こんにちは、ピッコです。
今回は17話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
17話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 戦争交渉
数日後、リプタンは部下たちを率いて東部国境に向かって出発する。
レムドラゴン騎士団は、クロイソ公爵家の騎士たちと共に馬賊の群れを追跡していた。
彼はすぐに彼らについてく略奪者たちの跡を追いかけ始める。
そして、長い退屈な追撃戦の末、ついに食糧を積んで逃走する馬賊の群れを掃討することができた。
しかし、その後も持続的に略奪行為が起きたため、レムドラゴン騎士団は身動きもできずに国境地帯に陣取っていなければならなかった。
数ヵ月間、兵舎生活をすることになった騎士たちは一斉に不平を言う。
「クロイソ公爵が少しでも賢明に振る舞っていたら、こんな苦労はしなくてもよかっただろうに」
炎が噴き上がる火鉢の前に座って暖を取っていたヘバロンが荒々しく舌打ちをした。
「莫大な金額の被害補償金を受け取っただけでは足りず、一方的に交易路を遮断したのだから、ドリスタンの人たちが反発するのが当然じゃないか。ただでさえ食糧難に苦しんでいるのに・・・」
リプタンはジャーキーをかみしめながら何も言わずに同意を示す。
冬を過ごせるほどの食糧を備蓄できなかったドリスタン西部地域の農民たちは、急速に略奪者に変貌しつつあった。
彼らが飢え死にしたり凍死したりして、これ以上公爵領を侵略できなくなるまで国境に居てほしいというのが今回の任務の要旨であるわけだ。
ヘバロンは長い木の枝で火鉢をあさりながら、絶え間なくぶつぶつ言った。
「クロイソ公爵がドリスタンの商人たちに食糧を売るだけですべての問題が解決するのに!それで私たちは、冬をこの辺で送らなくてもいいだろうし、略奪者たちのせいで頭を悩ませることがないから、全て良い結果になるじゃないか。それなのに、未練のある自尊心のために・・・」
「文句はそこまでにしておけ。私たちはクロイソ公爵を支援しに来たのであって、彼を非難しに来たのではない」
リプタンは無愛想に発し、席から立ち上がる。
彼もやはり不満が喉まで満たされた状態だったが、クロイソ家の私兵が散らばったところで公爵の悪口を言っては内部混乱を起こしがちだ。
彼は脱いでおいた兜を手に取り、脇腹にはめて防御壁の前を歩く。
丸太を幾重にも立てて作った高い壁に沿って兵士たちが長い槍を持って警備をしている。
騎士たちは兵舎の前に座り、それぞれ自分たちの武器を手入れしていた。
リプタンは彼らを後ろにしてはしごで見張り小屋の上に登ってあたりを見回す。
数回の襲撃で廃墟と化した村と略奪者たちが燃やしてしまった農地、そして遺体を整理して葬儀を行う神官たちの姿が一目で入ってきた。
山のように積もった死体の中には、彼らが皆殺しにした略奪者たちも。
罪人たちの送り状はリーチやグールのような魔物にならないように簡単な浄化手続きを経た後に火葬する予定だった。
彼は腰から水差しを取り出し口を潤しながら口元をひねる。
騎士は君主の命令に従って魔物だけでなく人間でも容赦なく殺さなければならない。
騎士になってから数回にわたって紛争に参加したため、死体の山のそばでも平然と食事ができるほと無感覚になったが、戦争の惨状を目で確認する度にかすかな炎症を感じることだけは仕方がなかった。
彼は残った水を全部飲み干し、空の水筒を手すりの下に投げ捨てる。
黒く焼けた大地の上に安息の季節が近づいていた。
この冬もお城で過ごすには間に合わないようだ。
リフタンは諦めのため息をつきながら、焦げた匂いの乾いた風を吸い込んだ。
死体の処理がすべて終わると、彼らはすぐに冬を過ごす準備に取り掛かった。
衛兵たちはこまめに兵糧として使う食糧と薪、飲料水を備蓄し、騎士たちは襲撃に備えて国境地帯をパトロールし、時々略奪者や魔物を討伐した。
そのように何週間が過ぎたのか、国境の向こうから思いがけない便りが舞い込んだ。
これまで西部一帯で起きている略奪行為を知らぬふりをして傍観していたドリスタン王室が仲裁に乗り出したのだ。
リプタンは風になびくドリスタンの旗を見ながら眉をひそめる。
800人近くの兵士が壁越しに陣取っていた。
仲裁のために派遣されたというが、事実上脅威に他ならなかった。
鋭い目つきで彼らを見ていたリプタンは、兵舎の外に出てくるトライデンを発見し、急いで望楼から降りる。
「ドリスタンから何か提案がありましたか?」
兵舎では、ドリスタンから来た伝令とクロイソ公爵家の封神騎士が次々と出てきていた。
彼らの深刻な顔をちらつかせたリプタンは、再び団長に向かって目を向ける。
「今すぐ食糧倉庫を開放しなければ全面戦争をすると宣戦布告でもしてきたのですか?」
「過激な考え方だね」
トライデンがレムドラゴン騎士団の兵舎に向かって足を向け、首を横に振った。
「ドリスタン王室はこの紛争をできるだけ平和的に解決したいと思っている。クロイソ公爵が中断された交易を再開すれば、王室から軍隊を派遣して略奪行為が起きないように統制すると言っていた」
リプタンは冷笑的に口元をひねる。
「可能な限り平和的」という言葉は、有事の際に平和的でない方法を使う意向もあるという意味だ。
「クロイソ公爵は交渉に応じると思いますか?」
「これから調べないと」
トライデンが自分の兵舎の中に大股で足を踏み入れ、ついて来いと言わんばかりに頭をもたげた。
リプタンは従順に彼の後を追う。
種子があらかじめ火鉢を作っておいたおかげで、幕舎の中には暖かい温もりが漂っていた。
トライデンは火元に椅子を引いて座りながら物静かに話した。
「夜が明け次第、ドリスタンの伝令たちと共にクロイソ城に行ってくれ」
「私がですか?」
「一人で行けというわけではない。王室の騎士団から4人、そしてレムドラゴン騎士団から3人が同行することにした。彼らと一緒にドリスタンの伝令をクロイソ城まで案内してくれ」
リプタンは眉間にしわを寄せる。
ほぼ半年ぶりにクロイソ城を訪問したのだ。
彼は期待感と拒否感が同時に起きることを感じながら眉をひそめた。
その,姿を見たトライデンが片方の眉をつり上げる。
「どうした?私の指示に不満でもあるのかな?」
リプタンはゆっくりと首を横に振った。
「いいえ。他の指示事項はありませんか?」
「ないね。残りの2人は君が選んでくれ」
彼は頭を下げて兵舎から出る。
翌日、リプタンはウスリン・リカイドとガベル・ラクシオンを連れてクロイソ城に向かう準備をした。
ラッパの音が間こえてくると、彼らは王室の騎士団員たちと一緒に壁の前を歩く。
すると、赤いサーコートを羽織ったドリスタンの騎士3人が防壁の前に馬を走らせて近づいてきた。
リプタンは簡単に声明を出し、時間を遅滞なくクロイソ城に向けて出発する。
国境からクロイソ公爵の荘園までは2日で到逹できる距離。
しかし、日が短くなったため、彼らは3日目の夜明けになってようやく城門の前に到着することができた。
「久しぶりに熱いお風呂に入ってベッドで寝られそうですね」
門の前で身分確認の手続きをしている間、ガベルが楽しそうな表情を浮かべてつぶやいた。
リカイドは彼を睨みつけた。
「休息を取るために来たのではない。緊張を緩めるな」
「あまり堅苦しくしないでください」
ガーベルは不満そうな目で彼をちらりと見る。
「私はいつもリカイド卿のようにきちんとした姿を維持する才能がないので、機会があれば、垢を落としておかなければなりません」
リプタンは彼の言葉に新鮮な目でウスリンをちらりと見た。
確かに、この男が大雑把な格好をしているのを見たことがない。
ウスリン・リカイドは戦場のど真ん中でも清潔を保つ並外れた才能を持っていたのだ。
土ぼこりも名門家生まれの坊ちゃんは避けているのだろうか。
そんな滑稽な考えをしているうちに、中に入ってもいいという許可が下りた。
彼は馬を門の中に追い込み、荒れた顔を掃いた。
しばらく洗えなかったから、残酷な格好に違いない。
急にごちゃごちゃしたローブと、ふさふさした髪がとても気になった。
リプタンは額を覆う髪の毛をいらだたしくかき回し、自分の虚栄心に嘲笑を飛ばす。
外見がどうしたというんだ。
自分が清潔で綺麗な姿で礼装を整えている時も、あの女性はぞっとするように眺めていたではないか。
(こんな姿を見れば、その場で気絶してしまうかもしれないね)
リプタンは苦笑いを浮かべながら馬に拍車をかけた。
広々とした荘園を横切って城門の前にたどり着くと、公爵家の私兵たちが飛び出し、彼らを迎えてくれた。
リフタンは馬を兵隊に引き渡した後、ドリスタンの使者たちを連れてグレートホールに向かって大股で歩く。
雄大なホールの中に入ると、執事に見える中年の男が前に出てきて、丁寧に頭を下げた。
「国境地帯からいらっしゃったと聞きました。緊急な問題でも生じたのですか?」
「ドリスタンの使者を連れてきた。今すぐ公爵閣下にお会いしたい」
執事長はしばらく驚いた表情をして、落ち着いてうなずいた。
「私についてきてください。すぐ接見室にご案内いたします」
リプタンは彼の後をついて行き、無意識のうちに目を転がしてマクシミリアン・クロイソを探す。
女中たちが階段の上に集まっているのがちらっと目に入ったが、どこにも彼女の姿は見えなかった。
まだ早い時間だから、寝床から起き上がっていないのかもしれない。
彼は安堵感と失望感が入り混じった妙な気分を感じながら、ベルベットが敷かれた大理石の階段を上る。
執事長は彼らを赤いじゅうたんが敷かれた豪華な部屋に案内し、ドアの前で背を向けた。
「少々お待ちください。公爵閣下をお迎えします」
彼らはそれぞれの椅子に座り、公爵が来るまで一息ついた。
約20分ほどが流れたのだろうか、派手な服装をしたクロイソ公爵が護衛騎士や使用人たちを従えて部屋に入ってくる。
「ドリスタンから伝令が来たと聞いた。何の用件でここまで来たのか?」
彼が部屋の真ん中に置かれた椅子の上に座って、傲慢にあごを上げて尋ねた。
公爵の無礼な態度に伝令たちの顔がややこわばる。
彼らの中で最も年長者と見られる人が、クロイソ公爵に劣らない冷たい態度を取りながら口を開いた。
「私たちは陛下の命により、国境地帯で起こった紛争を調停するためにやってきました」
騎士が懐からドリスタン王室の印章が映った手紙を取り出して差し出す。
待機していた使用人が素早くそれを受け取って渡すと、公爵が片手で広げてゆっくりと目を通した。
羊皮紙に書かれた内容があまり気に入らないのか、彼の額に深いしわができる。
「詳しい話をする前に、まず休憩を取ったほうがいいね」
しばらく不快な沈黙が流れた末、クロイソ公爵が口を開いた。
彼は騎士たちのだらしない身なりに目を通し、執事長に手招きをしながら席から立ち上がる。
「お客様をお部屋にご案内いたします」
かなり疲れていたので、騎士たちは異議を唱えずに接見室を出ていく。
リプタンは以前使っていた部屋を割り当てられた。
そこで1ヶ月ぶりに熱いお風呂に入って綺麗な新しい服に着替えた後、再び外に出ると朝訓練を始めた衛兵たちと庭園を散歩中の女性たちの姿が目に入る。
そののどかな風景を隅々まで見ていたリプタンは、ふと悪態をつく。
「遊びに来たのではないのに」
彼は自分に罵声を浴びせかけながら身を乗り出した。
クロイソ公爵が伝令たちと本格的な話を交わす前に、国境地域に駐留したドリスタン王室軍の規模と紛争が長期戦に突入する場合にかかる費用について少し話しておくつもりだった。
しかし、クロイソ公爵は彼の接見要請を一言の下で断ってしまった。
忙しすぎて別途に時間を割くことができないというのだ。
リプタンは侮辱感で顔を引き締める。
いくら公爵であっても、王の奉神をこのように門前払いする権利はなかった。
彼は不快感を示そうとしたが、騒ぎを起こしたくなかったので、黙々と振り返った。
クロイソ公爵は、領地を巡回するのに忙しいという言い訳をして、伝令たちの接見要請まで先延ばしにする。
彼らはクロイソ城に到着して3日目になってようやく公爵と対面することができた。
当然、伝令たちは不機嫌な気持ちをそのまま示し、非常に高圧的な態度を取り、公爵はその伝令たちの怒りをかき立てるようにドリスタンの要求は領主の権限を侵害するものであることを表明する。
さらに彼は、「ドリスタンに今回の紛争の被害補償を要求するつもりだ」と挑発までした。
これに対し、ドリスタンの伝令たちも感情が激しくなり、交渉は事実上破局に突き進んでいく。
リプタンは状況を漏れなく記録して団長に知らせた。
少なくとも3、4日以内に結論が出るのではないかという予想とは異なり、交渉はいつのまにか1週間をはるかに越えている。
彼は青みがかった夜明けの空に向かって伝書鳩を飛ばしてうんざりした。
クロイソ公爵が、ドリスタンの要求を受け入れる考えが全くないことは明らかだ。
最悪の場合、全面戦争に突入することになるかもしれない。
リプタンは、これから起こる激しい戦闘を頭の中で描いてみた。
ドリスタンの王室軍が介入すれば、ウェデンからも追加支援軍を派遣するだろう。
そうなると、少なくとも1年間はアナトールに戻れなくなる。
「いや、もしかしたら二度と戻れないかも・・・」
リプタンはうさんくさそうに口元をひねりながら城の壁から降りてきた。
一度のミスで首が飛ぶことができるのが戦争だ。
彼は無数の強者が虚しく命を失うことを何度も見たし、世の中に自分より強い人間はいないと自慢するわけでもなかった。
他人の命を数え切れないほど奪ってきただけに、彼は自分の命も他人によって終わる可能性があることを明確に認識している。
リプタンは念のためアナトールに手紙を送ると決心して、夜明けの光が薄暗く敷かれた森の中を素早く横切った。
そうするうちにふと、遠くから誰かが走っていくのを発見して立ち止まる。
床に引きずられるほど長いスカートの裾で、見たところ下女のようではなかった。
貴族の女がこんな夜明けに一体何をするのか。
疑わしい思いで目を細めて彼女を見ていたリプタンは、すぐにこわばって体を固めた。
女が振り向くと、黒いローブの間から赤い髪の毛がはっきりと見えたのだ。
彼は世界でそのような髪をしているのはマクシミリアン・クロイソだけだと確信していた。
彼女の髪は普通の赤髪とは違う。
波のように曲がりくねった豊かな髪の毛は、闇の中ではほとんど紫色に近い濃い赤褐色を帯び、明るい太陽光の下では数本の金色が入り混じった炎のような色に変貌する。
突然心臓が鼓動し,あばら骨を打った。
クロイソ城に来てから初めて彼女に会うのだ。
リプタンは彼女を無視したいという気持ちと、会いたいという気持ちの間でうろたえる。
しかし、悩みは一瞬だけ。
釘を刺したように立ち止まっていたリプタンは、低いうめき声を上げながら彼女の後を追った。
いくら城内とはいえ、ひっそりとした森の中を一人で通るのを放っておくことはできない。
しかも、彼女はすでに一度大きな怪我をしたことがあるではないか。
魔物の毒牙に噛まれて冷たく固まっていた彼女の姿が浮び上がると、かすかな怒りが起きた。
あんなことを経験しても教訓を得られなかったのか。
しっかりと注意を与えるつもりで奥歯を食いしばって大股で歩いていると、彼女が周囲をきょろきょろ見回しているのが見えた。
リプタンは目を細める。
マクシミリアンは木陰の下に立っている彼に気付いていないようだ。
彼女は腕から何かを取り出し、小さな声で吃りながら読み始めた。
「何をするんだろう?」
惨めなほどかすかに震える声に、リプタンは眉をひそめる。
落ち葉がカサカサと音を立て、鳥がさえずる音と乾いた風が木の枝を揺らす音の間に彼女の声は断続的に聞こえた。
あまりにも小さい声で何と言っているのかはっきり聞き取れなかったが、一見詩を朗読しているようだ。
ぼんやりとそれを握りしめていたリプタンは、いぶかしげな表情をした。
マクシミリアンは震える声で何度も同じフレーズを繰り返し読んでいるのだ。
彼女の声に挫折感が幼いことを感じたリプタンは突然、自分が非常に秘密な光景を目撃していることに気づく。
彼女は話すのに苦労していたのだ。
彼は震える手で口元を撫でる。
以前にも彼女が吃るのを何度も間いたことがあったが、ただ悲しみや緊張感のためだと思っていた。
彼は立ち往生した動物のように不安そうに歩き回る。
おとなしくこの場を離れなければならないという気がしたが、このようなところに彼女を一人にしておくこともできない。
どうすればいいのか決定を下せず、躊躇していたリプタンは肩を固めた。
床に落ちた木の枝を踏んでしまったのだ。
舌が麻痺した人のように一つの単語を繰り返していたマクシミリアンがさっと首をかしげる。
リフタンを発見した彼女の目は驚きで丸くなった。
彼は困惑して顔を曇らせる。
かなり離れた距離だったにもかかわらず、彼女の小さな顔が青ざめて、羞恥心で赤く燃え上がるのがはっきりと見えたのだ。
狭い肩が侮辱感で硬くなり、両目は粉々になった自尊心によって危うく揺れている。
彼は急いで口を開いた。
しかし、何を話せばいいのか分からなかった。
彼女は後ずさりして唇をびたぴたと鳴らした。
「わ、私は・・・」
恥部を露にした人のように途方に暮れていたマクシミリアンが、すぐに体を回して城に向かって一目散に走ってしまった。
リプタンは無意識のうちに彼女を追いかけようとして立ち止まる。
すぐにでも彼女をつかまえて、ただ偶然あの場にいただけだと弁解したかった
しかし、それは彼女をさらに当惑させるだけだという気がした。
彼は自分の弱点を他人にさらけ出したことがどれほと恥ずかしいことか十分に理解していた。
彼女が逃げてしまった林道を茫然と眺めていたリプタンは、荒々しく悪口をつぶやきながら振り向いた。
勝手に盗み見ていたことについて、近いうちに正式に謝る機会があるだろう。
今は彼女に心を落ち着かせる時間を与えるのが最善だった。
彼は宿に向かって力なく歩いていく。
しかし、交渉が終わるまで、リプタンは彼女の影も見つけることができなかった。
偶然にでも遭遇するのではないかと思い、機会があるたびに別館の近くをうろついていたが、結局彼はあの日のことを謝罪できないまま国境に発たなければならなかった。
もの凄く凄惨な気持ちだ。
交渉はこれといった成果を出せず、マクシミリアン・クロイソには最悪の印象を与えてしまった。
リプタンは厳しい気分で安息の季節を迎える。
高まる戦争の緊張感の中でも、彼女の傷ついた目つきが頭の中から消えない。
どうして彼女の痛みだけが、これほど生々しく感じられるのだろうか。
世の中にはあれよりもっと悲惨で苦しいことが溢れている。
それにもかかわらず、彼は彼女を慰めてあげたいという強烈な衝動を感じていた。
彼女に近づき、狭い背中を慰めてあげたかった。
吃ることぐらいは本当に些細な欠点に過ぎない。
私はあなたが話すことを聞かせてくれれば、金貨を何枚か出せと言われても、そうするだろう。
いいや金貨だけでなく、彼女が望むもの全てを差し出してもいい。
あなたの声を私にだけ聞かせてくれるのなら、あなたの奴隷になってもいい。
「・・・何を考えているんだ」
リプタンは自分の馬鹿げた考えに失笑する。
彼女の柔らかな外見の裏には高い自尊心があった。
羞恥心に歪んでいた顔だけ見ても、十分予想できる。
貴公女を慰めようとしたという事実だけでも、彼女は侮辱感を感じるかもしれない。
リプタンはそのように自分自身を嘲笑することで、彼女を頭から振り払うのに苦労した。
そのような努力が実を結んだのか、思春期の少年のようなのんびりした空想は次第に薄れていく。
リフタンがマックが吃音症で苦しんでいることを知っていたのですね。
その気持ちを彼女に伝えてほしい・・・!