こんにちは、ピッコです。
「死んでくれと言われて」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

37話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 弱点④
はあ。
短くため息をつきながら剣を下ろしたアウクスが、フレンヒルディの肩をぽんと叩き慰めた。
「誤解しないで、フレンヒルディ。私は一度たりともお前を繊細じゃない子だと思ったことはない。たとえ繊細でなくても、それがあなたの欠点にはならないだろう。君は賢くて落ち着いている、それだけで十分だ。」
その瞬間、熱い何かが喉の奥からこみ上げてくる感覚があった。
込み上げた熱は口の中を通って鼻先と目元を刺激した。
フレンヒルディは、あふれそうな涙と鼻水を必死にこらえ、ぎゅっと唇を噛みしめた。
「……ありがとうございます。」
彼女の頭を撫でたアウクスが、厳かな声でニナベルをたしなめた。
「これからは、言葉をもっと慎重に選ぶべきだな、ニナベル。特に、相手が他人ではなく家族であるならなおさらだ。」
その時だった。
「ニナベル?」
優雅な声とともに、演武場の入口からニナベルとそっくりな金髪を持つ女性が駆け寄ってきた。
二番目の夫人、キャロン・トゥスレナだった。
それほど驚くような登場ではなかった。
キャレンは、自分の娘であるニナベルが困った時には、どこにいてもまるで鬼神のように察して駆けつけてくるからだ。
「私の赤ちゃん、高い声が聞こえたけど、何かあったの?」
「え、お母様……」
ニナベルは登場した自分の母親を、まるで救世主でも見るかのように迎えながら答えた。
「違うんです。全部ニナベルのせいなんです。ニナベルが失言してしまったんです。でも……フレンヒルディお姉様が私を捕まえようとしたから、びっくりして私もよく分からなくなって……」
黙って耳を傾けていたキャレンは、自然な流れでフレンヒルディに目を向けた。
「どういうことなの、フレンヒルディ?」
もし以前の彼女だったなら、どう対応していただろう?
『どうせ一人で必死に怒って、キャロンに叩きのめされて泣きながら逃げたに違いない。』
でも──もしこの場に立っていたのが別の誰かだったら?
「あなたは、ただそんなふうに生きたくなかっただけ。」
もしも、いつの間にか他人のように変わってしまった彼女だったなら、きっと──そう、きっと「怒った」わけではなく、「ニナベルの失言」に焦点を当てたことだろう。
「はい。ニナベルが悪いんです、叔母様。彼女が私に、母親のいない子だって囁いたから。」
その瞬間、ニナベルの瞳が困惑で揺れた。
当然の反応だった。これまでの歴史によれば、キャレンが登場した時、フレンヒルディは
すぐさま逃げ出さなければならなかったのだから!
「ち、違うんです。そうだよね、チェフ?ニナベルはただ、そのままの事実を、失言で……
失言をして……ここにいるアウクス副家長様が……」
しかし、ニナベルの弁解は長く続かなかった。
アウクスがフレンヒルディの前に立ち塞がったのだ。
「チェフ。」
絵のようにじっと立っていたチェフが、ゆっくりと答えた。
「はい。」
「フレンヒルディを連れてきなさい。あの子はずっと本ばかり読んでいたから、きっと驚いているはずだ。」
手招きするように、チェフはフレンヒルディに向かって合図した。
ニナベルの胸の痛みは、目の前がぱっと明るくなるほどの衝撃だったが、彼女は力強いアウクスの命令に逆らうことなくふらふらとついていった。
「チェフ、こ、こんなふうに放っておいていいの?」
フレンヒルディを振り返ったチェフの目には、相変わらず冷静ながらもどこか温かみのある表情が浮かんでいた。
「いいの?」
「私たちが助けないと。」
「助けるって何を?母上がうまく処理するさ。」
でも……。
「姉さんはどこに行くの?部屋?」
「ああ、うん。……君は?」
「うーん。巻き込まれたのは予定外だし、ヤナのところにでも行こうかな。」
いや。
彼女の名前が出ると、フレンヒルディのの瞳が再びぱちぱちと瞬いた。
「お前、ヤナがそんなに好きなの?」
「……え?」
「正直に答えていいんだぞ。ふらふらしているようには見えないからな。私は、お前がニナベルじゃなくてヤナに興味を持っているところは悪くないと思っているんだ。」
チェフの冷めた表情にもかかわらず、フレンヒルディは自分の判断を疑うつもりはなかった。
『私の勘は鈍っていない。お前みたいに何でも区別する奴が異性に興味を持つ時は、
一つしかない。』
まさに「恋愛」というやつだ。
ロマンス!
チェフは、若干嫉妬しているような目でフレンヒルディを見つめ、すぐに体をくるりと回して歩き出した。
「さっきの姉さんの発言で、結婚をすすめられるとはな。」
「その特性が遺伝的特徴だと確信されたんだ。」
「唐突に何の話?」
「それにちょっと驚いた。ヤナとそんなに親しい仲でもないように見えたけど。」
爽やかな微笑みを浮かべたフレンヒルディが振り返る。
彼女は内心驚いた。
こんなふうに笑うこともできるのか。
『内心で嫌ってるのを隠しもしなかったのに。ヤナ・トゥスレナの話をちょっと出しただけで、にっこり笑うなんて。』
まさか、あの表情で否定するつもりじゃないよね?
「……君は一人っ子だから分からないかもしれないけど、兄弟ってのはだいたい仲が悪いものなんだよ。血が近いほどなおさら。」
「ふーん。そう?必ずしもそうとは限らないと思ったけど。」
「少なくとも、トゥスレナ家ではそうだよ。側室たちもね。」
そして私たちも……お互いの顔を見るだけで噛みつき合わないわけがない。
「疑わしいな。ここで過ごしてそんなに時間が経ってないけど、トゥスレナ大家主様はそんな反目を買うような性格には見えなかったのに。」
性格か。
フレンヒルディもその言葉に特に反論する気はなかった。
大家主、つまり彼女の祖父は、父親や叔父たちと比べると、確かに人間的で善良な人物だった。
そんな人の元から、あんな男たちが生まれたという事実が信じられないくらいだ。
「……もともと家の中のことには無頓着だったの。正確には、興味がなかっただけ。」
「忙しすぎたの?」
「似たようなもの。大家主様は、仕事の合間を縫っていつもゴンレッド語とそれに関連する遺跡の調査をしていたの。みんな忙しくて、あれこれ聞いた話ではそれがほとんど誰かの死と関係があるらしいけど……私も詳しくは知らない。」
「誰にでも事情はあるさ。」
「なぜ、その事情が気になるの?」
フレンヒルディはチェフの答えを待たず、言葉を続けた。
「君……ヤナのことでトゥスレナが気になったの?そんなにあの子が気に入ったの?」
どこか疲れたようなため息が聞こえてきた。
「はぁ。いいよ、好きに考えな。どうせ姉妹じゃないかって、変な妄想に取り憑かれてるんでしょ……。」
明らかに否定の姿勢を見せるチェフに、フレンヒルディは鼻で笑った。
『否定?それならなぜそんなにムキになってるの?』
彼女は正直に認めることにした。
このシナリオ、面白い。
『その中でも一番みっともなくなるのはニナベルじゃなく、私生児のヤナ・トゥスレナを気に入ることだなんて、それが一番面白い。』
なぜって?
何をしても温かい目で見てもらえるのは結局あの子だったから。
ニナベルがチェフのように立派な後継者を得ることなんて絶対にありえない。
あの子がヤナに劣等感を抱いて嫉妬に狂ったニナベルが病み衰えていく様を眺めるのも、とても楽しいことになりそうだ。
『あの根性なしの中身をどうやって抉り出せるかな……』
まだ時間はある。
ゆっくり考えればいい。
そのおかげで寝室に戻るフレンヒルディの足取りも少し軽やかになった。
トゥスレナが完全に事件の種になったのは、そこからさらに時間が経った後のことだった。











