こんにちは、ピッコです。
今回は21話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
21話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 無実の罪
いつにも増して厳しい冬が訪れる。
リプタンは悪霊に取りつかれたようにアナトールの再建に取りつかれた。
しかし、城を補修して城壁を築く間も、彼の崩れた自尊心は少しも回復できていない。
リプタンは棒切れの前に立ち、凍った大地を眺めながら歯を食いしばった。
目を閉じるとクロイソ公爵の蔑視に満ちた視線が浮び上がり、枕の上に頭を横にする度に怯えた彼女の顔がちらついた。
彼は顔を荒々しくなで下ろす。
あんな侮辱を受けても未練を振り切ることができない自分がゾッとした。
もはや儚い夢想から抜け出さなければならない。
自分は彼女の前にひざまずくことさえ許されなかった。
こんなつまらない心なんてもうやめなければならない。•
リプタンはそう何度も繰り返した。
マクシミリアン・クロイソはもはや自分の孤独を癒す存在ではなく、今や彼は彼女を思い出すだけで辛い痛みを感じた。
『地は地だけ見て生きなければならない。上を見上げれは不幸になるのだ』
リプタンは義父の言葉を骨の髄まで理解することができた。
彼女の存在は自分をさらに惨めにするだけだから。
彼女を望む気持ちを振り払うことができない限り、自分は一生を痛恨の空虚感の中で生きることになるだろう。
たった一人の女性がそばにいないため、死ぬ日まで酷い寂しさに苦しめられなければならないのだ。
「もう本当に、やめよう」
もう自分を愚かにしたくない。
彼は二度とクロイソ城に足を踏み入れないと誓った。
自分を虫を見るような女性を一度でも見るために機会があるたびに公爵領を出入りすることも、彼女を目で追うことも、すべてやめる。
リプタンは城壁から降りて、荒涼とした城に向かって足を踏み入れた。
公爵に受けた屈辱をかみしめ、怒りを心に刻むことで彼女の存在を心から消し去ることができるようになることを祈りながら・・・。
あれから何ヵ月が経ったのだろうか。
寒波が一段落した頃、レクソス山脈でドラゴンが目覚めたという噂が広がった。
各国から派遣された捜索隊が霧の森で皆殺しにされる事態が起き、各国で本格的にドラゴン討伐除を構成し始めたのだ。
何千人もの兵士がレキソス山脈の近くに陣取り、ルーベン王が予想した通り、大きな騒ぎが起きる。
恐怖に怯えた人々は一斉に荷造りをして北に移住を始めた。
自由民の長い行列が凍りついた大地の上に果てしなく続き、領主たちは脱走する農奴らを取り締まるために苦労しなければならなかった。
最も足元に火がついたのはクロイソ公爵だ。
調査員たちが上げた報告書を読み上げていたリプタンは眉間にしわを寄せる。
派兵命令が下されると、クロイソ公爵は家臣たちを召集して対策会議に入った。
狡猾極まりない人間がこの難関をどのように乗り越えていくかがとても気になった。
リプタンは冷笑的に口元をひねりながら、羊皮紙を火鉢の中に投げ込んだ。
火の手が上がり、兵舎の中が一瞬にして明るくなる。
テントの外に出て夜明けの光が明るくなり始めた空を見上げた。
霧の立ち込めた森の上に青みがかった影がちらつく。
西部地域の領主たちは今回の派兵命令から除外された代わりに、レクソス山脈付近に陣取って魔物が国境を越えてこないよう防御する任務を引き受けた。
レクソス山脈には数十万匹の魔物が生息しており、彼らはすぐに最上位の捕食者を
避けて大移動を始めるだろう。
リフタンの仕事は、やつらがウェデンを侵略するのを防ぐことだった。
「カリプス卿、クロイソ城から使者がやってきました」
彼が臨時に設置しておいた防壁を見回している時、兵士の1人が駆けつけて叫んだ。
リプタンは眉をひそめる。
「クロイソ城が何の用件で私を探している?」
「詳しい話は聞いていません。直接お話したいと・・・」
リプタンは目を細め、冷たい声で言った。
「待てと伝えて。まだ偵察が終わっていない」
兵士は当惑した表情をするが、リプタンは知らないふりをして見張り小屋に向かう。
黒い峰の上にゆっくりと太陽が昇っていた。
数万人の兵士が間もなくそこに行進し始めるだろう。
彼らの中でどれだけ生きて帰ってくることができるだろうか。
彼は空を突き抜けるような12の峰を眺めながら水筒を取り出して唇を潤した。
すでにドラゴンの結界の中に入った数百人の兵士たちが命を失っている。
これからどれだけ多くの死体が積もることになるか見当もつかなかった。
「カリプス卿、伝令が今すぐお目にかかりたいと繰り返し要請してきました」
日が中天に昇ると、兵士が再びリフタンを訪ねて催促する。
リプタンは眉間にしわを寄せた。
気持ちとしては無覗してしまいたかったが、このような時局に不必要な紛乱を起こしたくなかった。
彼はため息をつく。
「今行くよ」
兵士がすぐに彼を伝令が滞在している兵舎に案内した。
半日近く放置されたクロイソ公爵家の伝令は、怒った顔で彼を迎える。
「卿に会うために3日間、昼夜を問わず走ってきました」
男がふさふさしたあご髭をびくびくさせながら挨拶も省略して問い詰めた。
「私をこんなに待たせたことを閣下がご存知になれば、黙っていないと思います」
リプタンは殺伐とした目で彼を見る。
「私はどんな魔物もこの地を侵犯しないように国境線を守護せよという君主の命令を受けた。公爵の伝言が国王陛下の命令より重大だというのか?」
男が何か反論しようとするかのように口を大きく開けて、すぐぎゅっと結んだ。
「・・・ここには数千人の兵士が陣取っています。卿がしばらく席を外しても、すぐに防御線が崩れることはないでしょう」
「私は自分が優先すべきことを優先しただけだ」
リプタンはいらだたしい表情をした。
「文句を言う時間に用件でも言え。何の用事で私を訪ねてきたの?」
「・・・国王陛下が公爵家にドラゴン討伐隊の指揮を任されたという話はお聞きになったと思います」
伝令が不快感を抑えるように沈んだ声で話した。
「その件で、カリプス卿に一つご提案を差し上げようと公爵閣下が私を行かせました」
「・・・提案?」
リプタンは目を細める。
最高だ。
面と向かってあんな侮辱を浴びせておいて、自分が彼の提案を一つでも聞いてくれると思ったのか。
彼は何であれ一刀のもとで断ると強く決心する。
「いったい何の提案をするというんだ?」
彼の敵対的な態度に呆れたように、しばらくの間蒸らしていた伝令がやっと口を開いた。
「公爵閣下は・・・、卿が今度の討伐隊の指揮を代わりにしてくれれば、自分の長女であるマキシミリオン・クロイソを新婦として与えるとおっしゃいました」
「・・・え?」
リプタンは呆然と口を開いた。
半分ほど魂が抜けた彼を目の前に置いて、伝令は落ち着いて話を続ける。
「今回の討伐は、西大陸の運命がかかった重大なことです。閣下は誰よりも経験が多く、有能な戦士に今回の任務を任せたいと思っています」
「・・・それが私だというのか」
「閣下は、卿の能力を高く評価されているのです」
リプタンは苦笑いした。
どれほと面の皮が厚ければ、自分にこんな見え透いた提案ができるというのか。
侮辱に他ならなかった。
すぐにこの席を蹴って出て行くのが正しかった。
しかし、罠にかかったように両足が動かない。
リプタンは激しく眉間をこする。
石膏のように固まった頭の中に、伝令の傲慢な声が錐のように食い込んだ。
「公爵令嬢を新婦に迎えるのは大きな光栄ではありませんか?これは本来ありえない提案です」
「それで・・・、ありがとうとお辞儀でもした方がいいのかな?」
リプタンは歯を食いしばって言い放つ。
まるで気前よく自分を利用しようとする公爵の傲慢に怒りが込み上げた。
自分をどれだけ見くびったらこんなことを言うのか。
侮蔑感で目の前が真っ赤になる。
何よりも恥ずかしいのは、どうしようもないほど心が揺れているという事実だった。
リプタンは拳を固く握りしめる。
葛藤する自分をまったく許すことができなかった。
考慮する価値もないことではないだろうか。
単に自分の命を危険にさらして終わることではなかった。
アナトールはもちろん、レムドラゴン騎士団の運命までかかったことだ。
自分の欲を満たすために、自分に従う騎士を死地に押し入れるつもりなのか。
リプタンはあごが割れるほど歯を食いしばる。
さらに、マクシミリアン・クロイソは自分を酷く嫌っているではないか。
彼女はもっといい相手が欲しいだろう。
賤民出身の混血の私生児よりはましな相手を。
リプタンは血を吐くような気持ちで口を開いた。
「断る」
その一言を吐き出す事が、世の中を生きながら経験してきたどんなことよりも大変だった。
リプタンは胸に大きな穴が開いたような気分を感じながら、静かに床を見下ろす。
ゆっくりと視線を上げると、怒りで固まった伝令の顔が見えた。
彼は威嚇的に言った。
「公爵家と深い縁を結ぶ機会を断るつもりですか?」
「私には責任を負わなければならない領地と永住者がいる」
リプタンは機械的に吐き出した。
「公爵閣下に伝えなさい。自分の名誉は自分で守れと」
男は冷めた目で彼を睨みつけ、ゆっくりと席を立った。
「そのまま伝えます。しかし、今日おっしゃったことを後悔することになるでしょう」
伝令が兵舎に向かって歩き、気の毒そうに舌打ちした。
「閣下は、お決まりのことは必ず成し遂げなければならない方です。素直に受け入れたほうがよかったと思いますよ」
リプタンは早く消えろという意味で直接兵舎の入口を開けた。
男は頭をもたげて外に出て行く。
足音が遠くなるほど、遠くに墜落するような気がした。
リプタンはすぐに彼を追いかけたい衝動を抑えるために血が出るほど唇をかんだ。
よくやった。
本当に、よくやった。
「ずうずうしい人間だということはとっくに知っていたが、想像を絶するね」
昼の出来事を間いたヘバロンが呆れたように首を横に振りながら言った。
兵舎を守っていた兵士たちの口を通じて、公爵の提案はあっという間に騎士たちの間に広がったのだ。
騎士たちは、公爵の傲慢さについて、それぞれ一言ずつ吐き出した。
「ルーベン王も、あの男がこんなに狡猾に出てくるとは思わなかっただろう」
「自分の義務を他人に押し付けようとするなんて・・・、恥も知らない人間め!」
火鉢の前で明かりを浴びていたウスリンが軽蔑を込めて叫んだ。
「自分の娘と結婚することが大変な光栄だと、そんな傲慢な提案をしてくるものか。傲慢な奴め・・・」
「公爵家には成人した男がいないから、婿に義務代わりにさせるつもりだったのでしょう」
その隣に座ってワインをすすっていたガベル・ラクシオンがため息をつくように言った。
「ところで、なぜ自分の封神を置いて、よりによってカリプス卿にそのような提案をしたのでしょうか?」
「封神たちの反感を買うのを避けたかったのでしょう」
静かに物思いにふけった顔でたき火を眺めていたルースが口を開いた。
「東部の広大な領土を守るためには、封神騎士の絶対的な忠誠が必要です。彼らの反発を買って良いことがないです。しかも、トリスタン西部地域にはまだ公爵領を狙う領主が多く残っているのではないですか。軍事力が弱まるのも負担だったはずです」
「それで・・・、レムドラゴンの騎士団を巻き込んで解決するって?」
ヘバロンは怒った熊のようにうなり声を上げた。
「人を見くびるのもいい加減にしてほしいね」
「これからどうすると思いますか?」
エリオットが恐ろしいほど静かに座っているリプタンを振り返りながら言った。
「団長がその提案を断ったから、他の領主を引き入れようとするのでしょうか?」
「ウェデンの地を隅々まで調べてみろと言え!どんな頭がいいからといって、あいつに代わって森に歩いて入るわけがないだろ?」
ヘバロンは大声で鼻を鳴らした。
リプタンは口元を引き締める。
その男は、マクシミリアン・クロイソの夫になるだろう。
別の男が彼女のそばに並ぶ光景を思い出すだけでも胸が刺されたように痛かった。
リプタンは感情を振り払うように冷ややかに吐き出す。
「他に選択肢はないから。おそらく封神業者の1人を送るだろう」
誰もあの男が直接ドラゴン討伐に乗り出すとは思わなかった。
リプタンも同様だった。
彼は長い棒でたき火をつついて話し続ける。
「そうすれば、クロイソ公爵は今よりさらに軍事的に王室に依存するしかなくなり、我が君主が望むように公爵家の東部支配権は弱まるだろうね」
すでにルーベン王は西部と北部の貴族に圧力をかけていた。
王室の反感を買ってまで、クロイソ公爵に代わって遠征に出ようとする領主はいないだろう。
リプタンは苦笑いを浮かべた。
クロイソ公爵もその事実をよく知っているから、あれほど無覗した自分にそんな提案をしてきたのだろう。
つまらない賤民出身の騎士なら、自分の寛大な提案に恐縮して命を捧げようとすると思ったのかもしれない。
(ほぼそうなるところだったが・・・)
リプタンは自らを嘲笑しながら席を立つ。
「雑談はこのくらいにしておきなさい。クロイソ公爵がこれからどうしようとも、私たちは私たちの仕事さえすればいい」
「こんな侮辱を受けても黙っていろと?」
ヘバロンは怒りをぶちまけた。
「そんな馬鹿げた提案をしておいて、かえって自分が侮辱されたかのように脅したのに!これを我慢しなければならないということですか?」
「我慢しなければ?」
リプタンは猛烈に彼をにらみつけた。
「軍隊を率いて公爵家に攻め込むべきか?」
「・・・」
その反応に周囲が静かになる。
やっと今この場で一番怒った人がまさにそうだという事実に気づいたようだった。
リプタンは彼らがさらに騒ぎ立てる前に休憩所を出る。
真っ暗な夜空が彼の頭の上でかすかな星の光を散らした。
青白い満月を見上げていたリプタンは、疲れを感じながら自分の兵舎に向かう。
しばらく眠れないという不吉な予感が頭の中をよぎった。
しかし、いつかはこの心も消える日が来るだろう。
今のところ、そう信じるしかなかった。
公爵家の伝令が訪れた事実は、まもなく騎士の脳裏から消える。
彼らはそれよりも深刻な問題に直面していた。
ドラゴンの魔力は日増しにさらに強力になっており、レクソス山脈を降りてくる魔物の数も日々増加していった。
夜も昼も霧の森の前に陣取って怪物たちと戦わなければならない状況で、クロイソ公爵の厚かましさを噛み締めることは難しいことだった。
彼らは不足している人材と物資に対しても相談しなければならず、レクソス山脈を捜索しながら集めた情報についても議論しなければならなかった。
リプタンは王室に送る報告書を作成し、こめかみをこする。
一刻も早く遠征隊を派遣しなければ、ドラゴンを討伐するのがさらに難しくなるだろう。
レクソス山脈を巡る結界を調査するために派遣された神官たちは、一様に口をそろえて、ドラゴンの魔力が予想より早く回復していると警告した。
急がないと大惨事になるだろう。
リプタンは報告書にそのように書いて、追加で支援兵力と物資を送るよう要請した後、騎士団の印章を押した。
気持ちとしてはクロイソ公爵ととんでもない神経戦を繰り広げている場合ではないと一喝したかったが、王の補佐官たちが大騒ぎすることを考えて我慢した。
リプタンは深いため息をつきながら、報告書をぐるぐる巻いて紐でしっかりと結んだ。
それを伝令に伝えるために席を立つと、兵舎の外から突然エリオット・カロンの声が聞こえてきた。
「カリプス卿、兵営内に何人かの浮浪児が忍び込みましたが・・・、どうすればいいでしょうか?」
リプタンは眉をひそめる。
浮浪者たちが食糧を盗むために兵営に忍び込むのはそれほど珍しいことでもない。
あえて自分に聞くまでもなく、軍法通りに処理すればいいのではないか。
彼はいらだたしく叫んだ。
「今、こそ泥一つ処理できなくて、私の意見を求めているのかな?」
「それが・・・、その小僧がカリプス卿に会わなければならないと騒ぎ立てて・・・」
リプタンは目を細めた。
「私のところに来たの?」
「ロバンの息子と言えばわかるだろうと、カリプス卿の名前をつけていました」
リプタンは背筋が寒くなるのを感じながら、大股で兵舎の外に飛び出す。
「その子はどこにいる?」
「あちらです」
カロンはまっすぐ前に進み始めた。
リフタンは丸太を立てて作った壁の近くに一人の少年がひざまずいているのを発見する。
数年前に一度だけ見たのが全てだったにもかかわらず、その少年が義父の息子だということが一目で分かった。
怯えた様子を隠そうとするように反抗的な目つきで兵士たちを睨んでいた男の子が、彼を発見しては席からばっと立ち上がった。
「あの人です!私はあの人に会いに来たんです!」
「生意気に誰を指さしているんだ!」
兵士は大声で叫びながら、片手で彼を地面に押し付ける。
リプタンは急いで兵士を制止した。
「私の知っている子だ。放してくれ」
兵士が後ろに下がると、男の子が服をはたいて立ち上がり、そら見ろというようにあごを上げた。
リプタンは青く痣ができた彼の顔を鋭い目でにらんだ。
「一体こんなところで何をしているんだ?兵営に忍び込んで発覚したら、その場で即決処分ということを知ってこんなことをしたのか?」
「わ、私はただあなたに会おうと・・・」
彼の威嚇的な態度に萎縮したように肩をすくめていた少年がすぐに反抗的に叫んだ。
「しょうがなかった!あ、あなたのせいで私の父が刑務所に入れられたんだ!」
「こいつ!生意気に声を張り上げて!」
兵士は少年の頭を無慈悲に押さえつけ、地面にひざまずかせた。
リプタンは殺伐とした目で兵士を見る。
兵士はびくびくしながら急いで後ろに下がった。
リプタンは、直接男の子を起こして、急き立てるように尋ねた。
「どういう意味だ?詳しく説明してみなさい」
「あ、あなたがくれた金貨のために・・・。お父さんが盗みをしたと濡れ衣を着せられて・・・」
男の子は悲しみがこみ上げてきたように、言葉を続けられずに涙ぐんだ。
リプタンは心の中で悪口を言った。
敢えて最後まで間かなくても、何が起こったのか見当がついたのだ。
「誰があなたのお父さんを告発したの?」
「分からない。急に鎧を着た人たちが入ってきて、父をクロイソ城に連れて行った。一ヶ月以内に絞首刑に処すんだって」
少年が泣き寝入りしながら必死に話を続ける。
「あなたが証言してくれなければ、私の父は死ぬかもしれない」
突然思い浮かんだ不気味な予感に、リプタンは.背筋を固めた。
「・・・ここまではどうやって来たんだ?」
「何が重要なんだ!うちのお父さんが・・・」
少年は彼の険しい目つきに肩をすくめ、ぐずぐずしながら答える。
「よ、鎧を着た人が連れてきてくれた」
リプタンは兵士たちに目を向けるが、彼らは首を横に振った。
「この子以外の人は見ていません」
「ほ、本当だよ!ここに来ればあなたに会えると知らせてくれながら・・・、あの森まで私を連れてきてくれたんだ」
少年が哀願するように彼を見上げる。
「お父さんを助けてくれるよね?お父さんが何も盗んでいないこと、あなたもよく知っているじゃないか」
リプタンは拳を握りしめた。
怒りで中がひっくり返るような気がした。
公爵の伝令が残した警告が頭の中でこだまする。
リプタンは体を起こして後ろに待機し、立っている兵士に頭をもたげて見せた。
「今すぐこの子を連れて行って傷を治療してあげなさい」
「私はどうでもいい!うちの父から・・・!」
「お前のお父さんには何もないだろう。すぐに処置をとるから、あなたは治療を受けなさい」
「あの、本当だよね?本当に信じてもいいんだよね?」
少年が充血した瞼をこすりながら繰り返し問い返した。
リプタンはとても彼の目をまともに向き合えず無愛想にうなずいた後、馬の場所に向かって大股で歩き出す。
エリオット・カロンは素早くリフタンの後を追った。
「あの子は誰ですか?一体これはどういうことですか?」
リプタンは馬の背中に鞍を置きながら、ちらりと振り返る。
このまま何の説明もなしに勝手に兵営を離れることはできなかった。
彼は重苦しい声で告白する。
「あの子は私の義父の息子だ」
「義父?」
エリオットはぼんやりと聞き返した。
リプタンは無愛想にうなずいた。
「そう、私の義父が濡れ衣を着せられて刑務所に入れられたみたいだ。ちょっとクロイソ城に行ってくるから、他の人たちによく説明してくれ」
やっと状況が把握できたかのように、カロンの顔が深刻に固まる。
「公爵が策略を弄したのですか?」
「・・・おそらく」
リプタンは歯ぎしりをするように吐き出し、馬の鞍の上にひょいと座った。
カロンは彼の前に立ちはだかる。
「一人で行ってはいけません。私たちも同行します」
「・・・私の個人的なことだ」
「カリプス卿はレムドラゴンの騎士団のリーダーです。卿の仕事が、すなわち私たちの仕事です」
エリオットは怒りをあらわにして反論した。
リプタンは手綱を握りしめ、鋭い視線で彼をにらみつける。
「すぐにどけ」
エリオットが一歩も退かないというように胸に腕を組んだ。
「他のメンバーが困っているとき、カリプス卿はじっとしているのですか?」
リプタンは手綱をしっかりと握りしめ、歯を食いしばった。
あまり気が進まなかったが、義父と義父の家族を保護するためにも部下を連れて行った方が良いという気がした。
彼はとうとう意地を折ってしまった。
「よし、ついて来い」
カロンは安堵のため息をつく。
「他の人にも伝えておきます」
ここで養父に渡した金貨が仇になるとは・・・!
公爵がクズ過ぎて、まったく擁護できません。
養父を人質にした理由は?
おそらく・・・。