時間が遅いですね。早く出発なさいませ。」

「そうだな。」

ベネディクト枢機卿はその点についてさらに深掘りすることはなかった。

シアンも同じだ。

ただ、ガイア女神の恩寵と加護を受けたことに感謝しながらその場を後にした。

『本当にありがたい。』

エレナは深く息をつきながら教皇庁を後にした。

馬車が停められていた入り口で馬に乗り、ベロナを発った。

首都へと戻る道は朝とはまるで様子が違っていた。

朝は広々とした野原を駆け抜ける開放感があったが、夕暮れには西の山々に沈む赤い陽光が、心をしっとりとした感傷に包み込んだ。

「あなたに話したいことがある。」

シアンはそっと手綱を引き、エレナに向かって話しかけた。

今では、彼との距離も自然なものになり、言葉を交わすのも気まずさを感じなくなっていた。

「国婚に関わる話だ。」

「お聞かせください。」

「私は拒絶した。」

エレナは目を大きく見開き、その意味を飲み込めず、ただ驚いてシアンを見つめた。

彼の視線は炎のように鋭く、躊躇いも感じさせない。

「まだ正式に発表していないのは、エドモンドの要請があったからだ。彼は辞退を考えているので、王国内での対応準備の時間を欲しいと言ってきた。」

「え、それはなぜ?」

「望んでいないからだ。」

シアンは短く答え、エレナに視線を投げかけた。

その眼差しには彼の本心が込められていた。

「君に話さなかったのは、負担をかけたくなかったからだ。今も同じ気持ちだ。」

「陛下……」

「だが君は国婚に関わるべきではない。」

シアンは手綱を握る力を強めながら、声に力を込めて言った。

それ以上、国婚についての話を続けたくないという意思が明確だった。

エレナもそれ以上問い詰めることはできなかった。

『私が陛下に近づくのが怖いんです……』

エレナの胸の中でその言葉が静かに反響していた。

さむざむしいほど痛む傷があるため、これまでエレナは自分の感情を正面から見つめることができず、避けてきた。

傷つくことを恐れて、さらに大きな痛みに直面するのを無意識に避けようとしていた。

『でも、もう逃げたくない。過去に縛られず、自分の感情に正直になりたい。』

簡単なことではないだろう。

その傷はあまりにも深く、エレナ自身が心を固く閉ざしていたからだ。

一朝一夕に変わるものではないことは分かっている。

それでも努力するつもりだった。

なぜなら、今のエレナは、過去のエレナではないのだから。

 



 

 

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