こんにちは、ピッコです。
「死んでくれと言われて」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

43話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 学園②
リンはヤコスバート教授の執務室へと向かった。
銀色に輝く杖を長く突いて現れたヤコスバート教授は、彼女の予想よりもずっと年配で、穏やかな印象を持つ白髪の老人だった。
「お待ちしておりました、ヤナ・トゥスレナ嬢。」
「こんにちは、モリー・ヤコスバート教授。急な面会のお願いを快くお受けいただき、本当にありがとうございます。」
コツ、コツ。
ヤコスバート教授が歩を進めるたびに、重厚な音が床を響かせた。
彼が席に向かうあいだ、リンは執務室の中を素早く見渡した。
知識人の香りが染みついたその部屋の空気の中には、見慣れた草花の静物画が掛かっていた。
金庫で見た黒髪のヘルムートの肖像画だった。
『そういえばあの肖像画、チェフがいた2階のホールにも掛かってたっけ。』
どの家にもあの肖像画を飾るのが流行りなのか?
ちょっと不吉なものを追い払うためのものなのか?
冷たい表情の黒髪の顔を見ると、なんだかそんな気がした。
くつろいだ様子でソファに座っていたヤコスバート教授は、テーブルに散らばっていた紙を拾い、向かいに座るリンを見ながら微笑んだ。
「質問リストは昨夜の書簡でちゃんと確認しました。はは、正直かなり驚きましたよ。若いお嬢さんからあんなにレベルの高い質問が来るとは思いもしませんでした。」
また送ったの?
『ほんとに……思ったよりずっと本格的だな…… 想像以上に念入りに準備しなきゃ……。』
「オーラにとても興味があるようですが、質問に入る前にその理由を伺ってもよろしいですか?」
「前もって学んでおこうと思って。」
「剣術に頼る意図があるのですね。ふむ。オーラが理由で剣術にも興味が湧いたのですか?なかなか珍しい接近理由ではありますね。」
「いえ。筋が通れば、前後が変わるんです。剣に興味があって、だからオーラに興味が湧いたんです。」
質問リストを一つひとつ読み下ろしていたヤコスバート教授が、ある項目でふと視線を止めた。
「……いくつか特殊な質問が見受けられますね。『透明なオーラ』に関心を持った理由は何ですか?」
冒頭から取り上げられていたそのテーマに、リンの目がわずかに光った。
「ああ、透明オーラですね。私、質問をどう書きましたっけ?」
「はい、『透明なオーラの存在』と短くメモされています。」
彼女は自分を見つめる興味深そうな教授の目をじっと見返して応じた。
不思議だな、どうしてたくさんある質問の中でその質問を選んだのだろう?
実はリンは「透明オーラ」を取り上げるときも、その言及が特別に見えないようにわざと他の話題でカモフラージュしていた。
オーラを使って相手を制圧する方法があるのか。
高位のオーラの色を意図的に変えることができるのか。
オーラで人工的な刃を作れるのか、など。
ヤコスバート教授の関心を引くために、彼の論文に引用されていた独特な研究成果をいくつか挙げて話題にした。
『でも、そんなすき間から、彼が透明なオーラに…?』
単なる深読みと片づけるには、相手が何十年もこの分野で過ごしてきた無名の研究者であるという点が、リンの心に引っかかった。
「大したことではなく、個人的な理由があって…。教授は、透明なオーラを実際にご自身の目で見たことがありますか?論文にははっきりと書かれていなかったようなので。」
「ヤナさんもご存じのように、極少数の論文を除いては、試験対象者の個人情報を明かすことはできません。」
確かな肯定も否定もなく、表情を曖昧に保ったままの教授の様子は、かえって疑いを呼び起こした。
『ただ見たことがあるかどうかの質問すら、個人情報と関係があるのか?』
彼女の勘が外れていなければ、ヤコスバート教授はわずかに苦笑いを浮かべていた。
もっと掘り下げれば、少しだけ門を開いてくれるかのような様子だった。
「研究費を支援すると言ったらどうです?」
「それでも不可能です。」
「私自身が被験者になると言ったら?」
「そんなことを軽々しく言ってはいけません。」
「ジハード・トゥスレナの要求でも?」
「無理です。」
「命令が下っても?」
いつの間にか、好奇心から始まった問いは挑戦的なやり取りに変わっていた。
軽く笑っていたヤコスバート教授は、冷静に、そして断固とした態度で応答した。
「武人の自尊心を揺さぶる質問ですね。結論だけ申しますと、たとえ私の首に刃を突きつけられてもお答えできません。今や剣術ではなく、この研究こそが私の誇りなのです。」
透明なオーラ。
最初はただ、オーラの形態が変化した理由が知りたかっただけだった。
でももし、彼女と同じ状況にある者が存在するとしたら?
『死後、何も知らない誰かの身体に宿ったそのとき…オーラの色が透明になった者がいたとしたら?』
考えるまでもなく、確かめるべき問いだった。
その者が存在するなら、絶対に会わなければならない。
「教授があえて透明なオーラについて言及された理由は、実際に試験対象者の中に透明なオーラの所有者がいたからだと考えます。私も同じ目的で、オーラ学の権威である教授を探しに来たんです。」
「……」
「だから、その被験者がどんな考えを持っていたのかを簡単に推測できます。透明オーラの秘密や理論を知りたかったんでしょう。そしておそらく、他にも透明オーラの所有者がいるかもしれないと期待したんだと思います。お互いの共通点を見つけることもできますから。」
ヤコスバート教授は何も言わずに彼女の目を見つめた。
長い沈黙に違和感を覚えたリンは、慎重に彼を呼んだ。
「教授?」
ぼんやりしていた目をパチッと閉じたヤコスバート教授は、少しかすれた声で答えた。
「あ、はい。大丈夫です。ちょっと驚いただけです。まさか『あの方』みたいなことを言うとは……。」
あの方、以前の被験者は地位が高い人物だった。
「どういう意味ですか?」
「……透明なオーラを持つ別の者が現れた場合、面会の場を設けてほしいという要請でした。」
少しもためらわずに明らかにしたところを見ると、少なくともその部分は秘密ではないのだろう。
「それなら話は早いですね。その方と面会させてください。」
「私は確かに、透明なオーラを持つ者が現れた場合に伝えるよう申し上げました、ヤナさん。」
「はい、私もしっかり聞きました。」
「聞いたとは……」
疑念を抱いていたヤコスバート教授の声が、すっと和らいだ。
「ありえませんね。ヤナさんは今、十四歳になったばかりと認識していますが……。もちろん、今こうしてお話ししていると、まるで十四歳と会話しているようには思わないですが・・・」
「私が透明オーラを持っていることを証明すればいいんですか?」
ヤコスバート教授はリンの自信たっぷりな言葉に目を見開いた。
「まさか……今ヤナさんがソードエキスパートだという意味ですか?」
何言ってるの教授、私はソードマスターだってば。
『でもヤナの体では、オーラを何度か使って形だけ整える程度だから……マスターって言うのも微妙だな。』
オーラの発散自体はソードマスターだけでなく、下の段階であるソードエキスパートから可能だ。
また、いわゆる“最強”と呼ばれる武人たちも大体そのレベルにとどまっていた。
マスターの存在自体が珍しいせいか、オーラの活用自体はマスターから可能であっても、その威力はむしろエキスパートを代表する感じだった。
ヤコスバート教授に、彼女はその秘密を話してもいいのだろうか?
「……教授。『たとえ首に刃を突きつけられても試験対象者の個人情報は口外しない』という言葉は、十四歳を相手にしても有効ですよね?」
リンの主張を完全には信じきれないヤコスバート教授は、混乱した様子でメガネを押し上げた。
「もちろん……そうですが。」
「その言葉をどう信じればいいんです?私にはとても重要なことなんです。」
「学術院の試験研究に関する機密保持標準契約書を作成することになっています。」
リンの迷いはさらに深まった。
『契約書ではなく、機密保持を強制する結界魔法のほうが安心なんだけどな。』
だが、そんな危険な魔法が学術院で使われることはなかった。
結果として、互いの信頼に任せるという意味だけど……人は信用だけでは満足できず、契約が付いてくる方がより確実になるものだ。
はあ。
『もういい、契約なんて。』
それならキャロンと何が違うというのか?
ヤコスバート教授は彼女に罪を負わせはしなかった。
むしろ教授自ら秘密を守るように仕向けるのがもっと効果的だと判断したのだ。
「いいですよ。証明の対価として秘密保持契約書を作成します。」
ヤコスバート教授はとても複雑な表情で顎を引いた。
「分かりました。それでは一週間後にまた来てください。」
何?一週間後?
「ダメです、一週間は長すぎます。今すぐ始めましょう。」
「試験管理室のセキュリティシステムは、規定上、少なくとも数時間前に予約しなければ作動できません。契約書は今すぐ作成可能ですが、今すぐ試験を開始するとセキュリティに多くの脆弱性が生じます。」
厄介だ。助けになるどころか足を引っ張るようなシステムだった。
「うーん、現在授業がない無学館の学生たちは大半が、ジハード様の授業を見学しに行ったのではありませんか?」
「きっとそうでしょう。珍しいことではありませんし。」
「それなら今がチャンスですね。試験管理室へ行きましょう、教授。」
多少強引に見えたとしても、仕方がなかった。
一週間後に再び学術院を訪れるのは面倒な策を考えねばならないからだ。
表情が二倍複雑になったヤコスバート教授は、ため息をつきながら腰を上げた。
「……ふう、わかりました。でもこの部分はしっかり把握しておいてください。外部の介入は最大限防ぐ予定ですが、万が一の事態が発生した場合、私は一切責任を負いません。」
「肝に銘じます。」
まあ、いいさ。もし一人でも潜んでいるやつがいたら、頭を殴って部分的な記憶喪失にしてしまえばいい。
真剣な表情のヤコスバート教授は執務室のドアを開け、前を歩き始めた。
静かで慎重な歩みの先は練武場だった。
ラ帝国学園には外部の人間が多い。
その中でも中年、老年層の比率が最も高く、青年もちらほら見えるが、学生たちに比べると大人びた雰囲気が漂った。
ともあれ、この学術院の外部の外見だけを見て判断すれば、それなりに整っていて、特別に目立つものはないというのがムディの結論である。
しかし、外部者の年齢層が学生と同じくらいであれば話は少し変わってくる。
特に、一度すれ違っただけでも振り返って見てしまうような容姿の持ち主なら、なおさらである。
『蜜を塗ったような滑らかな光沢のある金髪だったり、青い光をたたえた神秘的な紫の瞳だったり……。』
極端に無関心なムディですら、こういった男性的な魅力が似合うと認める唯一の相手。
そう、これはチェフ、お前の話だ。
童話の中に登場するような立派な王子様のような外見にもかかわらず、他人には控えめで、チェフには異なる雰囲気が漂っていた。
チェフはいつどこでも余裕があり、洗練されていた。
それはおそらく富と権力から生まれる光だろうと、ムディは半ば確信していた。
大貴族の家に生まれれば、みんなああいう人間像に育つものだ。
他の奴だったらとっくにイラついていただろうが、相手が相手だけにそんなみっともない気分にはならなかった。
チェフは彼にとって最も価値ある人間的な友人だったから。
『そう、人間らしいよ。こうやってこっそり好奇心を満たして得意になっている自分が情けなく感じるくらいに。』
「はああああ。」
長い息を吐きながら顎を反対側に向けた。
ギイイ。
ちょうどその時、待っていた彼がドアを開けて廊下に出てきた。
油っぽくテカテカした髪を後ろになでつけ、堂々と現れた学生は、途方もない情報をまくし立てながら―
「ふあああ……あれ、ムディ。学生会長は今、校長室に行ったって?」
「え?校長室ですか?」
「うん。会議も副学生会長に任せるくらいなら、かなり重要な用事なんじゃないかな。」
「そうなんですね。ありがとうございます、先輩。」
軽くお辞儀をして席を立とうとしたところだった。
その先輩がムディの背後、十歩ほど離れた場所に立って、上機嫌でおしゃべりしているチェフを指さして尋ねた。
「その人のことで聞いてたんでしょ? ……ここの学生じゃないみたいだけど。誰? 友達?」
「兄です。」
「ふーん。顔が違うのに何が兄だよ?」
「顔が違うからって、それが何の意味があるんですか?」
短く咳払いして時間を稼いだムディが、しぶしぶ答えた。
「お前だよ。」
「……は?」
信じられないという顔で再びチェフを見た。
正直な気持ちを言えば、ムディはこの瞬間、非常に純粋な優越感を感じていた。
「お前だって?根性のある嘘……と言うには説得力があるな。じゃああの奴、いや、あの人は……。」
「そう。お前のチェフ。」
大貴族ネーガ家の唯一の跡継ぎ。
『びっくりするわ。ふふ。まあ、この先輩自身も顔を見るのが難しい人物だけどな。』
先輩はムディがチェフを紹介してくれると思っていたのか、ぼさぼさの髪を素早く整えながら声のトーンを落とした。
「気が狂ったのか。何の縁だよ?臓器全部売って手に入れたのか?」
「それ全部売っても買えませんよ。私はこれくらいで十分です。」
「おいおい、ちょっと。ガキのくせにせっかちだな。ああ、学園を案内してくれる人なんて必要ないんだろ?」
「学園を見学しに来たわけじゃないそうです。」
彼も人間だからか、こんな反応には普段は淡々とした彼も、つい不機嫌な様子を見せる。
学生たちの好奇心にいちいち付き合っていたチェフは、ムディが戻ると驚くほどの速さで周囲を整えた。
おかげでまたひとつ自信を取り戻したムディは、胸をそっと張って、内心満足気な声で話しかけた。
「学生会長は校長室に行ったそうなんだけど、どうする?」
片方の眉を上げた相手が「行動がかなり早いね。」と言いながら中庭を通って階段の方へ行った。
校長室へ案内しろという意味だ。
校長室の場所は知っていても行ったことは一度もない。
それもそのはず、ムディのように成績も家柄もごく普通の学生は校長や理事長と面談することがないからだ。
「で、結局なんの用なんだ、チェフ。学園の学生でもないお前が学生会長を訪ねるなんて?」
本館に向かいながら、ムディは自然とチェフの事情を尋ねた。
彼が突然自分を訪ねてきたのは、かなり意外なことでもあった。
「うん。」
「ああ、そういえばうちの学生会長はトゥスレナ家の長男だっけ?そんなイメージ全然なかったからすっかり忘れてたよ。まあ、つまり大手四大家門の間のビジネス……みたいなもんか?」
「会ったこともない兄貴だよ。ただ、まあ、頼まれたって感じ。」
詳しく答えるのは気が引けたので、ムディもそれ以上は深く追及しないことにした。
「お前、人が良すぎるのが問題だ。前にも言ったけど、もう少しはっきりしないと。お前の家からかなり離れた学園まで来て、人探しをしてるようなこと、普通だったら誰が受けるんだ?俺だったら、こんな面倒なこと……」











