こんにちは、ピッコです。
「ジャンル、変えさせて頂きます!」を紹介させていただきます。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

158話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 記憶喪失⑫
私たちはそのままタウンハウスへと戻った。
車に乗っている間も、リューディガーの気配は異様に静かで、私はその冷たい沈黙にどう向き合えばいいのかわからなかった。
『こんな反応は初めてね……どうしてだろう?』
もちろん、国王が彼を差し出し、ほかの誰かと引き合わせようとしたことに腹を立てたのかもしれない。
リューディガーはもともと嫉妬深い性格だったから。
でも、普段の彼は冷静で、自分の感情を表に出すことなど滅多になかった。
こんなふうに激しい感情を隠しきれずにいるなんて、本当に珍しいことだ。
彼は家門の名前そのものが示すように、まさに紳士そのものであった。
どれだけ冬の嵐が吹き荒れても、木々が根こそぎ倒れることはないように、彼はいつも冷静で、むしろ静かな力をもって周囲を落ち着かせる役割を担っていた。
それがユディット、つまり私のリューディガーだ。
しかし、今のリューディガーは怒り、狼狽し、そして何かに対して悲しんでいるように見えた。
タウンハウスに到着した後も、彼の心の中に何が起こっているのか見極めるのは困難で、私はそっと彼を自室へ導いた。
「リューディガーさん、部屋に行きましょう。さあ、こちらです……」
一目見ただけで尋常でない彼の気配に、使用人や従者たちは速やかにその場を離れた。
会場で何が起こったのかを確認しようと私に近づいてきたルカも、私がリューディガーの様子を気にしていることに気づいたのだろう、何も言わずに視線をそらしてその場を後にした。
そうして、私はリューディガーをそっと部屋へと連れ戻し、ドアを閉めると、小さく安堵の息をついた。
私たちが向かったのは、もともとリューディガーと私が一緒に使っていた夫婦用の寝室だった。
リューディガーが記憶を失ってからは、彼専用の個室として使われるようになったが、今でもその部屋は私にとって特別な意味を持っていた。
リューディガーは部屋の片隅に置かれた家具にもたれかかり、そこに立ち尽くしていた。
その姿はどこか不安定で、心ここにあらずといった様子だ。
私は彼の顔をまともに直視することができなかった。
彼の表情には、まるで視線だけで人を刺し殺せるかのような、自制心を超えた怒りが宿っていた。
それでも距離を取ったまま、彼に視線を戻すことをためらう自分がいた。
見間違いではないだろうか。
そう思いながら、もう一度彼を見た。
しかし、何も変わっていなかった。
何か声をかけるべきだと思いながらも、言葉が詰まって何も言えなかった。
先に口を開いたのはリューディガーだった。
しばらくの間、彼は静かに沈黙を守っていたが、搾り出すような低い声で言葉を紡いだ。
「申し訳ありません。事を起こす前に、許可を得るべきでした。」
「それは……もういいんです。状況が状況だったんですから。」
私はリューディガーを見つめた。
この程度で収まって本当に良かったと思わざるを得なかった。
さらに幸運だったのは、国王がその場にいなかったことだ。
もし国王が出席していたならば、この事件はこの程度では終わらなかっただろう。
私が何気なく放ったその言葉が、彼を少しでも慰めることになったのだろうか。
リューディガーの目がわずかに揺れるのを感じた。
彼の冷たい青い瞳が、冬の海のように静かに私を見つめていた。
言葉を発さないまま、しばらく時間が過ぎた。
そしてついに、リューディガーが口を開いた。
「やはりユディットさんは若い男性がお好きなんですね?」
その言葉に、私は一瞬言葉を失った。
考えもしなかった質問に戸惑い、思わず顔が赤くなった。
「……どうしてそんな方向に話が進むんですか?」
「ユディットさんは、若い男性に対して甘く接しているように見えますから。」
私は深いため息をついた。
その言葉が明らかに勘違いであることは分かっていたが、彼の言葉の裏にある何か固執した感情に気づかないわけにはいかなかった。
疲れた声で彼を宥めようとした。
「リューディガーさん。」
「私はまだユディットさんの言葉を理解できません。あの者たちは、若さを武器にしてここに来た者たちです。彼らを、ただ若いという理由だけで許すべきなのでしょうか?」
「リューディガーさん。」
私は再びリューディガーの名を呼んだが、彼は怒りに満ちた様子で私の言葉を全く聞いていないようだ。
不安げな彼の青い瞳が揺れているのが見えた。
震える瞳の輝きは無表情にも見えたが、それと目が合った瞬間、私の心臓は一瞬にして早鐘を打ち始めた。
リューディガーは突然、私の目の前で膝をついた。
彼は私の手を掴み、まるで私を崇めるかのようにその手をじっと見つめていた。
その姿は、どこか痛ましくもあり、懺悔をする罪人のような表情を浮かべていた。
「私は不安です。不安でたまらない。嫉妬してしまうのです。若い貴族たち、造作の美しいルカ、そして記憶を失う前の自分……それらが私にとってどうしても気になってしまう。」
私の手を握る彼の力は徐々に弱まり、まるで溺れる者が救いを求めるかのように、その手にすがりつくような仕草を見せた。
私は彼の反応にどう答えればよいのかわからず、ただ困惑して彼を見つめていた。
その間に、彼は突然私の首筋にそっと手を回した。
立ち上がった彼の顔が静かに私に近づいてきた。
明らかなキスの試みだ。
背中に汗が滲み、彼の手が掴んでいる場所がまるで炎に包まれているかのように熱く感じられた。
これまでリューディガーと何度もキスをしてきた。
一日に何度も紅茶を飲むような感覚で彼と唇を重ねてきたのだ。
私たちはお互いに愛し合い結婚した夫婦であり、それは当然のことだった。
他人の目がある時は少し恥ずかしかったけれど。
しかし、記憶を失った彼とは、この種の親密な接触を一度もしたことがなかった。
なぜなら、してはいけないと思ったからだ。
ペルセポネが冥界の果実を食べたように、彼にキスをしたらリューディガーの記憶が永遠に戻らなくなるのではないかという不吉な妄想が、私を縛り付けていた。
彼を落ち着かせるために抱きしめるのがせいぜいのこと。
混乱した考えを巡らせる中、彼の唇が私の方へ確実に近づいてきていた。
震える彼の息遣いが私の唇に触れそうだった。
唇が触れる直前のその瞬間、私はついに勇気を出して、首をわずかにそらして彼の唇を避けた。
リューディガーはしばらくの間、傷ついた表情を浮かべていた。
「リューディガーさん、さっきのはただ……。」
後から言い訳をしようとした私だったが、足元に落ちた明るい花のような彼の視線に出会うと、言葉が喉に詰まり、それ以上何も言えなかった。
リューディガーは慎重に深呼吸し、控えめに口を開いた。
「あなたは私を愛していると言いましたが、私はその言葉を信じられません。」
「……。」
リューディガーの反応は予想外ではなかった。
私は自分の浅はかさを思い知った。
もし私が彼の接近を受け入れたとしても、きっと彼を傷つけていただろう。
それでも、彼が自らを傷つけまいと気を張っている姿に気づいた時、彼の心はもう一度砕け散ってしまったのだと悟った。
「あなたは私に対して無条件に優しく、いつも私のそばにいてくれるけれど……。それでも、私を避けます。さっきみたいに、私の唇や手を拒みます。正直に教えてください、ユディットさん……。今の私は、あなたの心には不釣り合いな夫なのでしょうか?」
「違います。そんなことはありません。ただ、あなたが混乱してしまうのではないかと……。」
「まったく混乱していません。私はこのまま生きていけば、それで構わないのです!」
リューディガーは勢いよく声を上げた。
彼の手は私の腕をしっかりと掴んでいた。
それはまるで、自分が崩れ落ちそうな中で、私が離れてしまいそうになるのを恐れているように見えた。
けれども、私は彼から離れることはしなかった。
私を見つめる彼の視線は、小さな灯火のように私を包み込んでいた。
その瞬間、私は混乱し、ただ心臓の鼓動が強くなるのを感じるしかなかった。







