こんにちは、ピッコです。
「影の皇妃」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

フランツェ大公の頼みで熱病で死んだ彼の娘ベロニカの代わりになったエレナ。
皇妃として暮らしていたある日、死んだはずの娘が現れエレナは殺されてしまう。
そうして殺されたエレナはどういうわけか18歳の時の過去に戻っていた!
自分を陥れた大公家への復讐を誓い…
エレナ:主人公。熱病で死んだベロニカ公女の代わりとなった、新たな公女。
リアブリック:大公家の権力者の一人。影からエレナを操る。
フランツェ大公:ベロニカの父親。
クラディオス・シアン:皇太子。過去の世界でエレナと結婚した男性。
イアン:過去の世界でエレナは産んだ息子。
レン・バスタージュ:ベロニカの親戚。危険人物とみなされている。
フューレルバード:氷の騎士と呼ばれる。エレナの護衛。
ローレンツ卿:過去の世界でエレナの護衛騎士だった人物。
アヴェラ:ラインハルト家の長女。過去の世界で、皇太子妃の座を争った女性。

341話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 大切な人⑨
「お嬢様、もう出発しなければなりません。」
メイの促す言葉にエレナは前掛けを外し、集まった人々に挨拶をした。
昼食を取る時間がなくなってしまい、これが次のスケジュールに影響するかもしれないという懸念を抱きながら、バザー会場を後にしたエレナは、普段愛用している馬車に乗り込もうとした時だった。
「ちょっと待ってください。」
ヒュレルバードが前に立ちはだかった。
「どうしたのですか?」
「馬車の中に誰かが乗っています。」
エレナは緊張した。
私的な用途で使用している馬車に見知らぬ人が乗っているとは、ただ事ではない。
「私が確認します。」
「気を付けてください。」
ヒュレルバードは腰の剣を握りしめながら、片手で馬車の扉を開けて慎重に後ろに下がった。
警戒を怠らないように空間を確保した。
「やあ。」
馬車の中に座っている一人の男性が見えた。
背もたれに寄りかかるようにして足を組み、悠然と座っているその姿にエレナは目を細めた。
一目でその男性が誰なのか悟った。
レンだった。
「ここで何をしているの?」
「何をするって?君を待っていたんだよ。外は見ている目が多いからね。」
「いつからそんなことを気にするようになったの?」
エレナは軽くため息をつき、心を落ち着けるように視線を落とす。
彼女の気持ちを不快にさせたことを悟ったのか、ヒュレルバードの表情に僅かな変化が見られた。
「追い出しますか?」
「ふぅ、それが本心なのですが。」
「おい、優しくしてあげなってば。」
レンは軽い口調で受け流しながら、エレナの視線を少しだけ避けた。
「私、もう移動しないといけないんです。一緒に来ますか?」
「そのつもりで乗ったんだ。」
「了解しました、大丈夫です。」
ヒュレルバードは仕方なく一歩下がった。
これ以上、時間を無駄にする余裕のないエレナは馬車に乗り込んだ。
しかし内部のスペースが狭いため、メイは仕方なく御者席に座るしかなかった。
「どこに向かうの?」
「それも知らずに乗ったの?」
「いや、知ってるさ。王室の行政部に行くだろ?」
レンがすべて分かっていたことに驚きを隠せないエレナは、一瞬口をつぐんだ。
「俺がまたお前のやってることを知らないとでも?」
「それって無駄な才能と人材を浪費することだって知ってますか?」
貴族たちを欺く過程で、バスタージュ家に属するマジェスティの情報網の凄さをエレナは改めて実感した。
彼らならエレナのスケジュールを把握するのは造作もないだろう。
「何だって?俺が家族なんだよ。誰が俺に何もできないなんて言えるんだ?」
「だから今やっているんです。」
「じゃあもっと静かにやれ。最近の愚痴を聞くのがそんなに楽しいのかよ。」
「本当にね。」
唇を噛むようにしながらも憎めないレンを見つめると、エレナはつい笑いがこぼれた。
「俺にはそんな風に笑ってくれないんだね。寂しいよ。」
「私がどう笑ったって言うんです?」
「そんなもんだよ。俺だけが知ってる感覚。」
笑いながらも微妙に物悲しさを感じさせる微笑みを浮かべるレンは、そばに置いていた苦味のある思いをそっと解き放つようだった。
「これ、何ですか?」
レンがカバンから取り出したのは、お弁当箱だった。
蓋を開けると、食欲をそそるサンドイッチと一口サイズの季節のフルーツが整然と詰まっていた。
「食べて生きるためのものだよ。無理して働いてたら体壊すぞ。」
「私に渡すために持ってきてくれたんですか?」
予想外のレンの親切に、エレナは目を見開いて問いかけた。
「いや、一緒に食べようと思って。」
「レン。」
「そんなに見てないで、食べたら?」
「ありがとうございます。いただきます。」
エレナがサンドイッチを一口頬張った。
バターが染み込んだ柔らかなパンが食感を引き立て、負担なく食べられるように挟まれた野菜とハムの味が絶妙に調和していた。
「おいしい?」
「おいしいです。」
「それはよかった。」
レンは満足そうに微笑みながら、自分のサンドイッチを手に取った。
彼が口に入れて一口噛むと、見た目以上に美味しそうに食べる様子にエレナも口元がほころんだ。
「お茶だ。少し冷めているけど、喉が詰まるよりはいいだろう。飲み物代わりに飲んで。」
「ありがとうございます。」
喉が渇いていた彼女はお茶を一気に飲み干した。
香り高い風味が口の中をさわやかに満たし、移動中の車内で食べる軽食がより一層満足のいくものになった。
「おかげで美味しくいただけました、レン。」
「美味しく食べてもらえてよかったよ。」
レンは満足げに笑い、軽く体をほぐした。
車内は狭く、天井に手が当たるほどだったが、彼は気にせず肩や背中を軽く動かした。
「今、何をしているんですか?」
「ストレッチさ。」
「なぜ今ストレッチを?」
「なんでって、降りる準備をしようと思ってさ。もし宮廷の連中に僕が君と一緒にいるところを見られたら、面倒なことになるだろう?」
レンとエレナが親しい間柄であることは既に知られていたが、それが王室事務局で問題視されるのではないかと彼は心配していたのだ。
公式行事に同行するというのは、他の誤解を招く可能性がある。
その点をレンは最初から気にしていた。
「別に俺が原因で馬車を止める必要もないだろう。」
レンは半ば無関心そうに変わりゆく窓の外を見ていた。
ちょうど王宮の壁を横切る頃で、反対側を除けば人影はほとんど見当たらなかった。
「じゃあな。誕生日にまた会おう。」
「どこに行くの……レン!」
簡単な別れの挨拶を残して、レンは素早く立ち上がり、走る馬車の扉を開けて外に飛び出した。
その危険な行動にエレナは驚きつつも声を上げる暇もなく、ただその場に立ち尽くした。
驚いたエレナが窓から外を見ると、レンが少し離れた場所で無事に着地し、後ろを振り返りながらゆっくりと歩き去る後ろ姿が見えた。
初めから用意されていたような自然な動きにエレナは呆れるしかなかった。
「本当にわけがわからないわね。私を振り回すのが目的なんじゃないかと思うくらい。あの人、どういう神経してるのかしら。」
無事なことを確認してからようやく気持ちが落ち着いたエレナは、再びソファに腰を下ろした。
先ほどまで誰かがそこにいたことはわかっているが、突然消えた理由がまったくわからず、不思議な気持ちに包まれた。
「それでも、顔を見られて良かった。」
変化する窓の外の風景を眺めながら、エレナの口元にはほのかな笑みが浮かんでいた。








