こんにちは、ピッコです。
「死んでくれと言われて」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

49話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 帰郷
『いや、このおじさん、今何言ってるの……?』
しばらくすると、じわじわと心配が湧いてきた。
頭に何か問題でも起きたのか?
「お気持ちはありがたいんですが、命まで捧げていただく必要はないと思います。命は大切に、それぞれがしっかり守らなきゃ。」
「……」
「さっき見ましたよね? 私、剣が上手なんです。ただ上手ってだけじゃなくて、かなり使える方なんですよ。」
そのとき、ジハードが小さくため息をついた。
「上手いってのは剣じゃなくて、使い手のことだ。どんなに年をとっても変わらないんだな、お前は。」
『……なんで?』
さっきからジハードは、彼女ではない別の誰かと話しているように感じられた。
だからリンも、言いたいことだけを口にした。
「どうやら私は、叔父さんの血を継いでるみたいです。剣の天才って意味です。一人で勉強しても敵わなかった魔法使いを相手に、対等に戦ったじゃないですか。私こそがこの帝国の次期ソードマスターにふさわしい才能……」
「ヤコスバート教授から君の話は聞いている。」
えっ?急に何ですか?
今はお互い話したいことを自由に話す時間じゃないの?前置きくらいして入ってきてほしいわよ?
「詳しい話はトゥスレナに戻ってからだ。」
(はあ……)
ため息をつくや否や、ジハードはリンをしっかりと抱きしめた。
残された硝煙の跡を辿りながら、リンに尋ねた。
「それで、俺と一緒にレテロへ行くって話……考えてくれたか?」
このおじさん、雰囲気的にそれを聞くタイミングじゃないのに、なんで今……。
「……ご提案はありがたいのですが、私はトゥスレナに残りたいです。」
そのための返答も、事前に丁寧に準備していた言葉だった。
レテではなくトゥスレナを選んだ理由、トゥスレナに残ろうとする根本的な理由、ジハードが彼女を支援すべき理由など、彼との縁が途切れないように綿密に備えていたのに。
「じゃあ、私も残る。」
えっ?
「……えっ?」
誰がどこに残るって意味なのか問い返そうとしたその瞬間、
「レテ、追撃準備!」
遠くから駆けてきたユリクがジハードの前で立ち止まった。
「理事側から状況説明が必要だとして、すぐにバンカーへ来てほしいと要請がありました。」
「後にしろ。我々は今すぐトゥスレナに戻る。」
「はい、すぐに準備いたします。」
2回目の「えっ」?
「側近!なんでこんな急に従順になって……」
リンは話しかけかけて、すぐに口を閉じた。
思い返してみると、それよりももっと大事な疑問があった。
「……あの、さっき側近も残すって言ってましたよね。つまり、レテロには戻らないという意味ですか?」
短いながらも、これまでで最も揺るがぬ答えが返ってきた。
「そうだ。それが君を守る道なら。」
――私を守れって?
『どうして?』
もちろんジハードがヤナに対して、父性愛に近い感情を抱いていたのは知っていた。
でも、それがトゥスレナに残るほどの理由になるの?
そんなはずないのに?
『これって一体どういうこと?』
なに?なんなの? 私の知らない何かがあるの?
考え込んでいるうちに、リンの両足が地面についた。
トゥスレナの馬車が到着したのだ。
今にも出発しそうな騎士のハインの姿に、リンはかなり動揺してしまった。
「え、本当に今すぐ帰還するんですか?」
馬の手綱を軽く撫でていたジハードは、当然のことを聞くという表情で答えた。
「それでも君は、この結末を受け入れて、ここに残りたいというのか?」
「でも、あまりにも急すぎますよ?おじさま。教授に挨拶もできなかったし、チェフも見当たらない!」
「ここにいるよ。」
馬車の扉がバタンと開き、警戒の号令もないまま、腕を広げるように現れたのは少年だった。
少年――チェフは、何十日ぶりかの再会に嬉しそうな笑顔を浮かべてリンを迎えた。
「無事そうでよかったよ。突然気絶したから、どれだけ心配したか……。」
涼しげな微笑みを浮かべていた口元が、そっと下がっていく。
しばし黙っていたチェフは、険しい表情でリンに尋ねた。
「……それ、誰がやったの?」
チェフの視線が向かう場所に、リンも目をやる。
『ああ、腕の傷のことを言ってるのか。』
誰がやったかといえば……それは、誰でもない――
「すみませんが、ちょっとだけ話をさせてください。あの、ジハード副部長?教授が大変でも、お兄さんにはご挨拶してもいいですか?今日別れたら、もう会えないかもしれないので。」
ジハードが無表情な顔(否定的な意味での無表情)で手綱を回した瞬間だった。
「もしかして、レ、レテ副官を志願されますか?」
馬車の後方から緊張した声が聞こえてきた。
声の主は、制服を着た男子学生だった。
急いで駆けつけたのか、呼吸が乱れていたが、片手にはぎっしりとした手紙を二通握っていた。
「何か?」
ジハードの問いかけに、男子学生は乾いた唾を飲み込みながら手紙の一通を差し出した。
「ビルヘルム先輩が、理事長は自分がうまく説得すると言っていて、ヤナ・トゥスレナ嬢のことをよろしく頼むという伝言を残しました。」
「一方的な頼みごとだな。」
つっけんどんな返答に、二列に並んでいた男子生徒のうちの一人が、今度はリンを見た。
「これはヤナ・トゥスレナ嬢に渡していただく手紙です。下側の紺色の封筒はヤコスバート教授のもので、ベルガー大公宛に残されたメモが封入されていますが……」
しかし、その手紙を受け取って持っていった――いや、盗んでいったのはヤナではなかった。
では誰?
ジハードに決まってる。
「……」
手紙を2通もらったジハードの表情は、あまり良くなかった。
ジハードの強い不快感のこもった視線を、一身に受けることになった。
その存在は、ヤコスバート教授の封筒だった。
中身を確認するかのように封筒を触っていた彼は、すぐに無表情な顔でリンに差し出した。
『さっきから何をしてるの。』
差し出されたまま受け取ったものの、手紙を手渡されたリンの手は空中で固まったまま、ぴくりとも動かなかった。
「ありがとう」と学生に挨拶して見送ったリンは、ジハードの大きな手のひらを撫でながら尋ねた。
「この手、何なんですか?」
軽い質問だったが、この人は一体なぜこんなにトゲのある返事をするのかと思うほど、冷たく答えた。
「破って捨てる前に、中身を一度確認しようと思って。」
「これをなぜ破って捨てるんですか?」
「それをなぜ破らずに捨てないのかってことだろ?」
このおじさん、一体さっきから何が問題なんだか。
『前からちょっと変だったけど、さっきからやけに感じ悪い。私が剣術の天才なのがそんなにショックだったの?』
その大きな手を無視して手紙を持ち、リンは一人で馬車に乗り込んだ。
「チェフ、ブランケットちょうだい?」
ジハードはそんなリンの行動にかなり驚いた様子だったが、特に何も言い返したり反応したりする様子はなかった。
当然の判断だと思って見守っていた理由は、彼がそうするだけの品位を持っていたからだった。
ドアが閉まってまもなく、馬車は出発した。
いつの間にか、警報はもう鳴っていなかった。
騒がしかった音も、だんだんと静かになっていった。
『……テオン・ベルガがメモを残したって?』
封筒の中の手紙を取り出したリンは、満足げに微笑んだ。
わざわざ連絡先を残したということは、彼女に多少の興味が湧いたということだ。
目的は果たしたので、無理をしてまで訪れた甲斐があったというものだ。
それほど時間が経たないうちに、リンの傷を黙って手当てしていたチェフが静かに口を開いた。
「それで、ヤナ。その傷は誰がつけたの?」
この子はまだそれが気になるのか。
『誰がつけたのかは、私の方がもっと知りたい。』
ただし、《悪の口実》と関連があるのは確かだった。
いろいろと危険な組織である可能性が高いため、ドゥルムンシュルにその事実を伝えた。
「警戒警報が鳴ったって聞いた?魔法使いが学術院に侵入してきたの。通りかかったときに突然攻撃されたんだけど、ジハード先輩が助けてくれて。そのおかげで、この傷で済んだんだよ。」
「……ちょっと待って、何て?」
チェフは誰が見ても衝撃的な話を聞いたような表情だった。
疑わしげな視線に、リンは気まずそうに慌てて付け加えた。
「冗談とかじゃないよ。」
「……おい。」
「なに?」
「なんでそんなこと、まるで大したことじゃないみたいに話すんだよ。」
心配しているようでもあり、困惑しているようでもある、複雑な反応だった。
『……まさか私の反応が鈍すぎるって思われたのかな?』
「子どもっぽくない? まあいいわ、むしろ食べて寝て楽にしてなさい……ってわけじゃなくて。」
チェフは今やヤナの大切な縁だった。
このまま関係が疎遠にならないよう、それなりの口実が必要だった。
「無駄じゃなかったよ。あの出来事を通じて、いろいろ気づいたことがあるんだ。」
「気づいた?何に?」
「やっぱり剣を習わなきゃ。」
「………」
チェフはリンの思考回路についていけないという顔で体をそらせた。
「え、うん。そう?剣はどうして突然?」
「叔父様ってソードマスターでしょ。恩恵に預からないと。」
「そんな理由でその苦労を買って出るなんて。君の頭の中は合理性と効率性、そして数値の山でできているってはっきりしたよ。」
否定できない笑みを浮かべると、チェフの表情が妙になった。
「お前が笑ってるの、初めて見た。」
「なに? ……嘘つかないで。」
「ほんとだよ。お前の表情、いつもそうじゃん。」
チェフは両手の親指と人差し指で目元と口元を一文字に引き延ばした。
細かい意味まではわからなくても、明らかにポジティブな意味ではないのは確かだった。
『私、そんなにだったの?』
妙に気まずくなったリンは聞こえないふりをして視線をそらした。
するとチェフはとんでもない冗談を言うかのように手をひらひら振りながら笑った。
「ほら、今もまさにそう。ちょっとでも不利になるとすぐ目をそらすでしょ?」
「………」
「こういう時は子どもっぽく見えるんだから。」
腕を組んでクスクス笑っている姿がなぜかしゃくに障った。
口もきかず、窓の外の風景ばかり眺めていた。
そう、不機嫌で黙っていたのは確かだ。だから何だっていうの?
そんな中、うとうとと眠っていたのか、目を開けたときにはすでに列車はトゥスレナ駅に到着する直前だった。
「ジハードが抱えて運んだのか。」
無理を押して使った余波で、ぐっすり眠ってしまったようだ。
再び馬車に乗るとすぐに、握っていた手紙を開いた。
<ヤナ・トゥスレナ嬢へ>
ヤナ嬢、突然旅立つという知らせを聞いて慌てて手紙を残します。
お体は大丈夫ですか?とても心配です。
機密流出についてはご心配なく。
すでに申し上げた通り、レテ副総督閣下にはすでに簡潔に報告を済ませました……>
モルリ・ヤコスバート教授の手紙の内容は簡潔だった。
自分の許可さえあれば、本格的な研究計画を立てて進めるという内容だった。
『これは城に戻って返答を……』
重要なのは、その中に同封されていたテオン・ベルクのメモだった。
<ヤナ・トゥスレナ嬢へ。
ヤナ嬢がこのメモを受け取る頃には、私はすでに学園にはいないでしょう。
私の不注意で身体に無理をさせたのではないかと心配しています。
体調が回復したら、ぜひ私に連絡してください。あなたに強く提案したいことがあります。>
「よし、これで接点を作ったわ。」
くこの天才美少女検査官に興味を持ったその瞬間を一生後悔させてあげる、テオン……
とりあえずトゥスレナを片付けてからね。
そのとき、向かいの席からチェフの低い声が聞こえてきた。
「僕の手紙も書いて。」
最初は何のことかと思った。
「……ああ、もうすぐレテに行くって言ったっけ?」
しょっちゅう連絡してこいって意味か。
手紙を差し出されたリンは軽く断った。
「そんなことないでしょ?」
その瞬間、チェフの顔がショックと失望でこわばった。
「お前、本当にどうしたんだよ、血も涙もなくて……」
「ちょっと待って。何か誤解してるかもしれないけど、たぶんそれが理由じゃない?ジハードの剣術授業はレテじゃなくてトゥスレナで行われるんだよ。」
「それって本当なの?なんで?」
「しばらくはトゥスレナで過ごすって言ってたから。だから特別授業もトゥスレナでやるってことだよ。」
チェフは思いもよらない話を聞いた表情で目を細めた。
「ふむ。じゃあ授業スケジュールが少し遅れる可能性もあるってことか。」
「軍事?」
「軍事じゃないよ。創建祭が目前に迫ってるでしょ。他の家門ならともかく、トゥスレナなんだから創建祭の準備で忙しいのは当然だよ。特にナイベル家はトゥスレナを前面に押し出そうとしてるからさ。」
「ニナベルだよ。」
「まあね。」
創造節だ。
『そういえば、ビルヘルムも似たようなことを言ってたな。』
創造節。
ラ帝国の国教であるパトロノス教は、創造と万物の神〈ハイアサン〉を崇拝する。
創造節はまさにこの〈ハイアサン〉の誕生日であった。
〈悪の呪術〉討伐団の最年長者であり、パトロノス教の修道女だったクララによれば、創造節はパトロノス教で最も重要な祝祭日の一つだった。
各家庭ではフルーツパイやジャムパイを作る習慣があるらしいが、リンが育った保育院では特にそういったことをした記憶がなく、あまり印象に残っていない祝日だったので、正確にはわからなかった。
「創建祭の記念式って、正確には何をするの?」
その質問に、チェフは「お前トゥスレナの人間なのにそれすら知らないの?どういうこと?」と言わんばかりの表情でリンを見た。
この面倒くさがりなやつめ。
「実は……これまで誰も私にその日が何の日なのかちゃんと教えてくれなかったの。」
なんで私がこんな言い訳までしなきゃいけないのよ?
「不遇な幼少期を語る」作戦の効果は抜群だった。
目を見開いたチェフがまるで信じられないとでも言うように口を開いた。ちょろいやつ。
「お前も知ってるでしょ。創建祭のマスコットっていえば、チェリーパイとヤギの毛で作った手袋、それに子供っていうイメージだよ。でも宗教的な意味を深く掘り下げると、この時代の子どもたちは聖女候補生として……」
そのとき。
ドカーン!
どこかで大きな爆発音が響いた。
ひひんと鳴いた馬が尻を跳ね上げたかと思うと、また激しく揺れ動いた。
力のない少女であれば、勢いに押されて床に尻もちをつくような状況だった。
幸いリンは無事だった。
馬車が揺れた瞬間、隣の席から飛び出してきたチェフがリンの肩を抱き寄せ、馬車の壁にぴったり押さえつけたのだった。
「大丈夫か?」
扉を開けようと躍起になっていたチェフが、すぐさま馬車の扉を開け、外の状況を確認した。
遠くない場所で、ただならぬ雰囲気を放つ煙が見える。
錯覚でなければ、爆発の原因はその煙のあたりにあるようだった。
「トゥスレナ。」
そうして、青空の上に白い雲がふわりと浮かんでいたその日。
リンは数日ぶりにトゥスレナへ戻ってきた。










