こんにちは、ピッコです。
今回は15話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
15話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 10年ぶりの帰還③
その晩、リプタンは無気力な顔で宴会場の中に足を踏み入れた。
団長の頼みだからではない。
それでも今日だけは彼女に会いたいという誘惑を振り切ることができなかった。
これで最後だった。
今夜限りでこの混乱に終止符を打つだろう。
彼は心の中でそのように誓い、勇壮な宴会場をじっくりと見回す。
最終日ということもあって、ホールはこれまで以上に贅沢で豪華な飾り付けがあった。
黄金色に囲まれた広々としたホールにはリュートー(lute)の旋律が流れており、その向こう側には香ばしいワインと油っこい食べ物、新鮮な果物がいっぱい並べられたテーブルが長く列をなしており、その前に座った貴族たちもやはり皆贅沢な服装をしている。
リプタンは、自分を不思議な生物のようにちらちらと見る視線を無視して、騎士たちが集まった場所を見た。
その長いテーブルの上座には絹と毛皮で精一杯お洒落をしたクロイソ公爵と、ベルベットのドレスを着飾ったマキシミリアン・クロイソが座っていた。
リプタンは彼女にあまりにも長く視線を向けないように必死になり、使用人にグラスを一つ渡してほしいと要請する。
向かいの席に座った団長が彼を見て嬉しそうに微笑んだ。
「ぶつぶつ言いながらも君は本当に言うことをよく聞いてくれるね」
「あまり喜ばないでください。昼間に私が団長が体面をつぶしたじゃないですか。当分の間、威信を張ってやろうと決心しただけです」
「・・・一刻も早くこの滅びる者の腕を何とかしないとね」
トライデンは眉をひそめてうなり声を上げる。
「近いうちに君の行儀を直すから待っていなさい」
リプタンはグラスで微笑を隠した。
彼はリラックスして食事やアルコールを嗜み、時折騎士たちと話をする。
しかし、30分も経たないうちに、彼の注意力は再び公爵のそばに座っている少女に向かう。
彼女はこれまで以上に宴会場に長く滞在したが、誰とも話をしなかった。
無表情な顔でおとなしく座っている姿がとても冷たそうで、猫と一緒に遊んでいたあのか弱い表情の少女と同一人物なのか疑わしいほどだ。
リプタンはワインをすすりながら慎重に彼女を見る。
どこか苦しいのだろうか?
ただでさえ白い顔は青ざめており、両目はすべての感情を隠したように暗く沈んでいた。
彼女を見るのはこれが最後かもしれない。
一度は笑顔を見たかったリプタンは、がっかりしたり心配したりして、わけもなく胸を震わせた。
「宴会が退屈なようですね。カリプス卿」
突然聞こえてきた声にリプタンは首をかしげる。
バラ色のドレスを着た魅惑的な美しさの女性が彼に微笑みかけていた。
リプタンは眉をひそめる。
だが女は怯えた様子もなくニヤニヤして、大胆にも彼に向かって片手を差し出してきた。
「私も会話が退屈になったところでした。気分転換をしたいのですが、適当なパートナーがいませんね。卿が私のダンスの相手になってくれませんか?」
女性が先に男性にダンスの申し込みをするのは異例のことだ。
彼女の大胆さに驚いた表情をすると、団長がテーブルの下で彼の脛を蹴飛ばした。
貴婦人に恥をかかせるつもりかと警告する目つきに、リプタンはやむを得ず席を立つ。
彼女の口元には満足そうな笑みが浮かんでいた。
「今回の紛争で大活躍されたという話を聞きました。陛下は大変誇りに思うでしょうね」
彼女の手を握ってぎこちなくホールの真ん中に歩いていくと、女性が優しくささやくように話した。
リプタンは眉間にしわを寄せながら彼女の名前を思い出そうとする。
確かにこの前紹介を受けたにもかかわらず、ある騎士の妹ということ以外には特に思い出すことがなかった。
リプタンは無愛想に答える。
「予想より長くかかったと文句を言わなければ幸いです」
「陛下は厳しい方なのですか?」
「自分の臣下に対する期待が高い方です」
「陛下が卿を特別に寵愛されるという噂は私も間きました」
彼は冷笑を浮かべる。
あの男は役に立つ道具に愛着を持っただけだ。
しかし、そのような事情まで並べ立てる理由はなかったため、彼は沈黙で一貫する。
彼のひどいマナーにもかかわらず、彼女は絶え間なくおしゃべりをしながら、思いっきりダンスを楽しんだ。
リプタンは女性をくるくると回し、ちらっとマクシミリアン・クロイソを見た。
彼女がびっくりして首をかしげる姿が目に止まる。
ひょっとして自分を見つめていたのだろうか。
そんな期待を抱く自分にうんざりした。
彼は音楽が変わるやいなや罠から抜け出す獣のように女から離れる。
しかし、女性の方が早かった。
無名の貴族女性が彼の腕の上でよろめきながら身をかがめてきた。
「ちょっと目まいがしますね。お酒を飲みすぎたようです。部屋に戻って休みたいんだけど・・・、ちょっと支えてもらえますか?」
露骨な誘いにため息が出る。
貴族の女性たちが彼に対する反応は正確に2種類に分かれた。
疫病の.ように忌避したり、ベッドに連れて遊ぶペットにしたがった。
この女は後者の方のようだ。
「今日が最後の宴会じゃないですか。特別な時間を過ごしたいのです」
彼女はしなやかな体をぴったりとくっつけて誘惑的な目つきをしてきた。
リプタンは冷たく振り払おうとしたが、余計な騒ぎを起こしたくなかったので、彼女を支えて宴会場を抜け出す。
女は人通りの少ない暗い廊下に入るや否や、リフタンに飛びかかる。
リプタンはハーピーに噛まれる魔物の死体になった気分だった。
女が細い両腕を彼の首につるのように巻きつけ、湿った唇をがつがつと押し付けてくる。
リプタンは眉をひそめて彼女を引き離した。
「元気いっぱいだね。部屋には一人で帰れそうだ」
「面白くないじゃないですか?」
彼女は挑発的に彼をにらみつけ、唇を突き出す。
お前ごときが、どうして自分を拒否できるのかというような表情だった。
女が訓戒するように言った。
「そんなに堅苦しくしないでください。少しだけ楽しもうと言っているだけじゃないですか」
「悪いけど、私はこんないたずらには興味がない。他の人を探してみて」
「他の人は興味ありません」
女性がだるそうに微笑んで挑発的に体を押し付け、彼の頬を包んできた。
「あなたのように美しい人は初めて見ました。まるで邪悪な異教徒が崇拝する神のよう。あなたたちは快楽を得る方法を180種類も知っているというのは本当ですか?」
何かに酔いしれた目つきに鳥肌が立つ。
リフタンは、その女性の途方もない期待に身震いし、彼女の手を荒々しく離した。
「あなたたちは?今、私を背教者にしているのかな?」
「私はただ・・・」
「私は教団の前で叙任を受けた。今その言葉だけで私を侮辱した代価を払わせることができるということを知っているのか?」
冷ややかな追及に女の顔が刺々しく歪んだ。
「くだらないことを言う人だったんですね」
彼女は傲慢な表情で彼をにらみつけ振り向いた。
「いいですよ。他の人を探してみます」
それから、高慢な歩き方で去っていく。
リプタンは女がやたらに引っ張る乱れた裾を撫でながら湿った口元をなで下ろした。
気分がめちゃくちゃだった。
このまま再び宴会場に戻る気にはならなかったが、帰らなければ自分が宴会場を出るのを見た人たちは、あの女と密会を楽しんでいると思うだろう。
ひょっとしたら彼女もそう思うかもしれない。
「何の関係がある」
彼女は自分がいなくなろうが、どの女性と寝ていようが気にしないだろう。
全部、自分の自意識過剰にすぎない。
しかし、そうつぶやきながらも、彼は宴会場に向かって大またに足を踏み出していた。
リプタンは神経質に髪をかき上げる。
まるで雌の匂いを嗅いだ雄馬のようにそわそわする自分の姿が気に入らなかった。
「公爵令嬢が騎士の中で夫候補を探すつもりだというのは本当だと思う?」
リフタンがちょうど暗い廊下を抜けて宴会場の中に足を踏み入れようとした瞬間、男たちのひそひそと話す声が間こえてきた。
リプタンはおしゃべりをしている貴族の男たちに鋭い覗線を投げかける。
宴会場の中では吟遊詩人がリュートの旋律に合わせて物悲しい声で英雄叙事詩を詠んでおり、人々はきらめく蝋燭の下で盛んに踊っていた。
この騒がしさを機に、男同士が集まって密かな話を楽しんでいたようだ。
酒の勢いが漂うのろのろとした声が耳元をかすめた。
「まだ若いんじゃない?」
「ああ見えても16歳だ。数ヶ月後には17歳になる。ちょうど結婚適齢期じゃないか」
きれいに着飾った男がグラスを口に当ててニヤニヤする。
「年も適当に取っただろうな、公爵令嬢が求婚者を求めようと、こんなに頻繁に顔を出すのではないかという話が出ている」
「よく顔を出す!今日は少し長く座っているようだが、宴会期間中、文字通り顔だけ出しては矢のように消えてしまったよ」
「それだけでもすごいことだよ。クロイソ公爵が長女をどれだけ過保護にしているか知ってる? 捧神騎士の中でも今まで顔を見たことがないと、彼らが数え切れないほどいると。使用人たちも彼女に対しては口を開けない。すべてがベールに包まれた貴婦人なんだ」
別の男が会話に割り込んできた。
「健康があまり良くないという噂は聞いたよ。クロイソ公爵が娘にどんなに極性なのか、城内に巨大な礼拝堂を建て、4人の高官を常駐させたそうだよ?」
「幼い頃からよく病んでいたようだ。だから、あんなに過保護なんだろう」
比較的年を取ったような男が気の毒そうに言った。
リプタンはしっかりと身を固め、マクシミリアン・クロイソを注意深く見る。
彼女は父親のそばに座り、疲れて緊張した顔で舞踏会場を眺めていた。
体の具合が悪いから、あんなに憂鬱な表情をしているのだろうか。
彼女が重病にかかっているかもしれないと考えただけでも胸に穴が開いたようだった。
ぼんやりと固まっている彼の耳で、もう少し隠密になった男たちの声が聞こえてくる。
「クロイソ公爵は長女をドラキウム宮殿に送るつもりはないようだ。それで、騎士の中で夫候補を探すのではないかという話が出たのだ。ドリスタンとの頻繁な紛争のためにも、指導力のある騎士を婿にしようとするのではないかということだ」
「公爵の野心を軽く見ているね」
会話に挟まらないまま黙々と酒だけを飲んでいた騎士の一人が鼻で笑う。
「クロイソ公爵が娘をどんなに大事にしていたとしても、家門の名誉と権力以上ではないだろう。彼が王室と血縁関係を結ぶつもりなのは、誰もが知っている事実じゃないか」
「その課業は次女に任せるつもりかも知れない。まだ幼いが、ずば抜けた美貌と技量を持っていると早くも噂が広まっていたよ」
「確かに、長女が健康に問題があるなら、王家に嫁がせることはできないだろう。丈夫な男の子を何人も産んであげるのは難しいのではないか」
リプタンは男たちが繁殖に使う雌馬を品定めするような目で彼女に目を通すのを見て拳を握る。
30歳をはるかに過ぎたように見える年老いた子供が、何を話しているのだろうか。
「その点はすごく引っかかるが・・・。でもクロイソ公爵の令嬢は相変わらず魅力的な花嫁候補だよ。公爵が大事にする娘だから、さぞかしものすごい持参金がついてくるだろう」
「相続者を得ることができなければ、持参金は何の意味もない。財産も土地も譲る息子がいなければ、すべて王室で回収していくはずだが・・・」
「君はまったく頭が回らないな。不健康な女性なら、どうせあまり生きられず死ぬんじゃないか。その時に新しい花嫁をゲットすればいいんだよ」
リプタンは強烈な殺意を感じながら彼らをにらみつける。
すぐにでもあいつらを隅に連れて行き、二度とあんな汚い言葉をしゃべれないように舌を切りとってしまいたい。
彼女があんな卑劣な奴らの欲望の対象になるという考えだけで、鋭い怒りと強烈な保護本能が湧き出た。
そんな感じが嫌だった。
彼女は自分のものではない。
だから自分が怒る理由も、彼女を保護したがる理由もなかった。
何も言わなくても東部一の権力者であるクロイソ公爵が彼女を徹底的に守ってくれるだろう。
リフタンは、彼女のそばに番人のように座っている公爵の方に目を向けた。
公爵は尊大な男だが、少なくとも彼女にとっては心強い保護者に違いない。
あんなろくでなしたちが近づかないように、彼女が城の中に留めておいたのは賢明な措置だった。
リプタンは深呼吸をしてゆっくりと足を向ける。
そのまま宴会場の中に入ったら、大きな事故を起こしそうだった。
怒りを抑えるために握りしめた拳がぶるぶる震えている。
あいつらの顔をはっきり覚えておいて、去る前に歯の1、2本くらいは抜いておかないと気が済まない。
しかし、果たしてあんな下心を抱いた奴らが一人や二人だけなのだろうか。
クロイソ公爵が騎士の中から婿候補を選ぶ計画だという噂が広がれば、ウェデンの騎士という肩書きをつけた人間たちは一様に虚しい期待を抱いて彼女に近づくだろう。
最も吐き気を催すのは、自分でさえそのような誘惑を感じているという事実だった。
リプタンは庭に続く階段の上に立ち,恥辱感に顔を包んだ。
一体自分はどこで間違ってしまったのだろうか。
このような混乱と渇望は本当にありがたくなかった。
しかし、今回の宴会が彼女の求婚者を探す場かも知れないという話は、彼を立ち往生させた。
「私が席を守っているからといって、候補者リストに入る可能性はない」
彼女が自分を見つめる恐怖に満ちた視線や、クロイソ公爵の蔑覗に満ちた態度を考えれば明らかな結果だった。
しかし、彼は再び宴会場に向かう。
きっと、このまま部屋に帰ると、彼女がさっき卑劣なことを言っていたやつの中から夫候補を選び出したのではないかという心配で一晩中寝返りを打ってしまうところだったから。
むしろ、何が起こっているのか、両目で確認した方が気が楽だろう。
しかし、彼は数歩で再び硬直する。
女中たちに囲まれて宴会場を歩いて出てきたマクシミリアンと正面から出会ったのだ。
怒りに包まれたあまり、彼女を感知する能力が鈍くなったりしたのだろうか。
リプタンは、自分の目の前に立っている女性を見下ろしながら瞬きをする。
しかし、彼女はそれの数百倍は当惑しているようだった。
いつも自分と目が合うと視線を避けるのに忙しかった女性が、ぼうっとした顔で彼を見上げる。
そのおかげでリプタンは彼女の豊かな赤褐色のまつげと、その下にある美しい銀灰色の瞳を詳しく見ることができた。
シャンデリアの明かりが彼女の冬の湖のような瞳の上で黄金色に波し、彼女の白い顔はゆっくりと赤く燃え上がった。
衝撃的なほど魅惑的な光景。
彼女は髪の色とほぼ同じくらい真っ赤になる。
リフタンは全身を緊張させ、かろうじて唇を震わせた。
「・・・何か問題でも?」
自分の耳にも無愛想に聞こえる声。
リプタンは心の中で悪態をつく。
ここ数週間彼女と話をするつもりでいたのに、どうしてそんなことしか言えないのだろうか。
彼女は目に見えてびくびくして、慌てて頭を下げた。
そうして彼が何か言い出す前に、逃げるようにさっさと歩いてしまった。
メイドたちは彼女の後をついてくすくす笑う。
リプタンは彼女の後ろの姿をほんやりと見つめた。
なぜあんな反応を見せるのか分からなかった。
もしかして宴会場で何が起こったのかと思い、彼は騒々しい人々をかき分けて、すぐに団員たちに向かう。
「私が留守にしている間に何かあったのか?」
杯をもみもみしながら、騎士たちが首を横に振った。
妙な沈黙が流れるのを感じながら、リプタンは眉をひそめる。
目を丸くして彼を見上げていたヘバロンが、すぐに苦笑いを口元に含んだ。
「それは副団長の方だろう?」
「どういう意味だ?」
「部屋ごとに鏡があったはずなのに、確認もしないで出てきたの?」
リプタンはもしかして髪がめちゃくちゃなのかと思い、片手で前髪をかき上げた。
その姿を見上げていたヘバロンが小さく口笛を吹いた。
「とても誘惑的だ。東部の貴婦人たちを皆、虜にしようと決心したようだね」
訳のわからない言葉に、リプタンは眉をひそめた。
「さっきから何を・・・」
「口元に染料がついています」
静かに座って酒を飲んでいたウスリン・リカイドが突然吐き出した。
リプタンはびくびくしながら唇をなでる。
手の甲に赤い粘り気がにじみ出ていた。
戸惑った表情をする彼を見て、ウスリンがため息をつくように付け加えた。
「貴族の女性が唇をより赤く見せるために塗る染料です」
ちらりと瞬きをして、リプタンは大股で外に出て、一番近い空き部屋に入つ。
鏡をのぞいてみると、自然と口から苦しそうな声がした。
彼を誘惑した女が裾をむやみに引っ張った時、落ちたのかボタンニつが見当たらず、頭はカササギの巣のようで、唇とあご、頬には赤い唇の跡が広がっていた。
どこから見ても、女性たちをやたらに誘う放蕩者の姿。
「なんてこった・・・」
これで彼女が自分を少しでも良く見る可能性は完全に吹き飛ばされた。
リプタンは落胆して肩をすくめる。
久しぶりのマックとの会話は失敗に終わりましたね。
マックの婿候補を探しているのは本当のことなのでしょうか?