こんにちは、ピッコです。
今回は7話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
7話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- ルース・セルベル②
その時、予告もなく空がひらめいて、雷鳴が鳴り響いた。
リプタンはすぐに空気中に混じった妙なにおいに気づき、魔法使いを床に押し付ける。
激しく降り注ぐ雨の中に巨大な影がちらっと見えた。
「いたた・・・、言葉で言ってください!押す必要はないじゃないですか!」
「来い!」
巨大な体をした魔物がうろうろと近づいてきていた。
まるで丘一つが丸ごと動いているような姿だ。
白い雨脚の中で奴の真っ黄色な瞳がきらめいて輝くのを見たリプタンは、発覚したことに気づき直ちに剣を抜く。
やっと事態の深刻さに気づいたのか、魔法使いが防御態勢に入った。
「こ、こんなに大きな盤龍もいるんですか?」
緊張感のこもった声にリプタンは何の返事もできない。
彼さえも生まれて初めて見る魔物だったからだ。
盤龍と似ていたが、それより4倍ほど大きく、黒い色の尖ったうろこで全身が覆われており、体の形は四足動物に近かった。
突然変異か。
あるいは、あまり知られていない希少種かもしれない。
リプタンは緊張した。
自分より数十倍は大きな個体を狩るためには十分な情報が必要だ。
習性はもちろん弱点と強みを全て把握してこそ優位を占めることができる。
しかし、このような個体は見たこともなかった。
毒を持っているかどうかも不明だったし、一般的なドラゴン亜種の魔物と身体構造も違うので、急所の位置も把握しにくい。
「くそっ、とりあえずやってみるしかない。あなたは後ろから防御幕を張っていろ!」
リプタンは大声で叫び、すぐに鉤を投げ、ドラゴンの前足に鎖を巻きつける。
薄い好奇心を見せながら鼻をクンクンと鳴らしていた魔物が瞳孔を立てて足を上げた。
リプタンは長い爪がついた前足を避けて泥の中を転がりながら鎖を最大限長く解いた。
そして、後ろ足と一緒に縛ってしまうと、重い体が大きく揺れた。
しかし、鎖はワイバーンよりどっしりとした体を支えるには細すぎた。
すぐにでも切れるように輪が曲がるのを見たリプタンは、遅滞なく鎖を解き、奴の体の上に飛び上がr。
揺れ動く巨体の上にしっかりとぶら下がって短刀で背中を押すと、小さく溝が掘られた。
狼狽で顔が歪む。
このくらいの体なら、皮膚層も筋肉層もずっと厚いはずなのに、皮までも普通の盤龍よりもっと硬いようだった。
「ちっ、一気に息の根を止めるのは無理だな」
リプタンは、山を崩すように暴れる魔物の背中にしがみつき、登山でもするかのように這い上がる。
鉤を利用して器用に頭まで上がると、2つの角が見えた。
彼はそのうちの1つを掴み、バスタードを抜く。
その瞬間、強烈な電流が彼の全身を打った。
体がずたずたに裂けるような痛みにリプタンは悲鳴をあげながら地面に丸くなる。
「カリプスさん!」
魔法使いが慌てて防御幕を張ってくれなかったら、魔物の重い足の下敷きになってそのまま崩れただろう。
リプタンは痙攣を起こす手足に力を入れ、かろうじて席から立ち上がる。
彼は震える手で剣を握りしめながら、素早くやつの弱点を探った。
お腹の部分には鱗がない。
リプタンはその事実に気づくや否や、身を躍らせた。
ドラゴンの下に飛び込んで後ろ足にぶら下がると、やつが狂ったように暴れる。
稲妻のようなものがあちこちで光り輝いているのが見えた。
「稲妻を操るのかな?」
空しくも運がなかった。
よりによってこんな珍しい魔物に出会うなんて。
リプタンは、心の中で悪口を吐きながら、鉤で足を伝って剣を振り回す。
予想通り、お腹の部分ははるかに柔らかかった。
深く剣を突き剌して振り回すと、運良く動脈を切り取ったのか黒い血が滝のように流れ落ちる。
リプタンは気にせず、再び剣を突き剌した。
すると、やつが空を裂くような怪声を上げて高く飛び上がった。
全身を打つ重い衝撃にリプタンは足から滑ってしまう。
彼は続く攻撃を避けて本能的に泥の中を這った。
しかし、感電で鈍くなった体は思ったより機敏に動いてくれない。
やがて気が遠くなるほどの痛みが襲ってきた。
リプタンは悲嗚を上げる。
魔物の重い足の下、片方の足が膝まで完全に突き刺さったのだ。
もし彼がもう少し遅れていたら、全身がそのようなことになっていただろう。
しかし、生きていたとは思わなかった。
リプタンは完全に崩れた足を引きずりながら逃げ道を探す。
しかし、どこにも隠れるところはなかった。
もう本当におしまいだった。
そう思った瞬間、地中から尖塔のような尖った岩のようなものが跳ね上がり、魔物の体を貫く。
ドラゴンが火でも噴き出す勢いで口を開けて高音の泣き声を吐き出した。
「カ、カリプスさん!大丈夫ですか?私が今すぐ癒しの魔法を・・・!」
物思いにふけったルースが素早く駆けつけて彼を支えてくれる。
リプタンは彼の手を振り切って激しく叫んだ。
「なんてこった!早く逃げずに何してるんだ!?」
魔法使いは、自分が魔物の息の根を完全に止めたと思ったのか、当惑した表情をした。
しかし、魔物は依然としてうなり声を上げながら、白い息を荒く吹きかけていた。
ギリギリまで脊椎が貫通するのを避けたのだ。
リプタンは片手で剣をしっかりと握る。
ドラゴンが岩を砕いて彼らを一度に飲み込もうとするかのように、口を大きく
開けて飛びかかった。
リプタンはルースを押した後、反対側に身を投げる。
しかし、片足だけでは力不足だった。
鋭い歯が彼の腕を容赦なく突き刺す。
骨と筋肉が一度に砕け散り、ものすごい激痛が襲ってきた。
リプタンは血筋が破裂するまで歯を食いしばった。
気を緩めてしまえば終わりだ。
彼は残った片手で剣を振り回し、やつの片目に深く剣を突き刺す。
すると、ドラゴンがぎゅっと閉じていた口を開けて、けたたましく頭を上げた。
リプタンは残った足と腕でしっかりとしがみつき、剣でやつの顔を押して這い上がる。
そうして余った力を集め絞り出して魔物の眉間に剣を突き刺した。
しばらくして、荒々しく揺れ動いていた体が石像のように硬くなり、すぐにドンと音を立てて倒れる。
リプタンは力なく下に転げ落ちた。
もう指一本動かす気力も残っていなかった。
彼は地面に横になって満身創痩になった体で雨に降られる。
すべての感覚が麻痺したように頭の中が朦朧とし、水に浸ったように視界がぼやけていた。
「カ、カリプスさん・・・」
魔法使いの緊迫した声がかすかに聞こえたが、返事をする気力はなかった。
疲れて寒かった。
考えてみれば、いつもそうだったようだ。
いつも、そうだった・・・。
リプタンは激しい激痛に目を見開く。
何が起こっているのかしばらく把握できなかった。
まるで深海から強制的に引き上げられた魚になったような気分だ。
呼吸の仕方を忘れた人のように荒々しくあえいでいた彼は、四肢が燃え上がるような熱気に悲嗚を上げる。
「少しだけ我慢してください!治療をしているところです!」
混乱に陥った頭の中に慣れた声が聞こえてきた。
リプタンが目を逸らすと、魔法使いが彼の腕を半裂きにしていた。
その奇妙な光景にまばたきをつかの間、骨と肉が溶けてぶくぶくと沸き上がるような感覚に、リプタンは反対側の手で乱暴に床を掻く。
苦痛から抜け出すために全身の筋肉をひねりながらもがいたが、何かが体を拘束していて身動きもできない。
彼は瞳孔が広がった目で四方を見回した。
真っ暗な洞窟のあちこちには青みがかった花火が揺れており、床には複雑な絵が描かれている。
続いて彼は、地面から生えた木の根のようなものが、自分の全身をしっかり縛り付けていることに気づいた。
背中から冷や汗が流れる。
まるで悪魔の召喚儀式でもしているような格好ではないか。
リプタンはさらに激しくもがく。
「なんてこった!私の体を持って・・・、何をしようとしているんだ!」
「治療をしようとしているだけです!」
彼の体を縛った黒い根が切れそうに張りつめると、魔法使いがびっくりして彼の肩をぎゅっと押す。
「どうかじっとしていてください!永久的にダメージを受けた部分は普通の治癒魔法では治せないんです!」
魔法使いは顔をゆがめて険しい叫び声をあげる。
「血をどれだけたくさん流したか分かりますか?倒れた手足はもちろん、感電で内臓までめちゃくちゃになりました!こんなになってまで剣を振り回すなんて・・、 あなたは正気ではありません!」
彼が反論しようとした瞬間、再びナイフで骨をうずめるような激痛が襲ってきた。
リプタンは頭をもたげる。
完全に壊れた手足の骨が新しく生えてくるのが生々しく感じられた。
破れた筋肉は膨らんで泥のように絡み合い、体は今にも爆発しそうに膨らんだ。
いっそ死んだ方がましではないかと思うほど酷い痛みだった。
彼は激しくあえぎながら叫んだ。
「もう・・・、やめろ!」
「あまりにも早く正気に戻りました。まだ体が完全に回復するまではかなり残っているのですが・・・」
自ずと口元に血がにじんだ。
「今すぐ止めなければ殺してやる」と脅かしたかったが、喉からは苦痛に満ちたうめき声だけが聞こえてくる。
リプタンは歯ぎしりをした。
家を出た後、あらゆる厳しいことを経験したが、このような酷い痛みは初めてだ。
これ以上我慢できず、舌を噛もうとすると、ルースが彼の頭をしっかりと掴んで断固として叫んだ。
「だめです!耐えなければなりません!」
リプタンは血走った目で殺そうとルースを睨みつける。
焦って唇を噛んでいた魔法使いが、すぐに何かを決心するように話した。
「痛みを忘れられるように幻覚魔法をかけて差し上げます。何か・・・、楽しかったことや幸せだったことを思い出してください」
リプタンは呆然とした目つきで彼を見つめ、あらゆる呪いの言葉を吐き出した。
こんな時に幸せな思い出を思い出してみろというのは、しっかり狂っているに違いない。
しかし、魔法使いは断固としていた。
「幻覚を良い方に誘導するためには、まず肯定的な記憶を思い浮かばなければなりません。このまま幻覚魔法をかけると、ひどい悪夢を見ることになるでしょう」
「構わないから、そのままやって!」
「だめです!精神的に大きな衝撃を受けて二度と目が覚めなくなるかもしれません!もともと敵を混乱させるために考案された魔法なので・・・」
「・・・くそっ、じゃあ、そのまま死なせておけよ!」
リプタンは頭を狂ったように振り、何とか痛みから逃れるために暴れる。
魔法使いは彼を落ち着かせようと必死に叫んだ。
「何でもいいです。楽しかったことや、幸せだと感じた瞬間・・・。何でもいいから頭の中で思い出してみてください!すぐに痛みから抜け出せます!」
リプタンは地面を引っ掻きながら動物のようにうなり声を上げた。
抜け出すことができる。
この痛みから抜け出せる。
その言葉だけ繰り返して恐慌状態に溺れた頭の中を必死に漁る。
幸せだった記憶。
楽しいと感じた瞬間。
皮肉にも頭の中が真っ暗だった。
呆れるほど何も思い浮かはなかった。
思い出すのは梁にしがみついた母親の死体と、闇の中で息を殺して泣いていた義父の姿、腹を裂くような飢えと汚物の山から出ていた悪臭、初めて人を剌した時の不快感、度重なる死の危機・・・。
そんな悲惨な記憶ばかりだった。
ふと、そら笑いが起こる。
最高だった。
自分の人生には喜びというものは存在しなかったのか。
気が狂った人のように荒涼とした笑みをこぼしていたリプタンは、ふと思い浮かんだ記憶に顔を濁す。
「お、女の子が・・・」
「女の子ですか?」
魔法使いは彼のつぶやきを聞き逃さずに急いで尋ねた。
リプタンはやっとのことで後口をつぐんだ。
「女の子がいたんだ。私があの子を救ってあげて・・・」
急に激痛が募る。
自制心を捨てようとするリプタンを、ルースは急いでつかんだ。
「続けて言ってみてください!その女の子を救ったのが、あなたにとっていい思い出なのかですか?」
「私が・・・、た、助けたら・・・、あの子が私に花冠をくれたんだ」
「彼女の姿を具体的に頭の中に描いてみてください」
リプタンは彼女の記憶をしがみつくように徹底的に調べた。
雲のように曲がりくねった髪と陽射しを受けて銀色に輝いた瞳、いつも垂れて
いた狭い肩・・・。
やがてほやけた光が一面視野を覆い、体を引き裂くような激しい痛みが嘘のように薄れた。
彼は急激な感覚の変動に追いつけず、ふらふらする。
体が宙に浮いた後、どこかに優しく安着し、白い霧のようなものが彼の体を取り囲んだ。
リプタンは霧の中を進んで行く。
しばらくして、視界が鮮明になり、見慣れた風景が目の前に広がった。
彼はぼんやりと瞬きをした。
色とりどりの花々が生い茂る美しい花園で、彼女が花冠を作っている。
優しいそよ風が彼女の髪の毛をゆらゆらと振りながら通り過ぎ、黒い犬がその横に足を重ねて座り、だらだらと欠伸をしていた。
その平和な光景から一瞬も目が離せない。
彼女が犬の頭の上に花冠をかぶせると、猟犬が毛むくじゃらのしっぽを振りながら、彼女の頬を舐めた。
くすくす笑う笑い声がそっと耳元に響く。
「・・・こんなことが」
風に飛ばされた花びらが微風に乗って飛んできて、彼の頬をくすぐった。
胸の中で言葉では説明できない感情がこみ上げてくる。
彼女を見守っていたこと。
それが私の人生において唯一の慰めだったのか。
こんなつまらない思い出が私の人生の唯一の光だったというのか。
彼は震えながら顔を包み込んだ。
自分の荒涼とした人生をそのまま表しているような幻想だった。
自分と同じくらい寂しそうに見えた女の子。
彼女の存在だけがあの時代、彼の心を慰めてくれた唯一無二の温もりだったのだ。
彼はゆっくりと目を閉じて開ける。
濡れた頬に花びらがくっついた。
彼の小さな楽園が薄い金色に囲まれ、明るく微笑んだ。
彼はいつまでもその姿を眺めてばかり立っていた。
いつまでも・・・。
まるで全身が水を飲んだ綿のように重くてだるかった。
脱力感に浸ってまぶたを瞬かせたリプタンは、人の気配を感じてさっと首をかしげる。
魔法使いが洞窟の入り口に小さなたき火を焚いて座っていた。
彼は視線を感じたように首をかしげ、小さく安堵のため息をつく。
「ああ、やっと気がつきましたね」
リプタンは血痕にまみれた顔をじっと見つめ、ゆっくりと体を起こした。
裸の上半身に冷たい夜の空気が吹きつけたが、寒気は感じられない。
彼は嘘のように綺麗についた手足をあちこち動き回り、目を転がして周りを見回した。
彼らが雨宿りしていた狭い洞窟の中には、魔法のような複雑な模様がぎっしりと描かれている。
それをじっと目で見ていたリプタンは、自分の胸を辿った。
全身に充満していた大小の傷がすっかり消えている。
それだけではない。
体の内側で何かをぎゅっとつねって説明しにくい妙な違和感のようなものが感じられた。
それを知った瞬間、リプタンは考えることなく魔法使いの胸ぐらをつかみ、洞窟の壁に押し付ける。
不意の奇襲に魔法使いが咳き込んだ。
リプタンは彼をさらに激しく押さえつけ、殺伐と唸り声を上げた。
「私の体に何をした?」
「これは何の仕業ですか!私はただ傷を・・・!」
「私が病身だと思ってるの?あれは癒しの魔法ではなかった。お前・・・、黒魔法使いだったのか?」
魔法使いの顔にはっきりとした動揺の色が浮かんだ。
リプタンは歯ぎしりをする。
「神殿の力が以前のようではないとしても、黒魔法を使って発覚すれば、この地のどこにも足を踏み入れることができない。それだけじゃない。死んでも骨も折れないんだ!」
「黒魔法じゃありません!」
ルースは悔しそうに叫んだ。
「危険な魔法なのは確かですが・・・、教理に反する魔法ではないんですって!」
リプタンは不信感を込めて彼をにらみつけた。
ルースは手足をバタバタさせ、彼の手から逃れるために悪態をつく。
「ああもう!残った魔力を振り払って命を救ってあげたのに、どうするんですか?恩を仇で返してはダメですよ!私の魔法がなかったら、あなたは死んでいたでしょう!」
「アンデッドになって一生この世をさまようなら死んだほうがましだ!」
「黒魔法じゃないと言ったじゃないですか!」
魔法使いは顔を真っ赤にして怒嗚りつけた。
リプタンは殺そうと彼を睨みつけ、それから手を放す。
「よし、黒魔法ではないか、神殿裁判所に行って確認してみればわかるだろう」
襟元を撫でていたルースが青くなった顔で叫んだ。
「今、生命の恩人を裁判所に立たせるということですか!?」
「命の恩人?人を魔物にしておいて、そんな馬鹿なことを・・・!」
「魔物で作ったのではありません!私の魔力だけでは足りず、あの魔物の魔石を利用したのは確かにそうでしたが、悪魔の力を借りてきたわけではありません!」
ルースは指先で洞窟の外を指差した。
闇が濃く沈んだ山中に魔物の巨体が垂れ下がっている姿がちらっと見えた。
「理論的には、磨石に宿る魔力を利用することは、教義に反する行為ではありません。魔導具も魔石で作ったものじゃないですか!」
「でもお前の魔法・・・、それは教理から確実に外れたものだろう。消失した人体を修復させるなんて、そんな魔法があるなんて聞いたこともない!癒しの魔法はせいぜい目に見える外傷を癒すものではなかったのか?しかし、あなたは回復不可能なほど大きな損傷を受けた部位を再び再生させた。私の言葉が間違っているか?」
鋭い追及に魔法使いの顔の上に狼狽感が浮かんだ。
窮地に追い込まれたように冷や汗をだらだら流していたルースが、結局ため息をついて告白した。
「いいですよ。率直に申し上げます。カリプスさんに使った魔法は、西大陸に知られていない世界塔の禁止魔法です。その魔法の存在が世間に知られた日には、私はもちろん、カリプスさんまで大変な苦労をすることになるでしょう。だってその魔法は・・・」
何と説明すればいいのか分からないかのように、彼がしばらく灸を据えて吐き出した。
「トロールの再生力を研究して作った魔法なんです」
冷ややかな沈黙が舞い降りた。
リプタンは殺伐と目を輝かせ、床に置かれた剣を手に取る。
その姿を見たルースが仰天しながら叫んだ。
「卜、トロールの再生原理を魔法式にしただけです!人体には何の後遺症も残らないんですって!治療中に強烈な痛みが伴う他の副作用もありませんし」
必死の言い訳にもかかわらず、リプタンは魔物の血がねっとりと固まっている剣刃を彼の首の周りに突きつけた。
「お前、正体は何だ?」
「わ、私はただの普通の魔法使い・・・」
「どうして平凡な魔法使いが禁止魔法のようなことを知っている?」
魔法使いが火をつけたろうそくのように冷や汗をだらだら流した。
リプタンは彼を容赦なく洞窟の壁に押し付けながら追及し続ける。
「世界の塔ではいったい何をしているんだ?魔物を研究して魔法を作るなんて・・・、そんなことをしているということが知られれば、神殿がじっとしていないだろう。団体で波紋でも広げたいのか」
「・・・破門されることでは終わりません。禁止魔法の存在が知られれば、最悪の場合、魔法使いの迫害が再び始まるかもしれません」
魔法使いはうめき声でしぶしぶ認めた。
「だから徹底的に秘密にしているのです。禁止の魔法の存在を知っている魔法使いも数少ないです。綿密な選別過程を経て選ばれた少数の魔法使いだけが、ひたすら研究目的で学んでいます」
「・・・お前がその少数の魔法使いということか?」
リプタンは疑い深く眉をひそめる。
「そうですね。運がいいと思ってください。私がいなかったら、カリプスさんは死んだ命でした。普通の癒しの魔法では到底回復させることができないほと深刻な怪我でした。だから仕方なく世界塔の規律を破り、禁止魔法を使ったのです!」
リプタンは鼻で笑う。
「それで、感謝のお辞儀でもしなければならないのか?」
「そうしてもらえると助かります!剣を突きつけて脅迫をするより百倍はましでしょう!」
魔法使いが悔しくて、どうしていいか分からないかのように息を切らした。
「それでは私が何をどうすべきだったのですか?あなたを生かす能力があるにもかかわらず知らないふりをしておくべきでしたか?禁止魔法を使ったことがバレた日には、異端ハンターの尋問を受ける前に、世界の塔で私の頭の皮をむこうとします。私はそんな危険を冒してまであなたの命を救おうとしたんです!それにもかかわらず、人をこんなに脅してもいいのですか?」
リプタンは彼の意中を暴こうとするかのように執拗な視線を送り、ゆっくりと剣を下ろした。
この怪しい奴を神殿裁判所に連れて行きたい気持ちが山々だったが、そうしていたら自分もやはり調査対象になるだろう。
南方異教徒の血が混じった混血に不審な魔法で再生された肉体・・・、教団が自分をどう扱うかは火を見るよりも明らかだった。
リプタンは歯ぎしりしながら吐き出した。
「今回だけ見逃してやる。しかし、もう一度私の体にその正体不明の魔法を使えば、神殿の裁判所まで行くこともない。私の手でけりをつけてやるよ」
「もうやれと言われてもやりません!次はそのまま死なせておきますから!」
「どうかそうしてほしい」
リプタンは無味乾燥な口調でつぶやきながら荷物をかき回した。
「死ぬ時になれば、死ねばいいんだ。そんな無駄なことまでして生かしておく必要はない」
魔法使いは口をつぐんだ。
リプタンは新しいチュニックを取り出す。
以前着ていた服は、魔物との死闘でぐちゃぐちゃになり、到底着られる状態ではなかった。
彼はたった一つ残った丈夫な服を身にまとった後、洞窟の隅に無造作に積まれている鎧を一つ一つ着用していく。
気持ち悪いほど体が軽かった。
何の後遺症も残らないのが確かなのか。
リプタンは新品のように綺麗になった肉体を不審な目で見つめ、これ以上問い詰めたい気持ちも持たず、黙々と武器を手にする。
その姿をじっと見守っていた魔法使いが突然口を開いた。
「あなたは生きたいという欲求がないのですか?」
リプタンは肩越しに彼をにらみつける。
魔法使いの顔はかつてないほと深刻だった。
「もし他の人だったら、もう十回以上死んでいたでしょう。死にたいからこんな無謀なことばかりするんですか?」
「だったら、そんなに必死に戦うこともなかっただろう。ただ、私は・・・」
リプタンはその後を継ぐ言葉を見つけられず、口をつぐんだ。
死にたいというわけではない。
しかし、これといった生き方をする理由もなかった。
楽しみなんて存在しない人生。
それが終わったからといって別に未練はなかった。
では、自分は一体何のために戦っているのだろうか。
どうしてこんなに必死にお金を貯めて、苦労して生を生き延びていくのか。
リプタンは胸の中に浮かぶ疑問を急いで消してしまった。
ルースが凄い魔法使いだと改めて分かりましたね。
リフタンに使われた魔力は、今後活用されることはあるのでしょうか?