こんにちは、ピッコです。
「死んでくれと言われて」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

46話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- リンの過去
私はリン。
孤児だから当然のように、名字はない。
院長先生は私に孤児院の名前から取った「サキラ」という姓を与えてくれたけれど、使ったことは一度もない。
幼い心にはなんだか気恥ずかしかったのだ。
せっかくだから、名前を明かしたついでに、私がどんな人間か少し説明しておこう。
実は私は孤児院の友達の中でも、わりと才能がある方だった。
どんな才能かって?うーん、それは……大したものではないけれど、正直に答えると――才能がないことに関してだけは、才能があった。
冗談みたいだって?
申し訳ないけど違う。
もちろん孤児として、私たちはあれこれ悩み続けた。
簡単な道を選んだ子たちは山奥を出て、下働きやギャングに身を寄せた。
困難な道を選んだ子たちは院長の紹介で女官見習いとして雇われ、雑用に追われる日々を送った。
運のいい女の子たちは貴族の家に召し使いとして入り、さらに運がよければ外の男性と目が合って結婚した。
でも、何の才能もない分野で才能を持っていた私は、そんな未来さえ夢にも見られなかった。
結論は単純だ。
新しいことを始めようとすると——毎回、配給の代わりにされる物をこっそり食べていたからだ。
一ヶ月の間に三か所の寄宿舎から追い出されたこともある。
だから、他の友達がひとりふたりと孤児院を出て新しい道を見つけたとき、私だけがそこに残って卒業できずにいた。
そう、昔の私はそうだった。
『お前のような害虫でも、何かの間違いで受け入れてくれることがあるのだな。』
まさかあの浮浪者が私に話しかけるまでは……一生そのまま暮らして死ぬと思っていた。
ああ、思い出した。
この浮浪者は以前、院長が雇った……いや、臨時職員だった。
名前も出自も知らず、みんなただ「おじさん」とだけ呼んでいた。
『報酬も悪くない。ろくに命令も守れない奴らには過分な額だがな。』
「それって何ですか?」
「人間の盾。」
「厨房で盾を作るってことですか?」
「いや、人間の盾ってのは傭兵団で募集する人間のことだ。五大宿主を狩るための囮だ。」
五大宿主というと、噂が絶えず、自分もよく知っている存在だった。
世界を破壊するために生まれたという存在──〈悪の巣窟〉。
そしてその〈悪の巣窟〉の魔気に取り込まれ、生きた災厄と化した生命体。
それを「宿主」と呼んだ。
野菜市場の店のおばさんでさえ、その5大宿主のせいで野菜の価格が暴騰したと愚痴っていた。
「人間の盾になると、何をするんですか?」
『気になるか?』
浮浪者の金色の目が一瞬赤くなり、どこか不吉な光を放った。
『五大宿主は子どもを食らう。だから、狂ったような賞金に取り憑かれた傭兵団が子どもを餌にしてばら撒き、狩りのために現れた宿主を撃ち落とす。その餌こそが人間のくずだ。』
胃のあたりがひどくねじれるような気持ち悪さだった。
私の反応をゆっくり観察していた浮浪者は、口元に笑みを浮かべて言った。
『怖いか?だからうつむいて掃除の練習でもしてろ。世の中で掃除ばかり練習してるのはお前くらいだろうけどな。』
私がどんな表情で彼を見ていたのかは分からない。
ただ、あのとき私の頭の中はたった三つの考えでいっぱいだった。
掃除なんてもう嫌だ、気が狂いそう。
今日の夕飯はなんだろう。またジャガイモスープかな?
最後に……あの物乞いの提案が案外悪くないと思った。
二日後。
私は村長の元を訪ねて「人間の盾」申請書を記入した。
いや、記入しようとしたが、うまくいかなかった。
「おおっ!久しぶりに顔を見たと思ったら何だって?人間の盾?この町でお前ぐらい骨太なやつはいないぞ。さっさと出ていけ、このガキ。院長先生をそそのかそうなんて思うな、さっさと消えな!」
死んでも許可されないと思ったので、私は傭兵団の本部にこっそり申請書を送った。
なぜそこまでするのかって?
お金を稼いで孤児院を出たいからだ。
なぜ?理由は決まってる、恥ずかしいからだよ。
ところが、申請書の最後に書かれていた人間の盾の資格条件がかなり厳しかった。
部屋の中でどうするか悩んだ末、結局は浮浪者のところに行くしかなかった。
「浮浪者のおじさん。あの剣、教えてください。」
以前、院長が言っていた言葉を思い出した。
この浮浪者が孤児院の前に座り込んでいたとき、非常に粗末でボロボロな剣を持っていたという。
刃には赤黒い汚れが点々とついていて、それはまるで人の血のようだったと。
しばらく唾を飲み込んでいた浮浪者は、鋭い目つきでこちらを見て問い返した。
「な……んだって?」
「剣を教えてほしいんです。」
「それより前に。今、俺のことを“浮浪者”って呼んだか?この生意気な小娘が。昔だったらお前なんか……。」
「じゃあ、“浮浪者”じゃなくて、“師匠”。師匠、あの剣を教えてください。」
ふっと笑って口を閉じた浮浪者は、私の方にゆっくりと体を向けた。
院長のすぐ前だった。
「くだらないこと言ってないで、洗濯でもしてろ。」
「もういいから教えてよ。剣術教えてくれなきゃ死んじゃう。」
「洗濯が嫌なら、そのまま捨てるか食え。」
話が通じない。
「昨日、人間の盾の申請書を出したんだよ。途中で剣術テストに合格しないと報奨金がもらえないって……」
「このバカガキが!」
バシッ。呆れた顔で洗濯かごを投げ捨てた彼は、すぐに駆け寄って私の肩をつかんだ。
今すぐあの遠くの崖から投げ落とされてもおかしくない表情だった。
「本当に正気じゃないのか?それが何か分かって申請したのか?いや、この田舎の村じゃ──くっそ村長のじじい、気でも狂ったのか。たった一人の孫が申し込んだって?受け入れたって?今すぐ取り消させろ!」
「できません。村長の息子が申請書と荷物をまとめて昨夜のうちに都会に向けて出発したそうです。そのせいで家が空いたとか。」
もちろん、私のことだ。
浮浪者はまるで悪霊のような鋭い目つきで、私の頭をはたいた。
目玉が飛び出そうなほど痛かった。
「うわっ!なんで叩くんですか?師匠が申し込めって言ったから申し込んだだけなのに!」
「バカか?そんなやり方で命を落としたくなければ、掃除の勉強でもしてろって意味だったんだよ!俺が……お前みたいにちっこいガキに今、何を――」
「知らない!やれって言ったのは師匠でしょ。だったら責任取ってよ。剣を教えてよ!」
「チッ。見るのも嫌だ。さっさと失せろ!」
「教えてってば!剣を習いたいの。掃除なんてもう嫌。お金稼ぐんだから。だから教えて、教えてよ、お願い!」
最初、彼はきっぱりと私の要求を断った。
でも、二日を越える粘りに、最後は浮浪者、いや、師匠はついに両手両足を挙げた。
「この頭でっかちのガキめ……剣?いいさ、教えてやるよ。泣きながら後悔しても知らんからな。」
ちょっと剣を習うくらいで、泣きながら後悔するほどのことがあるわけない。
――しかし、きっちり二日後。
私は師匠のズボンのすそをつかんで泣きながら後悔していた。
「ひっ、ひいっ。この狂った浮浪者……本当に私を殺す気か……」
「根を上げるな、起きろ。止まったら最初からやり直しだ。」
剣士になる道は、まさに地獄の道だった。
いや、師匠そのものが地獄の化身だった。
僕をいじめながら、ニヤニヤと笑うその顔に一度もゆるみはなかった。
訓練の時間は異様に長く感じられたのに、休憩時間は一瞬で過ぎ去った。
死ぬほど辛くて、1か月の間に5回以上も逃げ出したが、師匠が僕を捕まえ損ねたことは一度もなかった。
「人間のくずなんだから、さっさと諦めろ」という意味だったのかもしれない。
でもおかげで、今までにない根性が身についた。
出発の日まで犬のように訓練され、犬のように叱られた。
たった1か月だったが、手にはしっかりとしたマメができた。
傭兵団に出発する2日前。
最後に、師匠が僕の実力を確かめると言い出した――
「そんなゴミみたいな動きじゃ、一番最初に死ぬだろうな。試験に落ちるのは目に見えてる。」
「師匠がクズだから弟子もクズってわけか……」
「そうか?じゃあ弟子でも使い物になるようにしてやらんとな。ダッシュ一回追加だ。」
――犬みたいな師匠。
私は歯を食いしばって最後の訓練を終えた。
そして、事前に出発日を告げていたその前夜、孤児院を抜け出して逃げた。
師匠と院長先生が私が出ていくのを邪魔しないようにするためだ。
人生初の出発。
人生で初めて対峙する世界。
人生で初めて味わう……本物の地獄。
「ふっ、ふあああああああっ!」
「に、逃げろ! あんなの絶対に相手にできるわけがない、くそっ!」
「はっ、はっ、助けてくれ!」
その後約1ヶ月間の出来事は、そう、二度と思い出したくない事件の連続だった。
結果的に、私は五大宿主から生き残った唯一の人間の落ちこぼれとなった。
もちろん宿主の討伐には失敗した。
数十、数百人もの無数の狩猟隊の中で生き残ったのは、私だけだったのだから。
私はボロボロになった報酬品とともに孤児院に帰った。
院長先生は、2か月ぶりに戻ってきた私をしばらく叱ることもなく見守っていたが、やがてそっと懐から何かを差し出した。
「……お金?このお金、いったい何なの?」
「盗んだものでも、拾ったものでもありません。私がちゃんと働いて稼いだ報酬です。それで、あの壺に入っていたシチューをもう一度作ってください。」
口をぽかんと開けたままお金を握りしめて突き出すと、院長先生は冷たい目で硬貨を見つめた。
「お前はまだ子どもだから計算が下手なのか?高級な肉の缶詰にこの金額……まあいい、持っていけ。」
「えっ、わかりません。私、もともと計算できません。残りは紙袋にでも放り込むなり、川にでも投げ捨てるなり、好きにしてください。とにかくその高級肉の缶詰、早くください。お腹が空いてるんです。」
「リン。気持ちはわかるが、どう考えてもこれは……」
「一眠りしてきます。」
耳をかきながら院長室を出ると、どの部屋の扉も開いていた。
大失敗だった。
久しぶりに会うガキどもが「嬉しい」と駆け寄ってきたのに、台の上に置いた昼寝用の毛布が濡れてしまった。
「ねえちゃん、また院長にいじめられたの? 部屋でひとりで泣いてた?」
私は知らないふりをしながら、小柄な女の子が絵を描くのに使っていた鉛筆を取り上げて言った。
「僕がいじめたんじゃないよ。目にゴミでも入ったんじゃない?」
「ゴミなんかじゃないわよ。お姉さんの名前を呼びながら泣いてたって聞いたけど? 院長先生にもう心配かけないでよ。あんたのせいで院長先生の白髪が増えたんだから。」
「優れたミハイルよ、お前は私の大きな意図が分かっているのか?」
「なによ、それ。」
『悪の巣窟』。
その名前だけで恐れられていた存在が現れてから、長年続いていた支援が跡形もなく途絶えた。
心優しい近所の人たちの関心でなんとか生き延びてきたが、周囲の好意だけで孤児院を維持するには限界があった。
この仕事をあと3回やれば……しばらくの間、1年くらいは何とか過ごせるはずだ。
そうだ、あと数年だけ耐えればいい。
いずれ、天の啓示を受けた英雄が現れ、五大宿主と〈悪の巣窟〉を打ち倒し、この世界に平和をもたらしてくれるだろう。
平和が戻れば、定期的に援助してくれる後援者も見つけやすくなり、私も以前のように薬草を採取して暮らしていけるかもしれない。
その日が来たら、私もあのサブのように孤児院から出ていこう。
「うん、よし。あと3回だけ耐えよう。」
「耐えるって、何を?」
ハッとして振り返ると、長髪の乞食男が見えた。
ぼさぼさの銀髪の隙間から鋭い金色の目が私を見つめていた。
「礼儀も知らない生意気なガキめ。俺には挨拶にも来ず、一日中草の上でゴロゴロしてるだけか?」
「……何か言いたいなら、今日の夕食に食べた肉を返してください。」
師父は口をつぐんだ。
大人にそんな生意気な口を利いていいのか?
串焼きをかじっていた師父は、私の前に黒くて長い剣を放り投げた。
「これからお前が使う剣だ。持ってついて来い。」
「私の剣?」
好奇心で剣を見つめていた私は、師父の命令を無視して地面にごろんと横になった。
「嫌です。休みます。私があそこでどれだけ苦労したか、師父には分からないでしょう……。」
「リン。」
その一言の呼びかけに、私は思わずビクッとした。
「でも君がせっかく立てた目標を諦めたくないなら、口答えせずに私の言うことに従え。才能なんてかけらもない君を天才剣士に育て上げるのなんて、私には朝飯前だから。」
「……結局は自慢なんですね。」
「黙ってついてこい。これから付き人として動いてもらうぞ。」
その日から地獄の特別訓練が始まった。
目標は、再び人間の防衛隊として生き残ること。
特別訓練の成果か、私は二度目の討伐でも生き残ることができた。
だが、三度目はなかった。
5体の宿主が暴走し、《悪の拘束》が制御不能になったからだ。
その後、月日が流れ、現れた6体目の宿主は人間の肉を好まず、人間防衛隊という存在そのものの犠牲も自然と消えていった。
こうして、数年が過ぎた。
傭兵市場は〈悪の亀裂〉によってかつてない黄金期を迎えていた。
いつの間にか私は大人になり、生計を立てるために傭兵の仕事を学び始めた。
幼い女の子が剣を振るって仕事に就くのは簡単ではない。
そのおかげで脳震盪や打撲はもちろん、口の悪い連中を相手にしながら人生の苦味を学ばなければならなかった。
年寄りたちの罵声に耐えながら数年を過ごしていた頃、いくつかの傭兵団から入団の誘いが来た。
医療費が大幅に割引されると聞いて心が揺れたが、師匠の忠告はまるで刃のようだった。
「傭兵をやれば、お前は必然的に人を殺すことになる。そして傭兵団に所属すれば、そこに帰属意識が生まれる。お前は人を殺す仕事に帰属意識を持ちたいのか?」
それはかなり厳しい忠告だと思った。
「分かりました。断ります。」
師匠は怪訝な目で私を見つめた。
「お前、ウェンイルには素直に言うこと聞くの?」
「私は一人が好きです。孤独で美しい狼みたいでしょ?」
師父は私の返事を無視したが、私は彼の助言に従うことで、混乱した傭兵市場でもなんとか生き延びることができた。
孤児院から遠く離れないために北部の保護区を拠点にしていたところ、定期的に訪れる医療スタッフとも知り合いになった。
──このままいけば、私は傭兵王にでもなっちゃうのかな?
自分の限界が見えないほどの才能が、かえって怖くなった……。
「私も大きくなったらリンお姉ちゃんみたいな剣士になるの!院長先生をいじめる悪者たちはみんなやっつけてやる!」
「ミハイル、それじゃお姉ちゃんもやっつけなきゃでしょ?」
「えっ? うん、考えてみたらミハイルの言う通りだね。じゃあお姉ちゃんは除いてやっつけるね!」
本当に腹立つガキどもだ。
お前たち、誰が稼いだお金で口にご飯入れてると思ってるんだ?
毎日一緒に剣術の訓練をする私の姿がよほど印象的だったのか、孤児院には傭兵を夢見る幼い子たちが一人また一人と増えていった。
どうせ夢を見るなら騎士を夢見なさいよ。
傭兵なんて夢見ることないのに。
ところが師匠は私を除いてはもう弟子を受け入れなかった。
理由を尋ねると、弟子がこれ以上増えたら掃除する時間がなくなる、とのことだった。
納得せざるを得ない答えだった。
師匠と過ごした4年間。
その4年が、私の人生で最も平和な時期だった。
そして私の平和の終わりは、月明かりの下、深い夜にとても静かに訪れた。
「お姉ちゃん。誰かが来たって。院長先生が早く降りてきてって。」
眠りにすっかり落ちた子どもの声だった。まさに眠りに落ちかけていた私は、外套だけ羽織って寝室を出た。
「なんですか、院長。どこの無礼者がこんな真夜中に……」
少し不満げな口調で院長室のドアを押し開けた私は、眠い体をこすりながら言った。
ひと目でただ者ではないとわかる服装の人物が5人。
「リン。」
その間に立つ院長は、不安な目で私を見ていた。
「……あなたたちは誰?」
私の問いに、5人の外部のうちの1人が口を開いた。
「傭兵リン。極北地域専門の護衛要員。傭兵歴は4年。第5代宿主から2度生き延びた。合ってるか?」
背筋がぞくりとした。
リンは、自分の過去を含めてこの一行が何者かをすぐに察知した。
警戒を強めるよう心の中で警鐘が鳴った。
これは明らかに、あいつらから離れろという本能的な警告だった。
けど、そんな警告を今さら聞いて何になる?
「それでどうするの?」
「質問は許されない。聞かれたことだけ答えろ。」
「もしそうなら?」
「傭兵リンは勅命を受け取れ。」
「……え?」
「今日からお前は第32代《悪の巣窟》討伐隊の斥候に任命された。今すぐ荷物をまとめろ。皇城へ発つ。」
《悪の巣窟》討伐隊。
ラ帝国が毎年4回派遣する、《悪の巣窟》を探索し討伐するための-構成された特別部隊。
傭兵たちの間ではこう呼ばれている、「皇室自殺部隊」。
皇室から密かに命じられ、死に向かうために送り出される犠牲の羊たちだと。
つまり、生存者が「0」に等しいという意味だ。
「ダメだ!」
その時、まだ閉じられていなかった扉の向こうから、子どもが1人飛び出してきた。
「お前たちは誰だよ!勝手に姉ちゃんを連れていこうとするな!姉ちゃんはおバカだから簡単な仕事しかもらえないけど、それでもほかの傭兵とは違うんだ、わかってるのか!」
子どもは両腕を広げて私の前に立ちふさがり、院長をにらみつけた。
「なぜ黙ってるんですか、院長?あの人たち、今まさに姉ちゃんを死にに行かせようとしてるじゃないですか。早く止めてくださいよ!」
ああ、そうだよ。私に「花のように若いうちに死ぬ」って言ってるようなもんじゃないか。
「ミハイル、落ち着け。うるさく泣かないで部屋に戻れ。」
「《悪の巣窟》討伐隊だって?ふざけんなよ、それって自殺しに行くようなもんじゃん!そんなところに姉さんを行かせるなんて、ダメだよ。絶対にダメだ!」
いいぞ、私の弟!
黙って立っていた外部の女性が、子どもを見つめて言った。
「じゃあ、君が代わりに行くか?」
その瞬間——私は息もできずに彼女を見つめるしかなかった。
「実力は少し物足りないけど、道案内ができるなら問題ない。第6の宿主はラ帝国の極北に根拠地を構えている。その場所まで案内できるなら君を代わりに連れていこう。」
このとんでもないガキ……早く終わると思ったのに。
私は彼の視線の前に立って子どもを制し、こう尋ねた。
「わかったよ、出発はいつ?」
私がその提案を受け入れるような雰囲気で動くと、子どもは院長にしがみついたまま泣きそうな顔をした。
「姉ちゃん!院長!なんとかしてくださいよ、院長!」
「ミハイル、院長に大声を出さないで。院長は年取ってるから心臓止まっちゃうよ。」
「それに、恨まないで。院長が何も言えない理由、なんとなく分かるから。きっとあの人たちは最初から妹たちを指名して連れてくるつもりだったんだよ。」
「荷物をまとめたらすぐに出発する。」
「私の荷物は少ないから、待ってて、着替えてくる。」
「姉さん!ああ、もう、放してってば!」
すぐに部屋に駆け上がって服を着替え、剣を取った。
何か持っていく物がないかと部屋を見回したが、目につく物はなかった。
私が唯一心残りだったのは、師父がいない日に孤児院を去ることになった点だった。
「こんな日には、ジジリも役に立たない。今日みたいな日に街に降りるなんて、何の意味があるの?」
……まあ、氷水に冷たさで心臓が麻痺さえしなければ、また会えるだろう。
どうせ私はここに戻ってくることになる。
だから、死にさえしなければ。
「行ってきます、園長先生。」
「リン。」
「孤児院最高の美少女がいなくなるなんて、寂しいでしょう?仕方ないですね。あまりにも立派になったから、皇帝に顔を見せてあげたいんです。行って見せて、すぐ戻りますね。」
「リン。」
院長は私の名前を呼ぶ以外に何も言えず、私の両手を握ったまま、ただ静かに涙を流した。
よく泣く院長だから問題だけど、本当にこの年でよく泣くわ。
去り際に、子どもにも一言残した。
「ミハイル、友達いじめはやめて、勉強に励むのよ。傭兵になるって騒いでたら怒られるからね。あんたは性格がきつくてすぐ後ろから殴られて泣くタイプなんだから。だから、どこにいても何をするにも気をつけてね。わかった?」
子どもは「お願いだから元気でね」と何度も言いながら泣いていた。
あの子、やっぱり変わった。
院長と一緒にいたせいで魂が入れ替わったみたいだ。
こうして私は正式に第32代「悪の深淵」討伐隊に合流した。
そのときまでは、自分の人生で二度と得られないような大切な縁に出会うとは思ってもみなかった。
そして間もなく、その大切な人たちを裏切る運命にあるという事実もまた——私は裏切り、そして死んだ。
惜しいことは多かったが、その中でもとりわけ忘れられない心残りがあるとすれば……やはり師父と交わせなかった最後のあいさつだ。
師父は私にとって特別な存在だった。
私は師父に出会い剣を学び、剣を通して自分にできることを見つけ、その仕事を通して世界を知ることができた。
その学びによって、私は孤児院という狭い世界を抜け出し、忍耐によって様々な奴らをくぐり抜け、世界を救うほどの人々との出会いを得たのだ。
師匠に出会ったことは、私の人生最大の幸運だった……と言うと思った?
ちくしょう、師匠なんてたかって生きる奴だ!
あのとき師匠が私に「人間のクズ」なんて言わなければ。
どうにかして孤児院から出られなくても、責任持って面倒を見てくれたら!
年を取っても孤児院にくっついて、風邪で仕事をもらって人間らしく生きられたかもしれないのに!
師匠は……師匠は、ほんとにたかって生きる奴だ。
師匠、大嫌い。
でも、私って死んだんじゃなかったっけ?
「どうして過去を回想できるの?」と疑問に思ったその瞬間。
私は長い夢から目を覚ました。










