こんにちは、ピッコです。
「ジャンル、変えさせて頂きます!」を紹介させていただきます。
今回は135話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
135話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- リューディガー・ヴィンターヴァルト
「叔父さん!」
リューディガー・ヴィンターヴァルトは遠ざかる馬車を見つめた。
馬車から身を乗り出した幼いルカの泣き叫ぶ声が、馬車とともに遠くへ消えていく。
彼はすぐさま馬車を追おうとしたが、それより先にルカの声の元を辿るため、剣を抜いて駆け寄る刺客たちへ視線を向けた。
刺客たちは突如現れたリューディガーの姿に驚いた。
しかし、彼らは自分たちの数の多さに自信を持ち、薄笑いを浮かべながら言った。
「リューディガー・ヴィンターヴァルト! 貴様一人で我々を相手にするつもりか?」
「できないこともない。」
「自信過剰だな。お前がどれほど俊敏であろうとも、この数を全て倒すことはできないだろう。」
バーケンレースから送り込まれた刺客たちは百人を超えていた。
百人といえば、一つの中隊にも匹敵する規模だ。
傭兵として考えても少なくない人数であり、暗殺を生業とする者たちならなおさらのことだった。
この数の暗殺者たちを雇うには相当な資金が必要だっただろう。
バーケンレース伯爵でさえ、この規模を引き受けるのは簡単ではなかったはずだ。
(バーケンレースが俺とルカを処理するために、執念深く刃を磨いて送り込んできたかのようだ。)
現在リューディガーを囲んでいる暗殺者たちは30人余り。
初めに彼らを追い払った暗殺者の数に比べればかなり減っていた。
しかしそれでも、リューディガー一人で相手をするには容易ではない数だった。
おそらく、今日ここで彼は命を落とすことになるだろう。
(だが、簡単に死ぬつもりはない。)
リューディガーは大胆にも暗殺者たちを見渡した。
敵が押し寄せるときこそ、何よりも冷静さを保つことが重要だった。
「バーケンレースが犬を放ったかと思えば、政治家を送り込んだとはな。」
「何だと?」
「暗殺者だと言いながら、口だけが達者な連中のようだな。その程度だということだ。」
「この野郎!」
リューディガーの挑発に、暗殺者たちは苛立った。
リューディガーは茶色いコートを翻しながら、余裕たっぷりに彼らを挑発して見せた。
「結局のところ、お前ら全員を殺すだけのことだ。これ以上簡単なことはないだろう。」
「ふざけた野郎だ、あれは時間稼ぎの作戦だ!1チームは馬車を追え。他の3チームと6チームは俺を守りながら、あの野郎を始末しろ!」
考えが読まれているようだ。
リューディガーは内心で苦笑しつつも、銃のトリガーに指を掛ける。
リューディガーが敵の動きに反応した瞬間、彼の銃が暗殺者を狙うのは一瞬の出来事だった。
最初に馬車を追いかけていた暗殺者が弾丸を受け、倒れた。
リューディガーは即座に発砲し、次々と暗殺者たちを撃ち倒していく。
「馬車を追わせるわけにはいかない。」
リューディガーは冷静に銃口を向け直し、素早く弾丸を込めた。
「ここで俺がやることは、お前らの尻尾を徹底的にちぎり取ることだけだ。」
「捨て駒にするための奴らというわけか。」
暗殺者たちはリューディガーに襲いかかったが、リューディガーは巧みに攻撃をかわし続けた。
そして馬車を追っていく暗殺者たちを執拗に妨害した。
「くそ・・・!まずはリューディガーを片付けろ!馬車はその後で追えばいい!」
リューディガーが簡単に彼らを見逃すつもりがないと悟った暗殺者たちは、標的を馬車からリューディガーへと切り替えた。
彼らは一斉にリューディガーを囲んだ。
リューディガーは頭の中で手持ちの弾薬量を素早く計算する。
30発。
火力としては十分だが、余裕はない。
それでも彼の表情には少しの動揺も見られなかった。
冷たい眼差しを向け、目の前に迫る暗殺者たちを見据える。
銃を握る手に力が入り、その緊張感は暗殺者たちにも伝わった。
数十丁の銃がリューディガーに向けられる。
誰もが先に撃つのをためらい、ついには銃声だけが虚空に鳴り響いた。
最後の銃声が響いた。
森の鳥たちはすでに一度驚いて飛び去っており、今や急な銃声にも逃げる鳥影はなかった。
火薬の煙が銃口から漂い、銃はリューディガーの手を滑り落ちて地面に音を立てて落ちる。
リューディガーは足を引きずりながら近くの木の根元へ向かった。
彼の足音が乱れ、体がぐらついて不安定な様子だった。
彼は木に寄りかかり、大きく息を吐いた。背中が木に滑り、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。
リューディガーの周りには倒れた暗殺者たちの死体が散乱していた。
彼は揺れる視線でその数を数えた。
(2・・・いや、3人を逃がしたか。)
彼は少し眉をひそめる。
完璧に片付けるべきだったのに・・・ルカが無事に逃げ延びられるか不安が頭をよぎった。
(今となっては・・・ハンスを信じるしかない)
リューディガーは木に背を預けたまま深く息を吐き出した。
脚に一発、腕に一発、腹に三発・・・すでに瀕死の状態だった。
(これが俺の人生の終わりなのか。)
リューディガーは短いようで長い、自身の30余年の人生を振り返る。
後悔はなかった。
未練もなかった。
軍人として生きてきた中で、一度たりともベッドで安らかに死ぬ姿を想像したことはない。
むしろ、こうして壮絶な最期を迎えられることは幸運と言えるだろう。
忠誠も愛情も感じられない祖国を守って死ぬより、ヴィンターヴァルトの次期後継者を救い、そのために命を捧げる方がよほど満足だった。
リューディガーの目に涙が浮かんだ。
意識がだんだんと朦朧とし、現実と夢の境界がぼやけ始めた。
『叔父さんと一緒に暮らしたい・・・叔父さん、私を愛してるなら、お願い、私の話を聞いてよ。ね?』
「愛してる。置いて行かないで」と泣きじゃくるルカの声が耳元で聞こえたように感じた。
それをきっかけに、過去の思い出が駆け巡った。
ルカと初めて出会った瞬間。
ルカが初めて言葉を発したときの、恥ずかしそうな顔。
ルカが初めてザッハトルテを食べたとき、感動していたのをリューディガーは思い出した。
「好きなだけ食べていい」と言われて、嬉しさのあまりお腹が膨れるまで食べ続けた。
(結局、次の日はお腹を壊して苦労してたけどな・・・)
リューディガーの口元が自然に緩んだ。
ルカは明るく、幸せそうに生きていける子供だった。
人生でほとんど情熱を感じることがなかったリューディガーとは違い、愛を愛として受け止めることのできる、そんな本質的に異なる存在だった。
そうだ。
ルカならリューディガーよりもっと楽しくこの世界を生きていけるだろう。
(きっと立派なヴィンターヴァルトの後継者になれるさ。)
そのためなら、この命を捧げることくらい何でもない。
どうせ悔いのない人生だったのだから。
ただ一つ後悔が残るとすれば・・・。
(たとえ嘘でも、「愛してる」と言ってあげられたらよかった。)
傷ついたルカの泣き顔を思い出しながら、リューディガーは寂しそうに微笑んだ。
しかし、すぐにその笑みも消え、静かに目を閉じる。
明確に線引きして距離を取ったほうが、ルカがこれから生きていく上で役立つだろう。
それでも、ルカがあんなにも裏切られたような顔を見せるのは初めてだった。
いや、二度目か。
初めては・・・おそらくルカのもう一人の血縁者であるユディットが自分を金で売り払ったと知ったときだった。
リューディガーは不愉快な記憶とともにユディットとの初対面を思い出した。
ルカが泣いているのに、少しも気にかけない彼女の冷淡な態度。
彼女は意地悪な継母そのものだった。
その姿にリューディガーは珍しく激怒した。
それを思い返しても、彼にとっては珍しいことだった。
リューディガーは普段、他人に期待することがないだけでなく、不公平だったり、自分の基準に合わないことがあっても、それに対して怒りを爆発させるようなことはなかった。
「怒り」という感情は、リューディガーにとって愛情がなければ成立しないものでしかなかった。
そんな彼が初対面のユディットに対して怒りを覚えた。
それから何度かルカの周囲をうろつくユディットと顔を合わせることがあったが、そのたびにリューディガーは表情を険しくしていた。
彼女と対峙するときだけは、普段の冷静さを保てなかった。
冷静さはどこかへ消え去り、代わりに煮えたぎる怒りが心を満たしていた。
彼の視線を真っ直ぐに受け止める、淡い青色の瞳。
その瞳に向き合うたびに、気付かぬうちに胸が高鳴り、炎が燃え上がるような感覚を覚えた。
(そういえば、あの女ももう死んでしまった・・・)
ハイエナのようにルカの周りを徘徊していた彼女が、いつの間にか姿を消していた。
もしかしたら別の策略があるのではないかと調べてみた結果、戻ってきたのは彼女の死の報告だった。
彼女が死んだ理由や状況は詳しく分からない。
その報告を受け取ったとき、なぜか胸の奥に重い石が沈んだような感覚がした。
まるで自分の人生において二度と出会えない何かを失ったような喪失感だった。
当時のリューディガーはそんな自分を嘲笑しながら、自らを律していた。
「彼女は次期ヴィンターヴァルトの後継者にとって害をなす存在だった。彼女がいなくなったことはむしろ良いことだ」と。
しかし、その理由では埋めきれない空虚感や喪失感が心に残ったのも事実だった。
ユディットに対する苛立ちや思い出は、リューディガーの記憶の中で深く根付いていた。
それらは時折彼を嘲笑するように浮かび上がり、今もなお消えることはなかった。
『それほど立派な人間ぶって、死なない人間でいたかったのか?結局、君も死ぬのは他の誰とも変わらなかったんだね。』
満足げな声がまるで歓迎するかのようにリューディガーの耳に響いた。
その声に、彼は自分でも知らぬ間にかすかに笑みを浮かべていた。
ユディット・マイバウムは結局天国に行けるような人間ではなかった。
そして、リューディガー自身も同様だ。
自分の手を赤く染めた数々の血を思うと、天国など口にする資格すらないと思った。
(彼女と地獄で再会することさえあるかもわからないな。)
そんなことを考えると、死ぬこともそれほど悪くない気がしてきた。
死後の世界もきっと退屈しないだろう。
いよいよ訪れる死の瞬間を迎える前に、あり得ない空想を少し楽しんでみることにした。
ユディット・マイバウムは、しつこくも手ごわい女だったが・・・。
もし彼女がもう少しルカを憎むことなく受け入れていたら、もしかしたら彼女と良い関係を築けていたかもしれない、とさえ思えた。
リューディガーは死を目前にして、初めて気づいた。
自分はユディット・マイバウムをそれほど憎んではいなかったのだと。
むしろ・・・。
彼は静かに目を閉じる。
それが彼の最後だった。
一つ、それはただ新しい太陽の光だけが静かに差し込む情景だった。