こんにちは、ピッコです。
今回は67話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
67話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 家族⑤
「ゆっくり、長く息を吐き出して、そう、そう・・・」
まるで水に落ちたように息が切れてしまう。
体を丸めてあえぐと、誰かが背中を優しくこすってくれた。
マックは肩を震わせながらかろうじて目を開けると、緋色の光がちらつく見慣れた寝室の風景が視界をかすかに埋めた。
しばらくの間、混乱した目で暗い部屋の片隅を凝視していたマックは、たちまち押し寄せる恐怖にうめき声を上げながら体をひねる。
すると、彼女を抱いていた人が、口元に冷たい器を持ってきてくれた。
「吐きたければ吐いて」
マックは涙ぐんだ目でリフタンを見上げる。
かきむしったように乱れた髪の毛の間からリプタンの血の気が引いた顔が見えた。
「魔力の枯渇で目眩がするんだ。吐き出せば楽になるよ」
マックは吐き気を必死に抑えながら、震える手で彼の胸を押し出す。
「ル、ルディスを・・・よ、呼んでください」
「大丈夫だから吐いて」
彼女は口を塞ぎながら首を横に振った。
涙が少し流れてお腹の中がねじれているようだったが、彼に再び見苦しい姿を見せたくなかった。
「ル、ルディスを・・・」
彼の懐から抜け出すために体をよじ曲げると、リプタンが器を投げながら彼女の体を自分の胸にぐっと引き上げる。
首を振りながら抜け出そうとしたが、彼の腕はびくともしなかった。
リプタンはあごを抱え、2本の指を口の中に押し込み、舌の後ろに優しく押し込んだ。
結局、マックは彼の胸にべたべたした胃液を吐き出してしまう。
小咳が出て体が軽く痙攣を起こし、頬は涙でいっぱいに。
「しー・・・大丈夫だから」
彼は子供でもなだめるように彼女の体を前後に振り、背中を撫でる。
マックは口元を湿った唾液で濡らしたまま、羞恥心に陥ってすすり泣いた。
自分の顔はもちろん、彼の手と裾まで酸っぱい液体でべたべたに濡らしてしまったからだ。
「泣かないで」
リプタンは彼女の頭のてっぺんにつぶやきながら、綺麗な袖で彼女の顔を拭く。
しかし、そのようなソフトな行動とは裏腹に、リプタンの顔は酷くこわばっていた。
彼女の胸の紐をほどいて汚れたドレスの裾を脱がし、彼女の上着も脱がせる。
皮膚の上に届く冷たい空気に、マックは背中をいっぱい丸めた。
リプタンは素早く彼女を抱きしめ、背中をこすった。
マックは温もりを求めて彼の懐に潜り込んだ。
胸が彼の胸の筋肉に平たく押し付けられ、両足は彼の長い脚と絡み合った。.
「くそ・・・」
リプタンの頬のあたりが熱気で赤く燃え上がる。
マックは額に汗をかいているのが見えた。
触れ合った体はまるで火で熱した鉄のように熱く、ぎゅっと押さえられた頬の下で彼の心臓が大きくドンドンと音を立てている。
しかし、彼女の面倒を見る手には、何の感情の動揺も見当たらなかった。
リフタンがタオルで彼女の顔を拭い、もつれた髪からピンを引き抜く間、マックは肩にだらりと垂れ下がって完全な思考をするのに苦労した。
いつ城に帰ってきたのだろうか。
あの巨大な魔物は?
意識を失う前の記憶が閃光のように浮び上がると、体がコントロールできないほど震えてきた。
「体が氷のように冷たい」
リプタンは熱い手のひらで彼女の体を撫でて、このままではいけないと思ったのか、彼女をさっと抱き上げて立ち上がり、暖炉の前に用意された浴槽の中に彼女を置く。
マックは熱いお湯の中にうずくまって座り、蒸し暑い熱気が体内に入り込むのを待った。
しかし、全身を縛った寒気はなかなか消えない。
「な、なんで・・・か、体が・・・」
「魔力枯渇は貧血と似たような反応を呼び起こす。体に寒気がして目眩がするだろう」
彼はぶっきらぼうに呟きながら、片手で水をすくって肩に流した。
「あのろくでなしめが、君に注意を払わなかったなんて、信じられない。いや、ルースもまさか君がこんなに無謀なことをするとは思わなかったのだろう」
リプタンの口調から鋭い非難が感じられ、マックは瞼を上げて彼の表情を見る。
真っ黒な瞳の中に静かな怒りが渦巻いていた。
彼は怒りを鎮めようとするかのように大きな声で乾いた唾を飲み込み、ズボンを脱いで彼女の背中の後ろに座る。
「人の体温があると、もっと暖かく感じられるよ」
リフタンの熱い肌は到底拒否できない誘惑で、マックはめんどりの懐に食い込むひよこのように彼の体にくっついた。
リプタンは激しく息を吸い込み、かすかに震える手で彼女の硬い手足を揉んだ。
マックは無感覚に彼の世話を受け入れる。
彼の言う通り、頭がくらくらして全身に寒気がした。
まるで百歳を取った老婆になった気分だ。
「不便でも少しだけ我慢して」
しばらくの間、彼女の体の隅々を撫でていたリプタンは水が冷めると、彼女を抱いて浴槽から出る。
マックはよろめきながら彼の体にもたれかかった。
彼は彼女をタオルで包み、素早く水気を拭き取った後、不器用な手つきでパジャマを着せる。
「気分がよくなくても、少しだけ飲んで」
彼がコップを口に近づけると、マックは口を開けてやっと一口飲んだ。
しかし、固く締め付けられた胃腸にぬるま湯が入ると、顔が真っ青になり、再び嘔吐が起こった。
リプタンが素早く彼女のあごの下に手のひらを広げて上がってくる吐瀉物を受け取らなかったら、入浴が無駄になっていただろう。
マックはあえぎながら彼の手のひらをぼんやりと見下ろす。
リプタンは嫌な気配もなくタオルで手を洗い、彼女の顔もしっかりと拭いた。
恥ずかしくて涙がだらだら流れる。
「ごめんね。苦しませるつもりはなかったんだJ
彼は病気で泣いていると思ったのか、優しく囁きながら彼女の額に絶え間なくキスをした。
彼女は震えながら涙をぽたぽたと落とす。
そのように悲しそうにすすり泣くのをしばらく、気分が落ち着くと、リプタンもひどく疲れただろうという気がした。
怪物たちと戦ったのだから、彼にも自分に劣らず休息が必要なはず。
マックは彼の懐から逃れ、辛うじて口を開く。
「お手数をおかけして申し訳ありません。わ、私は・・・もう大丈夫です。この辺で・・・。お、お休みにならないと・・・」
その瞬間、リプタンの目から火花が散った。
「あなたは大丈夫かもしれないけど、私は全然大丈夫じゃない」
こみ上げてくる感情をやっとのことで飲み込むかのように、彼の声はかすかに震えていた。
「道端に倒れているあなたを見た時、私がどんな気持ちだったのか、あなたは死んでも分からないだろう」
彼の顔は苦痛とも言えるほどの感情で激しく歪んでいた。
リプタンが感情の動揺を鎮めようとするかのように、片手で荒々しく顔をこすりながら、落ち着いた口調で吐き出す。
「余計な心配はしないで寝なさい。顔色が悪い」
彼は彼女の目を手のひらで覆う。
視界が真っ暗になると、嘘のように睡魔が押し寄せてきた。
マックはまるで壊れた人形のようにぐったりする。
次第に曇る意識の中で、彼が自分の氷のような足の裏を手でこすり、硬いふくらはぎを揉み、冷たく冷めた手のひらを自分の首の周りにこすりつけ、温もりを伝えようと努力するのが感じられた。
そのままにしておいては一晩中そうしているようで引き止めたかったが、気力をすべて消尽したように口を開くことができない。
マックはすぐに気絶するかのように眠りについた。
マックは明るい光が網膜を突くのを感じながら、辛うじて目を開ける。
固い目にようやく焦点を当てて周りを見回すと、いつものように一人だろうという予想とは違って、リプタンがすぐそばに横たわっていた。
マックはしばらく息を止める。
滑らかな黒髪を乱したまま無防備に眠っている彼の姿が目に入った.瞬間、強烈な震えが背筋を襲う。
彼女は頬骨の上に陰を落としている彼の黒いまつげを見上げた。
まるで黒い蝶の羽のようで、思わず手を伸ばしてそれに触れると、リプタンがさっと目を覚ました。
マックはびっくりしてさっと手を引いた。
「ごめんなさい、お、起こすつ、つもりはなかったのですが・・・」
リプタンは眠そうにぼんやりと瞬きをし、瞬間で飛び起きて彼女の顔を綿密に調べた。
「体調はどう?まだくらくらする?」
「だ、大丈夫です」
彼はマックの額と首筋を撫でながら暖気を確認し、枕元のやかんを手に取り、グラスに水を満たした。
「飲める?」
うなずくと、リプタンは彼女の肩を支えながらグラスを口元に当てる。
マックは乾いた唇をぬるま湯で湿らせて安堵のため息をついた。
「あ・・・ありがとうございます」
「食べ物を食べることができれば、薄いスープを持ってくるように言うよ。それと・・・」
彼は大きなパジャマの下に現れた彼女の白い胸をぼんやりと見下ろす。
「着替える服も」
マックは頬を赤らめ、急いでシーツを引き上げた。
彼女の恥ずかしそうな姿をじっと見下ろしていたリプタンがベッドから起き上がり、ズボンをはく。
それから鐘を嗚らし、女中に服と食べ物を持ってくるように指示を出した。
マックは枕に背中をもたせかけて、乱れた髪の毛を整理しようと努力する。
元気がなく頭がずきずきしたが、昨日のような目眩は襲ってこなかった。
彼女は安堵感で肩をすくめる。
本当にぞっとするほと不愉快な経験だった。
「もう少し横になっていて」
「じゅ、十分に横になっていました」
彼女はシーツを体に巻きつけ、ベッドからよろよろと体を起こす。
リプタンは彼女の腕をつかんだ。
「横になっていろと言うじゃないか」
「うう、大丈夫・・・」
「そのろくでなしの大丈夫だという話は、もう聞きたくない」
急に出てきた険悪な話し方に驚いて、マックは肩をすくめた。
リフタンは彼女の肩をつかみ、多少強引にベッドに寝かせる。
「怒らないように必死になっている。しきりに俺の忍耐心を試すな」
「お・・・お手数をおかけして申し訳ありません。魔法を・・・使うだけでこ、こうなるとは思わなくて・・・」
「俺を煩わしくさせたからと、俺がこんなに怒っているように思っているのか?」
彼女の肩を握った手にぐっと力が入った。
「何が起こりそうになったのか理解しているの?私が少しでも遅れていたら、大怪我をしたかもしれない!運が悪ければ死んでいたかもしれないも・・・!」
彼は後口をつぐんで歯を食いしばった。
「あなたが部屋から出られないように拘束すべきか、あなたが領地の外に出ている間に両手を匿いていた黒髪の首を絞めて捨てるべきか、さっぱり分からない。何のつもりで魔物の襲撃があった場所に出てきたの?この前危険な所に出るなと言ったのを忘れたの?」
「で、でも私一人だけ・・・し、城にじっとしていることは・・・」
「当然、あなたは城にいるべきだった!」
リフタンの胸が激しく揺れる。
「私が何のために朝から晩まで死ね気で働いていると思ってるの?私が一体何のために城壁を築いてこの城を・・・!」
ほとんど叫び声を上げていたリプタンは、彼女の青ざめた顔を見て黙った。
彼の肩は沸き立つ感情を抑えるために激しく震えている。
「・・・今日は寝室から出ようと思わないで」
誰かが首を絞めているような抑圧された口調で吐き出し、彼はさっと身を回して床に落ちていたローブを拾い上げた。
そうしてそのままドアを開けて出て行ってしまう。
マックは混乱した目で閉じたドアを見た。
普段もせっかちで荒っぽい人だったが、このように感情的に乱れた姿を見せたのは初めてだった。
自分のことで驚いたのだろうか。
マックは不安で顔を曇らせる。
見苦しく気絶して彼に苦労をかけたのは、これで2回目。
うんざりしてもおかしくない。
彼の怒った姿に不安で胸を落ち着かせようと努力しているところ、トントンとドアを叩く音が聞こえてきた。
「奥様、服と食べ物を持ってきました。入ってもいいですか?」
「どうぞ、お入りください」
許可が下りると、ルディスは大きなトレイを持って部屋に入ってきた。
「薬草スープを持ってきました。お体の調子はいかがですか?」
彼女の心配そうな目に、マックは苦労しながら笑顔を作って見せる。
「だ、大丈夫です。昨日、魔法を・・・使いすぎて気力を・・・失っただけだそうです」
「昨日は本当に深刻に見えました。ずっと気がつかなくて・・・」
ルディスは慎重な表情で言葉を選び、枕元にトレイを置いた。
「旦那様が大変心配されていました。先ほど出掛けながら奥様の面倒をよく見るようにと頼み込んだそうです」
マックは顔を赤らめながらも、安堵感で肩を落とす。
彼が自分に完全に幻滅したようではなく、安心した。
「領主様は・・・どこへ行かれましたか?き、昨日一晩中・・・私の面倒を見るためにほとんど休めなかったのに・・・。もしかして、また城の外に出ましたか?」
「練兵場に行かれるようでした」
ルディスは優しく話し、持ってきた衣類をベッドの上に広げる。
「起きられますか?服を着るのをお手伝いします」
マックはルディスの助けを借りて、ふわふわした新しい服を着てベッドの上に座り、澄んだスープを飲み始めた。
彼女が食事をしている間、ルディスは暖炉に火をつけ、ハーブティーを沸かす。
その様子をちらちらと見ていたマックは昨日のことについて尋ねた。
「もしかして他の人たちはどうなったのか・・・聞いたことがありますか?」
「他の人たちですか・・・?」
「昨日のふ、負傷者がたくさんいて・・・急に魔物が現れて・・・大騒ぎだったんですよ」
マックは、魔物の羽ばたきにわらのように飛んでいった人々の姿を思い浮かべながら言葉を濁す。
ルディスは青ざめた顔をじっと見て、慎重に答えた。
「詳しい状況は聞いてないのですが・・・一度調べてみましょうか?」
「そう・・・してくれますか?」
彼女はにこやかに微笑んで首をかしげる。
「私が行ってくる間、奥様はお部屋で休んでいてください。旦那様が奥様を外に出さないようにとお願いされていますので」
マックは素直にうなずいた。
どうせ寝室の外に出る気力もなかった。
ルディスが火の中からやかんを取り出し、棚の上に置き、部屋の外に出ると、彼女は食べていたスープの器を枕元に置き、再び体を横にする。