こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

114話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 真実の鐘②
フィローメルは自分の部屋にいた。
いや、フィローメルの部屋ではなかった。
初めて見る物であふれた見知らぬ場所。
だがなぜか馴染み深く、誰に教えられたわけでもないのに自然とわかった。
『ここはあの人の部屋だ。』
以前よりもその人の思考や感情が鮮明に伝わってきて、瞬間、自分が誰なのかさえわからなくなった。
侵入者の情報が頭の中に流れ込んできた。
侵入者の本当の名前は ●●。
普段は ●●と呼ばれていた。
そして、その ●● はコンピューターの前で何かを操作していた。
「なんで!どうして!こんなひどい結末になるの!」
彼女は思わずキーボードを叩きつけた。
最近一生懸命プレイしていたゲームが不満だったのだ。
『帰ってきた皇女様のドキドキ宮廷生活』
長所は華やかなイラストで、短所はそれ以外すべて。
ユーザーの金にしか興味がない運営陣と、頻繁にバグが発生するゲームシステム。
それでもストーリーはそこそこ面白い方だと思っていたが、結末ですべて台無しになった。
●●はモニター内のゲーム画面に映る文字をにらんだ。
『フィローメルはこうして皇宮を去った。去っていくフィローメルを見つめながら、エレンシアは心の奥底で彼女に平和が訪れることを願って。>
このゲームの悪役の一人であるフィローメルが、結局は処罰を受けることなく退場する場面だった。
ゲーム内でエレンシアを妨害してきたフィローメルは、後半になって反省し、悔い改めるが、エレンシアはそれをまた許してしまう。
最終的には、フィローメルが捕らえられたのは自分のせいだと、父親も娘の意見に同調する。
それだけで自分の復讐を遂げたつもりだったが、意外な出自の秘密が明かされる。
フィローメルは実はジェレミア・ルートに登場するマタプ魔塔主の娘だった!
そしてフィローメルは、物語の結末で皇宮を離れ、実の父親に会うために魔塔へ向かう。
一番期待していた、だから最後まで残しておいたナサールルートがこんなに裏切られるとは思わなかった。
●●は苛立ちながらつぶやいた。
「だからフィローメルみたいな中途半端な悪役は嫌いなんだ。」
実際、客観的に見たとき、フィローメルは死に値するほどの大罪を犯したわけではなかった。
せいぜい皇女にちょっかいをかけたり、エレンシアのドレスを汚したり、ナサールにしつこく付きまとう程度?
だからこそ、もっと嫌いだった。
『いっそ極悪非道な悪役なら、最後に死ぬ方がまだマシだ。』
フィローメルはちょっと苦しんだ後、許されて終わり父親と再会する。
無理やり結びつけた関係のようなものはあったが、これはもうただのゴリ押しだった。
まあ、設定によるとフィローメルにも不遇な過去があって、そのせいで性格が悪くなったということかもしれないが……。
「そんなの知ったことじゃない!結局、悪役にはこういう悲劇があるっていうやつでしょ、仕方ないんだよ。」
自分が世界で一番嫌いな「クリシェ」だった。
●●は、この一連のストーリーを書いた人間の頭の中が気になった。
そこで「ドルファング」のシナリオライターが運営するブログにアクセスした。
ちょうど「ドルファング」に関する最新の投稿がアップされていた。
[……実はフィローメルはとても惜しいキャラクターなんです。 何といっても主人公はエレンシアだから、フィローメルの物語を十分に描ききれなかったように思います。]
[あくまで私の願望にすぎませんが、もし『トルファング』の続編が制作されるなら、フィローメルを主人公に据えたいです。]
[魔塔に行ったフィローメルが父や兄たちにかわいがられる物語なんてのも素敵ですね。]
●●は頭を抱えた。
「ふざけてるのか?何、フィローメルが続編の主人公?くそっ!」
エレンシアの裏話すら描ききれていないというのに。
「悪役が続編の主人公だなんてありえる?!」
前作で悪役だったのに、プレイヤーたちは驚き、あきれていた。
ベッドで転がっていた ●● は、歯ぎしりしながら足をバタバタさせた。
「フィローメル!本当に嫌い!」
「悪役は悪役のままで終わるべきでしょ!悪事を働いて悲惨な結末を迎えればそれで十分じゃない!」
「私がフィローメルを叩き潰してキャシを獲得してやるわ!」
もし自分がストーリーを書いていたなら、絶対にこんな結末にはしなかったのに…。
そのとき、彼女の頭の中で何かがはっきりと閃いた。
「ちょっと待って、自分で書いちゃダメって決まりはないよね?」
●●はぱっと立ち上がり、再びパソコンの前に座った。
かつて小説を書こうと机にかじりついていたことがあった。
あまり続かずやめてしまったが。
しかし今ならできそうな気がした。
ゲームのストーリーを基本の枠組みにして、自分をそこに当てはめていけばいいのだ。
数分の悩みの末、ついに冒頭が思いついた。
皇女エレンシア。
これから彼女が集中して書く小説のタイトルだった。
フィローメルの処刑シーンはとても悲惨に描かれていた。
最後の期待さえ裏切られるように。
フィローメルの絶望感が大きいほど、●●の満足感も増した。
残酷な快感が広がっていった。
「これこそが、正真正銘の悪役の末路だ!」
勢いに乗って、他のキャラクターたちも自分の好みに書き換えていった。
皇帝は娘の前では正気を失うほどの親バカに。
ナサールはロマンチックな恋愛相手に。
特にナサールとのロマンスパートは、魂を込めて執筆した。
「ナサール、私があなたを最高の男主人公にしてみせるわ。」
「フィローメルは小説の中ではゲームと違って救いようのない悪女だった。」
●●は、フィローメルがこれまでにしてきた残酷な悪行を掘り起こし、新たな悪行も追加していた。
それでも、ゲーム内で出会えなかった魔塔主の父親とフィローメルが会えるように設定してあった。
「もちろん、その父親は一度はお前を受け入れても、最終的には見捨てるだろうけど。」
フィローメルに残された希望のようなものは、何もなかった。
そして、絶望の結末。
●●はナサルの描写には心血を注いだ一方、他の男主人公が登場するときは適当に文字数を稼いだ。
ジェレミアのような複雑なキャラクターは、雑に群衆の一人として描写したため、キャラクター侮辱だと非難されることもあった。
それでもめげずに、『皇女エレンシア』は『ドルファング』のファンフィクションの中で、最も人気のある作品となった。
原作の結末に息苦しさを感じていたのは、●●だけではなかった。
そんなある日、ゲーム運営側から連絡が来た。
『皇女エレンシア』を『トルファング』の公式小説として出版しないかという提案だった。
●●は飛び上がるほど喜び、その提案を受け入れた。
このニュースが公開されると、大多数が祝福してくれたが、否定的な意見も少なくはなかった。
[狂ってる。いくらなんでもファンフィクションを公式小説にするなんて、誰の頭から出たアイデアだよ。]
[ソシャゲで小説出すとか言ってたのに、プロ作家を雇う予算はなかったのかな?]
[シナリオライターなんてどこにでもいるだろうに?]
[ゲームの売上不振で会社からクビになったってのが有力な説。]
●●は鼻で笑った。
「お前たちが何を言おうと、俺は運営から選ばれたんだよ。」
彼らが自分をシナリオライターではなく、あえて公式小説の執筆を任せた理由、それはまさに――
『私が書いた《皇女エレンシア》のほうが、原作よりずっと合ってるストーリーってことだろう!』
やはりゲームの結末は間違っていて、自分の考えが正しかったのだ。
そしてその信念は、●●がエレンシアに憑依したとき、さらに強固になった。
数多くの人の中で彼女が選ばれた理由は明らかだった。
神か何か、全能の存在が自分に機会をくれたのだ。
『この世界を正しい方向に導けと!』
そしてその正しい方向とは、当然<皇女エレンシア>だった。
星光商店前。
真実の瞳が放つ光が、徐々に沈んでいった。
少し前に加わった衝撃によるひび割れはさらに広がり、ついに完全に亀裂が走った。
砕けた石像の破片が、床にパラパラと落ちた。
「……」
フィローメルは、かすかな記憶が石像を通じて蘇るのを感じた。
しかし、その間もエレンシアの両手首を掴んでいたフィローメルの力は緩まず、むしろさらに強くなった。
エレンシアは泣きながら叫んだ。
「痛い!手を放して!」
手から始まり体まで、フィローメルは震えていた。
「私が……」
怒りで燃える黄色い瞳がエレンシアに向けられた。
「これまで、お前が書いた小説のせいでどれほど……!」
<皇女エレンシア>は嘘だった。
すべてが嘘というわけではなかったが、フィローメルの人生に最も大きな影響を与えた部分はほとんどが歪曲されていた。
その本によって積もった心の苦しみが次々と込み上げた。
もし本の中の「フィローメル」のように、生涯回復不可能な悪役になるのではないかと恐れて、ひたすら自分を閉じ込めてきたのだ。
胸が締め付けられた。
毎晩、処刑される未来を想像しながら、涙を流していたのに。
『でもそれが嘘だったって?本来の私の運命は違ったって?』
じゃあ、その間ずっと自分が何のためにあんなに苦しんできたのかというのか。
フィローメルは、自分の足元に倒れている女性を見下ろしながら、歯を食いしばった。
「私がそんなに嫌いだった?そんな小説まで書くほど?」
その気迫に圧されて、エレンシアはうろたえた。
「わ、私は……。」
「答えろ!私があんたに何をそんなに悪いことしたっていうの?」
「やめて!ただのファンフィクションちょっと書いただけじゃないの!」
エレンシアは世の中で一番理不尽な人のように叫んだ。
「私があなたにその小説を見せたわけでもないし、こんなことになるなんて思ってもなかったのに……私が何をしたっていうのよ!」
一見もっともらしい主張だった。
彼女はゲームの結末が気に入らなくて、空想の物語を一つ書いただけだ。
それが実際に生きているフィローメルの人生に甚大な影響を与えるなんて、もちろん思っていなかったはずだ。
しかし。
「それなら、この世界に来てからはどうしてそうだったのか」
「なんだって?」
「なにが?」
「『皇女エレンシア』の内容を実現させるためだって言ったじゃない。この世界が単なるゲームじゃなくなった理由も、そこにあるって。」
「そ、それは……。」
「できるなら私を小説の通り処刑しようとしたんでしょう?」
「違う!」
「嘘つき。だからあの確信に満ちた目で、私への悪意をばらまいてたんだよね。」
ねっとりとした、しつこい悪意。
フィローメルはついに、これまでこの人から感じていた悪意の正体を暴き出した。
『偽者だから傷つけたって?とんでもない。』
この人間はただ、フィローメルがフィローメルだから嫌いだっただけだ。
嫌われるために作られた存在だから。
そんな主題に自分が満足するほど不幸じゃなかったから。
「何?人々が私をもっと好きだから嫉妬したって?」
フィローメルは相手を冷たく見下ろしながら嘲笑した。
もちろん嫉妬もあっただろう。
ただし、それが主な理由ではなかった。
「笑わせるわね。私が人に嫌われていようと、その本の内容通りに処刑しようとしたくせに。」
もし自分が幼いころに『皇女エレンシア』を読んでいなかったら、どうなっていたのだろうと想像してみた。
おそらく高い確率で、この女の策略に引っかかっていただろう。
皇女の体に入ったその女が計画を立てて陰謀を巡らせていたら、フィローメルにはそれを防ぐ手立てがなかった。
『私は何も知らずに生きて、死んでいっただろう。』
『皇女エレンシア』を読んでいなかったフィローメルは、自分の実の父親が誰かも知らず、性格の悪い偽物の黄女に騙されていただろう。
皮肉な話だ。
誰かがフィローメルをひどく憎んだ結果として書いた小説が、彼女を救ったのだから。
エレンシアが体を震わせた。
「わかった!ごめん、ごめんってば!とにかく今はお前はちゃんと生きてるじゃないか!痛いんだから手を離して!」
フィローメルは彼女の望み通り拘束を解いてやった。
代わりに、
パシッ!
肉を叩く音とともにエレンシアの顔が横を向いた。
片頬が赤くなった女は呆然とした表情でフィローメルを見つめた。
自分が叩かれたという事実が信じられない様子だった。
「痛い?」
フィローメルは冷たく言った。
「私だって、お前がばらまいた噂のせいで鞭で打たれたとき、痛かったんだよ。」
ロザンヌが元皇女の頬を叩けたのは、みんながフィローメルを犯罪者だと思い込んでいたからだった。
状況が理解できたエレンシアは、目を見開いた。
「……おい、いくらなんでも私を殴る?データくずれのくせに、うわっ!」
だが彼女は言葉を失い、信じられないような顔をした。
フィローメルがエレンシアの拘束を解き、自由になった手でエレンシアの頬を叩いたのだ。
彼女は思わず声をあげた。
「おかしい、なんで痛いの?」
「……クソッ!殴ったらそりゃ痛いだろ!」
「私たちがデータくずれなら、あなたの体だってデータなのよ!」
「データの塊だし、叩かれても痛いわけないのに。」
エレンシアは口をパクパクさせたが、全く別のことを口走った。
「こ、これは暴力よ。あとで訴えてやるから……。」
パシッ!
「痛っ!このイカれ女!私が何をそんなに悪いことを……。」
パシッ!
「ちょっと!なんで見てるだけなの?データの塊なのに叩かれて……。」
パシッ!
エレンシアは慌てて腕を上げて顔を防ごうとしたが、再び押さえ込まれたままもう一発叩かれた。
「ふぅ。」
フィローメルは荒くなった息を整えた。
顔が腫れるほど殴りたかったが、ぐっとこらえた。
「本物のエレンシアの体なのだ。6発くらい殴っただけで満足しよう。」
衝撃のせいか、しばし茫然とするエレンシアを見ながら、フィローメルは思案にふけった。
外に引きずり出そうとすれば、必ず抵抗するに違いない。
どれほどの力の薬を飲ませても、抵抗する人間を引きずって歩くのは骨が折れる作業だ。
「やはり、頭を軽く叩いて気絶させるのが一番だな……。」
エレンシアがうめき声をあげた。
「痛い! ちょっと! 放さないと噛みちぎって殺すわよ!」
そう叫んで自分の腕を引き抜いた。
予想外の反応に、エレンシアの腕を拘束していたフィローメルの手から力が少し抜けた。
エレンシアはその隙に床に落ちたスクロールを掴もうとした。
「どこ行くの!」
「きゃっ!」
しかし引き抜いた腕はむなしく、またフィローメルに捕まった。
指先だけがスクロールに触れたが、スクロールをしっかり掴む余裕はなかった。
『お願い!お願い!』
エレンシアは必死に祈った。
生まれてから一度も神にすがったことはなかったが、今この瞬間、初めて神に願った。
『こんなことなら、なぜ私をこの世界に送り込んだの!』
彼女を嘲笑う神は冷酷だった。
自分が誰のせいでこんな目に遭っているのかも分からないのに。
『責任取って!私のこと、責任取って!』
そして彼女の叫びは応答された。
スクリューが「ジジジ」と音を立て、エレンシアの手首に巻き付いていた黒い糸が裂けた。
スクリューに絡まっていた指先から始まり、エレンシアの体が徐々に暗い影に包まれていった。
「ダメ!」
フィローメルは必死にエレンシアの体を抱きしめたが、抗うことはできなかった。
エレンシアは一瞬で消えた。








